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エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―【side:B】  作者: 長谷川
第5章 あの朝を抱き締めて
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131.カラリワリに祈る


 翌朝、いつもどおりに出仕したエリクは毎朝の礼拝後、執務室へ戻ろうとするシグムンドを呼び止めた。共に参列したコーディとサユキにも席に留まるよう声をかけ、聖堂を管理する聖職者たちにはしばらくの間、人払いを依頼する。

 早朝の聖堂に残ったのはエリクとシグムンド、コーディ、サユキの四人だけ。

 太陽を描いた彩色硝子(ステンドグラス)の向こうから燦々(さんさん)と朝日が注ぐその場所は、かつてエリクがシグムンドに(ひざまず)き、忠節の誓いを新たにした場所でもあった。


「昨日半日ほど考える時間をいただいて答えが出ました。私はこの城に残ります」


 やがてしんと静まり返った聖堂内でエリクがそう告白すると、目を見張ったコーディが息を呑むのが分かった。席に座ったままのシグムンドとサユキはいつもどおりだ。が、初めからこうなると分かっていたという感じではない。

 現にシグムンドはしばし無言でエリクを見つめたあと、深々と嘆息をつき、腕を組んで目を閉じた。彼にしては珍しく、言いたいことは山ほどあるが慎重に言葉を選んでいるといった様子だ。


「アンゼルム……いや、エリク」

「はい」

「まず君がその結論に至った理由を聞かせてくれ」

「理由は色々ありますが……昨日、カルボーネ村のハーリー分隊長から届いた手紙をお渡ししましたよね」

「ああ、確かに受け取ったが」

「あれが一番の決め手でした。より正確には、あの手紙を届けてくれたご夫婦との再会が、ですが」


 そう答えてから、三人の前に佇んだままのエリクもまた、一度ふーっと息をついた。こうして《太陽を戴く雄牛(レーム)》の金像を背にして話していると、まるで自分が説教をしているみたいだ。とはいえ毎朝この場所で聖職者たちが聞かせてくれる高説ほど立派な話をするつもりはない。むしろ今から話す自分の意見は、相手によっては手垢のつきすぎた、陳腐で青臭いものに聞こえるだろう。けれどもシグムンドなら一笑に付すことなく聞いてくれるはずだという確信がエリクにはあった。


「彼らがわざわざ城を訪ねてきた理由を聞いたとき、私は思ったんです。カルボーネ村には例の事件を乗り越えることを諦めた人々が大勢いる中で、彼らは折れずに生き続けることを選んでくれました。そしてその選択には多かれ少なかれ、私の言葉や行動が影響したのだと言われて気がついたんです。ああ、そうか、私はあのとき彼らを救うことで言外に〝生きてほしい〟と言ったのだと」

「……」

「彼らはそんな私の望みを聞き入れて、今日まで生き抜いてくれました。どんな痛みも苦しみも乗り越えて、生きることを投げ出さずにいて下さったのです。だのに彼らにそうさせた私が……〝生きてほしい〟と願った私が、この国に背を向けて逃げ出すわけにはいかないと思い至りました。彼らの生を願ったからには、彼らが生きたいと思える未来を築く責任があるはずだと」

「だが、たとえ君の影響が少なからずあるとしても、選んだのは他ならぬ彼ら自身だろう。ならばそれは本当に、君が家族を(なげう)ってまで取らねばならん責任か?」

「いいえ。仮に彼らから必要ないと言われても、私がそうしたいのです。懸命に生きようとしているトラモント黄皇国(おうこうこく)の人々を、投げ出したくないのですよ」

「君はやはり郷里へ帰るべきだと、私がそう願ってもか?」

「はい。ご命令であれば大人しく従いますが、そうでない限りは黄皇国に居座る所存です。もちろん、お気持ちは有り難く頂戴しますが……」

「……ならば妹の件はどうする?」

「そちらも可能な限りの手は尽くします。実は昨日のうちに、サバン殿に一通の手紙を託しました。北のボルゴ・ディ・バルカを拠点にしている、シュレグという商人に宛てたものです」

