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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.03 ムスティア大森林・洞窟編

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12 竜の影、剣の因果


 シルヴィさんの軽蔑するような眼差しが、胸に刺さった。


「勘弁してくれ……って、そうじゃねぇ。こんな姿ですけど、助けた仲間です」


「こんな姿? きゃああっ!」


 その一言で、ようやく現状に気付いたらしい。

 加護の腕輪と下着だけの姿。それを惜しげもなく晒し、俺と口論していたのだ。


 恥ずかしさのあまり、セリーヌは膝を抱えてしゃがみ込んでしまった。

 先ほどまでの鋭い剣幕は影を潜め、顔を赤らめた涙目が露わになる。その落差が、否応なく目を引く。


 しかも、膝を抱えた姿勢にもかかわらず、太ももからこぼれる横乳。

 視線を逸らそうとしても、意識が引き寄せられてしまう。


「リュシー、乙女のあられもない姿を見過ぎよ。これを持って来て正解だったわね」


 シルヴィさんは斧槍(ハルバード)を背中へ固定し、抱えていた服をセリーヌに差し出す。純白のロングコートと紺の法衣、そしてブーツだ。

 そう言うあなたは、普段から晒しすぎだと思う。


「こんなものが籠に入っていたから不思議だったけど、何があったわけ?」


「情けない話ですけど、賊に捕まった俺を逃がすために、彼女が裸になるって条件を突き付けられて」


「まったく……腕が鈍ったんじゃないの? そんなんで、あの赤竜(せきりゅう)に勝てるわけ?」


 小言を並べながら、腰へ下げた革製の水袋を手に取る。中身が酒なのは、言われなくてもわかる。


「赤竜? 何があったのですか?」


 法衣を身に付け、背中の革紐を結びながらセリーヌが顔を上げた。

 眼福の時間は、完全に終わった。俺もそれにつられ、上着を羽織る。


「洞窟で戦っている最中に、突然出てきたのよ。しかも、あの大きさ。普通じゃないわね」


 シルヴィさんの視線の先。

 優美な姿で空を駆ける竜が、大森林の上空を旋回していた。何かを探すような動きだ。


 あいつを倒すには、セリーヌの竜臨活性(ドラグーン・フォース)に頼るしかない。

 その前に、余計な目を遠ざける必要がある。


「そういえば、レオンはどうしたんですか?」


「向こうよ。金髪の剣士君を手当てしながら、賊の残党を見張ってる。逃げ道を潰す役回りね」


 その言い方だけで、役割が見える。

 派手さはないが、退路を断つ役を任せるなら、これ以上ない。


「申し訳ないんですけど、レオンを呼んできてもらえませんか? 魔法なら、竜にも届くはずですから」


「あら、そうなっちゃう? どうせあたしは役立たずか……悔しい。前線に立ちたいのに」


 拳を握って地団駄を踏むが、あれを相手にどう戦うつもりなのか。


「シルヴィさんには、別件をお願いします。商人の姿をした、ブノワって賊がいますよね」


 セリーヌに聞かれないよう、声を落として耳打ちする。


「わかったわ。そっちは任せて。レオンを呼んでくるから、ここで待ってなさい」


 草木をかき分け、慌ただしく戻ってゆく背中を見送った。


「セリーヌ、行くぞ」


「え? ここで待たれるのでは?」


「うまく追い払っただけだ。走るぞ」


 手を取って駆け出す。生い茂る草木が視界を遮るが、足は止めない。追いつかれる前に、決着をつける必要がある。


「あの竜には、俺の力と剣が関係してるみたいなんだ。剣から赤い光が立ち昇って、突然あんな姿に」


「赤い光? その剣ですか?」


 走りながらさやから刃を抜き、示す。


「お待ちください」


 不意に立ち止まり、剣を覗き込んできた。


「どうした?」


「この剣をどこで? 恐らく、竜の骨を削り出して作られた竜骨剣(りゅうこつけん)です」


「竜の骨?」


 思わず声が上ずる。


「竜骨の強度を活かして、武器や防具が作られていた時代もあったらしいな。でも、希少性と加工の難しさ、おまけに竜が姿を消したこともあって、今では幻の素材って言われてるんだぜ。そんなものが、どうしてあの工房に……」


