152.暗く冷たい穴の底から
結論から言うと公共宴館での魔物襲撃事件は、黄都守護隊第三部隊の現着と同時に終結した。空飛ぶ魔物の群に対して、黄都守護隊内でも特に弓兵や神術兵の多い第三部隊がたまたま付近に居合わせたというのが、今回最も幸運な点だったと言ってもいいかもしれない。
おかげで彼らが到着するや否や魔物の群はみるみる数を減らし、一刻(一時間)足らずですべての醜耆鳥が狩り尽くされた。ちなみに現地の地方軍が駆けつけたのは、既に戦闘が終わって怪我人の救護や搬送が始まった頃のことで、あまりにも初動が遅すぎた郷守の面目は丸潰れだろう。
(最終的な犠牲者の数はネデリン家の衛士と使用人、そして来場者を合わせて四十七名……当日会場にいた人間の数は総勢で百名近かったというから、実に半数が犠牲になった計算か。宴館が被った物質的な損害も合わせると、クッカーニャの郷守一族は今回の賠償と責任問題で没落必至だろうな。加えて令夫人を喪い、招待客の安全を保障する努力を怠ったネデリン家も、きっとタダでは済まないだろう……大半の責任を郷守になすりつけたとしても、同じように妻子を失った他家からの非難は免れないだろうからな)
かくてジャンカルロの一件で飛ぶ鳥落とす勢いを得たネデリン家の権威は地に落ち、当面の間は当主のデレクも息を潜めて大人しくせざるを得ないだろう。
彼が一族の隆盛のために恃みにしていたオーロリー家の後ろ楯も、先代当主が雲隠れしてしまった今となっては期待できない。天網恢々疎にして漏らさず──やはりエマニュエルの神々は正しき者にも悪しき者にも等しく相応の報いを与えるのだと、事件の報に接した革新派の貴族たちは今頃黄都で祝杯を上げているかもしれなかった。されど当事者として現場に居合わせたエリクの気分は晴れない。
マーサー商会の貸別荘に用意された寝室の寝台の上で、コーディが届けてくれた報告書を眺めながらエリクはひとり、物憂いため息をついた。
(俺があの日、ペトラの招待を受けなければ……いや、そもそも体なんて壊さなければこんなことには……)
考えても詮のないことだと分かっていても、ついそんな思考が脳裏を掠めて憂鬱になる。唯一真相を知るコーディやサユキには、それでもエリクがクッカーニャへ来なければアンブランテ夫妻はもっとひどい目に遭っていただろうし、長年離れ離れになっていたハミルトンとリンシアが再会することもなかったはずだと慰められた。もちろんエリクも頭では不可抗力だと分かっているし、ふたりの気遣いも有り難く思う。けれど、
(……やはり俺は、黄皇国に留まるべきじゃなかったのかもしれない)
ぼんやりそう思案しながら、エリクは寝台の頭板に身を凭せ、先刻モニカが開けていってくれた窓の向こうへ目をやった。
日はまだ高く、耳を澄ませば遠くから海鳥の声に混じって波音が聞こえる。微かに潮の香りがする風は爽やかで、エリクの心中とは真逆の景色がそこにあった。
実を言うとエリクはあの晩、病体であるにもかかわらず無理をしすぎたという理由で、モニカから三日間の絶対安静を言いつけられてしまったのだ。
他の皆は今も事件の事後処理に奔走しており、別荘に残っているのは常駐の使用人を除けばエリクのみ。昼頃に一度、エリクの様子を見るために戻ってきたモニカもまた負傷者のいる屋敷へ往診に行ってしまった──例の夜会で彼女を下民と揶揄していた者たちも、彼女がかのプレスティ家に認められた秀才と知るやこぞって往診を願い出るようになった──し、そうなると手持ち無沙汰なエリクにできることと言えばもはや眠るか、こうして塞ぎ込むことくらいなのだった。
「アンゼルム様、失礼致します」
ところがそのときふと寝室の扉が叩かれ、執事が部屋に入ってくる。
どうかしたのかと尋ねると、返ってきたのは意外な答えだった。
