表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.03 ムスティア大森林・洞窟編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/357

15 眠る背中、動き出す影


「交渉成立ってことでいいのか? 街へ戻ったら、ギルドで正式に書面契約が必要なんだけどな……って、あれ?」


 さっきから、完全に独り言だ。


「セリーヌ?」


 背中に触れた額から、規則正しい寝息が返ってきた。


「おい……」


 もう、なんなんだよこいつ。


 意気消沈したまま日没後にヴァルネットへ帰還し、衛兵の詰め所で馬を返却する。

 対応に現れたのは、大森林で助けた若い兵士だった。


「兵長のシモンさんにもよろしく伝えてくれ。それから、ひとつ頼まれて欲しいんだ……」


 用事のついでに話を聞けば、面白い話が転がり込んできた。


「街の入口に、ナルシスさんを乗せた白馬が現れたんですよ。ナルシスさんは傷だらけだし、急いで寺院に送り届けたところなんです」


「なんだか悪かったな。ありがとう。俺たちも、危険な依頼を受けた帰りなんだ」


 ナルシスも治療中に脱走し、洞窟では殴られ、刺される大惨事だ。

 レオンが傷薬を(ほどこ)したようだが、怪我は治せても体力までは戻らない。


 黙って寝ていろ。

 何なら一生、寺院に閉じ込められてしまえ。


 セリーヌとふたり、夜の大通りを進んでゆく。


「ナルシスさんもご無事で良かったですね。明日、お見舞いがてら甘辛ボンゴ虫を差し入れに行って参りますね」


「面白そうだな。俺も行くよ」


「面白そう? どういう意味ですか?」


「あぁ。こっちの話だ」


 涙目でアレを食べるナルシスを思い浮かべ、ひとりほくそ笑んだところで、ふと気付く。


「セリーヌ。天使の揺り籠亭が修繕中ってことは、今晩の宿はどうするんだ?」


「はうぅ……考えていませんでした」


 あからさまにしょんぼりしている。

 肩を落としたその姿が、妙に胸に引っかかった。


 そっと抱き寄せて、守ってやりたくなってしまう。


 大量の宝石が入った革袋と、長老から貰ったという首飾りは、襲撃の際に失われたらしい。

 今のこいつは、無一文だ。


「牡鹿亭で待ち合わせてるし、一緒に来ないか? 二階に空き部屋があった。ひとりくらい泊めてくれるだろ」


「いえ。ご迷惑はかけられません」


「俺が癒やしの力を借りたいんだ。なんだか、腕の感覚が戻らなくてさ」


 それは本当のことだった。

 赤竜(せきりゅう)を倒してから右腕が痺れ、感覚が徐々に薄れている。

 ラグの姿が見えないことも、不安を増幅させていた。


「恐らく、相当な体力と魔力を奪われたのだと思います。心配ですね」


「だろ? だから一緒に来てくれ。……と、その前に、最後の一仕事があるんだ」


「一仕事、ですか?」


「あぁ。今回の事件に絡んでる黒幕を制裁する。さっきの衛兵から、必要な証拠のひとつは手に入った。次は、冒険者ギルドだ」


 昨日助けた恩を売り、若い衛兵が持ち出してくれた書類を魔力映写で写し取った。

 証拠は、着実に揃いつつある。


※ ※ ※


「おかえりなさいっ!」


「がふぅっ!」


 冒険者ギルドへ入るなり、腹部へ強烈な体当たりを受けてよろめいた。


「おいぃ、殺す気か」


「いつも同じじゃつまらないと思って。恋する乙女の愛情突進(ラブ・チャージ)です」


「同じでいいんだよ。同じで。それ以上なんて求めてねぇ」


 街中で魔力障壁(プロテクト)が必要になる日が来るとは。世も末だ。

 シャルロットのお下げを掴み、幼さの残る顔を正面から覗き込む。


「リュシアンさん、痛い……優しくしてくださいよ……」


「ギルドが二十四時間運営だからって、今、何時だと思ってんだ? 二十時過ぎだぞ。良い子は寝る時間だろうが」


「また子供扱いして! 私だって立派な大人……」


 言葉に詰まったシャルロットの視線が、俺の背後へ向かう。

 そこにはセリーヌがいるはずだ。


「参りました」


 悲しげな表情で、すごすごと後退した。


「あれ? セリーヌさんも無事だったんですね。命が危ないって聞いて、心配したんですよ」


 今度はセリーヌへ抱きつく。

 同姓とはいえ、正直うらやましい。

 羨望の視線を送っていると、別の方向から殺意めいた気配を感じた。


「まさか……」


 恐る恐るカウンター最奥を見ると、赤竜以上の威圧感を放つ凶悪な熊。

 もとい、シャルロットの父、ルイゾンさんがいた。


 見なかったことにしよう。

 そっと視線を戻し、本題へ入ろうとシャルロットを呼んだ。


「そういえばリュシアンさん、あのふたりに会いませんでしたか? (くれない)戦姫(せんき)さんと、二物(にぶつ)神者(しんじゃ)さん。ムスティア大森林での護衛依頼に、受注情報があったんですけど」


