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エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―【side:B】  作者: 長谷川
第4章 迷い子たちのバラッド
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118.赤き髪の英雄王


 現場にいたリリアーナが報告内容を忖度(そんたく)してくれたおかげで、エリクは彼女と共に魔群の侵攻を食い止めた功労者としてねぎらわれるだけで済んだ。


 本来ならベルントが破壊しまくった街の設備だとか、魔物の大群が明らかにエリクを狙って集まっていたことについて厳しい追及を受けてもおかしくない状況だったにもかかわらず、リリアーナが口を(つぐ)んでくれたおかげで余計なことは一切上層部の耳に入らなかったのだ。むしろ軍の関心はここ数十年、国内には一度も出没しなかった魔族が何故唐突に現れたのかという部分に向いており、街が被った損害や戦闘時の状況はさほど問題ではない、という空気が流れていた。魔族とはそれほどの脅威であり、だからこそやつを退けた功績の方が遥かに重要視されたのだ。


「そなたが偶然傍におらねば、此度(こたび)ばかりは姫様も無事では済まなかったやもしれぬ。我が国の全臣民を代表して礼を言うぞ、アンゼルム。今後も黄皇国(おうこうこく)のために、そなたの知勇を遺憾なく(ふる)ってくれ」


 と、人一倍皇家への忠心厚いオズワルドなどには特に今回の働きを褒めそやされたが、エリクが素直に名誉として受け取れなかったのは、リリアーナをあんな危険に晒したのは自分かもしれない、という疑念が拭えなかったためだ。


「しかしそなたには、魔族に命を狙われるような覚えはないのだろう? ならば考えすぎだ。いまわの際の魔族がそなたを狙ったのも、あの傭兵どもの意表を()いて最期に一矢報いんとしたのだろうと思えば合点がいく。だからそう思い詰めるな。幸い魔物の注意がほとんど我々に向いていたおかげで、黄都(こうと)の民からは死傷者も出なかった。今はただその幸運と、互いの命があったことを喜ぼう」


 当のリリアーナはそう言って責めも疑いもしなかったが、やはりどうしても腑に落ちず、エリクはしばし考え込んだ。

 気に病ませまいとするリリアーナの心遣いは有り難かったものの、当時の状況を何度思い返してみても、狙われていたのは自分だという答えしか出てこない。

 問題は何故自分が標的にされたのか、ということだ。あれがもし黄都の政敵どもに刺客を差し向けられた、というだけの話なら納得もできる。

 しかし魔界と契った魔人や魔女でもない限り、魔族を使って特定の人間を襲わせるなんてことは不可能だ。地上世界の征服をもくろむ魔のものどもが、神々の下僕(しもべ)たる人間の言いなりになって動くなんてことはどう考えてもありえない。


『──赤い髪の魔女に気をつけなさい』


 刹那、エリクの脳裏をよぎったのは、いつか神の使いを自称する少女から受けた忠告だった。


『今は分からずとも、いずれ理解するときが訪れます。そのときまで魔女の言葉には決して耳を貸さぬように──あの者は他ならぬ、おまえの父の仇なのですから』


 父の仇。白き魔物。それを差し向けたという、赤い髪の魔女。

 イヴの言葉のどこまでが本当だったのか、今となっては確かめようもない。そもそもあの少女が本当に神の使いであったのかどうかさえ、エリクには分からない。

 だが父の命を奪ったのが魔物であったことだけは確からしいのだ。何しろそう教えてくれた故郷の長は、父の死に目に立ち会った唯一の人物だったのだから。


『あれは、そう……白い魔物だ。人に似た姿をした、白い魔物だった。ヒーゼルはそやつから私を守ろうと……馬鹿な男だ。私が一体何のためにお前たち家族を森へ隠したと思う? 最後の最後まで族長の命令に逆らいおって……本当に、馬鹿な男だ……』


 そう言って大きな背を丸め、額を押さえてうなだれていた族長の姿を思い出す。

 父と彼とは幼い頃から(いが)()う腐れ縁だったそうだ。されど晩年、父が傭兵をしていたルエダ・デラ・ラソ列侯国(れっこうこく)から戻り、再び郷で暮らすようになってからは、何だかんだと憎まれ口を叩きながらも互いをよき戦士として認め合っていた。そんな父をある日突然襲った魔物と、今回の魔群の襲来はまったくの無関係だろうか?