「実は只今談話室に、ネデリン家のご令嬢がいらしておりまして……アンゼルム様はご体調が優れないとお伝えし、面会はお断りしたのですが〝明日クッカーニャを離れるのでどうしても今お会いしたい〟と……」
普段はキリリと眉を上げ、常に有能な執事として振る舞う彼が珍しく困り顔をしているのを見て、エリクは即座に「では会います」と返事をした。
次いですぐに寝台を下り、執事の手を借りて軽く着替えを済ませる。
出立を明日に控えた彼女をあまり待たせるわけにはいかないので、身支度は最低限にして足早に談話室──この小さな別荘では談話室が応接室を兼ねている──を目指した。執事には冷たい茶を用意するよう伝え、ひとりで談話室の扉をくぐる。
すると向かい合わせに置かれた籘の長椅子の一方に、白いベールつきの帽子を被ってうつむいたペトラの姿があった。
「ペトラ嬢」
入り口からそう声をかけると、ふたつに結い上げられた金髪がぱっと揺れてエリクを振り返る。事件前の彼女からは想像もできないほど憔悴し切った様子のペトラは、喪に服していることを示す真っ白な装いでそこにいた。
泣き腫らした目もとも化粧で誤魔化してはいるものの、あの夜から二日あまりが過ぎた今もほとんど眠れていないのであろうことは見れば分かる。
彼女の背後に控えた付き添いの衛士も、ネデリン家の紋章が縫いつけられたお仕着せの腕に喪章を巻いて、主家の令夫人の死を悼んでいた。
「あ、アンゼルム様。その……と、突然押しかけてしまって申し訳ございません。お……お体の具合がよろしくないと伺いましたけど……」
「ええ……例の事件の際に血を流しすぎて、医務官から絶対安静と言われてしまいましてね。とはいえ傷はもう癒えましたし、屋敷の中をうろつく程度なら支障ありません。どうぞ、お掛け下さい」
待ち人が現れたと気づくなり、弾かれたように立ち上がったペトラに再び座るよう促して、エリクも対座へ腰を下ろした。するとペトラは束の間、足もとへ向けた視線を泳がせたあと、後ろに控えた衛士に向かって何事か耳打ちする。ほどなく衛士は頷いて、エリクに目礼したのち談話室を出ていった。入れ違いでやってきた執事も香茶を出すなりすぐに退室し、部屋にはエリクとペトラのふたりだけとなる。
「それで、本日はどういったご用件で?」
「……」
「……別荘の使用人から、明日クッカーニャを発たれると伺いましたが」
「……はい。早急にお母様の葬儀を執り行わなければならないので、棺と共に黄都へ帰ります。ですから今日は、出立前のご挨拶に参りましたの」
会話の間に挟まる微妙な気まずさを誤魔化すべく、早速香茶へ伸びたエリクの左手は刹那、カップを持ち上げたところでぴたりと止まった。
向かいの席に座り直したペトラは依然、眉を寄せてうつむいたままだ。
膝の上に置かれた両手も固く握られて、ともすると繊細なレース地の手套が裂けてしまうのではなかろうかと、エリクはつい余計な心配をする。
「……そうでしたか。ネデリン夫人の件は……改めてお悔やみ申し上げます。葬儀に参列できない非礼をお許し下さい」
「ええ……そのお気持ちだけで充分ですわ。そもそもお父様は、アンゼルム様が葬儀に参列することを許して下さらないでしょうし……お体のこともありますから、引き続き当地でのご静養に専念された方がよろしいかと」
「……確かに夫人の件は、私の力不足でした。あれほど近くにいたにもかかわらずお助けできなかったのですから、将軍にお許しいただけないのも当然です」
「あ……い、いえ、そうではなく……!」
「え?」
「わ、わたくしが言いたかったのは、あの日、あの場所で起きたことをお父様に分かっていただくには、少し時間が必要だということです。あまりに突然のことで、お父様も混乱なさるでしょうし……で、ですがアンゼルム様が命懸けでお母様を助けようとして下さったことも……わたくしを守って下さったことも、話せばきっと分かって下さると思います。ですから、つまり……わ、わたくしは、お母様の件であなたを責めるつもりはないということです!」
