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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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39 究極光竜術


 騒ぎに目を向けたセリーヌは、武装した集団に囲まれていることに気付いた。夜の闇に紛れ、ぎこちない動作で包囲を詰めてくる。


 それと合わせるように、一頭の大鷲型魔獣が高度を下げて近付いてきた。


「皆さん、ご苦労様でした。ここからは我々が引き継ぎますのでご退場ください。火凶星(かきょうせい)デニスの活躍で、剣神という最高戦力も獲得できました。と、あなた方に彼の名を出しても伝わりませんね。向こうに見える金色の大猿、あれが火凶星デニスです」


「あなたは……セヴランですね」


 大鷲の背に立つ黒装束を目に留めたセリーヌは、両手を広げて油断なく身構えた。


「これはこれは、守り人のお嬢さん。覚えておいて頂けたとは誠に光栄です。お初にお目に掛かる方々にもご挨拶を……私は六凶星(りくきょうせい)がひとり、風凶星(ふうきょうせい)のセヴランと申します」


 ゆったりとした仕草で、深々と頭を下げる。


「剣神を獲得した、などとぬかしていたな。返答次第では貴様から潰すぞ」


 胴着の乱れを正し、拳聖マルクが歩み出た。静かな口調ながらも、全身には言い知れぬほどの殺気が漲っている。それを支えようと、賢聖レリアも付き従うように側へ立った。


 並び立つ英雄たちの姿に、セヴランはたまらず含み笑いを漏らした。


「潰すとは穏やかではありませんね。ですが、あなた方であろうと及ばないでしょう」


 セヴランが手を打ち鳴らす。夜の闇や林の木々に紛れて、百名ほどの黒装束が現れた。

 加えて、武装集団もいる。剣神のように生気を感じない戦士たちが間近に迫っていた。


 武装集団の数はおよそ五百。この場に集う王国軍や冒険者にはわずかに及ばないが、勝利に傾いていた天秤を揺り戻すには充分だ。


「抵抗するというのであれば受けて立ちましょう。賢聖(けんせい)エクトルに続き、拳聖(けんせい)マルクと賢聖レリアまでも討ち取ったとなれば、私の立場にもより箔が付くというものです」


