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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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24 切り札は空より降る


 全力で放った魔法は回避された。だが、セリーヌの集中は途切れていない。

 竜臨活性(ドラグーン・フォース)で研ぎ澄まされた五感が、迫るブリュス・キュリテールの挙動と危険を明確に捉えていた。


風竜斬駆(ヴォロンテ・ヴァン)!」


 右手に顕現(けんげん)した風の竜術を足下へ解放。浮力を得て右へ退く。

 混戦の側で戦っていた数名が、セリーヌの風の障壁に弾かれた。

 配慮する余裕はない。


 退路を追うように、左肩の虎が魔力球を吐く。


闇竜魔壁(オプス・ミュール)!」


 左手から展開された半透明の黒い障壁が、彼女の全身を包む。

 直後、巨大な魔力球が激突した。

 甲高い反響とともに軌道が逸れ、攻撃は上空へ弾かれて消える。


「離れろ! 場所を空けろ!」


 誰のものとも知れぬ怒号が走った。

 巻き込まれる危険に、兵も冒険者も一斉に退いた。


『セリーヌを守って。壁役は残りなさい!』


 シルヴィの声が拡声される。だが、巨大魔獣の圧に耐え得る者は多くない。

 セリーヌは支援を当てにしないと決めていた。無理に守らせ、命を散らせる方が耐え難い。


 ここで止める。皆さんには、脅威のない世界を生きてほしい。

 荒い息を吐き、魔獣を見据える。


「かかってきなさい」


 距離は取れている。

 魔力球は弾く。突進は横へ逃がす。備えは整っていた。


『皆さん、一斉攻撃の用意を』


 未来を指し示すような声が戦場へ拡がる。

 黄金に染まった髪が、両腕の動きに合わせて流れた。


風竜斬駆(ヴォロンテ・ヴァン)!」


 両腕を交差させると、十字の真空刃が顕現し、脚を狙って迫る。

 だが魔獣は刃を跳び越え、その勢いのまま襲い来た。


 想定内。交差した手には次の魔法がある。


「右手に土、左手に水。双竜術、深喰底無闇(マレサン・ノワークル)


 後退しつつ着地点を見据える。

 大地が変貌し、水を含んだ泥沼が広がった。

 巨体は一気に沈み、胴まで呑み込まれる。情けない悲鳴が上がる。


 疲労の隙間に、思わず笑みが零れた。

 指を鳴らすと沼は消え、胴体を土に埋めた魔獣だけが残る。


 戦士たちから歓声が上がり、奇術のようだと賞賛の声が聞こえた。


『今です』


 号令に呼応し、騎兵隊長ガブリエルが突進。

 重装隊長アドマーが戦斧を振るい、弓兵隊長アグネスが矢を放つ。

 魔導隊長メルビンの術が重なり、歩兵隊長ランベールの指示で負傷者が後送される。


 その前へ躍り出た影があった。

 竜臨活性(ドラグーン・フォース)を解放したレオンだ。


 風を纏い、銀の髪を流して加速する。

 魔獣が捉えるより早く、彼は仕掛けた。


疾風(しっぷう)竜駆突(りゅうがとつ)!」


 鮮烈な突きが右肩の黒豹の側頭部を貫く。

 中央の獅子が威嚇し、左肩の虎が魔力球で応じた。


「ぬるい」


 身を捻って死角へ回る。胴の半分は地中。尾の大蛇は届かない。

 レオンは執拗に黒豹を斬り付ける。理由があった。


 それに倣い、各隊長とランクLの冒険者が後方から圧をかける。

 だが魔獣は、自身の足下で魔力球を炸裂させ、地を削って前足を引き抜いた。


 さらに、隠していた翼を広げる。巻き起こる烈風が戦士たちを吹き飛ばす。

 自由を取り戻すまでに、時間は要らない。


「まずいな……」


 振り払われ、レオンは片膝で着地した。

 黒豹の頭は潰した。防御結界を操る要を失い、今なら魔法は通る。

 だが、飛ばれたら終わりだ。


 前の戦いではリュシアンとラファエルが食い止めてくれた。

 そして、蝶の仮面を付けた魔導師、ユーグの枷があった。


 上空から吐き出された魔力球も、ユーグの結界で被害を抑えることができた。ここではどれだけの被害が出るか知れない。


 そして、今ここにリュシアンはいない。

 ラファエルのパーティもその後の調査で、クレアモントの地中から全員の腕輪の反応が見つかった。全滅の処理を受け、冒険者ギルドの登録から抹消されている。


 だが、碧色も月牙も関係ない。俺の力と存在を、ここで知らしめる。

 剣を握る手に力を込めた瞬間、視界が奪われた。


 月光の中、敵の頭上へ降り立つ影。


「右手に風、左手に風。双竜術、吹荒暴虐嵐タンドルテ・ソヴァージュ


 落下とともに暴風が解き放たれる。

 無数の真空刃が背を裂き、翼を刻む。

 鎌が振るわれたかのような一撃が続き、翼は根元から刈り取られた。


 衝撃的で圧倒的な光景だった。

 儚くも美しいひとりの乙女が、凶悪な巨獣へ立ち向かう光景に、戦場は息を呑む。


「やった……」


 セリーヌは意識の縁で湧き上がる歓声を聞き、魔獣の背へと落ちてゆく。


 それを迎えるのは、尾に付いた大蛇の頭だ。

 翼をやられた仕返しとばかりに牙を剥き、彼女を捉えた。

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