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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編

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30 ヴァルネットへの帰還


「なんか随分、久しぶりの気がするなぁ」


 馬車に揺られ、明かり取りから見えるヴァルネットの街を眺めた。感慨深さに浸っていると、興奮したラグが頭上を飛び回り始める。


「三週間ぶりくらいよね。リュシーには長い休みだけど、ゆっくり羽根を伸ばしなさい」


 隣へ座るシルヴィさんが穏やかに微笑む。


「はい。休めってことなんでしょうね」


「冒険者活動は休んでも、あっちは休ませてあげないから。みんなは当分帰って来ないし、リュシーのお世話は上から下まで任せて」


 なぜか太ももを触られているんですが。


「いや。自分のことは自分でできますから」


「なによ〜。照れなくてもいいじゃない。しつこい聞き取りも終わったんだし、この前の夜みたいに、めちゃくちゃにしてよぉ」


「シルヴィさん。衛兵も乗ってますから」


 見張りとしてふたりの衛兵が同乗しているが、片方から険しい視線を投げ続けられている。余程の真面目か、妬みのどちらかだろう。


 あの後、グラセールの街へ戻り、衛兵の詰め所へ移送された。そこで待っていたのは、執拗なまでの聞き取り調査だった。


 事件のあらましを聞かれたものの、Gたちの遺体を失い、証拠不足で説得力は皆無。それでも数日で解放されたのは、大司教の口添えのお陰だ。被害に遭った彼自身が俺たちの無実を懸命に訴え、軽い処分に終わったのだ。


 本来なら、魔導師や聖職者を冒涜する行為は厳罰に値する。失われつつある魔法の力を行使できる彼等は、上流階級として優遇されているからだ。


 大司教には感謝しかない。彼がいなければ、王都の地下牢へ幽閉されてもおかしくなかった。霊峰の寺院で俺が暴れた一件でさえ、双方の誤解が生んだ自衛手段だったのだと必死に擁護してくれたという。


 その甲斐もあって、処罰を受けたのも俺だけで済んだ。六十日間、加護の腕輪を没収され、一切の冒険者活動を禁止。その間はヴァルネットの寺院で奉仕活動を行い、街から一歩も出てはならないという程度のものだ


 この件にしても霊峰の寺院で奉仕を行うのが筋だが、騒動を繰り広げた魔導師たちと顔を合わせては新たなトラブルになりかねないという、双方の意見が合致した所も大きい。


 没収された腕輪は、王都アヴィレンヌにある冒険者ギルド本部へ送られてしまった。活動停止が解かれた後、王都で再び手続きが必要だが何ということはない。


 聞き取り調査を済ませた後、大司教と別れの挨拶を交わした。彼は最後までマリーを気に掛けていたが、きっとあの時に見せたのが本当の顔だろう。全ての罪を告白し、晴れやかな表情をしていた。これで霊峰にある箱庭も、今より浄化されるだろう。


 そうして俺とシルヴィさんは昨日の朝にグラセールを発ち、三日を費やしてようやくヴァルネットへ戻ってきた。馬車はそのまま街中を進み、衛兵の詰め所で停止。すると、出迎えに現れたのはシモンさんだ。