 ひょっとすると父には何か、魔族に命を狙われるような因縁があったのでは?


 そもそもイヴのあの言葉が仮に真実だったとすれば〝赤い髪の魔女〟というのも父とまるで無関係とは思われない。何しろエリクの世にも珍しい赤髪は、他でもない父から受け継いだものなのだから──


「──ときに、副長サンよ。あんた、〝赤き髪の王〟って知ってるか?」

「……はい?」

「赤き髪の王だよ。俺もガキの頃からエマニュエルのあちこちを旅してきたが、これまでかの王と同じ赤い髪の持ち主と出会えたことはついぞなかった。ところがどうだ、あんたの髪はどっからどう見ても立派な〝赤髪〟だろ。おまけに名前までゲヴァルト語ときたら、こいつを偶然で片づけるのは野暮ってもんだぜ」

「あら、意外ね、ベルント。昔から野暮なことばっかり言ってるあなたが、いつの間にそんな高尚な冗談を言えるようになったの?」

「うるせえ、その野暮天にデカいケツ振ってついてきたのはどこのどいつだよ? つーか今はンなこたどうでもよくてだな──」

「おい。こいつと話してると耳が(けが)れる。さっさと約束の金を払って帰らないか」

「お、落ち着いて下さい、サユキさん。お気持ちはお察ししますが、この方々は一応アンゼルム様の命の恩人なわけですから、もう少し鄭重(ていちょう)に……」

「そうお堅いこと言いなさんなよ、軍人サン。んなこと言って実はあんたも内心、ジルヴィアさんのケツに興味津々なんだろぉ?」

「おう、それでなくともトラモント紳士ってのは、老いも若きも、庶民も貴族も女の話題にゃ目がないって聞いてるぜ? せっかくの酒の席なんだし、今夜はお近づきの印に腹割って楽しく話しましょうや」

「あっ、あのっ……お、音に聞くゲヴァルト族の皆さんとお近づきになれるのは大変光栄なのですが、彼女は異邦人でして……というか何ならアンゼルム様もトラモント人ではありませんし……」

「へ? 〝彼女〟?」

「は、はい……職務上、いつも男装に近い格好をされていますが、サユキさんは女性です……」

「えぇえっ、女ァ!? けどそいつ、()()()じゃん!?」

「殺す」

「ああああああっ、お、落ち着いて下さいサユキさん! 酒場で刃傷(にんじょう)沙汰はダメです、というか酒場じゃなくてもダメですぅ!」


 という騒ぎに掻き消され、ベルントの持ちかけた話題はものの見事に遮られた。

 そこは城下の酒場街、店先に吊られた笑顔の金檬イルッタのランタンが目印の『笑う金檬亭』だ。昨日の魔群撃退の事後処理に追われ、スッドスクード城への帰投を少しだけ先延ばしにしたエリクは、行きつけの酒場である金檬亭にベルントらゲヴァルト族の面々を招いていた。


 目的は言うまでもなく、危ないところを助けられた礼をすると同時に約束の報酬を渡すことにあったのだが、まあさすがは生まれながらの傭兵集団と言うべきか、彼らはまったくあけすけで奔放で騒々しい。傭兵によくいる〝旅の恥は掻き捨て〟と〝金と命のあるうちに遊べ〟を地でいく人々だ。時刻は金神(きんしん)の刻(十九時)。