「ですが、負の力を感じます。強い未練と恨みを抱えたまま命を落とした竜。その残滓が、リュシアンさんの力に反応したのでしょう」


「つまり、竜の呪いみたいなものか? 名品どころか、魔剣だな……」


 竜骨魔剣シャドラス・ベイン。

 その名が、自然と浮かんだ。


「間違いありません。赤い光の正体は竜の残留思念。それが魔力を得て、仮初めの身体を形作ったのです」


「じゃあ、この剣を壊せば消えるんじゃないのか?」


「いえ。力は既に剣を離れております。竜を討ち、魔力体を破壊するしかありません」


 竜の残留思念。ラグが出て来ないことと、無関係とは思えなかった。

 しかも、あれを解き放った原因が俺にあるのなら、なおさらだ。


「戦うしかねぇか。悪いけど、力を貸してくれ」


「承知しました。お任せください」


「そうだ、これを渡しておくよ」


 左手に握ったままだった魔導杖まどうじょうを差し出す。


「あのインチキ導師が使ってた物だ。気は進まないだろうけど、背に腹は代えられない」


「有り難く使わせて頂きます」


「じゃあ、竜退治と行こうぜ」


 恐る恐る杖を受け取るセリーヌへ、努めて明るく声を掛けた。


※ ※ ※


「とは言ったものの、どうするか……」


 草木をかき分け、赤竜の真下へ。

 見上げた腹部は遠い。魔法の射程も十メートルが限度だ。届く距離じゃない。


 羽ばたきの風圧で木々は折れ、自然と開けた草原が形作られていた。時間を稼ぐには悪くない。

 きっとレオンでも、こういう場所を選ぶだろう。


「相手の注意を引く魔法を使います。その間、少しだけ時間を稼いで頂けますか」


「少しだけ? 具体的に頼む」


「詠唱が終わるまでです。五分ほど」


「わかった。任せろ」


 緊張を飲み込み、スリング・ショットを手に取る。

 足止めと攪乱。考え方は、あの剣士と同じだ。


 隣に立つセリーヌは、魔導杖を水平に構えた。


「リュシアンさん、準備はよろしいですか?」


「いつでも来い」


光竜召印(リミテ・アンヴィテ)!」


 セリーヌの足下に光の魔法陣が展開し、赤竜がこちらを向いた。

 ただならぬ緊張に、嫌な汗が背を伝う。


「さっさと来やがれ……」


 急降下してくる赤竜。激しい風圧を受けながらも、踏みとどまり、耐える。

 竜臨活性(ドラグーン・フォース)と呼ばれる力も切れた今、風圧だけでも厳しい。


 大木を幾本も薙ぎ倒した赤竜は、翼をたたんで前方へ着地した。

 その迫力に息を呑む。それでも退かない。


 背後では、セリーヌの詠唱が続いている。

 あとは、信じて時間を稼ぐだけだ。


「いくぞ」


 スリング・ショットに仕掛けた閃光玉を、赤竜の顔へ放つ。

 だが、相手は頭を持ち上げ、首を捻ってかわそうとする。


「甘い」


 追撃の小石が閃光玉を射貫き、眼前で炸裂した。

 まばゆい光に、赤竜が身をよじる。


 剣を抜き、距離を詰める。

 その瞬間、口内に揺らぐ炎が見えた。


吐息ブレスだ!」


 横凪ぎの熱線。間一髪でかわす。

 背後で炎の壁が吹き上がり、激しい熱風が叩きつけてきた。同時に、セリーヌのものらしき悲鳴が上がる。


「セリーヌ!」


 返事はない。炎に遮られ、姿も見えない。


「くそっ!」


 目の前で、赤竜が激しく首を振っている。

 腰を浮かせ、大地に踏みしめた四本の足が、地面に深い爪痕を刻む。


 怖くないわけがない。

 それでも、ここで踏みとどまる。


 赤竜は徐々に視力を取り戻しつつある。は虫類のような縦長の瞳孔が、はっきりと俺を捉えた。


「やってやるよ。かかって来い」


 剣を構え、睨み返す。

 どう戦うかは見えていない。ただ、力の差だけははっきりしていた。


 フェリクスさんなら、いつもの飄々とした調子で片付けてしまうだろう。ランクLの力は本物だ。

 そこまで考えた時、兄の言葉が脳裏をよぎった。


『苦しい時ほど笑うんだ。相手に、まだ奥の手があるという余裕を見せるのさ。敵がひるめば、こっちのものだろ?』


 優しい笑みが思い返される。だが、その策が竜に通じるとは思えない。


『同時に、自分の状況を客観的に捉えるといいよ。その時にできる最善を尽くす。これは基礎だけれどね』


 俺の手には、竜骨魔剣シャドラス・ベイン。

 そして、スリング・ショットと、いくつかの魔法石。


 これがレオンなら、どう戦うだろうか。

 優劣を競うつもりはない。それでも、否応なく意識してしまう。


 退かない理由は、もう十分だった。

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― 新着の感想 ―
すいません。ここで断念。 タグの主人公最強は外した方が良いと思います。 この先の話もちょっと目を通しましたが、 同じようにピンチになって、色々あって解決するんでしょう。
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