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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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27 揃わぬ足並み、迫る選択


「悪いけど、数時間ほど仮眠する。少し休めば、また竜の力を使えるから」


 本部へ戻るなり、レオンはシルヴィに端的に告げ、休憩室へ籠もった。

 引き止める余地はない。彼の消耗は、誰の目にも明らかだった。


 本部の会議室には、シルヴィのほかにランクL冒険者の各リーダー三十名が集まっている。


 ジェラルド、ナルシス、エドモンの三人も顔を出してはいるが、部屋の隅で成り行きを見守る立場だ。そこへマルクとレリアが加わり、小声で意見を交わしている。


 アンナからの言伝を受けた冒険者が戻ったのは、三十分後のことだった。


「つまり、アンナだけ残ってるってこと?」


 妹分を案じ、シルヴィは眉根を寄せた。


「あぁ。ここで一気に叩くつもりなら、すぐに増援を送った方がいい。だが、王国軍も周囲を囲んでたな……あいつらに道を開いてもらった方が利口だろうけどな」


 男性剣士が、意地の悪そうな笑みを浮かべる。背後には四人の仲間。いずれも修羅場を潜ってきた顔つきだ。


「ありがとう。検討させてもらいます」


 そう応じながら、シルヴィは首を回し、静かに息を吐いた。

 壁に貼られた周辺地図へ視線を向ける。


 これだけの人数を預かる立場に立つのは、初めてではない。

 だが、今回は勝手が違う。


 リュシアンがいない。

 判断の最終責任が、自分に落ちてきている。


 前に出過ぎる性格ではない。それでも、今は退けなかった。

 その自覚が、肩に重くのしかかる。


 胸の奥で、リュシアンへの不満がわずかに滲む。

 だが、それを口に出すほど、彼女は未熟ではない。

 彼が戻るまで、持ちこたえる。それだけだ。


 そんな彼女に、冒険者のひとりが歩み寄ってくる。


「魔獣を休ませる必要はない。すぐに行こう。俺のパーティはまだ戦える」


 鼻息荒く迫る男は、どこまでも貪欲に見えた。


 シルヴィは眉根に皺を寄せ、腕を組む。

 深紅の胸当てに守られてはいるが、素肌を大きく晒す装備だ。

 視線が集まるのを感じつつも、意に介さない。


「そう言われてもね……うちの主力、セリーヌとレオンがあの状態よ。魔獣が休んでいる今こそ、立て直すべきじゃないかしら」


「随分と悠長だな」


 別の男が割って入る。


「金を払う胴元はあんたたちだ。好きな段取りで進めればいいさ。でもな、それを評価する基準は曖昧だ。俺は目に見える戦果を出して、名を上げたいんだ」


「それもわかるわ。でも、闇雲に巣へ飛び込むのは危険よ」


「じゃあ、どうする」


「それを決めるための話し合いでしょう」


 声に、わずかな鋭さが混じる。

 男はその気配に押され、口を噤んだ。


「だいたい、碧色が到着していないのも納得できない。報酬は冒険者ギルドの管理だとしても、全滅したら誰が活躍を査定するんだ。さっきまでの戦いで、何十人も命を落とした。生き残れる確証はない」