 ついさっき現地集合して飲み始めたばかりだというのに、既に全員できあがっているのかと呆れたくなるような騒がしさに、エリクは頭痛を(こら)えて黙り込んだ。

 例の石畳の修繕費も結局請求されずに済んだから、今夜は全額自分の(おご)りだと告げた直後から彼らは終始この調子だ。

 他人の金で浴びるほど酒が飲めるのがとにかく嬉しくてたまらないらしい。


「おいてめえら、少し黙ってろ! 俺がいま大事な話をしてんだろうが!」

「えぇ? 大事な話ってなんスか、ベルントさん?」

「だから、赤き髪の王だよ、赤き髪の王! てめえらは祖国の王の伝説すら忘れやがったのか?」

「またまた。根なし草のおれたちに祖国なんてモンはありゃしないでしょ。赤き髪の王の伝説なんて、今じゃ鼻タレのガキに聞かせたって喜びませんよ」

「罰当たりな野郎どもめ。偉大なるゲヴァルトの祖、シュトライト覇王国(はおうこく)の無二の王、()()()()()()()()()を信仰しねえたァ、今の一族の教育はどうなってんだ」

「まあ、少なくともここにいる連中を()()したのはあなただけどね、ベルント」

「わははは、違えねえ! もっと言ってやって下さいよ、ジルヴィアさん!」

「ちょ……ちょっと待って下さい、ベルント殿。今、何とおっしゃいましたか?」


 とエリクはそこで思いがけない名前を聞いた気がして、思わず彼らの歓談を遮った。だって──赤髪の英雄〝ヒーゼル〟だって? シュトライト覇王国という国の名は生憎(あいにく)聞いたこともないが、ヒーゼルといえば他でもない、エリクの父の名だ。

 それだけならまだ偶然の一致で片づけられるとしても〝赤い髪〟という形容句まで同じとなると、さすがに聞かなかったことにはできそうもない。


「あ? いや、だから、最近はゲヴァルトの誕生神話を真面目に聞こうともしねえ不信心なやつらが増えて困るから、俺が族長になった(あかつき)には、こいつらを徹底的に再教育してやらねえとだな……」

「そ、そうではなく、赤髪の……何と言ったんです?」

「ああ、そうそう、赤髪の英雄王ヒーゼル・シュトライト陛下の話だったな。俺らゲヴァルト族ってのはもともと、この赤き髪の王が治めたシュトライト覇王国の民だったって話が今も一族の間に語り継がれてんだよ。だから俺はあんたに声をかけた。生まれて初めて本物の赤髪を見て、もしかすると俺たちがガキの頃、耳にタコができるほど聞かされて育ったあの伝説は本当だったんじゃねえかと思ってな」

「シュトライト覇王国……というのは? どこにある国なのですか?」

「さあ、詳しい場所までは今となっちゃあ分からねえ。何せ覇王国が君臨してたのは千年近く前、かのハノーク大帝国がエマニュエルで幅をきかせてたのと同じ時代だからな。覇王国の民は隷属を迫る大帝国に(あらが)い続けたが、最後には物量の差で押しまくられて国家を放棄せざるを得なかった。だが我らが英雄王はそんな絶望的状況の中でも血路を開き、民を連れて大帝国の包囲網から脱け出したのさ。んで、そんとき王と共に国を出た覇王国の民はゲヴァルト族と名乗り、今も世界中を流れ歩いてるっつー話だ」

「一説によると、ヒーゼル王は自由の神ホフェスに選ばれた神子だった、なんて言い伝えもあるみたいでね。神子といえば不老の命を約束された存在でしょ? で、王が死んだという話はどの氏族の伝承にも残ってない。それでベルントは、一族の祖は今もどこかで生きていて、いずれどこかでバッタリ会えるんじゃないかって子供の頃から信じてるのよ」

「だ……だから昨日、ああしてアンゼルム様を助けて下さったのですか。この方の髪の色を見て、伝説の王かもしれないと思われたと?」

「ああ。なんせ魔物どもはどう見てもそこの副長殿を狙ってたろ。おまけに魔族まで出張ってきて、あんだけ集中攻撃されてりゃあ、本当に神子サマなんじゃねえかと期待しちまうのが人情ってもんだろうが」

