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10話

「くっ!」


 瞬時に反応し、奥義でそれを相殺するゲントだったが、繰り出されたその魔法を見て思わず目を疑う。


『うそぉぉぉ!? そんなぁぁ・・・あり得ないですよぉ~!!』


 ルルムもその事実に気づいたようだ。


(・・・今のは、水属性の魔法・・・)


 そう。


 ガノンドロフは、ロザリアでは禁止となっているはずの『水の書』の魔法を繰り出してきたのだ。


 驚きはそれだけに留まらない。

 敵は全身を虹色に輝かせながら、フロアの四方八方に向け、さらに魔法を連撃してくる。


「グゥゥヮワグゥゥヮワ~~!!」


 ドォンッドォンッ!! ドォンッドォンッ!!


「っ!」


 魔剣の剣身(ブレイド)を盾がわりにしてとっさに後退すると、ゲントはそれが風魔法であることに気づく。


『これってどーゆうことなんでしょうっ!? あのタコ、火属性以外の魔法が使えちゃってますよっ!?』


「わからない。なんでなんだろう」


 ゲントは距離を取ると、《慧眼の睨み》でガノンドロフの姿を凝視する。


 その体躯は大きく膨れ上がり、表面の鱗は虹色に変化していた。

 長くて太い触手の数もさらに増え、先端の棘は刃のように鋭利となっている。


 先ほどまでは存在しなかった凄みのようなものが敵にはあった。


(まさか・・・成長したのか?)


 考えられる可能性はそれしかない。


 ガノンドロフは続けて、雷属性の攻撃魔法をフロアの四方に向けて放ってくる。


『わわぁっ!? またですよぉ!?』


「いったんここから離れよう」


 これ以上の接近は危険だと判断したゲントは、来た道を戻るように大幅に後退した。




 ***




「――なるほど。そういうことか」


 ゲントは光のパネルに目を落とし、静かに頷く。

 改めて人型クラーケンのステータスを確認すると疑問が解けたのだ。


==================================


[モンスター名]

覚醒ガノンドロフ


[危険度]

特S級


[タイプ]

古代化身型


[ステータス]

Lv. 85

HP 260000/260000

MQ 330

魔力総量 621万8700


==================================


『なにかわかったんですっ?』


「ステータスがかなり上昇してるんだ。名前も変化してるし、たぶん成長したんだと思う」


『ええぇっ~~!? モンスターって成長するものなんですかぁ・・・?』


「もちろんこれも仮説だけどね。でも、このステータスを見るとそうとしか考えられない」


 鉄巨人も巨大化したわけだが、あれはアビリティの力で意図的に改造したことによるものだった。


 けれど、ガノンドロフの場合は違う。

 ゲーム的に言えば、第二形態へ進化したとかそんなところだろう、とゲントは思う。


 ただこれで驚くのは早い。

 もっとあり得ないことが起こっているからだ。


 それは、ゲントがもっとも恐れていた事態でもあった。


 フロアの片隅で不気味に佇むガノンドロフに目を向けながら、ゲントはその事実をルルムに伝える。


『えええっ~~!? 魔力総量が上がってるんですかっ!?』


「それも尋常じゃないくらいにね」


『でもでもっ! 魔力総量って生まれた時に確定して、それ以降は魔力が減り続けるものなんじゃ・・・』


「本来ならそうだと思う。でもそれはヒト族に限った話だろうから。ひょっとすると、モンスター相手にはこの理論は通じないのかもしれない」


『ひぇぇ・・・そんなぁ~~』


 モンスターが魔法を使う際に魔導書や詠唱文が必要ないように。

 魔力総量も成長とともに上昇するものなのかもしれなかった。


 もうフェルンに確認できない以上、ゲントは自分でそう結論づける。


 そして。

 ここで一番気にしなければならないのがその数値だった。


(621万8700・・・)


 火属性以外の魔法を使ってきたことから考えても、今のガノンドロフはロザリア国王の魔力総量を上回っていると推測できた。


 天才魔術師であるあのフェルンよりも、あの人型クラーケンの方が魔力総量がずっと高いのだ。


(今や一国の命運を左右するほどの優先権(プライオリティ)も所持してるってことか。危険すぎるぞ・・・)


 このまま放置して逃げ帰るなんてもってのほかだ、とゲントは思った。

 すぐにでも決着をつけなければ、世界全体を揺るがすほどの事態にも発展しかねない。


(とはいえ・・・どうするか?)


 フロアの四方八方へと放たれる攻撃魔法の包囲を潜り抜け、1回もダメージを受けずにガノンドロフまで到達することはもはや不可能と言える。


 しかし。


 そこまで考えてゲントはふと気づく。


(いや違う。べつにダメージを受けずに辿り着かなくてもいいんじゃないか?)


 〝攻撃を受ければ自らも一撃で命を落とす〟


 これは葬冥の魔剣(ケイオスヴァレスティ)を使っている際の制約だ。

 ルルムにもとの姿に戻ってもらえば、この制約に縛られることもなかった。


「ステータスオープン」


==================================


【トウマ・ゲント】 


Lv. 993


HP 99300/99300

MQ 0


魔力総量 0

魔力 0


魔法攻撃力 0

魔法防御力 0


火属性威力 0

水属性威力 0

風属性威力 0

雷属性威力 0

光属性威力 0


筋力 6544

耐久 6319

敏捷 6440

回避 6278

幸運 6559


SPゲージ 1241/9930


クラスF

堕威剣邪


[ユニークスキル]

【抜剣覚醒】


[奥義]

〈居合い重ね〉

〈兇変の舞〉

〈覇王瞬獄殺〉


[アビリティ]

《攻め立て》

《風纏い》

《勇空》

《天駆》

《気力絶倫》

《慧眼の睨み》

《火事場の馬鹿力》

《不意討ち》

《ガード強化》

《格闘王》

《氣合》

《踏ん張り》

《怒り》

《血統の一致》


==================================


 魔晄に呼びかけて光のパネルを立ち上げると、自分のステータスを確認してゲントは頷く。


(10万近いHPがあれば、さすがに耐えられるはず・・・)


 もちろん、痛みはふつうに感じるに違いない。


 振り返ってみると、この異世界へやって来てからダメージというものを一度も経験していないことにゲントは気づく。


(攻撃を直接体に受けるっていうのがどういう感覚なのか、いまいち想像できないんだよなぁ)


 ただ、これはゲームの中の話じゃない。

 これから実際に自分の身に起こることなのだ。


 できれば、無駄な不安は減らしておきたい。

 ここでもサラリーマンとしての習慣がつい顔を出してしまう。


 念のためルルムに確認してみることに。


『そういうことでしたら、痛みを引き抜いちゃうってのはどーでしょうか?』


 サキュバスの少女は、あっけらかんとした口調でそう口にした。

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