「聞き覚えのある名前だな。確か君がルエダ・デラ・ラソ列侯国(れっこうこく)へ向かう際、ラムルバハル砂漠の横断に手を貸してくれた隊商の発起人だったか」

「はい。シュレグ殿はたびたび列侯国へ行商に行かれているので、向こうにも(つて)が多いのです。ですので仮にカミラが国境を越えてしまった場合には、あの方に列侯国での捜索をお願いしたい、と」

「……なるほど。で、仮に妹が無事見つかればどうする?」

「シグムンド様のお許しさえいただけるなら……妹のことは一度、当城へ呼び寄せたいと思っています。無論、本音としてはルミジャフタへ戻り、安全に暮らしてほしいと願っていますが……私が一方的に押しつけたその思いが、妹を長く苦しませてしまったこともまた事実です。ですので妹には真実を話し──選ばせます。他でもないあの子自身に、黄皇国に残るのか、郷へ戻るのか……あるいは親友のもとへ行くのかを」


 エリクが目を伏せてそう告げた途端、コーディが再び息を呑んだ気配があった。

 もちろん、エリクとてこの決断は本意ではない。黄皇国に残りたいという気持ちは本当だが、そんな自分のわがままにカミラを巻き込み、万が一にも危険に晒してしまったらと思うと気が気ではなかった。されどそうして妹を守るつもりでしてきたことが結果的に彼女を傷つけ、今回のような事態を招いてしまったのだ。


 ならばエリクもやり方を改める他ない。

 結局カミラには苦渋の決断を強いてしまうことにはなるが、どのみち彼女を苦しめるなら、せめて何のために苦しむのかは彼女自身に選ばせるべきだと思った。

 すなわち、家族の無事を祈りながら郷で待ち続ける孤独の苦しみか、黄皇国の腐臭に巻かれながら家族と共にいる苦しみか、あるいは家族が引き裂かれる苦しみを背負っても、救世軍の理想に共鳴し、彼らと共に戦うか……。


(……だいたい俺が郷を離れてもう三年だ。三年もあれば人は変わる。俺やイークがそうだったように、カミラも俺たちのいない間に、ものの見方や考え方が変わっているかもしれない。そうだとすれば、俺よりもイークといたいと言い出す可能性だってゼロじゃないはずだ)


 そんな思いが脳裏をよぎった瞬間、エリクの胸はズキリと痛んだ。

 が、仮にカミラがそう望んだとしても自分に傷つく資格などない。

 何故ならエリク自身もまた、カミラよりもシグムンドたちと共にいることを選んだがために今、こうしてここにいるのだから。


(なら、たとえカミラがイークと同じ道を選んだとしても……それは報いだ)


 彼女を置き去りにして、夢ばかり追い求めた自分が受けるべき当然の報い。

 そしてその報いを背負ってでも──否、報いを受けるほどの過ちを犯しても進んできた道だからこそ、投げ出すことはできない。許されない。

 ここで信念を(ひるがえ)し、これまでの自分の望みに背を向けるなら、何のために三年もカミラを苦しめてしまったのか分からなくなるからだ。

 途中で逃げ出すくらいなら、最初から黄皇国などには関わらず、さっさと郷へ帰ればよかった。されどエリクはそうしなかったし、したくなかった。

 理由は他にもたくさんあるが、突き詰めれば至極単純明快で。


 自分はやはり、トラモント黄皇国という国が好きなのだ。


 そこに暮らす人々も、風土も、歴史も、何もかも。


(……不思議だな。列侯国へ帰ったときにはそんなこと一度も思わなかったのに)


