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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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14 抱きしめさせてくれ


「それで、一番多く魔獣を討伐されたのは、どなただったのですか?」


 セリーヌと草原に並んで座っている。膝を立てた彼女はそこへ頬を乗せ、首を傾げて俺の顔を覗き込んできた。


「誰だと思う?」


 聞き返しながらも、セリーヌの可愛らしい仕草に胸の奥がうずく。このまま押し倒してしまいたい衝動をぐっと堪えている。


 民族衣装を着ているが、セリーヌの恵まれた体型を完全に隠すことなどできはしない。豊満な胸は太ももに圧迫され、脇の下が不自然なほど膨れ上がっている。


 膝を抱えて丸くなっているが、この体勢は苦しくないんだろうか。


 そんなことを考えていると、セリーヌは照れくさそうにはにかんだ。


「私はもちろん、リュシアンさんが一番だったのだと思っております」


「そう言ってくれるのは嬉しいよ。御礼に、抱きしめてさせてくれ」


「それは困ります」


 相変わらず、真顔での即答だ。


「ちょっとだけだから。一瞬だけぎゅっとさせてくれたら、すぐに離れるから」


「なりません。無理なものは無理です」


 むっとして、頬を膨らませた顔も可愛い。


「だったら、賭けの勝者も秘密だな」


「ここまで話しておきながら、それでは意地が悪いのではありませんか。納得できません」


「抱きしめさせてくれたら教えるよ」


「そう仰られるのでしたら、答えを知らないままで構いません。しつこい方は苦手です」


「ちょっと待てって。俺が悪かったよ」


 地面に手を突いて立ち上がろうとするセリーヌに気付き、慌てて引き留めた。


「一番はレオンだったんだよ。二番はイヴォンだな。ふたりとも竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使えるだろ。ヘクターも置き去りに、圧倒的だったよ」


「リュシアンさんがそこまで仰るのなら、余程の強さだったのでしょうね」


「レオンは風の加護を受けて、速さそのものが上がってたからな……イヴォンもまさに水の如く、流麗で華麗な動きだった。見事だよ。ヘクターは俺に遠慮してる感じだったな」


「ヘクターさんは、リュシアンさんを慕っていらっしゃいますからね。竜臨活性(ドラグーン・フォース)の使えないリュシアンさんを気遣われたのでしょう」


「だな。結局、俺は三位だったよ。で、ヘクター、アンナ、兄貴、シルヴィさんの順だ」


「シルヴィさんが最下位というのは意外ですね。実力的にはもっと上だと思いますが」


「手を抜いたんだろうな。それこそ、アンナが気を遣って最下位になってもおかしくねぇ」


「敢えて罰を受けたということですか?」


「なにか企んでたんだろ。きっと……」


 シルヴィさんは、俺が一位になると予想していたんだろう。敢えて手を抜き、俺からの罰を受けることを期待していた。それが完全に裏目に出たというわけだ。


 賭けに勝ったレオンは、険しい顔をシルヴィさんへ向けた。


『俺たちが島に戻るまで、碧色への接近を禁止するってことでどうかな。一メートル以内には近付かないようにして欲しい』


『ちょっと。罰が重すぎるわよ』


 シルヴィさんから当然のように不満の声が上がったが、レオンが引き下がるはずもない。


『お互いに、一線を引く良い機会だと思うけど。依存しあっていてもろくなことはない。特に、碧色にはね』


 セリーヌのことを示しているのは間違いなかった。兄は不思議そうな顔で聞いていたが、早々に事情を飲み込んだようだった。


『アンナもそれがいいと思うよ』


 妹分にまでそう言われては、シルヴィさんも大人しく引き下がるしかなかった。


 約束通り、シルヴィさんからの接触はなかったが、積もり積もった彼女の鬱憤と性欲がどうなったのかはわからない。


「それにしても凄かったのは、ユリスが改良してくれた結界革帯(セントゥリエ)だよ。性能は申し分ない。シルヴィさんとアンナに使ってもらったけど、並の魔獣の攻撃なら充分に防げる。大型魔獣が相手でもなければ、致命傷を負うようなことはないだろうな」