「ほう。貴様の仕業だったか」


 奥歯を噛みしめたマルクは、大鷲の上に立つセヴランを睨み続けている。


「エクトルの仇がわざわざ顔を出してくれるとはな。原型がなくなるほど叩き潰してやる」


「できもしないことを大声で吹聴しない方が良いですよ。拳聖の名に傷が付きますから」


 マルクとセブランが睨み合う側で、セリーヌが不安に駆られて周囲を見回していた。


「どこにこれだけの者たちが……」


 生気だけでなく、気配すら感じさせなかった。暗闇から突然に湧いて出てきたという表現が最も近いように思えた。


 そして、セブランの大鷲に別の一頭が並ぶ。


「うひひひひ……空から眺める戦いは滑稽極まりなかったよ。これは、僕の自慢の亡者兵(もうじゃへい)たちだ。狩られる側になった気分はどうだ?」


「どうしてあんたが……」


 もう一頭の大鷲の背に乗る老魔導師を見て、シルヴィが驚愕の声を上げた。


「クレアモントの研究所で死んだはずじゃ」


「あぁ、あれか」


 老魔導師マルセルは、他人事であるかのようにとぼけた声を上げた。


「あれは危ない所だった。背筋が寒くなったよ……側に立っていたグレゴワール君を盾に使い、ラファエル君の攻撃をやり過ごしたんだ。その隙に、転移魔法陣で逃れたわけだ」


「アラリック様ですね……闇の神官を勤められていた貴方様が、なぜこのような組織に加担されていらっしゃるのですか」


 シルヴィとマルセルの会話を遮り、セリーヌは問い詰めるように語気を強めた。


「はて。そんな名は知らんね。僕はマルセル。六凶星がひとり、闇凶星(あんきょうせい)マルセルだ」


「しらを切るのはおやめください。アラリック様のお姿は過去の記録で拝見しております。黒竜王エルフォンドが島を去られた際、共にゆかれたと伺っておりました」


「セリーヌ様、今はそれを追求している場合ではありません。事態は一刻を争います」


 老剣士のコームが話を遮った。

 周囲では既に戦いが始まり、王国軍や冒険者たちが黒装束と亡者兵を抑えてくれている。


 マルクとレリアも早々に仕掛けていた。

 レリアの攻撃魔法でセヴランが乗る大鷲を撃墜すると、マルクが一気に距離を詰めた。互いに、拳を使った格闘戦を繰り広げている。


 剣神は動きの鈍ったブリュス・キュリテールを追撃し、四肢を刈り取った所だった。


 ブリュス・キュリテールもここまでの戦いで傷を負っていたとはいえ、最強といって差し支えない魔獣だ。それが、剣神ひとりに息も絶え絶えの状態に追い込まれていた。


 数頭の大鷲型魔獣から鎖が垂らされているのが見えた。それを使って、ブリュス・キュリテールを縛ろうという魂胆なのだろう。


「そうはさせません」


 セリーヌは左手の指を鳴らすと、剣神を目掛けて走った。乱戦を繰り広げる戦士たちの間を掻い潜り、賢明に足を運ぶ。


 ほんの数メートルの距離が遠い。

 水の中で足掻いているように、剣神との距離は永遠に縮まらないのではないかと思えた。


 おまけに、上空を滑空する大鷲たちの動きも気になった。


 垂れ下がる鎖で災厄の魔獣を捕らえ、そのまま連れ去ろうとしているのではないか。

 そんな不安が頭をよぎる。


 ここまでの皆の奮闘を無駄にはできない。

 災厄の魔獣を仕留める機会は今しかないと、強迫観念にも似た思いに囚われていた。


「ほれ」


 いたずらに、マルセルの放った火球が襲う。


清流創造(ラクレア・オーサント)!」


 駆けるセリーヌを守ろうと、後方を走っていたイリスが水流弾(すいりゅうだん)で相殺した。


「セリーヌは走って。私が道を作る」


 イリスはマルセルの注意を引こうと、彼が乗る大鷲を狙って(いかづち)の魔力球を放った。魔力の格差があろうと、電撃で魔獣の動きを封じれば撃墜できる可能性は充分にある。


「こういう時の引きは、割と強いのよ」


 イリスという女性は、追い詰められるほど熱くなる性格だった。賭け事で借金がかさんだのもそれが原因だが、ここ一番の勝負強さを持っていることは自分でもわかっていた。

 法衣の袖をまくったイリスは、魔力球から逃げる大鷲へ雷を放ち続けた。


 イリスの援護を受けたセリーヌは、ようやく剣神と対峙できる位置まで迫っていた。


 その剣神も、セリーヌの接近に気付いている。ブリュス・キュリテールの左目から大剣を引き抜き、油断なく身構えた。


 正攻法で倒せる相手でないことはセリーヌにもよくわかっている。まして、ブリュス・キュリテールの体を易々と斬り裂く相手だ。セリーヌの体をふたつにするなど造作もない。


 そして、両目の光を失ったブリュス・キュリテールにとっても、このふたりが近くにいるのは気が気でない状況なのは明らかだ。


 この戦場において、自分の命を奪うことができる可能性が最も高い敵。それが対となってすぐ間近にいる。視界を奪われた恐怖も相まって、魔獣の緊張も極限まで高まっていた。


「ここで終わらせます」


 両手で魔力を練り込むセリーヌは、そのままの勢いで剣神へ飛び込んだ。

 そんな彼女を迎え撃とうと、剣神は構えた大剣を横薙ぎに振るう。


闇竜繰幻影ドゥーブル・ミラージュ


 セリーヌの手元で闇の竜術が顕現(けんげん)。彼女の体は黒い霧に包まれ、剣神の一閃は宙を薙ぐ。


 剣神は体勢を崩しながらも、対象の姿を探した。濁った虚ろな目が、視界の端に動くものを捉えた。それは、老剣士のコームだ。


 左指を鳴らしたセリーヌを合図として、コームは左方へ走り込んでいた。


 セリーヌが使った竜術は、対象者の影を使って移動する高位魔法だ。その効果を利用し、瞬時にコームの側まで移動していた。


 黒い霧で移動したセリーヌの眼前には、ブリュス・キュリテールの後頭部と、無防備になった剣神の背中が晒された。


 再び両手を広げたセリーヌは、残されたすべての力を絞り出そうと意識を込めた。


 左右の手に、凄まじい魔力が収束する。光り輝く力の奔流は、彼女の命を燃やして捻出されているのではないかと疑うほどだ。


「究極光竜術……」


 その気配に剣神が振り返るが、セリーヌの顕現速度がそれを上回る。


「詰めが甘いのぅ」


 横手から、闇凶星マルセルの声がした。


 降って湧いたように現れた老魔導師は、闇の魔力球をセリーヌの腹部へ見舞った。

 悲鳴を上げる間もなく、セリーヌは林の奥まで吹き飛ばされた。

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