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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.13 クレアモント編

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25 黒き雷


 ラファエルと同時に行動を再開した者がいた。竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力を継続したレオンだ。


 風の魔法を纏ってミシェルへ体当たりすると、細身の体は軽々と床を転がった。レオンは組み敷かれていたユリスの腕を掴むと、すぐにこちらへ駆け戻ってきた。


「碧色、行こう」


 俺たちも電撃の痺れは消えている。辿ってきた扉を振り返ると、背後からラファエルの咆哮が聞こえてきた。


光喰深闇マンジェール・オブフォンド


 通路の奥で、黒き(いかづち)が弾けた。雷は天井と左右の壁を伝い、爆発を引き起こす。破裂した箇所から、大量の土砂が流れ込んできた。


 凄まじい威力に目を見張った。俺と戦った時は、本気ではなかったのだろう。


「まずい。崩れるぞ」


 手前の通路へ駆け込みながらも、倒れたままのミシェルのことが気になった。敵ながらも、どこか憎めない人物だ。


「碧色、ラモナ島だ!」


 そのミシェルの声が聞こえ、不意に足を止めてしまった。振り返ったが、激しい土煙のせいで姿を確認できない。


「リュシー、急いで!」


 シルヴィさんに腕を取られ、引きずられるようにその場を後にした。


 それからは無我夢中で覚えていない。どうにか地上へ逃げ出すと、施設のあった場所は土砂に飲み込まれ、大きく陥没していた。


 竜の笛を使い、飛竜を呼び出した。一刻も早く離れようと、すぐさま廃墟を飛び立つ。


 疲れ果て、誰もが無言のままだった。その沈黙を破ったのはユリスだ。


「すみませんでした。俺が勝手なことをしたばかりに、ご迷惑をお掛けしました」


「いいんだ。怒りに駆られたおまえの気持ちもよくわかる。何にしろ無事でよかったよ。レオンにもきちんと礼を言えよ」


 頭を下げるユリスを見ながら、全員無事だったことに胸を撫で下ろした。しかし俺も俺で、大きな貸しを作ってしまった。


「シルヴィさんとアンナもありがとう。あの時にふたりが飛び出してきてくれなかったら、俺は今、ここにいなかったかもしれない」


「言ったでしょ。リュシーの盾になるって。命だって惜しくないって言ったのは本気よ」


「アンナは、そんなシル(ねえ)を全力で守るんだから。ふたりを危険になんて晒さないよ」


「本気で頼もしいよ。ありがとう」


 仲間にも恵まれ、俺は幸せ者だ。その一方で、問題児の存在は見過ごせない。


「にしても、レオン。問題はおまえだ。竜臨活性(ドラグーン・フォース)が使えること、なんで黙ってたんだ」


「聞かれなかったから」


「おまえな……」


 悪びれた様子もなく、平然と言ってのけるレオンを殴りたい。


「そもそも、どうやって竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力を手に入れたんだ。出所は、風竜王(ふうりゅうおう)テオファヌしか考えられねぇ。だけど風竜王の力は、風の民のウードが継承してるはずだろ」


「俺も同じことを考えていました」


 ユリスも気になっていたらしい。身を乗り出して、すかさず話に加わってきた。


「継承戦はもう少し先です。それを待たずに力の保持者を移し替えることはありません」


「テオファヌはあの性格だから、面白がっているだけだと思う」


 腕組みをしたレオンが、さらりと言い放つ。


「力の継承はひとりだけど、島の外へ継承者を作ってはならない決まりはないって。俺に適応力があったのが決め手らしいけど」


「また、テオファヌ様の悪い所が出た」


 ユリスは溜め息をついて額を押さえる。


「でもな、いつも言ってるだろうが。情報はしっかり共有してくれ。その力を把握していれば、戦術の幅だって広がるんだぞ」


「手の内をすべて晒すのは好きじゃない。俺には俺の戦い方があるから」


「相変わらず、可愛げのねぇ奴だな……」


「別に。可愛いなんて思われたくない」


「そういうことじゃねぇだろ。俺だって、てめぇなんぞを可愛いとは思わねぇよ」


「そうですか? レオン様は格好いいし、可愛い所もあると思いますよ。感情を表に出すのが苦手なだけですよね。竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使われたお姿も尊くて、見とれてしまいました」


