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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.13 クレアモント編

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19 黙れ、クソガキ


「喋りすぎだぞ、ラファエル君。一方的に情報を与えた所で、見返りは期待できない」


 ラファエルは左手を挙げ、後方に控えているグレゴワールを盗み見る。


「構わん。これくらいの予備知識を与えておかないとつまらないからな。何と言うんだったかな……そうだ。活かさず殺さず、という奴だ。というわけで、どうだ碧色。俺の話に乗らないか。あの女を是非とも手に入れたい」


 込み上げる怒りを抑え込むのも限界だ。炎竜であるセルジオンが乗り移ったように、腹の奥底が熱くなっている。


「あいにくだな。セリーヌには優位性をひけらかして喜ぶ趣味はねぇよ。てめぇのようなお子様には興味なしだとさ」


「そうか。だが俺は、恋愛ごっこをするつもりはない。相手のことなど関係なしに、一方的に支配するだけだ。貴様の首でも持って行けば大人しく従うか?」


「俺に勝てると思ってるのか? 前回打ち負かされたのは、どこのどいつだ」


「よく吠える奴だ。この数ヶ月で地力を上げたようだが、鍛えていたのは貴様だけではないということだ。試してみるか」


「ちょっと待って」


 不意に、シルヴィさんの声が上がった。


「あたしたちは戦うためにここへ来たわけじゃないでしょ。ブリュス・キュリテールの対策法があれば助かるくらいに思って、手掛かりを探しに来たんじゃない」


「それはそうなんですけど、ここまで来たら引っ込みがつかないじゃないですか」


「魔獣との決戦には力を借りることになるんだから……その時に、どっちが強いかはっきりさせれば済むことじゃない」


 隣に来たシルヴィさんに呆れ顔でたしなめられ、いくらか冷静さを取り戻した。

 俺が目標とする冒険者は、洗練されて理知的な存在だ。この程度の挑発で我を忘れては、フェリクスさんにも笑われてしまう。


 軽く頭を振った時、視界の端で何かを捉えた。シルヴィさんが斧槍(ハルバード)を振るうと、甲高い金属音が鳴り響いた。


 石造りの床に、一本の矢が転がる。


「女は引っ込んでろっての。その余計な口を塞いでやろうか」


 クロスボウを手にしたギデオン。その下卑(げび)た笑みを皮切りに、険悪な空気が濃くなった。


「どうする。この施設を探っても時間の無駄だ。黙って去るか、決着を付けるか。()り合うなら受けて立つがな」


 ラファエルは葉巻を投げ捨て、漆黒の長剣を持ち上げた。


「悪いが魔獣との再戦など興味ない。俺の目的はアンドル大陸の支配だ。どのみち、逆らう奴は皆殺しにするつもりだ。早いか遅いかというだけのこと。楽しみを取っておくために、貴様は生かしておいてやったんだがな」


「大陸の支配? とんだ妄想野郎だな」


「王の左手。奴らの命も狙っていたが残念だったよ。マルクとレリアを殺す機会はまだあるが、エクトルも含めて奴らは老いた。フェリクスとヴァレリーが最強だっただろうにな」


「黙れ、クソガキが。敬意の欠片も持ち合わせねぇ馬鹿には、俺がわからせてやるよ」


 ラファエルは二十歳だったはずだ。よくよく考えれば、ユリスと同い年ということだ。どちらも若い割にしっかりしているが、考え方には天と地ほどの差がある。


 ラファエルたちの真意がどうあれ、敵意を向けられている以上、このままにはできない。


「大した自信だな。口だけで終わらないよう、精々足掻いてみせてくれ」


 ラファエルは剣の腹を左手に打ち付けながら、余裕の笑みを見せている。


「貴様らは手を出すな。俺ひとりで充分だ」


 そうして、腰を落として身構えた。


竜臨活性(ドラグーン・フォース)


