表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.03 ムスティア大森林・洞窟編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/357

04 凍れる獣と、狂った天秤


「死にたい奴から、かかって来いだとぉ? なんなんだ、でべっ!」


 罵声と同時に距離を詰めてきた男の顔を、(さや)に収めたままの長剣(ロングソード)で殴りつけた。

 鈍い感触。顎が砕けたか、男は呻き声を漏らし、地面を転がるように逃げてゆく。


 間を置かず、五人が曲刀(シミター)を抜いて飛びかかってきた。


「命知らずどもが……」


 言葉より先に、手が動く。


「ほれ」


 転がしたのは閃光玉だ。


「ぐわぁっ! また、これだ!」


 一斉に悲鳴が上がり、賊は目元を押さえてのたうつ。


 また、ということは、ナルシスも同じ手を使ったのだろう。

 暗闇に慣れた目に、この閃光は致命的だ。


 迷わず踏み込む。

 薄闇を切り裂くように駆け、残っていた賊どもを次々に叩き伏せた。

 剣は振るうたびに確かな手応えを返し、抵抗する前に沈んでゆく。


「なんだ……こいつ……」


 恐怖に歪んだ声が上がる。


 答えず、青く染まった大サイズの魔法石を倒れた賊どもへ投げつけた。


 砕ける音。

 次の瞬間、氷が地面を這い、賊どもの首から下を一気に覆ってゆく。


 呻き声が重なり、やがて止まった。

 そこに残ったのは、凍りついた賊ども。汚らしい置き物だ。


 数は十体。

 年の頃は俺と大差ない。中には、十代にしか見えない顔もある。


 だが、同情は湧かない。


「寒みぃ……動けねぇ……」


「痛てぇ……頼む……」


 強力な大サイズだ。効果は数分は持続する。


「うるせぇぞ」


 低く言い放つ。


「その口にも魔法石をぶち込まれたくなきゃ、黙ってろ」


 静寂が落ちた。


 円陣の中心に倒れた人影へ向かう。

 肩まで伸びた波打つ金髪。派手な服。間違えようがない。


「ナルシス」


 後頭部に腕を差し入れ、慎重に上体を起こす。


 酷い有り様だった。

 切れた瞼から血が流れ、顔は腫れ上がっている。鼻血と口内の血が混じり、歯まで赤い。


「リュシアン・バティストか……」


 血の泡と共に、かすれた声が口から漏れる。


「すまない……僕の力では……姫を……」


 言葉が途切れ、悔し涙が滲む。

 握りしめた拳が、小刻みに震えていた。


「喋るな」


 短く言い、細身剣(レイピア)を肩から引き抜く。

 リュックから止血と痛み止めの軟膏が塗られた湿布を取り出し、前後から貼り付けた。


 応急処置だ。それでも、やらないよりはいい。

 血を流しすぎている。長引かせるわけにはいかない。


 落ちていたペンダントを拾い、ナルシスの手に戻した。


「すぐ終わらせる。ここで寝てろ」


 怒りが、底で煮え立っている。

 抑えなければ、剣が鈍る。


 深く息を吸い、吐く。


 そして、凍りついた賊どもへ視線を戻した。


「攫った女魔導師はどこだ」


 一拍の間を置く。


「答えないなら、首を落とす」


「リュシアン・バティストかよ……」


 賊のひとりが(あざけ)る声を上げた。


「おまえがロンブリックを()ったせいで、後始末が大変だったんだぞ」


「質問に答えろ」


 返事代わりに、鞘で顎を打つ。

 男は吐血し、気絶した。


「ひとりずつだ」


 そう告げた瞬間だった。


「はい、はい。そこまで、そこまで~」


 呑気な声と、軽い拍手が聞こえてきた。


 柱の陰から、のんびりとした足取りで男が現れる。


「ドミニクのお頭だ!」


「助かった!」


 凍りついた賊どもが、希望に縋るように声を上げる。


「気を付けろ……」


 ナルシスのかすれ声が警戒を促す。


「宿でやられたのは……あいつだ……」


「忠告、ありがとよ」


 小さく笑って返す。


 四十代半ばか。肩まで伸びた黒髪と、だらしない口髭。

 曲刃と、くたびれた皮鎧。

 こんな奴が頭とは、この一団もたかが知れている。


 だが、ラグは違った。