 さすがにレオンのこととなると、マリーが黙っていない。キラキラとした汚れのない瞳で、崇拝するようにレオンを見つめている。


「勝手に俺のことを分析しないでくれるかな」


「あら、いいじゃない。それだけ愛されてるってことでしょ。もしかして照れてるの?」


「そうじゃない」


 シルヴィさんに茶化されたレオンは、むっとした顔ですぐさま否定した。


「いいよ、いいよ、レン君。マリーちゃんとくっ付くのがアンナの理想なんだから。ふたりには仲良くしてもらわないとね」


「いい加減にしてくれ」


 四つん這いになったアンナに迫られ、レオンはますます機嫌を悪くしている。そろそろやめないと、本気で怒りだしそうだ。


 俺の心配をよそに、ニヤニヤと笑うシルヴィさんがマリーの背後に立った。彼女を抑え込むように両肩へ手を添える。


「マリーからレオンを襲っちゃえばいいのよ。顔は可愛いし、性格も良い。体型だって抜群だし、文句の付け所がないじゃない」


 褒めちぎった挙げ句、マリーの胸を法衣の上から鷲掴みにしてみせた。


「ちょ、何するんですか!?」


 前屈みになって防御するマリーだが、シルヴィさんは追撃の手を緩めない。


「レオンに見せつけてあげようと思って。きっと、野いちごも大好きだと思うの」


「嫌です。ちょっと、やめてください。あんっ、変な所を触らないで!」


「あら、ちょっと会わない間に大きくなったんじゃない? 成長期かしら。羨ましい」


 じゃれ合う様子を、ユリスが冷ややかな目で一歩離れた所から見ている。


「皆さん、いつもの調子に戻りましたね」


「気を休める時間も必要だろ」


 緊張から解き放たれ、みんなの肩の力が抜けたのがわかる。その弛緩した空気を引き締めるように、レオンがこちらを見てきた。


「そういえば、ギルドにもうひとつの用事があることを忘れてないよね」


「忘れてねぇよ。王都の冒険者ギルド本部から呼び出しなんて、何の用だろうな」


 アントワンの言伝を受け取りに行った際、呼び出しを受けていると聞かされた。何か問題行動でも起こしただろうか。


「王都の救世主にしか頼めない依頼、そういった類のものじゃないですか」


 考えを巡らせていると、ユリスが吞気な口調でつぶやいた。


「救世主専用の依頼ってどんな内容だよ……って、なんでおまえがそれを!?」


「行く先々でこれだけ噂されていたら、嫌でも気付きますよ。どうして最初に教えてくれなかったんですか」


「いや、それはまぁ色々あるだろうが。俺だって持ち上げられるのは好きじゃねぇんだ。救世主なんて呼び名も、みんなの協力で防衛戦を乗り越えただけだし、俺ひとりの手柄じゃない。それを言うなら、みんなが救世主だ」


 しどろもどろになっていると、隣に座ってきたシルヴィさんに肘でつつかれた。


「リュシーもリュシーで照れ屋なのよね。ムッツリスケベだし、隠すのが得意なのよ」


「シルヴィさん。その一言は、なんの助けにもなってないから」


「大方、ありのままの自分をユリスに認めて欲しかった。そんな所でしょ? 可愛い弟分の前では自然体でいたかったのよね」


 どうしてこの人は何でもお見通しなのか。俺以上に俺のことを知っている気がする。


 俺が無言になってしまったことで、すべてが肯定されてしまった。ユリスはひとつ咳払いすると、急に正座の姿勢をとった。


「やはり、あなたへの評価を改めなければなりませんね……リュシアンさん、姉さんがあなたに惹かれるのも納得しました」


 思えば、ユリスから名前を呼ばれたのは初めての気がする。なんだか体がむず痒い。


「なになに。ユリリンのリュー(にい)を見る目がランクアップしたってこと!?」


「はい。認めざるを得ません」


「だって。リュー兄、よかったね」


 アンナに煽られ、一層恥ずかしくなった。


「ちょっと待って。私はまだ、その野蛮人のことを認めてなんていないんだから」


 マリーから必死の抗議が上がる。途端に笑いが洩れ、柔らかな空気が俺たちを包んだ。


 飛竜はそのまま、王都を目指して飛ぶ。

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