「衛兵長のお出迎えとは、恐れ入ります」


 頭を下げると、頭上で鼻を鳴らす音が。


「無用な災難に巻き込まれるとはな。これだから、冒険者などロクなことにならんのだ」


 渋い顔で唸り、空を見てアゴを擦っている。


「まさか心配してくれてたんですか」


「貴様の心配などするか」


 真っ赤な顔の熊さんに笑ってしまった。


「ありがとうございます。でも、冒険者だって悪くありませんよ。災難に遭ってこそわかることもある。ひとつひとつが糧になる」


 冒険者という職業は本当に面白い。ひとつの街へ留まるなんて、俺にはできそうにない。


「とにかくなんだ……無事に済んで幸いだったな。この街から犯罪者が出たとあっては、私の面目も丸潰れだ。冒険者活動も停止されたのだから、当分は大人しくすることだな」


「そうさせてもらいますよ」


 衛兵たちに別れを告げ、シルヴィさんと天使の揺り籠亭を目指して歩き出した。


「不器用そうだけど、いい男だったわね」


「シモンさんに興味が沸いてきました?」


「お断りよ。お堅い仕事の男って、真面目で退屈そうだし。今はやっぱり、リュシーね」


「いや、いや、いや……」


「安心して。別に、恋人にしてなんて言うつもりもないから。あぁ、お酒飲みた〜い!」


 昼過ぎの街路で叫ぶ酒乱がひとり。それを聞きつけたわけでもないだろうが、駆け寄ってくる二つの人影があった。


「がう、がうっ!」


 ラグがその姿を見付けて声を上げる。


「リュシアン=バティスト。戻ったのか」


「リュシアンさ〜ん、心配したんですよ!」


 ナルシスの出現に思わず顔をしかめつつ、シャルロットの愛情突進ラブ・チャージを受け流す。


「どわたたっ!」


 転びそうになったシャルロットを、側に立つシルヴィさんがしっかり受け止めてくれた。


「ひえぇぇ……シルヴィさん、すみません。私はなんと畏れ多いことを」


 お下げを振り乱し、慌てている。


「ちょっと、リュシアンさん。どうして私の愛を受け止めてくれないんですかっ!?」


「すまん。シャルロットからの愛は満杯で、これ以上は受け止めきれそうにない。その勢いは、ギルドの衝立ついたてにぶつけてくれ」


「そんな。ひどい……」


 シャルロットが半泣きになった途端、背中を強く叩かれた。


「リュシアン=バティスト。彼女に対して、その態度は失礼だろう。どれほど君のことを心配していたと思っているんだ!」


 ナルシスから険しい顔で睨まれている。


「僕がこの街へ戻るなり、君の様子を慌てて聞きに来たんだぞ。君たちが衛兵の詰め所へ移送されることは知っていたから、ここでこうして待っていたというのに」


「悪かったよ。ほんの冗談だろ」


「女心が分かってないのよ、リュシーは」


 今度はシルヴィさんに腕をつねられた。


「だから痛いって。なんなんですか……」


 みんなの気持ちは嬉しいし、その本心がわからないほど馬鹿じゃない。でも俺は、セリーヌを追うと決めている。


「二人にも心配かけたな。ありがとう」


「ふえぇ……リュシアンさ〜ん……」


 シャルロットの小柄な体を抱き留めてやると、ナルシスから溜め息が聞こえた。


「リュシアン=バティスト。君は冒険者活動停止だったな……君の処分が解けるまで、僕は一人旅に出るつもりだ」


「そうか。しっかりやれよ」


「軽いな、君は!?」


「なんだよ。おまえが寂しそうな顔するんじゃねぇよ。気持ち悪い」


 一体、どうして欲しいんだ。


「今回の戦いで自分の無力さを痛感したよ。君の好敵手として相応しいよう、強くなって戻って来る。期待していてくれたまえ」


「そうか。頑張れよ」


「だから、軽いんじゃないのかい!?」


「他にどう言えっていうんだよ。行かないで、とか言って欲しいのか?」


 もう、こいつ面倒くさい。


「俺も負けないように頑張るぜ、だとか、言いようがあるだろう」


「俺モ、負ケナイヨウニ、頑張ルゼ」


 抑揚を込めず、棒読みで返してやった。


「もういい……絶対、君に吠え面をかかせてやるからな。覚悟していろ!」


 怒りに全身を震わせたナルシスは、全力疾走で人混みに紛れていった。相変わらず鬱陶しいけれど、からかいがいのある奴だ。


「あれで良かったの?」