 けれどだからこそ、守りたい。


 三百年余の歴史と豊かさのゆりかごに育まれてきた、この素晴らしい皇国を。


「……そうか。どうやら君の決意は固いようだな」

「はい。シグムンド様には多大なご心配とご迷惑をおかけして、申し訳なく思っているのですが……」

「私のことはいい。だが、恐らくはここが君にとって最後の分かれ道だぞ」

「はい」

「踏み出せばもはや後戻りはできん。それでもいいのか?」

「はい。覚悟の上です」

「……エリク。君の気持ちは、私も黄臣(こうしん)として誇らしい。しかしもう一度だけ言っておこう。私のためにこの地に留まろうとしているのなら、やめなさい」

「いいえ、やめません。何故なら私は昨年の暮れ、ファーガス将軍から頼まれたのです。シグムンド様はご自身のことをあまりに軽んじていらっしゃるので、くれぐれも無茶をしすぎぬよう傍で支えてやってほしい、と」

「チッ……あの御仁(ごじん)め、余計なことを」

「加えていつだったか、リナルドにもこう言われました。いずれ私が選択を迷うときが来たら〝自分にとってどちらがより大切か〟ではなく〝世界にとってどちらがより大切か〟という視点で選ぶといい、と。そしてその選択を下すべきときは今だと、私自身、確信しております」


 エリクがきっぱりとそう断言すれば、シグムンドもついに何も言わなくなった。

 彼は足もとに散らばる七色の朝日(ひかり)を見つめて、何事か考え込んでいる様子だ。

 他方、コーディやサユキは固唾(かたず)を飲んでなりゆきを見守っているという感じで、特に前者はずっと緊張しきりといった顔色だった。

 が、やがて長い沈黙の果てに、おずおずとそのコーディが言う。


「あ、あの、アンゼルム様……僕からもひとつ、お尋ねしてもよろしいですか?」

「ああ、なんだ、コーディ?」

「あ……アンゼルム様もご存知かとは思いますが……僕は物心ついた頃から、家族との関係があまりうまくいっていません。ですので実を言うと、本物の家族というのがどういうものなのか、いまいちよく分かっていないところがあって……でも、だからこそずっと、羨ましいと思っていたんです。長いあいだ離れて暮らしていても、お互いを大切に想い合えるアンゼルム様とカミラさんのご関係を……」

「……」

「で、ですから……アンゼルム様はカミラさんのために、故郷へ帰られるべきなのではないかと僕も思います。せっかく仲のいいご家族なのに……こんな時代のせいでバラバラになってしまうのは悲しいです。でも……でも本当は、僕はこれからもアンゼルム様にお仕えしたいという気持ちもあって……帰ってほしくない、と思っている自分もいるんです。ずっと……これからもずっと、僕たちと一緒にいてほしい、って……」

「コーディ」

「な、なので……僕も考えました。僕は結局アンゼルム様にどうしてほしいんだろう、って。そして思い出したんです。ああ、そういえば僕の一番の願いは、アンゼルム様に幸せになっていただくことだったと……いつかウィルさんやリナルドさんと話したときのことを、僕も」


 そう言ってちょっと照れ臭そうに頬を掻いたコーディは、どうやらあの日、勢い余った告白でリナルドに散々からかわれたことを思い出しているようだった。

 けれどエリクも、言われてみればそんなこともあったなと思い出す。振り返ってみればほんの一年ほど前のことなのに、もうずいぶん長い時間が経ったように思われるのは、黄皇国で過ごした時間がそれほどまでに濃密だった証左だろうか。

