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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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44 遅れてきた切り札


 地面に両手をつき、セリーヌは身体を起こした。

 だが、眼前の光景をすぐには受け止めきれない。


 自分を突き飛ばすように抱え込み、魔法攻撃から守った存在。その正体は判然としなかった。

 ただひとつ確かなのは、命を救われたという事実だけ。


「そんな……」


 闇に溶け込む黒の法衣。

 そこに走る金の刺繍が、魔力灯の淡い光を反射している。

 助けてくれたのが魔導師の女性であることは、一目でわかった。


「うひひひ」


 耳の奥を掻き立てる、闇凶星(あんきょうせい)マルセルの笑い声。


「おのれ!」


 それを遮るように、老剣士コームが踏み込み、刃を振るう。


 だが、シルヴィたちの連撃すら退けてきた相手だ。

 熟練の剣をもってしても、その身を捉えきれない。


 しかし、その攻防すら、今のセリーヌには遠い出来事だった。


 胸が締め付けられ、息が浅くなる。

 視界が揺れ、指先に力が入らない。


「どうして……イリスさん!」


 縋るように四つん這いになり、彼女へ近付く。


 爆発魔法に抉られた左脇腹。

 深い傷口から血が溢れ、止まる気配がなかった。


「すぐに……回復を……」


 秘薬は尽きている。

 残された手段は治癒魔法だけだが、この深手では数十分を要する。

 その時間を、この戦場で稼げるのか。

 そもそも、体力がもつのか。


 思考が絶望へ傾きかけた、その瞬間。

 傷口に手を伸ばしたセリーヌの腕を、イリスが掴んだ。


「魔獣を……逃がさないで……」


「そんなことは、後回しです」


 叱るように言い切った声は、震えていた。


 マルティサン島で慕っていた老戦士、ロランが重なる。

 蝶の仮面の魔導師ユーグ。その魔法から彼女を庇い、命を落とした背中。

 あの戦いでは、オラースまでも失った。


「もう……目の前で誰かが死ぬのは……耐えられません……」


「あいつを倒すのは……悲願なんでしょ……」


 イリスの瞳は、燃え尽きる直前の火のように、なお強かった。


「あなたは……起死回生の切り札……天壊(てんかい)竜撃(りゅうげき)……私の、すべてを賭けるわ……」


 セリーヌは、言葉を失った。


「天壊の……竜撃?」


「賭けごと狂いの……戯言よ……早く……行って……」


 溢れた涙を、セリーヌは乱暴に拭った。


「想い……確かに受け取りました」


 転がっていた魔導杖(まどうじょう)を掴み上げる。


「申し訳ありませんが……杖を拝借します」


 背に固定し、ブリュス・キュリテールを運び出そうとする黒装束たちへ駆け出した。


『その娘を生け捕れ。魔獣に近付けるな』


 闇凶星マルセルの声が、戦場に響き渡る。

 本人は、コームの執拗な斬撃を避けるので精一杯だった。


 剣神アンセルムも、剣豪アクセルたちに足止めされている。

 五対一。剣神といえど、自由には動けない。


「使えん……」


 舌打ちと共に、マルセルの脳裏をよぎるのはラファエルの姿。


 雷凶星(らいきょうせい)の地位まで与えた駒。

 あれがもう少し利口であれば、状況は違っていたはずだ。

 剣神と雷凶星という二本柱。絶大な権力を振るえた未来。


 クレアモント研究所で、生き埋めになった結末が悔やまれる。

 苦労して生み出した貴重な成功例は、他の追随を許さぬ適合性と強さを見せた。


『貴様に使われてやるつもりはない』


 反抗的な態度は昔からだった。

 研究対象として重宝され、意見すら封じられていた存在。

