表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

336/357

30 剣聖の名残、意志を継ぐ者


 セリーヌたち冒険者一行は、足早に林を抜け、オーヴェル湖のほとりへ辿り着いた。


 轟音を上げて流れ落ちる滝が湖へと注ぎ込み、湖面は月光を照り返している。

 幻想的で、どこか厳かな光景。

 だが、その美しさに浸る余裕はなかった。


 周囲には掃討された魔獣の死骸が散乱し、命を落とした者や、傷付いたまま横たわる兵士たちの姿も見受けられる。

 血の匂いと死臭が満ち、水竜プロスクレがいた頃の名残は、もはや感じられない。


 王国軍の五人の兵長は前線に詰め、仕掛ける機会を窺うように滝を見上げていた。


「相当、激しい戦いだったようですね」


 惨状を窺いながら、セリーヌは慎重に足を進める。

 戦況を立て直すための撤退だったとはいえ、王国軍に合わせる顔がない。

 肩身の狭さが、胸の奥に重く残っていた。


 目指す洞窟は、滝の裏にある。

 大地から五メートルほどの高さに口を開けており、正面からでは滝に隠されて見えない。

 横手から注意深く窺って、ようやくその存在を視認できる位置だった。


 セリーヌ、レオン、シルヴィ、老剣士のコーム。

 その後に、拳聖マルク、賢聖レリア、魔導師イリスが続く。

 七人が滝の側へ立った、その時。


 王国軍の人波を掻き分け、ひとりの男性剣士が近付いてきた。


「え?」


 暗闇のせいもあり、はっきりとした顔立ちは見えない。

 それでも、信じられないものを見た驚きに、セリーヌは思わず目を見開いた。


 痩せぎすの長身。

 物々しい大剣を背負い、肩に掛かるほど伸びた黒髪が顔の半分を覆っている。

 鋭い目付きと、顎髭に特徴のある人物。


「どうしたの?」


 隣にいたイリスが、すぐに声を掛けた。

 セリーヌは僅かに口元を緩め、首を左右に振る。


断罪(だんざい)剣聖(けんせい)と呼ばれた、フェリクス様と……見間違えてしまったものですから……あの方が、ここにいらっしゃるはずはないのに……」


 もしも、本当にあの方がいてくれたなら。

 そんな考えが、ふと胸をよぎる。


 持ち前の陽気さで皆を励まし、その影響力と統率力を存分に発揮していたはずだ。

 ブリュス・キュリテールが相手でも、臆することなく立ち向かったに違いない。


「なに? ここまで来ておいて怖じ気づいてるの?」


 屈託なく微笑み、イリスがセリーヌの背中を軽く叩いた。


「あなたなら勝てるって、信じてるんだけどなぁ。なんなら有り金を全部賭けてもいいわよ。報奨金から倍額を払い戻してくれるなら、大儲けね」


 その言葉に、セリーヌの胸が少し軽くなる。

 一時でも弱気になった自分を叱咤し、気持ちを立て直した。


「ようやくのお出ましかよ」


 男性剣士は首を揉みながら、シルヴィに笑いかけた。

 その腕には、ランクLを示す加護の腕輪が填まっている。


「魔獣の掃討は終わったみたいね。仕事が早くて助かるわ。さすがの腕前ね」


「それが俺たちの売りなんでね。王国軍の連中は手こずってたみてぇだが、派手にかましてやったぜ。報酬ははずめよ?」


「この人は?」


 シルヴィの隣にいたレオンが、一歩前に出た。

 視線を逸らさず、油断なく相手を見据える。

 ただ者ではないと、直感していた。


「この人、ってのはひでぇな。それに、名を聞く時は自分から名乗るもんだろ?」


 男は、レオンを見下ろして笑う。


二物(にぶつ)神者(しんじゃ)さんよ」


 向かい合うと、レオンは男の口元ほどの身長差しかない。

 歳は近そうだが、相手のほうが幾分か年上に見えた。


 男は前屈みになり、覗き込むように顔を近づける。


「俺はアクセル・ヴァランタン。初対面だが、おまえたちの噂はよく聞いてるぜ。俺も負けず嫌いだからよ。絶対に上を行ってやるって、必死に足掻いてんだぞ」


「アクセル・ヴァランタン……」


 呟いたレオンが、何かに気付き目を見開く。


絢爛(けんらん)剣豪(けんごう)


「そういうこった。おまえらとは深い縁だし、よろしく頼むぜ。フェリクスさんの意志を継ぐ者。その第一人者が、俺ってわけよ」


「勝手に第一人者を名乗らないでくれるかな」


 即座に噛みつくレオン。

 空気が、ぴりりと張り詰める。


「おっと、早速だな。年長者は敬うもんだぜ。俺はおまえやリュシアンより二つも年上なんだからよ」


「レオン、変なところでむきにならないで」


 シルヴィがすぐに割って入った。

 フェリクスに心酔するレオンなら、こうなることは予想していた。


「アクセルに聞きたいことがあるの。アンナを見てない? ブリュス・キュリテールを追って、ここに来てるはずなんだけど」


「あの元気なお嬢ちゃんか。少なくとも俺は見てねぇな。仲間からも聞いてねぇ」


「そう……ありがとう」


 不安を滲ませるシルヴィに、セリーヌがそっと寄り添う。


「わたくしたちが到着したと知れば、すぐに駆けつけてくださると思います。まずは現状確認を進めましょう」


「そうね……」


 明るく振る舞うシルヴィをよそに、アクセルの視線はセリーヌに留まっていた。


「あんた、さっき魔獣を派手に吹っ飛ばしてた人だよな。ありゃ見事だった。本当にすごかったぜ」


「いえ、その……ありがとうございます」


 勢いに押され、セリーヌがたじろぐ。

 そこへ、マルクの豪快な笑い声が響いた。


「がっはっはっ。君も相変わらずだな」


「マルクさん!? レリアさんまで……」


 ふたりに気付いたアクセルは、慌てて背筋を伸ばし、深々と頭を下げる。


「ご無沙汰しております。ご挨拶が遅れ、失礼いたしました」


「かしこまらなくていい。今日は君たちが主役だ。気楽にいこう」


「気楽に、と言われましても……」


「冒険者のひとりと思ってくれて構わない。王の左手も三人を失い、今や形だけの存在だ。俺たちも好きにやらせてもらう」


 シルヴィはマルクとアクセルから視線を外し、セリーヌとレオンを見る。


「報告が遅れてごめんなさい。彼はアクセル。フェリクスが抱えていた三つのパーティのひとつよ」


 苦い記憶を振り払うように、シルヴィは笑みを作った。


「本隊は六人。フェリクスの真似事をして、ランクSパーティを二組抱えてるそうよ。総勢十八名。全員が選別を通り抜けて、この戦いに参加してくれてるわ」


「十八名……心強いですね」


 セリーヌの表情にも、自然と笑みが浮かぶ。


「実力は折り紙付きよ。好きに動いていいって伝えてあるの。早速の大活躍、ってわけ」


 シルヴィは上機嫌のまま、轟音を上げ続ける滝を見据えた。


「雑魚は片付いたけど、問題はここからね。ブリュス・キュリテールを、どうやって引きずり出すか……」


「それなら、考えがあるわ」


 話を聞いていたレリアが、静かに口を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