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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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51 凶王の条件、六凶星の真実


「フェリクスさんとヴァレリーさんが結託して、終末の担い手に寝返ったんですか」


 苦しげに言葉を押し出すリュシアンを見て、ヴァレリーは小さく笑みを零した。


「私は最初からこちら側だ。六凶星(りくきょうせい)のひとり、水凶星(すいきょうせい)のヴァレリー。立ち位置を変えたつもりはない」


「は?」


「素性を隠し、生前のアンセルムに取り入ったのは事実だ。アンドル大陸に溶け込み、終末の担い手を強化する戦士を選別していた。フェリクスは、その過程で見つけた最高級の原石のひとつだ」


 理解が追いつかない。

 思考が空転し、現実だけが先へ進む。


「待ってくれ……俺にはもう、何が本当なのかわからねぇ。王の左手も、全員がそっち側ってことなのか」


 こめかみを押さえる。鈍い痛みが脳裏を締め付ける。

 拳聖マルクと賢聖レリア。ふたりがここにいない。

 その事実が疑念をさらに膨らませていた。


 それに笑みで返したのはフェリクスだ。


「他の連中は何も知らない。おまえさんが心配するようなことは起きてない。マルクなら向こうで特殊な毒を受けて倒れてる。レリアが必死に介抱してるところだ」


「特殊な毒?」


風凶星(ふうきょうせい)セヴランが調合した毒だ。癒やしの魔法でも治せない。数日かけて、じわじわ体力を削るらしい」


「仲間の命が脅かされてるのに、ずいぶん余裕なんですね」


 マルクとレリアの潔白が示された安堵。

 それでも、フェリクスの温度の低さは受け入れ難かった。


 さらに重くのしかかるのは、ヴァレリーに欺かれていた事実。


 彼女の姿に、フェリクスの言葉が重なる。

 癒やしの魔法。


「なんで気付かなかったんだ……」


 そこから、記憶が鎖のように連なってゆく。


「ヴァレリーさん。王都の防衛戦で再会した時のこと、覚えてますか。寺院の司祭を護衛していましたよね。俺は治療を受けた。でも、“彼女”と言ったあなたの説明に騙されました」


 奥歯を噛み締める。


「もっと早く気付いていれば。あなたと、漆黒の月牙ラファエルの繋がりにも気付けたのに」


 後悔は遅い。

 それは理解していた。


外套(がいとう)を被っていましたけど、連れていたのはミシェルですね。あいつは顔も声も中性的だった。小声で囁かれた程度じゃ気付けない。あいつはその後、ラファエルのパーティに加わった」


 ヴァレリーは静かに頷く。

 見破られる未来も織り込み済みと言わんばかりの落ち着きだ。


雷凶星(らいきょうせい)ラファエル。身勝手な振る舞いには辟易していたが、我々には必要不可欠な存在だった。彼もそれを理解し、逆手に取っていた。ミシェルには監視を命じつつ、パーティ補強も兼ねさせた」


「おまえさん、そこまで話すのか」


 フェリクスが意外そうに問う。


「彼らを見ていたら、不憫に思えてしまったものですから。公平さを保つためです」


 そのやり取りに、リュシアンはかすかな違和感を覚える。

 ヴァレリーが敬語を使う場面を、初めて見た気がしていた。


 関係性が変わっている。


 そう結論づけるより早く、ヴァレリーの視線が戻る。


土凶星(どきょうせい)ユーグも捨て置けなかった。クレアモントでは本気で討つつもりだった。君の信頼を得る意図もあったが、元々反りが合わなかったのも事実だ」


「六凶星は終末の担い手の幹部って位置づけか……でも一枚岩じゃない。三人が別行動してるのが証拠だ」


「ラファエルには盛大に泥を被ってもらったがな」


 フェリクスが笑う。


「あいつが、おまえさんに執着するとは思わなかった。退屈な日常に落ちてきた珍しい玩具だったんだろうな。アントワンもな。俺たちのパーティを見捨てるのかとしつこく絡んできて、何度もヴァレリーの屋敷に押しかけてきてな」


 過去を懐かしむような口ぶりで、顎髭を撫でる。


「ちなみに、屋敷の火災は俺とヴァレリーの自作自演だ。アントワンに罪を着せ、俺たちは姿を消した。ラファエルは何も知らないまま、おまえさんと戦う口実を得るためにアントワンを利用したんだろうな」


「あいつも知らなかったんですか」


「あぁ。俺たちが焼死したと思い込んだまま死んだ。ラファエルのパーティもクレアモントで全滅したらしいな。惜しい人材だった」


「どうして、表舞台から消えたの」


 不意に挟まれたシルヴィの声には、抑えきれない憎悪が滲む。


「これだよ、これ」


 いつもの飄々とした様子のフェリクスが左手を振る。


「王都の防衛戦で左手足を失った。これからの人生に一切の希望がなくなった。俺が王国嫌いなのは知ってるよな。魔力至上主義の腐った社会だ。両親を失う切っ掛けになった連中のために、なんで俺が犠牲にならなきゃならない」


「両親を?」


 いぶかしむリュシアンの声に、フェリクスは目を見開いた。


「そういや話してなかったか。まあいい。魔力優先の世界も、偉ぶる富裕層も全部敵だ」


 怒りは静かだった。

 底が見えない。


「屋敷に住んで数日後だ。ヴァレリーが言ったんだ。失われた手足を戻す方法がある、ってな。体を取り戻す交換条件で、終末の担い手に加わった。最高だろ」


 ヴァレリーを抱き寄せる。


 漆黒の鎧が触れ合い、澄んだ金属音が闇へ広がった。


「本拠地で闇凶星(あんきょうせい)マルセルに会った。適合する手足の選定。再生手術。肉体調整。一年かかった。ようやく、おまえらの前に立てたってわけだ」


「だったら……」


 リュシアンがたまらず声を上げる。


「体を取り戻せたなら、もういいじゃありませんか。終末の担い手に加担する理由なんてない」


「言っただろ」


 静かな声。

 その目が、凍る。


「この腐った世界を壊す」


 ゆっくり、告げる。


「俺にひれ伏す者だけを生かし、選び直す。再生させる」


 黒い笑み。


「俺こそが、この世界の真王だ」


「冗談ですよね」


 乾いた問い。

 フェリクスは答えない。


 腰に差した漆黒の長剣に触れる。


「見えるか。黒竜剣テネドレイク。俺は黒竜王エルフォンドの加護を受けた」


 背後の影が増える。


「おまえさんが神竜の力で戦うなら」


 空気が沈む。


「俺は黒竜の力で受けて立つ」


 大鷲型魔獣が次々と降り立つ。


「祈る相手を間違えるな」


 冷たい視線が、全員をなぞる。


「世界はもう、救われない」


 静かな断罪。


「更新されるだけだ」


 セリーヌが息を呑む。


 魔獣の背から、漆黒の鎧の戦士たちが降り立つ。


 それは軍勢だった。

 凶王(きょうおう)の、軍勢だった。

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