 別の剣士が、噛み付くように睨む。


「ギルドには、加護の腕輪の位置情報を追跡してもらってるわ。危険度の高い地帯で戦う人ほど優遇する取り決めもある。大丈夫よ」


 答えながら、シルヴィの脳裏に案内係シャルロットの顔が浮かぶ。

 あの親子の協力がなければ、ここまで整えられなかった。


 場が、一瞬だけ静まる。


「あたしはね、夜の闇で動くのは危険だと思ってる。日の出前が一番いい。そうすれば、主力も少しは休ませられる」


「マルクさんとレリアさんの御意見は? 俺のパーティは、あなたたちに従います」


 視線がふたりに集まる。


 拳聖マルクと賢聖レリアが顔を見合わせる。

 レリアが手を差し出したことで、話の主導権はマルクに移った。


「俺たちは補佐だ。シルヴィ君の判断に従ってくれ」


 強く頷く者。落胆する者。

 反応は様々だったが、流れは定まった。


 そのとき、ノッカーが鳴る。


「シルヴィさん、お客様です」


 扉が開き、大柄な人影が押し入った。


「邪魔するぞ」


 臙脂(えんじ)色の鎧。

 王国軍軍団長、エヴァリストだ。


 思わぬ来訪に、シルヴィは一瞬だけ呼吸を整える。


「あら。軍団長自ら、どうしました?」


 エヴァリストは鼻を鳴らし、侮蔑の笑みを浮かべた。


「どうもこうもあるか。冒険者ってのは吞気なもんだな。俺たちは臨戦態勢を解かず、前線に陣を構えて待機してる。お気楽な狩猟を楽しんでいる連中が、どんな顔をしてるのか見物にきただけだ」


 シルヴィは数歩前に出る。


「こんな顔で御免なさいね。化粧をする余裕も、ドレスで着飾る時間もないの。それに、緩急は大事でしょう。部下を思いやることも。それでなくとも、甚大な被害が出ているはずよ」


「被害は想定内だ。控えはまだまだいる。さっきも王国へ兵士の増員を頼んだところだ」


「そうですか。だけど、今から呼んで間に合います? あたしたちが終わらせますよ」


「お気楽狩猟のおまえらがか。おまえらが茶を飲んでいる間に増援が来て、一件落着だ」


「頑張ってくださいね。あたしたちは鳥のように優雅に、獲物をかっ攫いますから」


 言い切った声は、揺れていなかった。

 それを、彼女自身が一番驚いている。


 エヴァリストは目を逸らさず、口端をもたげた。

 彼女とのやり取りを、純粋に楽しんでいる目だ。


「勝ち気な女は嫌いじゃない。俺の部下に欲しいくらいだ。で、この後の算段はどうする。俺としても、兵を大量に失うのは本望じゃない。ある程度は情報を共有させてもらおうと思ってな」


 手近にあった椅子を掴み、どっかりと腰を降ろす。

 鎧の重さも相まって、木製の椅子が悲鳴のように軋んだ。


「そういうことなら、ひとついいかしら」


 不意に声を上げたのは、レリアだ。

 随意(ずいい)の賢聖が口を開いたことで、室内の緊張が一気に高まる。


「ブリュス・キュリテールが復活する要因になったのは、上空から飛来した魔力球よね。レオン君も危惧していたけれど、あれはどこから来たのかしら。魔獣に取り囲まれていたことも含めて、こちらが把握していない戦力が敵側にもあるのかもしれない」


「向こうも、仕掛ける機会を伺ってる、ってことですか?」


 シルヴィの問いに、レリアは何度も頷いた。


「その可能性もある、という憶測よ。もしくは、ブリュス・キュリテール自身が魔力球を用いて封印を破った。その可能性も捨てきれない」


「そんなことができますかね?」


 シルヴィは、まだ否定的だ。


「わからない。でも、封印の力が弱まれば、それくらいの意識を働かせることもできるんじゃないか、と思ってるの」


「だとしたら、ゆゆしき事態だな」


 エヴァリストが顎をさすり、呻く。


「魔獣が遠隔操作で、あの馬鹿でかい魔力球を落とせるとしたら……こうしている間にも、ここに撃ち込まれるぞ。全員、木っ端微塵だ」


「その危険性は、私も考えたわ」


 レリアが即座に言葉を継ぐ。


「現時点で攻撃がないということは、ブリュス・キュリテールの能力ではない。もしくは、効果の範囲外だから使わないのかもしれない」


「敵さんの追加戦力、ってことか?」


 マルクの問いに、レリアは顔を曇らせ、ためらいがちに頷いた。


「断定はできない。追加戦力だとしても、ここを攻撃してこないのは不自然だもの」


 重苦しい空気を切り裂くように、再びノッカーが鳴る。


「シルヴィさん。マリーさんが追加の薬を持って到着されました。言われていた通り、セリーヌさんの個室へお通ししましたが」


「ありがとう。助かったわ」


 シルヴィの口元に、自然と笑みが浮かぶ。

 マリーが向かってきていることは聞かされていた。


 待ち人のひとりが、ついに現れた。

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