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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.04 霊峰アンターニュ編

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02 断罪の剣聖


 なぜ、依頼の報酬受領に俺たちが関係しているのか。

 セリーヌと顔を見合わせるが、答えは出ない。考えあぐねている間にも、シルヴィさんは話を先へ進めていた。


「あたしたちはブノワの護衛依頼を受けていたでしょ。本人には逃げられたけど、ギルドには事前に報酬が預けられているはずよ」


「受け取りだけなら、ふたりでも……」


「それだけじゃないの。あの植物型魔獣も討伐対象として手配が進んでいたのよ。大森林で襲われた生存者が、申請していたんでしょうね」


 言われてみれば、シャルロットが持っていた手配書に、それらしい記載があった気もする。


「でも、あいつの本体は地底湖の底ですよ。俺たちが討伐した証拠がない」


「あるのよ」


 短く言い切り、シルヴィさんは口元を緩めた。


「レオンが魔力映写(まりょくえいしゃ)に収めてたの。赤竜(せきりゅう)に焼かれる前後の記録よ。証拠としては十分でしょ」


 予定外の実入り。素直に喜ぶべき話のはずだ。

 だが同時に、別の顔が脳裏をよぎる。


「それなら、ナルシスがいる時に……」


 言い終える前に、首へ腕が回された。

 身体が引き寄せられ、視界が塞がる。


 酒の匂い。

 軽装姿のせいで、柔らかな感触が頬を押し潰してくる。


 逃げ場がない。


 地獄と天国の挟み撃ちとは、こういう状況を言うのだろう。


「余計なことは言わなくていいの。あなたは黙って付いてきて、全部の報酬を受け取ればいいのよ。わかった?」


「全然、わかりません」


 抗議は軽く流され、腕を掴まれる。

 考えが追いつく前に、話は決まっていた。


 そのまま四人で、冒険者ギルドに向かう。


「わっ。いらっしゃいませっ」


 中へ入るなり、シャルロットが少し緊張した面持ちで出迎えてきた。

 シルヴィさんとレオンを紹介すると、周囲から視線が集まる。


 ランクS。

 それだけで、空気が変わる。


 加えて、セリーヌとシルヴィさんが並んでいれば、なおさらだ。


 ざわめきの中を進み、受付へ。

 いつもの中年女性が、淡々と手続きを進めてゆく。


 レオンの加護の腕輪に記録された映写を確認し、書類をめくった。


「確認が取れました。討伐対象の情報とも一致しています。では、報酬の計算を行います」


 ブノワの護衛報酬が四千ブラン。

 ベルヴィッチアの討伐報酬が一万五千。


 そこで、さらに数字が積み上がった。


 レオンが風の魔法で仕留めたグラン・ショーヴにも、個別の賞金が設定されていた。

 三体分で、四千ブランずつ。


 合計、三万二千ブラン。


 軽く息をのむ。

 想像していたより、重い額だ。


「これはすべて、彼の記録にして」


「だから、どうして俺なんですか」


 思わず口を挟んだ。

 女性職員が、一瞬だけ視線を上げる。


「詳しい話は後よ。とにかく、リュシーを稼がせてランクSへ引き上げる。それが、あたしたちがこの街に来た目的なんだから」


「は? 俺を、ランクSに?」


「つべこべ言わずに、受け取りなよ。俺だって不本意なんだ」


 背後で、腕を組んだレオンが露骨に不機嫌そうな顔をしている。


「そう言うのももっともだ。賞金の大半は、おまえの手柄だしな」


 顔をしかめ、短い舌打ちをする。


「フェリクスさんの命令だ。従うしかない」


「納得いかねぇよ」


 漏れた声に、レオンがゆっくり視線を向けてきた。


「何が?」


「俺ひとりの手柄にするなんて、筋が違うだろ。実際に戦ったのは、みんなだ」


「だから何」


 淡々と返され、言葉に詰まる。


「功績を分けたところで、誰の得にもならない。ランクが上がれば、受けられる依頼も増える。結果的に、全員が得をする」


「それは、結果論だろ……」


「現実論だ」


 被せるように言われ、視線を逸らされた。


「理想論で動くなら、冒険者は長生きしない。まして、フェリクスさんの命令だ。従えないなら、最初から前に出るな」


 胸の奥が、じくりと痛む。


「おまえ……俺のこと、嫌いだろ」


 半分、冗談のつもりだった。


「別に。信用してないだけだ」


 返ってきた声は、冗談ではなかった。


「セリーヌは、どう思う」


 助けを求めるように振り返る。


(わたくし)は助けて頂いた身です。口を挟む立場ではありません。皆様に従います」


 一番融通が利かないと思っていた相手が、あっさり引いた。

 こうなると、味方はいない。


「相変わらず、変な所で真面目なんだから」


 シルヴィさんが溜め息をつく。


「いい? お金は五人で分配。討伐記録はリュシーに付ける。これで決まり」


 結局、押し切られた。

 三万二千ブランは、すべて俺の討伐記録として計上される。


 カウンターに置いた腕輪を、シルヴィさんが何気なく取り上げた。


 嫌な予感が走る。


「随分と怠けてたんじゃない? ランクS昇格に必要な成績、ようやく半分を過ぎた程度じゃない」


