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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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31 凍てつく策謀と暴虐の胎動


「何か、妙案がございますか」


 レリアの言葉を耳にしたセリーヌは、すがるように賢聖(けんせい)を見つめた。


「そんな勢いで来られると戸惑っちゃうけど……魔導師たちを集めたらどうかしら」


「魔導師、ですか?」


「そう。氷の魔法で洞窟の上に屋根を作って、滝の流れを遮れないかと思って」


 レリアは水平にした右手を目元まで持ち上げ、いたずらめいた笑みを浮かべる。


 その少し後方で、シルヴィは集結した冒険者たちへ視線を走らせていた。

 王国軍の動きに口を挟むことはできない。だが、混成部隊の中で冒険者がばらばらに動けば、戦線は簡単に瓦解する。


「各パーティ、固まって。前に出るのは、あたしの合図を待って」


 低く抑えた声だったが、冒険者たちは即座に反応した。

 指揮権の所在が曖昧でも、誰の判断が信頼に足るかは、すでに共有されている。


「後衛の回復役は一歩下がって。無理に前へ出ないで……あなたたちは弓使いの後ろ、そこ」


 短く、的確な指示が飛ぶ。

 シルヴィ自身も斧槍(ハルバード)を肩に担ぎ、常に全体を見渡していた。


 その様子を心強く思いながら、レリアは話を続ける。


「洞窟を丸裸にしてしまえば、こっちのものよ。煙幕玉を放り込むのはどうかしら。魔法をまとめて叩き込んでもいいわよね。爆発系の魔法で入口を壊して、生き埋めにする……なんて嫌がらせもできるけど」