 左肩で牙を剥き、低く唸っている。


 強い、ということか。


「いやぁ、派手にやってくれたねぇ」


 ドミニクは肩をすくめ、凍った部下を眺めた。


「さすがは碧色の閃光様だ」


「俺を調べたのか」


「軽くね」


「なら降参しろ。さもないと、あんたが危険だ」


「おぉ、怖い。ただねぇ、大事な部下を手荒にされて怒ってんだわ」


 目つきが変わる。

 獲物を見る、魔獣のそれだ。


「賊ごときを手荒に扱って何が悪い。こっちも怒り心頭なんだ」


 鞘を捨て、純白の刃を解き放つ。


 踏み込みと同時に、心臓を狙う。

 だが、上体を捻って外された。

 突きが革鎧を掠める。


「くっ!」


 横薙ぎの一閃も、曲刀に受け止められた。


「そら、どうした?」


 刃をいなされ、反撃が襲う。

 短く、速い連撃。

 刀身も短く軽量な武器だ。小回りが効く分、タチが悪い。


「くそっ」


 受ける。流す。

 追いつかない。


 左腕に浅い痛み。


 だが、俺も黙ってやられたわけじゃない。

 皮鎧ごと斬り裂き、相手の脇腹にも血が滲んでいる。


 視線を上げると、ドミニクは笑っていた。


「笑ってんじゃねぇ。その顔を見るだけで腹が立つ」


 なぜか追撃は来ない。

 その隙に後退し、体勢を立て直す。


 曲刀が8の字を描いていた。

 洞窟の緑光を照り返し、生き物のように蠢く。


「曲芸でも始めるつもりか?」


「はいはい。威勢が良いのも、ここまでだわ」


 それは不思議な光景だった。

 曲刀の刃は洞窟内の緑光を照り返し、生きているように(うごめ)いている。

 刃が何本にも増えたような錯覚を起こす。


「がうっ!」


 ラグの声で、瞬きを繰り返す。

 まるで、幻視の魔法だ。


「そろそろ効いてきたんじゃないの?」


 嫌な予感がする。

 構え直そうとした瞬間、視界が傾いた。


 足が、言うことをきかない。


「何を……」


 剣を杖代わりに、かろうじて耐える。

 酔ったような感覚。世界が揺れる。


「ちょっとした悪戯だわ」


 羽音が聞こえた。

 洞窟奥から、大型の蝙蝠型魔獣、グラン・ショーヴが飛んできた。

 それも三体だ。


 ショーヴは超音波を操り、獲物の三半規管を狂わせる。


 理解が追いつく前に、腹へ強烈な蹴りを受けた。


 背中から、床に叩きつけられる。


「曲刀には痺れ薬が塗ってある。もうじき動けなくなるよ」


 ラグの気配が消えた。

 俺の体調に異変が起こると、存在を維持できなくなるのはいつものことだ


 むせ返りながら上半身を起こすと、賊どもを封じていた氷が溶け出していた。

 魔法石の効果時間が切れてしまったらしい。


「二つ名も、所詮は看板だねぇ。冒険者なんて、コツコツ続ければ誰でもある程度まで行ける。本当にご苦労さんだわ」


 横凪に振るわれてきた蹴りを、左腕でどうにか受け止めた。

 侮蔑(ぶべつ)の笑みを浮かべ、遙か上から覗き込んでくる。


 侮蔑の笑み。


「俺たちは、そこから頂いて生きてる。楽な方が賢いだろ?」


 ドミニクの頭上で、巨大なショーヴが舞う。


「俺がどうやって魔獣を操っているのか知りたい、って顔だねぇ。これ、俺のじゃないんだわ。依頼主の私物」


「依頼主?」


 困惑していると、氷から逃れた賊が近付いてきた。


「ドミニクさん、()っちまいましょうよ!」


「落ち着きなって。依頼主は殺すな、ってさ」


 そいつが、セリーヌを攫うよう指示を出したということか。

 それにしても、どうしてこいつらはショーブの超音波に耐えられるのか。

 眩暈が収まらない限り満足に動けない。しかも、身体に力が入らない。


 ドミニクは俺とナルシスを見比べ、歪んだ笑みを浮かべた。


「縛って金目の物を回収しろ。こいつを渡せば依頼完了だ」


 手下どもの歓声を受けたドミニクは、倒れたナルシスの顔を覗き込んでいる。


「こっちはオマケだ。始末しようかねぇ?」


 狂った歓声が広場を満たす。


「くそっ……」


 歯を食いしばる。


 まだだ。

 ここで終わるわけがない。


 必ず、立つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