「ユリスが聞いたら喜びますね」


「一声かけてやれよ。俺が言うよりも、姉さんに褒められた、って喜ぶと思うぜ」


「そんなに子どもではないと思うのですが」


「そんなに子どもなんだよ」


 断言すると、セリーヌはきょとんとした顔を見せた。恐らく、姉の前では一人前を気取って背伸びしているのだろう。


「ブリュス・キュリテールとの決戦に向けて、冒険者の選別も終わったみたいだ。総勢で五百人の手練れが集まってくれるらしい」


「そんなに大勢の方々が……」


「俺はそれでも少ないと思ってるんだけどな。ランクLとSに絞ったこともあるけど、他国からの支援が望めないのは痛手だ。万が一に備えて、自国に戦士を残したいっていう気持ちはわからなくもねぇけどさ……国境警備にはそれなりの兵を割くっていう話も聞いてる。他国は戦力を出し渋ってるんだろうな」


「無い物ねだりをしても仕方ありません。持てる力で最善を尽くしましょう」


 前向きなセリーヌの発言が背中を押してくれる。少しでも弱気になってしまった自分が恥ずかしい。


「だな。ヴィクトル王も、大勢の兵を出してくれると約束してくれたよ。王都が襲撃を受けた後、騎士団も、王国軍として再編成されたそうなんだ。その中から、歩兵を五百。騎兵と弓兵が三百ずつ。魔導兵が百人だってさ」


「それは心強いですね」


「あぁ。今度こそ、ブリュス・キュリテールを仕留めてやる。この島の人たちに、笑顔を取り戻してみせるよ」


「そのためには、訓練を仕上げることが先決ですね。リュシアンさんには竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力を取り戻して頂かないと。そうでなければ満足な戦いはできません」


「わかってる。氷山の効力も、残り三ヶ月を切ったからな。なんとしても仕上げてみせる。そう考えると、兄貴の成長速度は異常だな。やっぱり冒険者に向いてるのかもしれねぇ」


 今回の依頼を達成し、兄もランクCになった。獲得した報酬もかなりのものだったし、ランクBへの到達は確実だ。


「島へ来たいだの、急に帰るだの、本当に勝手な兄貴だけどな」


「アンドル大陸で、やるべきことがあると仰っておられましたから。こちらも強く引き留める理由はありません。ですが、災厄の魔獣との戦いに参加して頂けないのは残念ですね」


「いや。報酬度外視で、後方支援として参加するつもりらしいぜ。俺たちの力になりたいって言ってくれてるんだ」


「実力はこの目で確認させて頂いておりますから、それも嬉しい知らせですね。リュシアンさんやジェラルドさんだけでなく、私も更に頑張らなければなりませんね」


 両手をぐっと握りしめる姿がいじらしい。


「そういえば、セリーヌの特訓はどうなったんだ? ふたつの力がどうのとか……」


「実は、私もまだ未完成なのです。偉そうなことは言えませんね……外の世界への外出許可がでないのもそのためです。アンドル大陸の食事が恋しくなってまいりました」


「セリーヌも飲み食いするのは好きだよな。お互い、がむしゃらにやるしかないか」


「そうですね。蜂蜜ボンゴ虫を食べて、英気を養うとしましょうか」


「ちょっと待て。それは遠慮しとくわ」


 腰に提げた革袋へ手を伸ばすセリーヌを留めると、寂しそうな顔をされた。


「慣れてくださいと申し上げたはずです」


 セリーヌは飴色のキャンディを摘まみ上げ、俺の口へと運んだ。


「どうぞ。お口を開けてください」


「う〜ん」


 渋々口にすると、優しい甘さが広がった。

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