「がっはっはっ。君は相変わらず、意地の悪い攻め方を思い付くものだな」


 拳聖(けんせい)マルクは腕を組み、滝の轟音を打ち負かす勢いで豪快に笑った。


「意地が悪い、って失礼ね……だったら、私以上に素晴らしい考えがあるってことよね?」


「いや、すまん。決してけなしたわけではなく、褒め言葉としてだな……」


 しどろもどろになるマルクを救おうと、剣豪アクセルがすかさず間に入った。


「まぁまぁ。ここはレリアさんの妙案に乗るしかありませんよ。俺、魔導師を集めてきますね。なんなら王国軍にも声を掛けて、魔導隊を連れてきますけど」


「王国軍を?」


 レリアが驚きの声を上げる。


「皆さんを待ってる間に、隊長たちと顔見知りになったんで。掃討戦で貸しも作ってありますから、力を貸してくれると思いますよ」


「あら。マルクより有能じゃない」


 皮肉たっぷりの視線を向けられ、拳聖は渋い顔で頭を掻いた。


「アクセル君、私も一緒に行こう」


 マルクは剣豪の肩当てに手を置き、逃げるようにその場を離れていく。


「拳聖が形無しですね。今の顔、カードにしたら賭博場でも人気が出そう」


 意地の悪い笑みを浮かべるイリスに、レリアもつられて口元を緩めた。


「それ、いいわね。マルクの弟子たちも来ているはずだけど、近くにいなくて良かったわよ」


 そのやり取りをよそに、シルヴィは冒険者たちへ向き直る。


「魔導師が前に出るわ。近接型は突っ込まず、迎撃に専念して。独断で動いたら、全体が崩れる」


 強い口調ではない。

 だが今この場で頼れるのは、彼女の判断だと誰もが理解していた。


 やがてアクセルとマルクの働きかけが実を結び、数十人規模の魔導師が滝の前に集結した。


 周囲には魔力灯の石が撒かれ、頼りないながらも周囲を把握するには十分な明るさが確保されている。


「おふたりは後ろで見ていてください。雑務は私たちが引き受けます」


 魔導師であるイリスの指示により、セリーヌとレリアは後方待機となった。

 ふたりの力を温存したい。その判断に異を唱える者はいない。


 魔法の有効範囲はせいぜい十メートル。

 近接戦闘に不向きな彼らが前線に立つのは危険だと誰もが理解していたが、他に策がない以上、この賭けに乗るしかなかった。


 戦線を確認し、シルヴィは小さく息を吐く。


 リュシアンはいない。

 だが、彼が戻るまで持ちこたえる役目なら、自分にも果たせる。


「全員、集中して。ここから先は、誰ひとり欠けても困る」


 冒険者たちは無言で頷き、武器を握り直した。


 魔導師が前線に立つと、王国軍の弓兵隊も位置を上げる。

 歩兵が運び込んだ投石機も設置され、準備は整った。


 拡声魔法が展開され、魔導隊長メルビンが小さく咳払いをする。


『これより凍結作戦に移るぜ。これだけの人数がいれば数分間は凍結を維持できる。洞窟が露出したら段取り通りだ。まず煙幕玉、敵さんがたまらず顔を出したところを矢で叩く。怯んだ隙に氷を解除し、滝に落とす。落下した魔獣は、騎兵隊(きへいたい)重装隊(じゅうそうたい)で一気に叩く算段だ』


 昂ぶりを抑えつつ、メルビンは右拳を左の掌に打ち付けた。


『魔導隊は落下後が本番だ。二手に分かれろ。一方は再び氷の屋根を展開し、騎兵と重装隊を支援。もう一方は土の魔法を顕現(けんげん)し、魔獣を串刺しにする』


 滝を睨むその目には、自信と野心の炎が揺らめいていた。

 隊長として臨む初の大戦だ。失敗は許されない。


『魔導隊、構え。三、二、一……放て!』


 合図と同時に、氷の魔法が一斉に放たれた。


 分厚く、幅広い氷の屋根が顕現する。

 流れを遮られた滝は二手に裂け、隠されていた洞窟が露わになった。


『今だ、行け!』


 歩兵たちが次々と煙幕玉を投げ込んでゆく。


 魔獣の飛び出しを待ち構えていた一同だったが、直後、悲鳴が上がった。


 現れたのは、ブリュス・キュリテールではない。

 蝙蝠(こうもり)型と蜘蛛(くも)型の魔獣が群れを成して押し寄せ、そこに大型のムカデ型やミミズ型も混じっている。


『怯むな、射かけろ!』


 弓兵隊長アグネスの号令と共に、魔力を帯びた矢が放たれた。

 矢は人をすり抜け、魔獣だけを貫く。


 怯んだ魔獣へ騎兵と重装兵が殺到し、武器を振るって止めを刺してゆく。


『魔導隊、立て直せ! 洞窟内へ魔法攻撃を……』


 メルビンの指示が響いた、その瞬間だった。


 洞窟が、生き物のように大量の煙を吐き出した。


「煙が……逆流?」


 レリアが眉根を寄せる。


「何が起きて……」


 セリーヌが身を乗り出した瞬間、大きな影が煙の中に混じった。


「来た……」


 レリアは身を強張らせたが、次の瞬間には言葉を失った。


 洞窟から姿を現したブリュス・キュリテールの顔は見えない。

 三つの頭を覆い隠すように、巨大な魔力球が膨張していた。


 煙から逃げ出してきた魔獣たちも、魔力球に触れた瞬間、跡形もなく消え失せる。


 対抗策を練っていたのは人間だけではない。

 ブリュス・キュリテールもまた、洞窟の奥で機を窺っていたのだ。


『防御結界を!』


 メルビンの悲鳴のような叫びよりも早く、動いた者がいた。


空駆創造(ラクレア・シエル)!」


 イリスは風の移動魔法を纏い、脱兎の勢いで駆け出す。


 戦と賭け事、酒にしか興味を示さない性格だ。

 しかし勝負師の勘が、この局面の危険を告げていた。


 ブリュス・キュリテールが、巨大な魔力球を解き放つ。


 死を撒き散らす最終兵器の暴虐(ぼうぎゃく)を前に、兵士たちは立ち尽くした。


 一年前、その力は蝶の仮面の魔導師ユーグによって抑えられていた。

 だが今、束縛の外れた一撃がもたらす威力は、想像すらできない。


「ぼさっとしないで!」


 イリスは両腕を広げ、レリアとセリーヌを抱き寄せた。


 来た道を引き返そうと必死に足を動かす。

 だが背後で、無情な爆発が巻き起こった。


 衝撃波に弾き飛ばされ、三人の身体は散り散りになって林へと投げ出される。

 地面を転がり、視界が暗転した。

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