「で、実際ここだけの話どーなん? あんた、ひょっとしてほんとに神子サマだったりすんのかい? だとしたらぜひオレの翼刻(ウイング・エンブレム)を強化してほしーんだけど」


 と斜向(はすむ)かいから大きな目でぎょろりと覗き込んできたのは昨日、華麗に空を飛んでいたジャッポという小男(おとこ)だった。何でも彼のあの能力は翼刻という稀少な神刻(エンブレム)によるものだったらしく、鳥のようにずっと飛んでいることはできないが、空を蹴って超常的な滞空時間を獲得することができるそうだ。

 されど自分が神子だなんてとんでもないことだと、エリクは即座に首を振った。

 一瞬、頭の片隅を、かつてイヴから聞いたいくつかの言葉がよぎりはしたが。


「いえ。残念ながら俺はどこにでもいる普通の軍人ですよ。と言っても、もとはあなた方と同じ傭兵の身分でしたが……」

「だがあんた、ゲヴァルトの血筋なのは確かだろ。〝アンゼルム〟って名前をつけたのは父親か、母親か?」

「それが……実はこの名前は本名ではないんです。ただ黄皇国に仕官することが決まったときに、験担ぎとして主からいただいたもので」

「何ィ? じゃあ何だ、ゲヴァルト出身なのはそっちの主とやらか?」

「ええ……とはいえ既に何代もトラモント人の血が入ったあとなので、ゲヴァルトの血はほとんど残っていないと思いますが、家系図を辿(たど)ると、もとは当地に留まったゲヴァルト族の戦士が家の祖だったことは間違いないようです。俺はその家の初代当主の名をお借りしている身でして」

「なんだ、まぎらわしい。じゃああんた、もとはどこの生まれなんだ?」

「生まれは西のルエダ・デラ・ラソ列侯国ですが、出身は黄皇国の南端にあるグアテマヤン半島の、ルミジャフタという郷です」

「ルミジャフタ?」


 と、エリクの故郷の名を聞いた途端、ゲヴァルト族の面々は何故だか顔を見合わせた。彼らの反応は明らかに面食らっていて、少なくともまるで知らない辺境の土地の名に首を傾げている、という風ではない。


「……? どうかされましたか?」

「あー、いや……そういや昔、そんな名前のド田舎から出てきたっていう青二才に会ったことがあったなと……」

「え?」

「いや、野郎の話は今はいいか。んじゃ、あんたのその赤い髪は、一族(おれら)とは何ら関係のねえ、ただの偶然ってことになんのかね」

「……いえ。そうとも限らないかもしれません」

「あ?」


 エリクが同族の血筋ではないと知り、露骨に興醒めした様子で麦酒(エール)入りの杯を傾けたベルントに、エリクはそう答えて沈黙した。

 果たしてこの話を彼らに打ち明けてしまっていいものかどうか、迷う。

 だが〝赤き髪の王〟の名と父の名の奇妙な一致、そして先の魔族の襲撃を考え合わせると、すべてが無関係だとはどうしても思われない。


(今の話を掘り下げれば、父さんが殺された理由も〝白き魔物〟の正体も分かるかもしれない……)


 恐らく父は、己の出自を明かされることを望みはしないだろう。それが原因で荒れた少年時代を過ごし、半ば郷を捨てるような形で旅に出たのだから。

 けれど今なら父の父、つまりエリクの祖父についても何か分かるかもしれない。

 そう腹を決め、心の中で一度父に謝ってから、エリクはついに口を開いた。


「あの……以前ある人から、ゲヴァルト族は世界中を流れて暮らす特性上、旅先で所帯を持ってその土地に留まる人も多いと(うかが)ったのですが、本当ですか?」

「ええ、そうね。現にさっきあなたが言ってた主さんの家の(おこ)りだってそうでしょう? 一族の血が濃くなりすぎるのも問題だから、たまに余所で所帯を作って、生まれた子を一族に戻したりってのもよくあるのよね」