 ラファエルは雷竜の力を纏った。頭髪が銀色に染まり、威圧感が急激に高まる。


 これまでにも剣を合わせ、こいつの強さは身に染みている。本気でやり合わなければ、こちらの命が危ない。


炎爆(フランブル)!」


 右手の甲に刻まれた竜の痣。そこから青白い炎が吹き上がり、とぐろを巻いて体を覆った。炎竜の力が腹の奥底から湧き上がる。


 先日の熊型魔獣との戦いとは全く違う緊張感に支配されている。今持てるすべての力を引き出さなければ勝てない。


 眠りへ落ちるように、ここではないどこかへ意識を運ばれてゆく感覚に襲われる。


※ ※ ※


「そうか。炎竜の力も使えるんだったな」


 言い終わらないうちに、地を蹴ったラファエルが駆け出した。その顔には、喜びと興奮による笑みすら浮かんでいる。


 一方、リュシアンの顔に浮かぶのは焦りだ。このまま戦いに突入すれば、周囲の仲間を巻き込んでしまう。仕方なく、迎え撃つ形で前方へ飛び出していた。


 真っ向からぶつかり合うと、互いの剣が悲鳴を上げるように金属音がこだました。


 鍔迫り合いに発展するかと思われたが、リュシアンが押し込まれた。背中をわずかに仰け反らせ、苦しみに顔を歪める。


 七割程度しか引き出せないセルジオンの力では、竜臨活性(ドラグーン・フォース)には及ばないか。


 歯を食いしばったリュシアンは右足を引き、足裏へ力と魔力を収束させた。


炎纏(えんてん)竜牙撃(りゅうがげき)!」


 奇襲の前蹴りが、ラファエルの腹を打った。


 驚いた顔で数歩後退する敵を見据え、リュシアンは追撃を見舞おうと剣を脇へ構えた。


炎纏(えんてん)竜爪閃(りゅうそうせん)!」


 命を奪うことになっても仕方ない。


 それほどの覚悟を持って繰り出した一撃だった。竜の爪を思わせる斬撃が飛び、三本に分裂してラファエルを襲う。


雷鋭(らいえい)竜飛閃(りゅうひせん)


 しかし相手も冷静だ。(いかづち)を纏った斬撃を繰り出し、攻撃を相殺して見せた。


 ラファエルは余裕を窺わせる顔で、リュシアンの姿をじっくりと観察している。


竜臨活性(ドラグーン・フォース)はどうした。まさか、炎竜の力だけで俺に勝てると思ってるのか。死ぬぞ」


 馬鹿にした物言いに、歯噛みしたのはシルヴィだ。想いを寄せる男が攻めあぐねる姿に、居ても立ってもいられなくなっていた。


 八つ当たりするように、側のレオンを睨む。


「ねぇ。リュシーも髪が銀色になる技を使えるわよね。なんで使わないの」


「それ、アンナも思ってた。いつもだったら、真っ先に使うはずなのに……」


「使えないんだよ」


『え?』


 ぶっきらぼうに言い放ったレオンの返答に、シルヴィとアンナが驚きの声を上げた。


「髪の変色は、竜の力を身に宿す影響です」


 ユリスが前方の戦いから目を逸らさずにつぶやくと、激しい剣の打ち合いが始まった。


 払っては防がれ、凌いでは払う。次々と繰り出される互いの剣撃は並の度合いではない。熟練の冒険者でもこの域に達することは困難であり、助けに入ることもできなかった。


「神竜ガルディアのお考えは、あの人が炎竜セルジオンの力を完全に掌握することです。竜の力に頼っていては、それを達成することはできません。やむなく、あの人が持つ竜の力を封印することにしたんです」


「力を封印されたままってことなの? じゃあ今のリュシーは、炎竜の力さえも完全に使いこなせていないってことよね」


「そういうことです」


 ユリスにも想定外の出来事だった。


 ブリュス・キュリテールとの再戦までに、すべての準備が整えばいいと考えていた。それがまさかこんな場所で、これほどの強敵と遭遇するとは思っていなかったのだ。

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