と最後は何故か苛立ったように語気を荒らげながら、ペトラはバッと顔を上げ、眦を決してそう告げた。これにはさすがのエリクも面食らい、思わず言葉を失ってしまう。されどペトラの方は、どうも一大宣言をしてやったという気でいるようで心なしか息は上がり、頬もわずか上気していた。おまけにうっすら涙目で、エリクがぽかんとしているのを見るやますます決まりが悪そうに言う。
「む、むしろ、事件当夜のことは……とても感謝しています。あなたがいなければわたくしもきっと、生きてはいなかったでしょうから……お母様のことは悔やんでも悔やみ切れませんけれど、あなたが危険も顧みず、必死にお母様を救おうとして下さった姿を見てなお口汚く罵るほど、わたくしも腐ってはおりません」
「……ペトラ嬢、」
「ほ、本当に……お体はもう、大丈夫なのですわよね?」
「……はい。まだ万全とは言い難いのが実情ですが、ご覧のとおり、命に別状はありません。何より軍人は皆、あれくらいの怪我には慣れていますからご安心を」
「そ、そうですか──よかった……」
声を震わせてそう呟くやペトラはぎゅっと眉を寄せ、唇を結んでうつむいた。
そんな彼女の反応をまた意外に感じて、エリクも思わず黙り込んでしまう──父譲りの血統主義をあんなに信奉していた彼女が平民の前でこんな姿を見せるとは。
三日前の晩、ペトラが直面した母の死は、それほどまでの衝撃でもって彼女を打擲したということだろう。いや、母親だけではない。何せあの日の集会は、もとはペトラが親しい保守派貴族を集めて主催した内輪の集まりのようなものだった。
つまり事件の犠牲者の中には、他にも彼女の友人や慣れ親しんだ使用人が大勢いたはずだ。彼女はそうした人々をひと晩で四十七人も喪ってしまった。そして自身の命すらも失う寸前だった状況が、彼女の世界の見え方を変えたのかもしれない。
その事実を素直に喜んでいいのかどうかは、エリクには何とも言えなかったが。
「ご心配をおかけして申し訳ありません、ペトラ嬢。私もこのとおり、まったく動けないというわけではないので、せめて一度くらいは自分の足で夫人の弔問に伺うべきでした」
「い……いいえ。謝らなければいけないのは……むしろわたくしの方ですわ。あなたや黄都守護隊の皆様に、たくさんの無礼を働いたにもかかわらず……あなた方は決してわたくしを見捨てなかった。わたくしやお父様が逆の立場だったなら、きっと自分の命と秤にかけて、迷わず見殺しにしていたでしょうに……」
「……それはどうでしょう。善意の手助けと見せかけて、実は我々も保身のためにあなたを守っただけかもしれませんよ。現場に居合わせていながら、上官であるネデリン将軍のご息女を守り切れなかったなどということになれば、我々全員の首が飛ぶ一大事になっていたかもしれませんから」
「ふふ……そのためにご自分の命を投げ出してわたくしを守って下さったと? だとすれば、動機が矛盾していますわ。政敵の娘を命惜しさに命懸けで救出するなんて。何よりお母様はともかく、わたくしのことは無事に守り抜いたのですから、もうお父様の機嫌を取る必要はないはずでしょう? ですのに毎日屋敷へ人を寄越して、わたくしの様子を気にかけるだなんておかしな話ですわ」
「お邸へ何度も人をやっているのは、事件の事後処理と怪我人の診療のためです。そもそもいくらご息女が助かったからといって、将軍が奥方を亡くされた事実は変わらないでしょう。であればご勘気を被らずに済むように、打てる手はすべて打っておかなければ」
「……本当におかしな人ですのね。あれほどの惨劇から救い出してみせたなら、普通はもう少し恩着せがましく見返りを要求したりするのではなくて?」