 外の世界へ飛び出してからは、マルセルですら手に負えなかった。


亡者兵(もうじゃへい)はどうした」


 呼び掛けに応じ、周囲で戦っていた数名が、標的をセリーヌへ変えた。


「そうか。本命は、向こうだったな」


 コームは、老魔導師の視線の先に気付き、顔を歪める。


「ジュネイソンの街……本部か」


「回復拠点を潰さねば、話にならん。助祭どもがいるのは把握済みだ」


※ ※ ※


「まずい。北門が破られた!」


 警笛が鳴り響き、伝令が本部へ駆け込む。


 三百を超える亡者兵が押し寄せていた。

 加えて、逃走したはずの魔獣たちも別方向から迫っている。


 治療を終えた冒険者もいるが、戦力の大半はブリュス・キュリテールに向けられている。

 圧倒的に不利な状況だ。


「戦うしかないわね。中に入ってこられたら、どうしようもなくなっちゃう」


 治療を続けていたマリーは、覚悟を決めた目で告げる。

 聖女だからと、安全な場所にいるわけにはいかない。


 セシルが剣を取り、即座に指示を飛ばした。


「本部は死守する。マリーとデリアは治療継続。クリスタ、ソーニャ、準備して」


「大丈夫よ。任せてください」


「でもでも、相手は凄い数だって言うじゃないですか~。ちょっと怖いかも」


 クリスタは槍を、ソーニャは弓を取る。


「ここを落とされるわけにいかないでしょ。ソーニャも根性みせなさい。あぁ、デリアはここにいて。絶対に外に出ちゃだめよ」


 セシルが窓の外に目を向けると、傭兵団が中央広場へ進んでいた。


「碧色の護衛って話だったが、本人がいねぇ。だが、ドミニクさんに言われた以上、報酬分は働く」


 傭兵団、闇夜の銀狼を仕切る団長のひとり、双剣使いサロモンが声を張り上げる。

 剣士カミーユ、槍使いセドリックが並び立つ。

 ドミニクの呼び掛けに従い、リュシアンの護衛として五十名ほどが参加していた。


「北門で、白馬に乗った女が奮闘してるらしい」


 カミーユのつぶやきに、セドリックが興味深そうな目を向ける。


「白馬に乗った女? じゃじゃ馬娘か?」


「じゃじゃ馬娘の方が可愛いかもな。神眼(しんがん)狩人(かりうど)だとさ。碧色の仲間だ」


「神眼の狩人? 双剣使いの女だな!」


 サロモンは対抗意識を燃やし、拳をきつく握りしめた。


※ ※ ※


光竜煌翼ヴォロンテ・ブリエール!」


 竜臨活性(ドラグーン・フォース)を解き放ったセリーヌの広範囲爆撃が、亡者兵を一掃する。


 だが、遅かった。


 大鷲たちは既に高度を取り、ブリュス・キュリテールを吊り上げている。

 攻撃魔法の射程外だ。


「空を……飛ぶ手段……」


 脳裏に浮かぶ、竜巻の魔法。

 身体を舞い上げ、距離を詰めて追撃する。一か八かの賭けだ。


「賭けならば、イリスさんが付いています」


 詠唱に入ろうとした、その瞬間。


 満月を覆い、巨大な影が横切った。


 置き土産のように落ちる、ひとつの球体。


「風の……結界?」


 セリーヌがつぶやくと、球体の内部で炎が揺らめいた。


炎纏(えんてん)竜爪閃(りゅうそうせん)!』


 夜を裂く声。


 炎を纏った斬撃が、大鷲たちをまとめて斬り裂いた。


 遅れてきた切り札。

 待ち望まれていた名が、戦場に現れる。


「リュシアン……さん?」


 セリーヌは呆気に取られてつぶやいた。

 ここにいるはずがない。間に合うはずのない人物。

 その名を、無意識に呼んでいる自分に気づく。


 炎の軌跡が、夜空を走る。

 遅れはしたが、まだ終わってはいない。


 彼の視線の先。

 空へ運ばれかけたブリュス・キュリテール。

 そのさらに奥。倒れ伏したまま動かない、イリスの姿。

 そして、こちらを見ているセリーヌと、視線が交わる。


 言葉はいらない。結果で示すだけだった。

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