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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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48 碧光、終焉を貫く


「なんだ、あれは……」


 老魔導師マルセルは、リュシアンとセリーヌが手にした武器から目を離せずにいた。

 コームとジャメル、ふたりの老剣士の猛攻を捌き続けながらも、意識の半分は別の場所へ引き裂かれている。


 ふたつの、異常な魔力。


 それらが並々ならぬ力を持っているのはすぐにわかった。

 問題はその“発生源”だ。


 ブリュス・キュリテール。

 その巨体の奥底から、異物のように現れた力。


「まさか……ユーグの奴が」


 舌打ちとともに、蝶の仮面を付けた弟子の顔が脳裏を過った。

 勝ち誇ったように口端を上げる、あの笑み。


 魔獣を造り、操る才覚は確かだ。

 成長速度も異常だった。だからこそ、気に入らなかった。


『碧色の閃光の異名を持つ冒険者に邪魔をされてしまいました。ですが、興味深い代物を手に入れましたよ。私の生み出した魔獣ベルヴィッチアも、大幅な強化を確認しました』


『だが、その自慢の魔獣も敗れたのだろう。地底湖に沈んだと嘆いていたではないか』


 いい気味だ。

 マルセルは内心で嗤っていた。

 挫折は成長の糧になる。

 まして傲慢な者ほど、叩いておくべきだ。


 それはユーグだけではない。

 ラファエルも、同じだ。


 そんな師の心を見透かしたように、ユーグは笑みを深めた。


『魔獣は改良が肝要。ですが……興味深い品の“回収”には成功しています』


『回収だと? どうやって?』


『んふっ。魚人のしもべがおりますので。この後はブリュス・キュリテールと接触し、あれを用いた次の段階を考えています。近々、師にも成果をお披露目しましょう』


 だが、ユーグは討たれた。

 企みの全貌は、闇に沈んだまま。


「とはいえ……」


 戦況を見渡し、マルセルは確信する。

 リュシアンの剣。セリーヌの杖。

 あれこそが、ユーグの言っていた“代物”だ。


 ならば、潮時か。


闇捕創造(ラクレア・キャブル)


 杖の先から、巨大な蜘蛛の巣を思わせる魔力の糸が展開する。

 宙に浮かぶ六角の捕縛陣。

 迫っていた老剣士ふたりは、自ら罠へ飛び込む形となった。


 全身を絡め取られ、もがく姿を見下ろし、マルセルは歪に笑う。


「久方ぶりに、良い運動をさせてもらったよ。すまないが……そろそろ時間だ」


 言葉の途中で、足下に赤い魔法陣が広がった。


「剣神、引くぞ」


 魔法陣に飲み込まれ、マルセルの姿が忽然と消える。

 捕縛魔法は霧散し、コームとジャメルは地面へ投げ出された。


 マルセルが消えたことで、周囲の亡者兵も溶けるように消失してゆく。


 ジャメルは即座に立ち上がり、膝をつくコームに手を伸ばした。


「立てるか?」


「すまん……だが、なぜ御主までここへ?」


「継承戦には敗れたが、俺もセリーヌ様の護衛のひとりだからな。ロランとオラースは、もういない。おまえにばっかり負担を掛けさせるわけにいかないだろうが」


「かたじけない」


 戦場を見渡したコームは、異変に気づく。

 剣神アンセルムの姿も、消えていた。


 その化け物を抑えていたアクセルたちも、限界だった。

 倒れ伏す仲間。動かぬ者。

 失われた命の重さが、言葉なく突きつけられる。


 アクセルの側にユリスが駆け寄り、竜術による治療が始まっていた。


「また、若い命が……」


 やりきれぬ思いに頭を振った、その時。

 ブリュス・キュリテールの悲鳴が響いた。


 顔を上げると、魔獣は左前足を失い、崩れ落ちている。


「小僧! ここで決めろ!」


 倒れ込む巨体を避け、地の民クロヴィスが吠えた。

 リュシアンは、すでに神竜剣を構えている。


 神竜と炎竜。

 ふたつの力が絡み合い、神器は確かに手の中にあった。


 体が、燃えるように熱い。

 未体験の力の奔流が、全身を破裂させそうな勢いで滾っていた。


炎纏(えんてん)竜薙斬(りゅうていざん)!」


 横薙ぎの一撃。

 神竜剣の刃は黒豹の頬を正確に捉える。

 まるでチーズを切るような滑らかさで、頭部を刈り取った。


 顎だけを残し、地面を転がる頭。


 刃を引いた瞬間、満月の夜が脳裏をよぎった。

 神竜剣を賭け、セリーヌと刃を交えた日。


 あの日もこんな、満月の夜だった。


 限界を超えた戦いの果てに、神竜剣ディヴァインは覚醒した。

 セリーヌも驚くほどの底力を発揮したことは記憶に新しい。


 血流のように、剣へ力が流れ込む奇妙な感覚。

 あの光景が、再び繰り返されようとしていた。


「応えろ。神竜剣ディヴァイン!」


 碧色に輝く刃へ、銀色の光が重なり、剣が呼応する。


 この機を逃すまいと、魔力の練り込みを終えたセリーヌも詠唱へ入った。


 我が呼び声に応えよ、神竜。

 天を裂き、地を焼き、闇を祓うは光の咆哮。

 千の闇を滅ぼし、万の魂を導かん。

 これぞ、終焉を告げる神の刃。

 今、気高き翼を広げ、滅びを照らせ。


 神竜の力を降臨させたセリーヌ。

 左右それぞれの手に、光り輝く魔力球が具現化する。

 その動きに合わせ、リュシアンも呼吸を整えた。


 中央の獅子が吐き出した魔力球を、クロヴィスが打ち上げ、弾き返す。

 竜臨活性(ドラグーン・フォース)を纏い、神器の斧だからこそ可能な一撃だ。


「セリーヌ、撃て!」


 リュシアンの声に導かれ、セリーヌは両手をブリュス・キュリテールに突き出した。

 左右の魔力球が融合し、ひときわ眩い輝きとなった。


「究極光竜術、光竜滅連翔ウルティマ・ドラコニス!」


 両腕を広げたほどもある、巨大な魔力球が飛んだ。

 それを追い、リュシアンが踏み込んだ。


覇竜(はりゅう)天牙閃(てんがせん)!」


 突き出された剣先から、竜を象った銀光が解き放たれる。

 馬をも凌ぐ発光体が大地を抉り、雄々しく空を裂いた。


 セリーヌの竜術が、獅子と虎の頭部を飲み込んだ。

 続くリュシアンの一閃が、魔獣の胸部を貫き、大穴を穿つ。


 ふたつの光が消えた後。

 そこに残っていたのは、ブリュス・キュリテールだったものの下半身だけだった。


 力が抜け、セリーヌの膝がわずかに震えた。

 終わったのだ、とようやく理解した瞬間、胸の奥に溜め込んでいた息が、一気に零れ落ちる。


「勝った……のでしょうか?」


 実感の伴わぬまま、セリーヌが呟く。

 力は尽き、夢から覚めるように髪色が戻っていった。


「勝ったんだ! やってやったぞ!」


 リュシアンの歓喜が、戦場へ響き渡る。


 理屈も、状況も、もはやどうでもよかった。

 この瞬間だけを、確かめたかった。


 ふたりはどちらともなく駆け寄り、強く抱き合う。

 ここが戦場であることすら、意識の外へ追いやられていた。


 感極まったセリーヌは、嗚咽を堪えきれず声を上げた。

 リュシアンは言葉を探すことをやめ、ただ腕に力を込める。

 離せば、すべてが夢に戻ってしまいそうだったから。

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