「保守派の流儀はそうかもしれませんが、生憎、私は革新派を自負しておりますので。第一、魔物の脅威から国民を守るのは軍人の仕事です。職務上やって当然のことをしただけで得意顔をしていては、いささか滑稽が過ぎるでしょう」
「では、わたくしが何かお礼をしたいと申し上げたら?」
「……普段なら〝お気持ちだけで充分です〟とお答えするところですが、それだとあなたの気が済まないようですね」
「ええ。ですから望みがあれば何なりとおっしゃって下さいな。わたくしに叶えられる要望であれば、喜んで請け合いましてよ」
「……ではひとつ、不躾なお願いをしてもよろしいでしょうか」
「あら、何かしら?」
「先日の夜会で拝見した『ジュダとルチャーノ』……あちらを黄都で上演するなとは言いません。ただ、やはり陛下にご観覧を勧めるのはお控えいただきたく……」
「……理由を伺っても?」
「理由は当日お伝えしたとおりです。私には正黄戦争の記憶が陛下にとって、ただ輝かしいだけのものだとは思えません。ご家族である黄妃陛下や皇妹殿下を亡くされただけでなく、当時共に戦った家臣の多くも既に国や世を去ってしまった。そうした記憶を今の陛下に想起させるのはあまりにむごいと……少なくとも私はそう思うのです。今のペトラ嬢にならご理解いただけるかと思いますが、どんなに願ってももう帰らない人との記憶を掘り起こすのは、甘いなつかしさを手にする一方で、それを取り出したあとの暗い穴を覗き込む行為でもあります。その穴はあまりに深く、下手をすれば呑み込まれて、二度と陽の下を歩けなくなってしまう……」
エリクが数度口に運んだ香茶のカップをソーサーに戻しながらそう言えば、お喋り好きと見えるペトラもついに押し黙った。エリクとしてもこれ以上彼女の母の死に触れるのは本意ではなかったが、未だ血を流し続ける彼女の生傷に触れてしまった詫びとして、自らの傷も差し出しておくことにする。
「……実を言えば、私も既に両親を亡くしております。母は妹を産んだあとの予後が悪く……父は、魔物に殺されました」
「……え?」
「私にとってはかけがえのない、自慢の両親でしたので……今もふたりのことを思い出すたび、様々な感情が去来するのですよ。特に父の死については、悔いることや受け入れ難いことが多すぎて……」
「……」
「もちろん、陛下も黄妃陛下や皇妹殿下のご逝去について、私と同じように感じていらっしゃるとは限りません。ですが──」
「いいえ。お恥ずかしい話ですが……わたくしも今回、お母様を亡くして初めて、家族や親しい者を理不尽に奪われるというのがどういうことかようやく理解しました。アンゼルム様のおっしゃるとおりですわ。この穴はあまりに深すぎて……とても抜け出せる気がしない」
そう言って彼女の胸に添えられた手は、指先が微か震えていた。
きっと今日までただの一度も家事や労働といった行為に従事したことがないのであろうペトラの手は、手套越しでも分かるほど白く、肌には傷ひとつない。
それは翻って、彼女をどこに出しても恥ずかしくない貴族の娘として育て上げようとした母親の愛の証ではなかろうか。
彼らの教育の是非はともかく、ペトラもきっと両親に愛されて育った娘だった。
ならばもはや言葉を重ねずとも、彼女も分かってくれるだろう。
「……そうですね。私も今、同じ穴から懸命に抜け出そうとしているところです。ここはあまりに暗く、冷たくて、ひとりでいると凍えてしまいますから。ですが、ペトラ嬢」
「……何でしょう?」
「黄都へ戻ればきっとあなたにも、穴を覗いて手を差し伸べてくれる人々がいるでしょう。凍え切った体では、彼らの呼び声にすぐに応えることは難しいかもしれませんが……ときには顔を上げて、穴の向こうには陽の光に満ちた世界が広がっていることを、どうか忘れずにいて下さい。これは私の親愛なる上官からの受け売りですが──あなたも決してひとりではないのですから」
