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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.12 フィクサル編

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08 凄いのはベッドの上だけじゃない


「落ち着けよ。職人たちをけなしてるわけじゃねぇ。彼らと同じように、力を抜いて取り組めって言ってるんだ」


「俺は、早く一人前になりたいんです。姉さんが抱えた重荷を少しでも請け負って、今より楽にしてあげたいだけだ」


「心配いらねぇよ」


 励ますように、ユリスの背中を叩いた。


「そのために、俺がいるんだ」


 いぶかしげな顔をしているが、彼には少しずつでも理解していってもらうしかない。


 テーブルを見渡せば、みんなも粗方食事を終えている。そろそろ本題に移る時間だ。


「さてと。それじゃあ、シルヴィさんとアンナからの報告をお願いします。俺たちが島に向かった後、闇ギルドの問題はどうなりましたか。エルヴェは、みかじめ料を定期的に払えば矛を収める、って話でしたけど」


「それなら問題ないわ」


 向かいで酒の入ったグラスを握り、シルヴィさんは微笑を浮かべている。


「お金は、ドミニクが上手くやり繰りしてくれてるから。軽く報告したけど、資産管理を徹底するために商人をふたり雇ったわよ」


「それについては問題ありません。助言までしてもらってありがとうございます。カンタンの商売も、かなり業績を伸ばしているって聞いてますから」


 ユリスもいる手前、突っ込んだ話はできないが、娼館経営はすこぶる順調らしい。


 シルヴィさんが知恵を出し、娼婦に着せる様々な衣装の貸し出しを始めた。これが客に大好評なのだという。もちろん、ヴァルネットの街に住む雑貨屋のボドワンさんを通じて、衣装を手配しているそうだ。


 加えて、これまでは一対一の接客が常識となっていた。しかし追加料金を払うことで、最大三名までの娼婦を呼べるよう規則の変更を行った。これも評判になっているという。


 更には、エミリアンの経営する酒場と業務提携を結んだ。娼婦自ら給仕を行い、店舗への誘い込みを行う他、両店舗の割引券を発行するなど、高い相乗効果を生んでいるそうだ。


 これらを聞きつけた近隣の娼館も同様の接客をはじめたそうだが、シルヴィさんは発案の権利を主張。同じ業務形態を認める代わりに、発案料として毎月まとまった額を吸い上げているという。


 俺も舌を巻く驚異的な経営手腕だ。シルヴィさんの新たな才能を見た気がしている。


「どう、あたしのことを見直した? 凄いのはベッドの上だけじゃないってことを、存分に思い知らせてあげるわ」


 シルヴィさんの視線が、一瞬だけ俺の隣へ向けられた。セリーヌとユリスを意識した発言であることは間違いない。


「商売は好調よ。このまま過去の売り上げを更新していけるなら、エミリアンとカンタンは排除するわ。問題ないわよね」


「ええ。遅かれ早かれ、俺もそうするつもりですから。闇ギルドの一件を隠していたことだって、このままにはしておけねぇ。それぞれの店の代表名義は、早々に俺だけのものに切り替えるつもりです」


「それを聞いて安心したわ。こっちの件は、また追って報告するから。それから、リュシーが知りたいのはジェラルドの件かしら。こっちも同じく順調よ。エドモンの解呪も成功して、日常生活を難なく送れるほど回復したわ。戦いの勘を取り戻します、って冒険者に再登録して、依頼をこなし始めてるわよ」


「は? 冒険者!?」


「そう。冒険者」


 あっけらかんと言われたが、こちらにしてみれば考えられない行為だ。


「まだ懲りてねぇのか……いい加減に親父の鍛冶屋を継いで、大人しくしてくれよ」


 呆れ果てて店の天井を仰ぐと、アンナの笑い声が聞こえてきた。


「リュー(にい)に大きな借りを作ったから、それを返すまでは辞められないんだって。竜を見たって言ったら、凄く羨ましがられたよ」


 他人事だと思っているのだろう。アンナはケーキを頬張り、吞気に笑っている。


「兄貴に竜の話は厳禁なんだよ……余計に火が付いて、止められなくなるだろうが」


「でもさ。ジェラルドさん、いいよね。アンナにも言葉遣いや対応が丁寧だし、物腰が柔らかくて怒らないもん。笑顔も素敵だし、すっごく爽やか。聖人って言われるの、わかる」


「そうそう。素敵よね。あたしの中で、抱かれたい男の第一位に急上昇よ。あんなお兄さんがいるのに、リュシーはどうしてこんな風になっちゃったのかしら」


 シルヴィさんの明け透けな発言を受け、怒りと嫉妬が胸の中に渦巻いている。


「兄貴が完璧すぎるから、反抗してこんな風に仕上がったんですよ、きっと。後を追ったって、絶対に適わねぇってわかってる」


 グラスを満たす酒に、自分の顔が揺らめいていた。なんだか泣いているようだと思った時、シルヴィさんからの視線を強く感じた。


「リュシー、嫉妬してるの?」


「嫉妬? 兄貴とは格が違いすぎて、そんな気持ちも起こりませんよ」


「安心して。あたしの中では、リュシーが一番っていうのは揺るがないから」


「でも、抱かれたいんですよね」


「そう」


「奔放すぎて、意味がわからねぇわ」


「そんなことないわよ。前にも言ったじゃない。優秀な男の子種を……」


「はい。それ以上はやめ!」


 他の面々にはとても聞かせられない。


「みんながそこまで言うなら、一度くらいは対話してみたいかもしれない」


 黙って食事をしていたレオンが、珍しく口を開いた。奴にまでそう思わせるとは、兄の人間性は凄い。


「俺も興味があります」


「私もです。何か大きな学びがありそうです」


 ユリスとマリーまで口々に言うものだから、なんだか誇らしい気持ちになってきた。


「身内が良く見られるっていうのも、案外うれしいもんだな。俺も、積もる話がある。みんなで食事の機会でも設けたいよな」


「島に連れて行っちゃえばいいのに。リュシーと一緒で、資格はあるんでしょ」


「まぁ、確かに」


「それは困ります」


 ユリスが即座に反発してきた。


「あなた方は特別だと思ってください。テオファヌ様から招待され、()(びと)たちは仕方なく受け入れたに過ぎません」


「そうか……まぁ、実際に島へ行って竜の群れなんて見たら、卒倒するかもしれないしな」


 残念だが仕方のないことだ。俺たちに、その規則を変える権利はない。


 酒を嗜み、甘味を楽しむ。思い思いの時の流れを破ったのはアンナだ。


「そういえばさ、アンナの報告はまだだったね。日誌に書いてあった、ブリュス・キュリテールの件、下調べは終わってるよ」


「何かわかったのか」


「うん。シル(ねえ)や傭兵団にも手伝ってもらったけどさ、色々わかっちゃったよ」


「聞かせてくれ」


 何の気なしに尋ねたが、そんな返事を聞かれては途端に期待が高まってしまう。

 はやる気持ちを抑え、テーブルに座る面々の顔を見渡した。


「みんなにも詳細は伝えてなかったからな。本当ならセリーヌにも聞いて欲しいところだけど、彼女には後で直接伝える」


 話を切り出す前に、自分でも内容を整理していく必要がある。


「事の発端は、オルノーブルの街でカンタンに雇われていた傭兵団と知り合ったことだ。団の名前は闇夜(やみよ)銀狼(ぎんろう)。ここいらは、ユリス以外は知っての通りだな。詳細は省くぞ」


 アンナの顔色を伺うが、変わった様子はない。今はもう、吹っ切れたと見るべきだろう。

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