「では、旅先で子供だけ作っていなくなる……ということもよくありますか?」

「あ? 要は現地の女を(はら)ますだけ孕ましてトンズラするってことか? まあ、まったくないとは言い切れねえが……」

「確かに、女の妊娠が分かる前に次の移動が始まって、知らずに土地を離れるってこともありえなくはねえですもんねぇ」

「……実は、俺の父は、自分の父親を知らなかったんです」

「何?」

「母親……つまり俺の祖母は間違いなくルミジャフタの生まれだったそうなのですが、父親については祖母が黙して語らなかったと……ですが妊娠が発覚した当時、祖母は未婚で……郷の中にも自分が父親だと名乗り出る者はなく、だとすれば余所から森へ迷い込んだ男に、その……手籠(てご)めにされて孕んだ子じゃないか、という噂が立ったそうで」


 と、エリクが視線のやり場に困りつつそう言えば、途端にあたりはしん、と静まり返った。無論店内にはエリクたち以外の客もいて、場の賑やかさは変わらない。

 されど十人がけの席がほとんど凍りついたような空気になっているのを見て取って「まあ、そうなるよな」とエリクは手もとの杯を掴んだ。そうして気まずさと一緒に蜂蜜酒を飲み下したとき、隣の席のコーディが青い顔でおずおずと言う。


「あ……あの、アンゼルム様……それは僕たちも初耳なのですが……」

「うん……父はこの話をされるのを極端に嫌ってたからな。実は、シグムンド様にもまだ話したことがない」

「だけど、その話とさっきのあなたの質問がどうつながるの?」

「俺の父の名前は、ヒーゼルというんです」

「え?」

「髪も俺と同じ赤髪でした。だからと言ってもちろん自由の神子などではなく、ルミジャフタで生まれ育ったことは間違いないのですが……父の名は生まれてくる子が男であればそう名づけるようにと、祖父が祖母に言いつけたものだったそうで」

「……わざわざ子に名前を授けていったということは、少なくともお前の祖母は、その男に手籠めにされたわけではないんじゃないか? 仮にそうなら、言われたとおりの名前を素直につける義理はないだろう」

「ああ、俺もそう思うよ。祖父母がどこで知り合って、いつの間に子を()したのかは、当時郷の誰にも分からなかったそうだが……俺は今のあなた方の話を聞いて、ひょっとすると父はゲヴァルトの血筋ではないかと思ったんですよ、ベルント殿」


 サユキの言に頷きながら杯を置き、エリクは意を決してそう告白してみた。

 が、なおも酒席は静寂に包まれたままだ。……もしや彼らにとっては不名誉な話だっただろうか。あるいは見当違いも(はなは)だしくて呆れているとか?

 エリクは彼らの沈黙の意図をはかりかねた。ところが刹那、ベルントの分厚い唇から不意に「ふ、」と意味深な呼気が漏れる。


「ふ……ふふふ……ははは……わっはっはっはっはっ!」


 かと思えばいきなり天井を仰いで笑い出したベルントに、エリクは思わずぎょっとした。が、驚いたのはジャッポたちも同じだったようで、各々まるで薄気味悪いものでも見るような目でベルントを眺めている。


「え……ちょ……急にどうしたんスか、ベルントさん?」

「馬鹿野郎、これが笑わずにいられるかってんだよ! おい、副長殿。俺もあんたの仮説に乗っかるぜ」

「え?」

「ヴィルヘルムの野郎を追ってたまたま黄皇国に寄っただけのつもりが、とんでもねえ大収穫だ。おい、ジルヴィア」

「何?」

「やっぱり今も生きてるぜ、赤き髪の王はよ。でもって今、ここにいらっしゃるナントカカントカ隊の副長殿は──英雄王ヒーゼルの末裔サマだ」


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