表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

352/357

46 決壊の兆し


「なんなんだ、こいつらは。俺たちの相手は災厄の魔獣のはずだろ。それとも、俺の目がおかしくなったのか?」


 戦斧(せんぷ)を肩に担いだ地の民のクロヴィスは、首を回して身体をほぐした。

 周囲には、すでに三人の隊長が倒れている。この場の戦力差は明白だった。


 六十を超えてなお、狩りと稽古で鍛え抜いてきた鋼の肉体は健在だ。

 地竜の加護を受けた 竜臨活性(ドラグーン・フォース)、そして竜術。そのすべてが、王国軍の隊長格を凌駕している。


「災厄の魔獣の首を狙っているのは、俺たちだけじゃないってことですよ」


 リュシアンの掌底が、軍団長エヴァリストのこめかみを捉えた。

 ただの掌底ではない。炎纏(えんてん)竜牙撃(りゅうがげき)を乗せた強烈な一撃。

 加減を誤れば、首の骨ごと砕いていたはずだ。


 王国軍最強と謳われたエヴァリストは、脳を揺さぶられ、うつ伏せに崩れ落ちた。


「そういや、セリーヌとの婚姻を争ってたんだったな。俺が災厄の魔獣を屠れば、婚姻の儀は成立ってことでいいか?」


「勘弁してくださいよ。婚姻の儀は中止のままですし、ユリスが勝手に言ってるだけです。この戦いだって、長たちの制止を聞かずに飛び出してきたじゃないですか」


 リュシアンは苦笑し、戦斧を構え直すクロヴィスに並んだ。


「なんだ、小僧。()(びと)の力は不要だって言いたいのか」


「そうは言ってません。ここは、ひとりでも多くの力が欲しい局面です」


 王国軍に足止めされ、余計な時間を費やした。

 その事実が、リュシアンの内側で静かに燻っている。

 ブリュス・キュリテールに外見上の変化が見られないことだけが、せめてもの救いだった。


「ほんの冗談だ。ほら、セリーヌも来たぞ。決着の時だ」


 クロヴィスの視線は、すでに魔獣へ向いている。

 だがリュシアンの意識は、否応なく引き戻された。


 セリーヌが、無事だった。

 その事実に安堵し、再会の喜びが胸の奥で弾ける。

 一瞬、歓喜の雄叫びを上げそうになるほどの高揚。


 喜んでいる場合じゃない。


 浮ついた心を叩き落とすように、闇凶星マルセルの奇声が戦場を裂いた。


※ ※ ※


 時は、わずかに遡る。


 老剣士コームと老魔導師マルセル。

 熟練同士の戦いは、なおも続いていた。


「まったく、しつこい奴らだ」


 マルセルは顔を歪め、吐き捨てる。

 放った攻撃魔法は竜骨剣(りゅうこつけん)に斬り裂かれ、電撃も氷結も足止めにはならない。

 距離を取れば詰められ、間合いを誤れば斬られる。


 そこへジャメルが加わり、執念深い老剣士がふたりになった。

 致命的ではない。だが、他へ回す余力は確実に削られている。


「剣神はどうした」


 滑るように後退しながら、マルセルは戦場を見渡す。


 亡者兵(もうじゃへい)も黒装束も、ほぼ壊滅。

 セヴランの撤退を受け、残る黒装束たちにも逃走の兆しが見え始めていた。


 頼みの綱だった剣神アンセルムは、冒険者たちに囲まれ、包囲を抜けられずにいる。


 さすがに、力を使いすぎたか。


 傀儡である剣神の力は、マルセルの残存魔力量に依存している。

 亡者兵の召喚と攻撃魔法を重ねた代償は、確実に積み上がっていた。


「役立たずどもが……」


 鬱屈が爆発し、マルセルは声を張り上げる。


「もうやめだ! 魔獣を連れ帰ろうなどと考えたのが、そもそもの過ちだ!」


 怒りに任せ、左手がブリュス・キュリテールを指し示す。

 老魔導師の異変に、コームとジャメルの反応が一拍遅れた。


闇竜魔貫(ヴォロンテ・レイヨン)


 一筋の光線が放たれ、魔獣の背を貫く。

 胸を抜け、光は消えた。


 その一撃が、崩壊の引き金だった。


 傷口から血が噴き上がり、砕けた石片までもが押し出される。

 破片をいち早く見つけたのはセリーヌだった。


「あれは……レリア様が埋め込んだ……」


「レリアさんがどうしたって?」


 問い返す間もなく、クロヴィスを含めた三人は走り出していた。


 距離を詰めながら、リュシアンは悟る。

 セリーヌの体力も精神力も、限界が近い。


「レリア様の御力で、再生速度を抑えていたのです。その枷が……外れてしまったのだと思います」


「それはつまり……」


 答えを待たず、魔獣が吠えた。


 堰を切った水のように、禍々しい力が全身から溢れ出す。

 失われていた四肢が再生し、魔獣は再び大地に立ち上がった。


 左肩の虎は顎を残して消えていたが、再生は鼻先まで進んでいる。

 背の翼と尾の大蛇が再生するのも、時間の問題だ。


「俺の手で、もう一度叩き潰せるってわけだ」


 虚勢だと、リュシアン自身が一番わかっている。

 それでも、ここで怯むわけにはいかなかった。


「俺とクロヴィスさんで追い詰める。セリーヌは、次の一撃に全力を」


「はい。リュシアンさんを信じます」


 足を止め、セリーヌは背中を見送る。


 今は、お二方を信じる以外にありません。


 腰の革袋から大型の魔力石を取り出し、魔力の回復に集中する。

 次の一手のために。


「付いてこい、小僧」


「クロヴィスさんこそ」


 武器を構え、ふたりが斬りかかる。

 魔獣は苦しげにえずき、身体を震わせた。


 中心の獅子頭と、右肩に乗る黒豹頭が、一抱えもある大きな魔力石を吐き出す。

 魔力球を封じるために黒装束たちが飲み込ませたものだが、リュシアンたちが知る由はない。


 そこから先は、周囲の戦士たちが踏み込めないほどの激戦だった。


 吐き出される魔力球をかわし、振るわれる爪を避ける。

 巨体の突進をやり過ごし、戦況は目まぐるしく移ろう。


 加護の腕輪と結界帯革(セントゥリエ)による二重の魔力障壁(プロテクト)

 さらに神竜鎧(しんりゅうがい)を纏うことで、リュシアンの防御力は飛躍的に高まっていた。

 余程の一撃を受けない限り、致命傷にはならない。


 油断も慢心もない。

 斬撃を刻みながらも、決定打が見えなかった。


 炎竜セルジオンの力をもってしても、あと一押しが足りない。

 クロヴィスだけでなく、竜臨活性(ドラグーン・フォース)を纏った守り人全員の攻撃が揃えば、あるいは。


 あとひとつ、何かが足りない。

 その穴を埋める(すべ)を求め、リュシアンは戦いの中で足掻いていた。


 神竜ガルディアとの訓練が、完全な形で終わっていれば。

 だが、無い物ねだりをしても仕方がない。


「は?」


 激闘の最中、リュシアンの視線が、ある一点に縫い止められた。


 ここに、あるはずのないもの。

 あり得ない存在。


 混乱と同時に、確信が走る。


 これだ。


 最大の切り札が、そこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