 シルヴィさんが苦笑を浮かべている。


「焚き付けた方が、燃え上がる奴ですから」


 どこまで強くなれるのか。少しはましになって戻ってくるだろうか。


「っていうかシャルロット。おまえもいい加減に離れろ。ギルドの仕事があるんだろ」


「もう、今日の仕事は放棄します。せっかくリュシアンさんが帰ってきたんですから」


「責任を放棄するような奴は最低だと思うぞ」


 すると、俺の胸に顔を埋めていたシャルロットは即座に顔を上げた。


「仕事に戻ります! 明日は休暇なので、揺り籠亭へ遊びに行ってもいいですか?」


「まぁ、好きにしろ」


 目を輝かせて走り去るシャルロットを見送った。シルヴィさんと揺り籠亭の前へ戻ってくると、商店街の奥から歩いてきた助祭のブリジットと出会った。右手に提げた編み籠の中へ、色とりどりの花が見える。


「まぁ。お戻りになられたのですね。心配しましたわ。大司教様は攫われ……犯人はリュシアンさんだと……呪いは大丈夫ですか」


「はい。もうすっかり。全て無事に片付きました。ご心配をおかけしました」


「安心しましたわ……万が一、体調に問題があれば……遠慮なく寺院を頼ってくださいね」


 エクボが魅力的な柔らかな笑みだ。


「ありがとうございます。しばらくは寺院で奉仕活動になるので、よろしくお願いします」


「こちらこそ……楽しみにしていますわ」


 花の残り香と共に、しとやかな仕草で去ってゆくブリジット。最後に会ったのが彼女で良かった。お陰で穏やかな気持ちになれた。


「結局、みんないなくなっちゃったわね」


「え? 宿にフェリクスさんがいますよね」


「他のお抱えパーティを見に行ってるわ。二ヶ月後、王都アヴィレンヌで国王の生誕祭があるでしょ。それまでには戻るって」


「ってことは、それまでの間……」


「ええ。宿の二階は私たちの貸し切り。たっぷり愛を深めましょうね」


 全身から血の気が引いてゆく。みんなが戻るまで正気を保っていられる自信がない。

 俺の明日はどこにあるのだろうか。

QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編 <完>


<DATA>


< リュシアン=バティスト >

□年齢:24

□冒険者ランク:A

□称号:碧色の閃光

[装備]

スリング・ショット

冒険者の服


挿絵(By みてみん)




< ナルシス=アブラーム >

□年齢:20

□冒険者ランク:C

□称号:涼風の貴公子

[装備]

細身剣

華麗な服


挿絵(By みてみん)




< シルヴィ=メロー >

□年齢:25

□冒険者ランク:S

□称号:紅の戦姫

[装備]

斧槍・深血薔薇

深紅のビキニアーマー


挿絵(By みてみん)




< レオン=アルカン >

□年齢:24

□冒険者ランク:A

□称号:二物の神者

[装備]

ソードブレイカー

軽量鎧


挿絵(By みてみん)




< アンナ=ルーベル >

□年齢:22

□冒険者ランク:A

□称号:神眼の狩人

[装備]

双剣

クロスボウ・夢幻翼

軽量鎧


挿絵(By みてみん)




< エドモン=ジャカール >

□年齢:23

□冒険者ランク:S

□称号:真理の探求者

[装備]

魔導杖

朱の法衣


< フェリクス=ラグランジュ >

□年齢:38

□冒険者ランク:L

□称号:断罪の剣聖

[装備]

聖剣ミトロジー

軽量鎧


< マリー=アルシェ >

□年齢:17

□冒険者ランク:D(仮)

□称号:アンターニュの聖女(仮)

[装備]

聖者の指輪

白の法衣

タリスマン


< アルバン=カスタニエ >

□年齢:21

□冒険者ランク:C

□称号:なし

[装備]

長剣

軽量鎧


< モーリス=ベナール >

□年齢:21

□冒険者ランク:C

□称号:なし

[装備]

長剣

軽量鎧


< リーズ=ブランシュ >

□年齢:21

□冒険者ランク:C

□称号:なし

[装備]

なし



ラフスケッチ画:やぎめぐみ様

twitter:@hien_drawing

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