 ならばなおさら離れ難い、と思う。そう願うエリクに向かってコーディは言う。


「で、ですので僕がお()きしたいことはひとつだけです。アンゼルム様は、今──幸せでいらっしゃいますか?」


 ……なるほど、そうきたかと、エリクは浅く口角を持ち上げた。

 だがその問いの答えは考えるまでもなく決まっている。

 ゆえに正面からコーディを見据えて、エリクは言う。


「ああ、もちろん幸せだよ。妹をひとり故郷に置き去りにしておいて、俺だけがこんなに幸せでいていいんだろうかと、ずっと思い悩んできた程度にはな」

「……!」

「だけど、だからこそ今ならカミラにも打ち明けられる気がするんだ。俺が黄皇国に留まった理由も、イークとは別の道を歩むことにした理由も……あの子がそれを聞いて納得してくれるかどうかは分からないが、少なくとも今の俺にとっては、黄皇国の人々が笑って暮す姿を見られるのが一番の幸せなんだよ。だから俺は、この道を選んだことを後悔してない」

「アンゼルム様……」

「ああ、あと、お前がどう思っているかは分からないが、俺は黄都守護隊(こうとしゅごたい)のことも今じゃ家族だと思ってるぞ。お前のことだって、内心ではずっと弟ができたみたいだと思っていたし……」

「え!?」

「そういうわけで、お前たちのことを胸を張ってカミラに紹介するためにも、俺は軍に残りたいんだ。今すぐあの子を探しに行きたい気持ちももちろんあるが……俺がひとりで右往左往するよりも、黄都守護隊(かぞく)の智恵と力を借りた方が、より確実にカミラを見つけられそうだしな」


 エリクがそう言って苦笑すれば、唇を引き結んだコーディが瞳を潤ませながら頷いた──そうだ。自分ひとりではどうにもできないことも、ここにいる皆の力を借りれば何とかなる。現にこれまでもそうやって様々な困難を乗り越えてきた。

 ゆえにエリクは黄都守護隊を信じている。何があっても、彼らと共に歩み続ければきっと、道を踏みはずすことはないはずだと。


「……なるほどな。では、サユキ。君はどう思う?」

「……」

「こうなった以上、もはや彼の気が変わるとは思えんが、参考までに君の意見も聞かせてもらえるかね」

「私は……」


 ほどなくシグムンドから話を振られると、サユキは視線を落としたまま黙り込んだ。思えば彼女がエリクの従者となってから、もう丸一年が過ぎている。

 異国からトラモント黄皇国へ流れ着き、初めはハノーク語の読み書きすらできなかったサユキも、気づけば黄都守護隊の一員として当たり前のようにエリクを支えてくれる存在になっていた。が、彼女が黄皇国へやってきた当初の目的は、死に場所を見つけることだったはずだ。

 ゆえに彼女は今もエリクに雇われ、軍属という形で軍に留まっているのだった。


(ということは俺が軍に残ろうが残るまいが、サユキには〝契約が継続されるならどちらでもいい〟と言われそうだが……)


 と、彼女の日頃の言動から何となくそんな予測がついてしまって、エリクはまたも苦笑する。残念ながらサユキは今も自分や他人に執着があるようには見えないので、場合によっては自身の進退についても頓着しないのではないかと思われた。

 ところが、いつもどおりの淡白な答えを覚悟したエリクの耳に届いたのは、まったく予期していなかった言葉だ。


「……私にもかつて、兄がいた」

「……え?」

「血のつながった実の兄だ。両親はとうの昔に他界して……私にとっては兄だけがただひとりの肉親だった」


 瞬間、サユキが初めて口にした己の過去に、エリクたちは揃って言葉を失った。

 この一年、自身の身の上についてはまったくと言っていいほど語ろうとしなかったサユキが、自分から家族の話をし出したのだ。


(だが、兄が()()ということは……)


 過去形で語られる彼女の実兄(あに)の現在については、みなまで聞くまでもない。

 ゆえにエリクは黙って彼女の次の言葉を待った。するとサユキもぽつり、ぽつりと、視線を上げないまま痛みを吐き出すように、言う。


「……兄は里でも指折りの優れた(シノビ)だった。けれどひとつだけ、忍としては致命的な欠点があった。それはいざというときに、人間(ひと)としての情を捨て去ることのできない柔弱な性格だったことだ」