「いや……それは……」


「後でお説教ね」


 果実酒の瓶底で、頬をぐりぐりと突かれる。

 既に始まっていた。


「ですが、リュシアンさんは人助けに奔走されております。この街の皆様からも慕われています」


「ふうん。まぁ、それはそれ。でも一番大事なことを後回しにしてたんだから、やっぱりお説教ね」


 申請を終え、勇ましき牡鹿亭へ向かう。


 最後尾を歩くレオンの不機嫌そうな横顔を確認し、歩調を落として並んだ。


「昨日の夜は、悪かったな」


「なんのこと」


「牡鹿亭を出た後、賊を警戒して巡回してくれてたんだろ」


「ああ、そんなことか。別に気にしてない。俺は俺の仕事をしただけだ」


 歩調は緩まない。


「油断している時が、一番危ない。呑気に酒なんて飲んで……ぬるいんだよ」


「悪い……」


「ただ」


 一拍置き、低い声が続く。


「おまえは、もう少し自分の立場を考えろ。守られてる側が、綺麗事を言うと反感を買う」


 反論しようとして、言葉が出てこない。


「すまない……」


「謝るな。次は、同じことを繰り返すな。それだけだ」


 会話は、そこで途切れた。


 気まずさを抱えたまま牡鹿亭へ戻ると、入口に見覚えのある人影が立っていた。


 墜とした女は星の数と豪語する端正な顔立ち。

 肩にかかる黒髪。整えられた顎髭。

 魔力を帯びた銀の軽量鎧(ライト・アーマー)

 背負った物々しい大剣は、この人を象徴する聖剣ミトロジー。


 ランクLの猛者。

 二つ名は、断罪の剣聖。


「フェリクスさん」


「おう、リュシアン。元気そうだな。かれこれ一年ぶりか」


「ご無沙汰してます。相変わらずランクAのままで、すみません……」


「気にすんな。積もる話は、綺麗なねーちゃんのいる店で聞いてやる」


 相変わらず軽い。

 四十手前なのだから、もう少し落ち着いてほしい。


 だが、この人が自ら来る理由が思い当たらない。

 嫌な予感だけが、腹に残る。


「綺麗かどうかはわかりませんが、女性ならこの店にも。お酒も安くしておきますから」


 牡鹿亭を指さすと、険しい顔を向けられた。


「随分と商売上手になったなぁ。この街の空気に当てられて、丸くなっちまったんじゃないのか?」


「いえ。そんなことは……」


 目を合わせただけで、嫌な汗が伝う。


「ちょうど、おまえさんに話があった。場所を変えるぞ。シルヴィ、魔導師のお嬢さんを連れて来い。レオンは残って、エドモンとアンナに合流しろ」


 すれ違いざま、即座に腕を掴まれた。

 反対の手には、シルヴィさんが持っていた果実酒の瓶まで握られている。


「もう。あたしのお酒、返してよ」


「後で新しいのを買ってやる」


 酒瓶を口へ運ぶフェリクスさんに引かれ、大通りを歩く。

 レンガ造りの家並みと、等間隔に配置された街路樹。

 石畳が伸びる通りを進んだ。


 人の往来は激しく、商業都市らしい活気に満ちている。

 それとは反比例するように、俺の気分は沈んでいった。


 フェリクスさん自ら出向いてくる。

 ろくな話でないのは、間違いない。


「良さそうだな。ここにするか」


 フェリクスさんが選んだのは、軽食販売の商店だ。

 通りに置かれた木製テーブルのひとつへ腰を下ろすと、シルヴィさんに買い物を指示した。


「まぁ、座れよ。そちらのお嬢さんも」


 四人がけ。

 自然と、俺がフェリクスさんの正面になる。


「聞いたぞ、リュシアン。こちらのお嬢さん、かなりの腕前らしいじゃないか。パーティはふたりだけか?」


「いえ。パーティは組んでいません。たまたま行き先や目的が同じで、共闘を続けていて」


「ありゃ、そうなのか。俺はてっきり……えらく美人の彼女を見付けたもんだと、嫉妬してたんだが」


 にやりと笑う。


「それなら、俺が恋人に立候補してもいいわけだ」


「お断りします」


 即座に返された言葉に、フェリクスさんは目を細めた。

 面白いものを見るような視線のまま、口元だけが緩む。


「いいね。はっきり物を言う女性って、嫌いじゃない」


 その笑みが引っ込み、表情が改まる。


「本題だ。リュシアン。お嬢さんも気に入った。単刀直入に言おう。ふたりを、俺の傘下に迎えたい。力を貸してくれないか?」


「傘下って、パーティに入れってことですか? でも、フェリクスさんを混ぜると五人ですよね。俺たちまで入ったら、ひとり頭の稼ぎが薄すぎる気が……」


「前に言っただろ。俺は、もうそろそろ現役を退こうと思ってる。このパーティのリーダーは、リュシアン。おまえがやるんだ」


「は?」


 わけが、わからない。


「おまえ、かなり酔ってたからな。もう一度説明してやる。俺が元締めになって、複数のパーティを抱える。当然、ランクLの俺はすべての依頼を受注できる。それを振り分け、報酬を吸い上げる」


「え……独り占めですか?」


「最後まで聞け。報酬の三割を分配。それとは別に給与制度を敷く。毎月、各自へ支給だ。金には困らないだろ」


 白い歯を見せ、得意満面に笑う。


「討伐記録は各自へ計上。ランクに応じて給与も上がるって算段だ。最高だろ?」


 この人、何かやるとは思っていた。

 だが、ここまでとは。

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