エリクがそう告げて微笑いかければ、顔を上げたペトラの瞳からついにぽろりと涙が零れた。そうしてついにしゃくり上げ始めた彼女を見やり、エリクは胸の物入れに入れていた手巾を差し出す。こうして見ると彼女もまた年相応の、弱く未熟な少女なのだと思えた。けれどエリクがしてやれるのはここまでだ。
彼女の父親はシグムンドや自分を目の敵にする保守派の筆頭格であり、親交を深め合ったところで恐らく互いに益はない。否、むしろエリクたちとの接触はペトラの立場をより複雑なものにして、彼女を苦しめることになるだろう。
ゆえにペトラが落ち着いたらそろそろお帰り願わなければと思いながら、エリクが再びカップへ手を伸ばしたところで、
「ですが……それだけですの?」
と、急にペトラから尋ねられ、エリクは「……はい?」と、いささか間の抜けた返事をした。
「えっと……それだけ、と言いますと?」
「あなたの要望ですわ。劇の件はあくまで陛下のための提言であって、あなた自身は何も得るものがないじゃありませんの」
「はあ……ですが要望と言われましても、他は特に何も……本当にお気持ちだけで有り難く存じますので……」
「もう! あなたという人は、どこまで欲がないんですの!? 殿方ならばもっとこう、地位とか権力とかお金とか、あとは女がほしいとか言うものではなくて!?」
「いえ、ペトラ嬢、その発言は異性への偏見が過ぎるというか……そもそも私は既に、地位にも権力にも経済的にも困っていません」
「それはそれでなんか腹立たしいですわね! では女性関係はいかがですの!?」
「ええと……そちらも生憎、妹以外の異性は眼中にないもので……」
「急な爆弾発言ですわね!? ではリリアーナ皇女殿下との噂は一体何でしたの!?」
「いや、あれはヒュー詩爵家の陰謀で……気づいたらいつの間にか、魔除けの生け贄にされていたというか……」
「ああ、もう、いいですわ! でしたらわたくしから提案して差し上げます! ときにアンゼルム様は、アルニア養蜂商会という組織をご存知でして!?」
と今度は何故か怒り出したペトラが投げつけるように告げた商会の名を聞いて、エリクは目を丸くした。知っているも何もアルニア養蜂商会といえば他でもない、彼女がアンブランテ夫妻に嫌がらせを繰り返す発端となった商会だ。
トラジェディア地方における土地の争奪戦に敗北し、新たな養蜂事業計画が頓挫したという理由でアンブランテ交易商会を逆恨みしている何とも幼稚な商人組織。
ところがエリクが頷いて「もちろん知っている」と答えると、ペトラはひとつため息をついたあと、まったく予想外の言葉を口にした。
「実はあの商会は、黄都でも有数の歴史を誇る商会で……アルニア養蜂商会の会長は代々、トラモント商工組合の役員として名を連ねておりますの。この意味がお分かりかしら?」
「トラモント商工組合の……?」
と思わず聞き返したところで、瞬間、エリクははっとした。そうだ。
黄都の商会が絡む話は、何もアンブランテ夫妻の件に限ったことではない。
──ディーノ。シグムンドの失脚を狙う保守派貴族の捨て駒として黄都守護隊に送り込まれてきた毒。やつも確か〝自分に計画の実行役を持ちかけてきたのは、保守派と蜜月な関係にある組合上層部の人間だ〟と言っていた……。
「ペトラ嬢、まさか」
「……そのご様子ですと、どうやら既に尻尾は掴んでいたようですわね。でしたらお話が早くて助かります。お察しのとおり──あなた方黄都守護隊に工作のための人員を送り込んだのもまた、アルニア養蜂商会です。わたくしもお父様がお兄様と話しているのを盗み聞きしただけですけれど……あなた方がもしあの商会と戦うおつもりなのでしたら、わたくしも微力ながらお力添えできましてよ?」




