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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.01 ランクール編

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08 覚醒の余韻、そして異物


 竜の力を再現したかのような、荒ぶる力。

 狙うは、右の頭だ。


竜牙天穿(りゅうがてんせん)!」


 突き出した刃の先端から、碧色の魔力球が解き放たれる。


 馬車すら飲み込む大きさだ。

 疲弊した魔獣に、避ける暇はない。


 直撃。


 右頭は吹き飛び、盛大な血しぶきが夜へ舞い上がった。


「もうひとつ」


 残る左頭が牙を剥き、俺を噛み砕こうと迫る。

 だが、その前にセリーヌが走り込んでくる。


光竜滅却(リミテ・リュミエール)!」


 眩い閃光。


 反射的に腕で顔を覆った。

 耳元で爆発が轟き、衝撃に体を持って行かれそうになる。


 どうにか踏みとどまった。


 光が収まる。

 そこに残っていたのは、左半身を消し飛ばされ、内臓を撒き散らした魔獣の残骸だった。


 これほどの力は、見たことがない。

 どこか異質で、特別で、美しい。


「お怪我はありませんか。まさか、あなたも竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使えるだなんて。驚きました」


竜臨活性(ドラグーン・フォース)?」


 見ると、セリーヌの髪と瞳も鮮やかな黄金色(こがねいろ)に染まっている。


 先程の詠唱の効果だろうか。


「知らずに使っていらしたのですか。その力は、紛れもなく私と同質のものです」


「同質ってことは、この力について何か知ってるのか!?」


 問い返したが、セリーヌは魔獣の死骸を見据えたまま動かない。

 釣られるように視線を向け、背筋が凍った。


 絶命したはずの左頭が、こちらをじっと見ている。


「まさか、この子がこうも簡単にやられるとは。ひとまず、おめでとうと言っておこう」


 男の声。

 だが、喋っているのは魔獣の口だった。

 死肉の隙間から、漏れるように響いてくる。


「どうなってやがる……」


「この体を操っている何者かがいます」


 セリーヌの声も険しい。

 だが、正体は掴めていないようだ。


「てめぇは何なんだ。出て来い。ぶった斬ってやる」


 生気のない狼の口から、忍び笑いが漏れる。


「穏やかではないな。だが、君たちの魔力。ぜひとも欲しい力だ」


 背筋へ冷水を浴びせられたような不快感。

 やり場のない怒りに、拳が震える。


「あなたの目的は何なのですか」


 セリーヌも同じだろう。

 杖を握りしめ、魔獣の顔を睨み据えている。


「この子の力試しに付き合って頂き感謝する。お陰で、こうして君たちと知り合えた。私のことは……終末の担い手、とでも覚えておいてもらおう」


 理解できない。

 理解する気もない。


 今はただ、こいつを引きずり出し、ランクールの人々の前で土下座させたい。


 それだけだ。


「てめぇの勝手で、この街の人がどれだけ苦しんだと思ってんだ」


 不意に、兄の言葉が脳裏をよぎる。


『魔獣に苦しめられている人たちもたくさんいる。みんなが手を取り合うべき時に、人同士が争うなんて悲しいじゃないか』


 街で見た光景が次々と浮かぶ。


 泣き叫ぶ子供、それを抱きしめる母親。

 炊き出しに奔走する者、救護に走る者、壊れた家屋を直す者。


 多くの命と夢と希望が奪われた。

 そのすべてが、顔も見えないこいつの遊びだとしたら。


「てめぇだけは……絶対に許さねぇ」


「んふっ。冷静が肝要。次はもっと面白いものをご覧に入れよう。蜘蛛に囚われた森。そこを探してみることだ。では、ご機嫌よう」


「待て!」


 叫びと同時に、赤い目から光が失われた。

 魔獣の巨体は、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


「魔力が消えました……逃げられたようです」


 セリーヌの声が、夜へ溶けていった。


「くそっ」


 怒りのままに剣を振るう。


 風の刃が、魔獣の顔を正面から裂いた。

 狼の額から溢れた髄液が、大地へじわりと広がる。


 見えない悪意に世界が侵食されているようで、胸が焼けるほど苦しい。


「ふざけんじゃねぇ!」


 どれほど叫んだだろう。

 気付けば息が切れ、セリーヌが小さく息を吐く音が聞こえた。


 彼女はナルシスに魔導杖(まどうじょう)を向けている。


 青白い光。

 癒やしの魔法だ。


 やがて光は消え、セリーヌの体からも黄金色の輝きが失われた。


 彼女の力ない笑みに応え、釈然としない思いを無言で分かち合う。


「じきに目を覚まされると思います」


「ありがとう。何から何まで悪いな」


 戦いは終わった。

 だが、大事な謎が残っている。


 竜の力。その正体を突き止めてみせる。


「なぁ、セリーヌ。この力のことだけど……」


 彼女は周囲を気にするように近寄り、口元を手で覆った。


「安心してください。誰にも申しません。見付かれば大騒ぎになりますから。ですが、|私など、竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使うだけでもためらってしまうのに」


「戦いだ。ためらってる場合じゃねぇだろ」


 釣られて小声になってしまう。 秘密を共有しているようで、胸が落ち着かない。


竜眼(りゅうがん)を使えば問題ありません。今回の対処は任せてください」


「竜眼? なんだそれ」


 セリーヌは、きょとんと首を傾げた。


「仰っている意味がわからないのですが」


「だから、この力について教えてほしいんだ」


「おかしな方ですね。今さら、何を知りたいと仰るのですか」


 からかうような口調。 本気なら、この力は彼女の世界では一般的なのかもしれない。


「俺がこの力を得たのは二年前だ。説明もなく、突然、一方的に与えられた」


「一方的に……」


 怪訝な色が浮かぶ。


「おかしいか。この力って、生まれつきのものなのか」


 警戒されている。このままではまずい。


「あのさ……どうやら、記憶をなくしちまったみたいでさ」


「それは……災難でしたね」


 胸が痛む。

 だが、今は割り切るしかない。


「だから、一から教えてほしい。何か思い出せるかもしれない」


 祈るように見つめた。


 セリーヌだけが、この謎を解く鍵だ。

 その先に、兄の姿さえ見え始めている。


「あら? ですが先程、二年前に一方的に与えられた、と仰っていましたよね」


 穏やかな声色だったが、そこにわずかな探りが混じっているのがわかる。

 柔らかく投げられた言葉に、逃げ場がない。


「それだけは思い出したんだ」


 咄嗟のことで機転が利かず、浅い答えしか返せない。


 セリーヌは追及せず、間を一拍置いた。


「では、どこでその力を?」


 問いは静かだった。

 けれど、その静けさが胸の奥を撫でる。


 セリーヌは一瞬、視線を伏せた。睫毛の影が頬に落ちる。

 その仕草の奥に、俺の知らない時間が確かに存在していると伝わってきた。


「夢か現実かわからないけど……故郷の街で、目の前に竜が現れたんだ」


 口にした瞬間、空気がわずかに変わった。


「故郷の街……そうですか。ちなみに、リュシアンさんの信仰されている属性は?」


「信仰している属性?」


 問いの意味が掴めない。


 戸惑って言葉を探していると、セリーヌの双眼が黄金色の光を帯びた。

 内側から磨き上げられた宝玉のように、静かで、しかし確かな光。


 体が言うことを利かなくなる。

 足元から力が抜け、意識がゆっくりと底へ引き込まれていった。

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