「おまえ、知ってたのか!?」


「え? だって教えてあげようと思ったら、後で聞くって言うから」


「そういうことか……」


 人の話はきちんと聞きましょう。


「あぁ、もちろん会ったよ。この後、牡鹿亭で落ち合う約束になってる」


「え! いいなぁ。私も会いたいです」


「明日にでも紹介してやるよ。それより、おまえに頼みたいことがあるんだ」


「何ですか? エッチなお願いとお金の話以外なら、なんでも言ってください。あ、リュシアンさんだから、エッチなお願いも軽いものだったら頑張ってみますけど……」


 頬に手を当て、腰をくねらせている。


「いや。それはいい」


「照れなくてもいいじゃないですかぁ。私とリュシアンさんの仲ですよ?」


「どんな仲だ? ただの二流冒険者と、ギルドの案内係だろうが」


「そんな……ひどい……」


 面倒になってきたので流すことにした。

 追加の証拠をかき集めてもらい、別れ際にシャルロットを呼び止める。


「そうそう。過剰な情報漏洩は気を付けろよ。特に、素性もわからない奴には簡単に喋るな」


「はい。すみませんでした」


 申し訳なさそうに肩をすぼめるシャルロット。その頬を軽くつねってやった。


「これはバツだ。反省しろ」


 そうして、セリーヌと共に次の場所へ向かう。


「ここは……」


「あぁ。ここが目的地ってわけだ」


 不思議そうにその建物を見上げるセリーヌ。それもそのはず。なにしろここは、襲撃された天使の揺り籠亭だ。既に封鎖は解かれ、朝のような物々しい雰囲気は消えている。


「どういうことですか?」


「悪い。そこの屋台で飲み物でも買って、少し待っててくれないか?」


 紙幣数枚を渡し、天使の揺り籠亭へ向かう。


「こんばんは」


 襲撃を受けたのは、セリーヌの泊まっていた一室のみ。

 四十過ぎの夫婦が経営する安宿だが、手入れの行き届いた小綺麗な建物だ。


「いらっしゃいませ。あいにく改装中で、宿泊はお断り……あれ、リュシアン君?」


 奥から、店主のジャコブさんが顔を覗かせた。


「騒ぎに巻き込まれたと聞いて、様子を伺いに。大変でしたね」


「うん、驚いたよ。夜中に突然の爆発騒ぎでね。妻と飛び起きたら、なんとウチの二階だもの」


 苦笑するジャコブさん。

 それを聞きつけたのか、妻のバルバラさんも姿を現した。


「まぁ、驚いたでしょうね。まさか部屋を壊されるなんて。“いつも通り”なら、精々窓を破る程度でしょうから」


「え?」


 ジャコブさんの顔が強張るのを見逃さない。


「仲間が、妙な話を聞いた。この宿が襲撃されるのは初めてじゃない。まぁ、冒険者が多く泊まる宿なんて多少の騒動は付き物ですけどね」


 ナルシスの情報だ。

 そして、二階の中央に泊まっていたセリーヌが、襲撃の前日、なぜか一番端の部屋へ移された。


「ふたりとも、これを見てくれ」


 俺たちを隔てるカウンターへ、書類を叩き付ける。

 乾いた音が、宿の空気を切り裂いた。


「ここ最近、ムスティア大森林絡みの依頼を請け負った冒険者の名簿だ。こっちは衛兵が保管していた、この宿の宿泊名簿の写し」


 指先で紙面をなぞり、ゆっくりと視線を上げる。


「照らし合わせると、名前の重なる連中が何人もいる。そしてそいつらは、例外なく行方不明だ」


 沈黙。

 ジャコブさんの喉が、小さく鳴った。


「偶然だろ?」


 絞り出すような声。

 その言葉が、どれほど頼りないかは、本人が一番理解しているはずだ。


「偶然、ねぇ」


 短く笑う。

 否定もしない。ただ、そのまま視線をバルバラさんへ移した。


「賊のブノワに吐かせたよ。贄の確保、名簿、部屋替えの指示……全部だ」


 腰から短剣を引き抜き、カウンターへ突き立てる。

 木材を貫く鈍音に、バルバラさんが息を呑んだ。


「賊は全員始末した。だから安心しろ。今さら、誰かに口を塞がれる心配はない」


 逃げ道を、ひとつずつ潰していく。


「ここで冒険者を泊める。目星を付ける。賊に流す。失敗すれば、事故か喧嘩に見せかけて処理する。手慣れすぎてるんだよ」


 バルバラさんを正面から見据え、ゆっくりと笑みを作った。


「セリーヌを狙ったのは宝石も目当てだったんだろ? 革袋と首飾り、そっくり返してもらうぜ」


「言いがかりも大概にしてちょうだい!  いい加減、怒るわよ!」


 声を荒げるが、足は一歩も前に出ない。


「怒ってるのは、そっちだろ」


 カウンターを回り込む。

 距離が詰まるたび、二人の呼吸が乱れてゆく。


「顔見知りに刃を向ける趣味はねぇ。だから、衛兵に突き出すだけで済ませてやるつもりだった」


 一瞬、間を置く。


「ただし……」


 短剣の切っ先が、バルバラさんの喉元へ触れた。


「ここで嘘を吐いたら、その気遣いも消える」


 声を荒げる必要はない。

 静かに、淡々と告げるだけでいい。


「衛兵たちじゃここまで調べないだろうな。でも俺は、見過ごすなんてできねぇんだ。賊の死体を転がして、金銭トラブルで殺し合い。そう書類を整えれば、話は早い」


 震える瞳を、逃がさない。


「どうする。全部吐くか」


 刃が、わずかに沈む。


「それとも」


 笑みを深くする。


「ここで、終わるか」


 軽く脅すつもりだった。

 だがもう、自分の中で引き返せる線は越えている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