「……」

「本来忍とは、たとえ血のつながった親兄弟であろうとも、一門のためなら切り捨てる覚悟がなければならない。しかし兄はそうできなかった。忍ならできて当たり前のことが……どうしてもできなかったんだ」

「サユキさん、」

「そんな兄の背を見て育った妹の立場から言うべきことがあるとすれば──私は、兄には兄の人生を生きてほしかった。愚かで薄情な妹のことなど忘れて」


 刹那、サユキの唇から零れ落ちた言葉は、想像以上の重い響きを伴ってエリクの胸を()いた。彼女は何もカミラのことを愚かで薄情だと言っているのではない。


 そこにあるのはただ、ただ、悲しいほどに透明な彼女の後悔と自嘲だけ──


「そうか。ではこの場で彼の帰郷を本心から願っているのは、残念ながら私だけということだな」


 ところが、エリクが思いもよらないサユキの告白に返す言葉を失っていると、沈黙を破るため息が落ちた。その主は言わずもがなシグムンドだ。

 彼はエリクやコーディの当惑を余所に、やれやれと言いたげな素振りで肩を竦めると、木製の長椅子に身を沈めた。そうして依然難しい表情をしながら、エリクの背後で天を仰ぐ黄金の雄牛を見つめている。


「されど君をよく知る三人のうち、二人が本人の意思を尊重すべきだと言うのなら仕方がない。今回ばかりは多数派の意見を聞き入れざるを得ないようだ」

「シグムンド様」

「エリク。私は我が祖国の不徳のために、本来君が負う必要のない重荷を背負わせたくはなかった。だが、それでも君が黄皇国と共に歩みたいと望むのならば、私も黄臣として腹を(くく)ろう。我が生涯を()して君の忠愛と献身に応え、決して失望させまいとな」


 シグムンドのその言葉は、エリクにとってこれ以上ない(ゆる)しであり祝福だった。

 たったひとりの臣下のために、ここまでの想いをかけてくれる主君が果たして他にいるだろうか。それは他者に剣を捧げて生きる者にとって、望外の喜びだった。

 ゆえに心が震え、改めて思う。


 ああ、やはり自分はこの方のために生き、この方のために死にたいのだと。


(カミラもシグムンド様にお会いすれば、きっと分かってくれるはずだ。だから、頼む……どうか無事でいてくれ)


 腰に()いた剣に触れ、エリクは今一度神に祈った。

 そこでは柄の先に結わえつけられた羽根飾り(カラリワリ)が──カミラの祈りが揺れている。

 きっと彼女もこんな想いで三年間、自分の無事を祈りながら待ち続けていたのだと思うと、エリクの胸はやはり軋んだ。


 されど自分は選んだのだ。トラモント黄皇国で生きる道を。


「よし、では話は決まりだ。君の妹の行方は気がかりだが、今はガルテリオ様から朗報が届くのを待つ他ない。その間、我々は我々の為すべきことを為すとしよう。君の妹が無事に見つかって、当城へ招くことになったとき、兄は何故このような国のために働いているのかと落胆されては困るからな」

「……はい。そうならないよう、私も今まで以上に力を尽くします」

「うむ。ではそろそろ執務室へ戻るとしよう。スウェインたちを待たせている。アンゼルムが職務に復帰するのは喜ばしいが、今日もまた忙しくなるぞ」

「はい!」


 シグムンドの呼びかけに応えたコーディが威勢よく立ち上がり、サユキも粛然とそれに続いた。そうして(きびす)を返した彼らと共に、エリクもまた歩き出す。

 ああ、そうだ。今日から俺はまた、黄都守護隊のアンゼルムだ。改めてそう誓ったエリクの行く道を、彩色硝子から降り注ぐ七色の光が照らしていた。



 まるで、さざめく天の憫笑(びんしょう)のように。




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