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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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17 祖父との誓い


 俺たちは神殿を後にすると、出口で待ち合わせていた老剣士のコームさんと合流した。アンドル大陸へ向かうセリーヌの護衛役として、彼が再び任命されたと聞いている。


 セリーヌ、レオン、コームさんを見送ろうと、飛竜が待機する草原まで同行する。


 すべてに納得していない顔のディカは、乗ってきた飛竜に体を預け、そのまま眠り込んでしまった。乗り手のユリスが戻るまで、ふて寝することに決め込んだらしい。


「好きにさせておいてやろう」


 ディカの側を通り過ぎ、勢揃いしている竜王たちと改めて顔を合わせた。


「少しお待ちください」


 炎竜王ヴィーラムと話している途中、セリーヌは小走りで離れていった。


 不思議に思いながらも竜王たちと会話を続けていると、風竜王テオファヌは、吟遊詩人の格好をした美しい青年へと姿を変えた。


「やはり人間の姿の方が体力と活力の消耗を抑えられるので便利だね」


「他の竜たちにも変化の方法を教えてあげたらどうですか? 人間に交じって生活する竜も出てくるかもしれませんよ」


 苦笑交じりに告げると、テオファヌは困った顔で頬を掻いた。


「難しいだろうね。僕と同じ風竜ならば可能かもしれないが、試したことはない。風の竜術に細工をした、特別な魔法だ」


「そうなんですか」


「それに、神竜が外の世界で生きることを良しとしないだろうからね……僕らは人を見限り、姿を消した。決死の思いで引いた境界を、今更取り払うことはしないだろう」


「この島に新しい風を送り込むことには賛成しているのに、自分が作った壁を取り払うことはできないっていうんですか」


「そうだね。現に次の戦いも、僕たち竜が手を出すことは禁じられている。人の世界の争いは人の力で解決させるべきだ、とね」


「でも、相手は災厄の魔獣なんですよ。ガルディアだって、因縁がある相手なんだし」


「マルティサン島へ攻め込んでくるようなら、全力で立ち向かうけれどね。外の世界へ必要以上に干渉しないという考えは、この島の長たちとも一致しているんだよ」


「竜狩りへの恨みは深いんですね……そこには気安く触れないよう気をつけます」


 苦い思いが胸の内に広がる。


 テオファヌを正視できずに目を逸らすと、駆け戻ってくるセリーヌが見えた。その腕に、一枚の外套(がいとう)を抱えている。滞在していた洞窟に、あれを取りに行っていたのだろう。


 だが、外套のことを気にするよりも、柔らかそうに揺れる大きな胸に目を奪われた。顔立ちだけでなく、すべての造形が完璧すぎる。


 セリーヌは俺たちの横を走り過ぎ、飛竜の背で眠るディカの所へ向かった。祖父の体へ外套をかけ、顔を覗き込んでいる。


「お父様とお母様の墓前にお花を供えてくださり、誠にありがとうございます。成果を上げ、よい報告を持ち帰ります。ディカ様もご無理をなさらず、お体に気をつけてください」


 ディカからの反応はない。背を向けたセリーヌの顔に、寂しげな陰が差し込んだ。

 上下関係が存在するとはいえ、それは島の中での形式的なやり取りだ。長と神官という仮面を脱ぎ捨てれば、血を分けた家族という最も強い絆があるだろうに。


「あの爺……叩き起こしてやる」


 大事な孫娘への邪険な態度に腹が立つ。

 たまらず一歩を踏み出した時だった。


「おまえにも、絆の守り人という大事な役割ができたのだ。必ず、無事に戻れ」


 しわがれながらも力強い、しっかりとした声が聞こえてきた。


 顔を明るくしたセリーヌが、弾かれたように振り返る。濃紺の長髪が、翼を思わせるようにふわりと広がった。


「はい! 承知いたしました」


 そのまま広場までやってきた時だ。ユリスがセリーヌに近付き、右手を差し出した。


「セリーヌ、これを」


「これは……魔導通話石、ですか」


「俺も外の世界へ行く時に借りたけど、この島と外界を結ぶ特別製なんだ。何かあったらすぐに連絡してほしい。リュシアンさんが、真っ先に駆けつけると思うから」


 微笑みを浮かべたユリスは俺を見て、対になる通話石を差し出してきた。


「災厄の魔獣との戦いが終わるまで、ふたりに貸し出すことにしました。各民の長に一組ずつしか与えられない貴重品ですから、取り扱いにはくれぐれも気をつけてください」


「そんな貴重な物をいいのか?」


「ここで使わずに、いつ使うと言うんですか」


「そうだな。ありがとう」


 ありがたく受け取り、腰の革袋へしまった。


「リュシアンさんの鎧姿、とても似合っていますね。今まで以上に勇ましく見えます」


「惚れ直したか?」


 からかっただけのつもりが、セリーヌは顔を真っ赤にしてしまった。


「はい。その……素敵だと思います……」


 こんな風に真っ直ぐな反応をされると、俺まで照れてしまう。


「おぅ……ありがとう」


 困って頭を掻くと、ユリスから険しい目を向けられていた。


「こんな時まで、のろけないでください。ふたりとも気を引き締めてもらわないと」


「すみません。その通りですね」


 セリーヌは改めてこちらへ向き直った。


「ではリュシアンさん、一足先にアンドル大陸でお待ちしております。一ヶ月後と言わず、訓練が終わり次第、合流をお願い致します」


「わかった。任せてくれ」


 頷いた直後、腕組みをして俺を見ていたレオンから、深い溜め息が聞こえてきた。


「任せておけないから、こんなことになってるんだけど。一年をかけても訓練をものにできないとは思わなかった。ぬるいね」


「それはさ……って、何を言ったところで言い訳にしかならねぇよな。悪い。今は、やるべきことをやるだけだ」

「期待せずに待ってるよ。碧色の訓練が間に合わなければ、災厄の魔獣は俺が狩るだけだから。手を借りるまでもない」


「ちょっと待て。あれは俺の獲物だ」


「リュシアンさんだけが討伐の対象としているわけではありません。わたくしにとっても因縁の深い相手なのですから」


 セリーヌまで混ざり、三つ巴の戦いのようになってしまった。


「セリーヌ様も使者となられた。淑やかさを身に付けられた方が宜しいですな。今は時が惜しいでしょう。すぐに参りましょう」


「申し訳ありません」


 コームにたしなめられ、セリーヌだけでなく俺たちも居住まいを正した。


 そうして、セリーヌ、レオン、コームさんを乗せた飛竜は大空へ。朝日を受けた巨体が、青空へ吸い込まれるように小さくなってゆく。


「行っちゃいましたね」


 ヘクターが寂しそうにつぶやいた。


「師匠もしまらないっすね。別れ際、セリーヌさんをぎゅっと抱きしめるとかしないと」


 恋愛の達人だとでもいうような態度のイヴォンを見て、つい苛立ってしまう。


「簡単に言うけどな、ここでそんなことしたら大変なことになるだろうが。婚姻の儀だって保留の状態なんだぞ」


 俺の力を認めてくれているこのふたりはともかく、バルテルミー、ウード、クロヴィスの腹の中はわからない。機会があれば、セリーヌを狙ってもおかしくない。


「そういえば、()(びと)も災厄の魔獣との戦いに参加させるとか言ってたよな?」


 ユリスに目をやると、言い出した本人は困ったような顔を見せた。


「長に進言しましたけど、難色を示されました。外の出来事に干渉するなという方針は、ガルディア様と同じですね」


 どうやら、互いに問題は根深いようだ。

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