14 意味不明な言伝
声を掛けてきたレオンは、いぶかしげな顔をしている。他に聞かれたくない内容なのかもしれないと思い、エルザ司祭たちから離れた所へ移動した。
「どうした。何かあったのか」
「大したことではないかもしれないけど、伝えるだけ伝えておく。あんたの居場所を確認しようとギルドに行った時、本人を連れてきて欲しいと、窓口の職員に頼まれたんだ」
「冒険者ギルドが俺を探してるのか? 依頼はこなしたし、問題はないはずだ。俺に宛てた、別の緊急依頼でもあるのか?」
レオンは腕を組んだ姿勢で首を傾げた。
「依頼の類いではないみたいだ。説明を求めたら、あんたに宛てた言伝を預かっているという話だったけど」
「誰からのものかは言ってなかったのか」
「わからない。正式にパーティを組んでいる間柄なら教えてもらえたはずだけど」
「それについては色々と悪い。島へ戻るまでに決断するつもりだ。とにかく、ギルドへ顔を出した方が良さそうだな」
仲間たちの様子を伺おうと周囲へ目を向けると、近付いてくる兄と目が合った。
「君は……レオン君ですかね?」
「あ、はい……」
突然のことに、レオンは戸惑っているようだ。相手を確認した兄は満足そうな顔をして、爽やかな笑みを零した。
「よかった。ナルシス君やエドモン君から噂は聞いています。剣も魔法も腕が立つ、凄腕の剣士だと。称号は二物の神者、でしたよね。フォールの街での一件ではありがとうございました。君にも多大な迷惑をかけてしまってすみません。お陰で助かりました」
「いえ。当然のことをしたまでなので」
両手を使って包み込むように右手を握られたレオンは、どう対処していいのか戸惑っているようだ。人付き合いは苦手なようだし、人見知りする性格なのだろう。
「お元気そうで安心しました。長い間、洗脳の魔法に囚われて大変でしたね」
戸惑うレオンは面白いが、少し可哀想になってきた。それにギルドの一件も気になる。
「兄貴、ごめん。急用ができて、冒険者ギルドに顔を出さないといけなくなったんだ」
「そうなのか……せっかくレオン君とも親交を深められると思ったんだけれど残念だね。こっちは僕らに任せてくれればいいから。すぐに行ってきた方がいいだろうね」
「ごめん、ありがとう」
孤児たちと談笑するユリスを呼び、テントの側で親衛隊と寛ぐシルヴィさんとアンナを連れ戻した。そして、エルザ司祭と話し込むマリーとサミュエルさんを呼び寄せ、馬車で街まで戻ることにした。兄はマリーとも話をしたがったが、今は優先すべきことがある。
仲間たちと丘を下っていた時だ。この時を待っていたように、魔導通話石が受信を知らせる発光を漏らした。これは、ドミニクに預けている通話石の片割れだ。
「どうした」
『碧色様がすぐに出てくれて助かったよ』
ドミニクの安堵する声が漏れてきた。仲間たちにも聞こえるよう、拡声の音量を上げる。
「急いで知らせるようなことがあったのか」
『この間話した冒険者の件なんだよねぇ。神薙の武神って異名を持つ、アントワンさ。ようやく尻尾を掴んだんだよ』
「さすがだな。よくやってくれた」
朗報に、声が上擦ってしまう。
ようやくだ。フェリクスさんとヴァレリーさんの無念を晴らすためにも、奴を捕まえて情報を引き出してみせる。どんな手を使ってでもだ。
『今も仲間が尾行を続けてるんだけどね。王都の冒険者ギルドに寄った後、馬で街を出て移動を始めたらしいんだよねぇ。でも、ちょいと気掛かりなことがあってね』
「なんだ。早く言ってくれ」
『五人組って話はしたよねぇ。なぜかアントワンがひとりで動いて、それを見張るようにふたりの男がくっ付いてるって言うんだわ。四人の仲間たちにもふたりの男が付いて、貸し切りの馬車に乗せられたそうなんだよねぇ』
「見張り? そいつらの特徴はわかるか」
『そっちも冒険者みたいだねぇ。黒い鎧や黒い法衣を着てるって報告だよ』
「冒険者?」
どういうことなのかわからない。
「馬車と馬は、違う場所に向かってるのか?」
『どうやら、向かってる方向は同じみたいなんだわ。馬車の方が早くに街を出てる。北東へ向けて進んでるって話だねぇ』
「わかった。引き続き追ってくれ。何かあったら、すぐに連絡を寄越せ。頼むぞ」
落ち着かない気持ちのまま通話を終え、その足でオルノーブルの街へ戻った。
「リュシアンさん、ではここで一旦お別れしましょう。夜にまた」
「ええ。そうですね」
サミュエルさんと食事会の約束をして、冒険者ギルドの前で別れた。そうしてギルドの受付に向かったのだが、言伝の相手は思いも寄らない人物だった。
「アントワンが、俺に?」
噂話をしていたばかりの相手から連絡をもらうのも不思議な気分だ。
言伝が書き写された羊皮紙を受け取り、仲間が待つ建物の隅へ移動した。怖々と文面へ目を通したが、困惑が深まっただけだ。
「なんだこれ?」
短文が歌のように書き連ねられていた。
※ ※ ※
元気にしているか
月日を経ても心は癒えず
我慢の日々に別れを告げる
遙か遠くの獣を睨み
手にした斧を振り上げる
牙を折り、復讐を果たすのだ
苦肉の策はある
烈火の如く燃える心で
ありったけの一撃を叩き込む
問題はない
止めどない怒りに身を任せるだけだ
※ ※ ※
「どういうことなんだろうな」
意味がわからず、みんなに文面を見せた。
「元気にしているか、なんてさ。そもそも、アントワンとは会ったこともないんだぜ」
「何かの暗喩かも」
腕を組んでいたレオンは、右手で顎を摩る。
「復讐と書いてある。碧色に宛てたってことは、フェリクスさんに絡む話なのかも」
「ドミニクからの連絡の件もある。見張りのような相手が付いてるってことは、何かしらの制約を受けているのかもな……俺に助けを求めてるってことなのか? それにしたって、意味が通じない文章だよな」
「あたし、頭を使う作業は苦手」
シルヴィさんは早くも降参だ。
「レン君の言う通り暗喩の手紙だとしたら、こういうのはエド君が得意なんだよね」
何気なくつぶやいたアンナは、しまったという顔をして口を手で覆った。
「ナルシスと依頼をこなしてるって話だし、いつ戻ってくるかもわからない。あいつを当てにするつもりはねぇ」
「だよね。ごめん」
肩を落としたアンナを気遣い、マリーがその背に手を添えた。
「ほら。ここには六人もいるんですよ。みんなで考えれば何かわかると思いませんか」
「俺にも見せてもらっていいですか」
ユリスが身を乗り出してきた。
「父は昔から、外の世界に流通する色々な本を買い与えてくれたんです。文学や歴史だけでなく、謎かけの本も好んで読んでいたので、そういう類いなら俺も得意です」
しばらく目を通していたユリスだったが、おもむろに顔を上げて俺たちを見てきた。
「わかりましたよ。多分これで合っていると思います。俺には意味がわかりませんけど、皆さんなら知っているんじゃないですか」
「本当かよ!?」
あっけらかんとした顔のユリスを、呆然と見つめてしまった。





