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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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28 揺れる距離


「ご心配とご迷惑をおかけいたしました」


 ランクS冒険者の報せから程なくして、会議室にセリーヌが姿を見せた。

 老剣士コームが付かず離れずの距離に控え、聖女と慕われるマリーも傍らに並ぶ。


 その三人から距離を置き、会議室を覗き込むふたつの人影があった。


「ジェラルドさんはどこかしら? 疲れてるだろうから、愛情を込めた手作り弁当を……」


「クリスタさん、ずるいですよ〜。お弁当なんて、いつの間に作ったんですか」


 包みの正体に気づいたソーニャが、思わず抗議の声を上げる。


「見付けた。あんたたち、いい加減にしなさい。さっさと救護室に戻るわよ。手当てを待ってる冒険者が山ほどいるんだから」


 腰に手を当てたセシルが廊下に立ち、ふたりを鋭く睨みつけた。


「でもセシルさんだって、ここまで来てるじゃないですか〜。ちょっと顔を見るだけですから。すぐに戻りますってば〜」


「そうはいかないわよ」


 言い終わる前に、クリスタとソーニャは会議室へ忍び込んだ。

 それを追ったセシルもまた、ジェラルドを見付けるなり獲物に迫るように詰め寄る。


 その喧騒と入れ替わるように、シルヴィがセリーヌのもとへ歩み寄った。


「体調は大丈夫なの?」


 問いかけに、セリーヌは穏やかに微笑む。

 顔色も戻り、運び込まれた時とは別人のようだった。


「はい、すっかり。マリーさんに頂いたプロムナと気付け薬のお陰です」


 胸に手を当てると、マリーがすかさず寄り添う。


「とはいえ、女神様。無理は禁物です。おそらく双竜術(そうりゅうじゅつ)の連続使用による過度な負担が原因でしょう。体力と精神力が枯渇してしまったのだと思います。どうか、お気をつけください」


「申し訳ありません。注意いたします」


「いえ、とんでもない。私ごときが差し出がましいことを言って申し訳ありません。ただ、女神様のお体が心配で……万が一のことでもあったら、私はもう生きていけません」


 マリーは抱きつきたい衝動を抑え、必死に言葉を紡いだ。


「それもこれも、あの野蛮人のせいです。魔導師が危険を冒して前線で戦うなど言語道断。やはり、あの人には女神様を任せられません」


「マリーさん、落ち着いてください。覚悟して臨んだことです。問題はありません」


 コームもまた、心配を隠しきれない様子で頷いた。


「マリー殿、もっときつく注意して頂きたい。私が言っても聞く耳を持たず……周囲からも言い聞かせて頂ければ」


「違います。女神様は何も悪くありません。すべて、あの野蛮人の責任です」


 聖女という立場も忘れ、マリーは怒りを露わにする。


「あの人がきちんと訓練を終えていれば、女神様が御無理をされることもなかったんです。到着したら、散々こき使って……」


「はいはい。そこまで」


 呆れたように、シルヴィがマリーの肩を抱いた。


「深呼吸。ゆっくり息をして」


 そう言いながら、純白の法衣の上から容赦なく胸を掴む。


「ちょっ……何をするんですか!」


 驚いたマリーは目を見開き、胸を隠して距離を取った。


「怒ってばかりじゃ可愛くないわよ。ほら、座って。皆の話を聞きなさい」


「シルヴィさんが私を怒らせるんじゃないですか」


「ほら、聖女様が台なしよ」


 囁かれ、マリーははっと周囲を見回す。

 視線が集まっていることに気づき、慌てて身を縮めた。


「ああ、そういうことか」


 エヴァリストが声を上げ、椅子から立ち上がる。

 重厚な臙脂色の鎧を鳴らしながら、セリーヌの前に立った。


「ただの御令嬢かと思っていたが、王都防衛戦で救護に奔走された方だったか。その節は多くの兵と民が救われた。皆を代表し、礼を述べさせて頂く」


「え……その……」


 深く頭を下げられ、セリーヌは戸惑いを隠せない。


「女神様……」


 慌てて、マリーが背に手を添える。

 あの時、実際に救護に奔走していたのはマリーだ。腕輪を借り、成り済ましていた事実は伏せねばならない。


 事情を察し、セリーヌは静かに言葉を選んだ。


「顔をお上げください。わたくしは当然のことをしたまでです。今も、皆で力を合わせるべき局面。共に励みましょう」


「いや、俺の真意はそこではない」


 エヴァリストは真っ直ぐに視線を向ける。


「御令嬢は支援に専念して頂きたい。あの魔獣は、我々王国軍が責任を持って葬る」


「それはできません」


 即座に、セリーヌは否定した。


「彼の魔獣は、わたくしが長年追ってきた宿敵です。その恨みを晴らすためにも、他のどなたにもお譲りすることはできません」


 冒険者たちから不満の声が上がり、室内は騒然とする。


 その中心に、シルヴィが一歩踏み出した。

 大柄なエヴァリストを見上げ、(くれない)戦姫(せんき)が睨み合う。


「大きなことを言って大丈夫? 後になって泣き付いてきても、手は貸さないわよ。それに討伐は自由競争。誰が狩っても文句なしでしょう?」


「無論だ。王も認めておられる。おまえたちは、引き立て役として励んでくれ」


 きびすを返したエヴァリストは、冒険者たちからの険しい視線に晒された。

 それを意に介すことなく、臙脂色の鎧に身を包んだ背は、ゆったりと会議室を後にする。


「嫌味な人ですね」


 マリーが扉を睨む。

 そこへ、拳聖(けんせい)マルクと賢聖(けんせい)レリアが近付いた。


「手柄を求めるのは誰も同じだ」


「気にしないことよ」


 ふたりは慣れた様子で受け流す。

 シルヴィもまた、平然とした表情を装っていた。


「そうだ。あなたに聞きたいことがあったの」


 何事もなかったかのように、セリーヌを見る。

 その視線に、一瞬だけ揺れた感情を、誰も拾わない。


「レオンから聞いたんだけど、あの島と連絡が取れる魔導通話石を持ってるんでしょ。リュシーの状況を知りたいの」


「はい。通話石なら、確かに」


 腰の革袋を探るセリーヌの手が、ふと止まった。


「あら……」


 別の袋を確かめ、左右を探る。


「確かに、この中に……」


「セリーヌ様……」


 コームの声に、嫌な予感が滲む。


「先程の戦闘中に、紛失した恐れが……」


「何と。神器に匹敵する品ですぞ」


 神器である神竜杖(しんりゅうじょう)も失った。

 これ以上、セリーヌの信頼が損なわれれば、長たちに顔向けができない。


「探し出す方法はないの?」


 シルヴィの問いに、セリーヌの顔が曇る。


「通話石ですので、片割れがあれば反応を辿れますが……」


「そう……現状はお手上げ、ってわけね」


「誠に申し訳ございません。リュシアンさんがこちらへ向かってくださっているとしても、飛竜でも二日を要する距離です。戦いに加わって頂くのは難しいかと」


 シルヴィは絶望的な顔で溜め息をついた。

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