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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.11 マルティサン島編

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24 思いがけない出会い


「なんだ、なんだ。剣の腕はいっぱしでも、酒にはてんで弱いんだな。それにしたって、あの力はすげぇな。それでも発展途上だって言うんだから、末恐ろしいもんだぜ」


 地の民のクロヴィスと言ったか。酒が入った途端、この人の絡みが鬱陶しい。馴れ馴れしく肩を抱いてくるのだが、筋骨隆々の体付きも相まって、ひたすら暑苦しい。


「クロヴィスさん、待ってください。俺はまだ、この人の力を認めていませんから」


「ユリスさん、飲み過ぎですよ」


「問題ない。俺は酔ってなんかいない」


 炎の民のヘクターにたしなめられるユリス。怒りをあらわにしているが、どう見ても深酔いしているのは明らかだ。


 目が据わり凶暴な顔付きになったユリスから、食ってかからんばかりに睨まれている。


「調子に乗らないでくださいよ。俺は知ってるんですからね」


「何を知ってるって言うんだよ」


 どうせ、ろくでもない噂だろう。


「コームさんが話していました。外の世界には、王国を救った救世主なんて呼ばれる剣士もいるそうじゃないですか。そんな人にかかれば、あなたなんて赤子同然ですよ」


「そうだろうな。上には上がいる。自分が最強だなんて、おごっているつもりはねぇよ」


「あ、そうですか……だったらいいんです」


 ユリスは拍子抜けしたように間抜けな顔を晒している。一方でヘクターからは、宝石のように綺麗な目を向けられていた。


 地の民クロヴィスにはなぜか気に入られ、炎の民ヘクターは俺を慕って付いてくる。ユリスには敵対視されているという、混沌とした状況だ。


「飲み過ぎた。少し夜風に当たってきます」


「おいおい。早く戻ってこいよ。一番の功労者がいないんじゃ盛り上がりに欠けるぞ」


 さりげなく席を立ち、宴の中心から離れた場所へ避難する。明かりや喧騒が遠ざかり、ようやく一息つける環境が整った。


「この島でも、早くも英雄扱いか」


「レオンか。驚かすなよ」


 誰もいないと思っていたら先客がいた。片膝を立てたレオンが、剣を片手に岩場へ腰掛けている。


「英雄なんてご大層なもんじゃねぇよ。みんなが奮闘した結果だろ」


「でも結局は、あんたの活躍が騒動を収めたことに変わりない」


「俺っていうか、セルジオンだけどな」


 咄嗟に苦笑が漏れた。


 竜たちが暴れ出した詳細は不明だが、力で押さえつける以外に方法がなかった。竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使った戦士たちと、セルジオンの力を行使した俺の相乗効果が功を奏した。騒ぎをどうにか納めたのは日没間際のことだ。


 それからすぐに宴の準備が始まった。料理や酒樽が運び込まれ、殺伐とした雰囲気が漂っていた闘技場は宴の会場へと姿を変えた。


 長たちは俺の活躍が面白くなかったのか、早々に姿を消してしまった。それでも、こうして親睦を深めようと努めてくれる人たちがいる。そのことが素直に嬉しい。


 宴はまだまだこれからだが、陽気にはしゃぐ人たちのほとんどが年配者だ。ブリュス・キュリテールや黒い鎧を纏った戦士たちの襲撃がなければ、()(びと)の現在もまったく違うものになっていたはずだ。


「さっき、テオファヌとウードが話しているのを聞いたんだけど」


「ウードって、風の民の継承者か」


 レオンは彼らと訓練を続けていることもあり、この一ヶ月で随分と馴染んだようだ。


「数日前、この島の上空を大鷲型魔獣が飛んでいたそうだ。この原因不明の騒動に関わっている可能性も零ではないってことだけど」


「大鷲型魔獣……」


 ふと、以前の戦いの記憶が蘇った。どうやらレオンも同じことを考えているらしい。


「終末の担い手の黒装束……セヴランって言ったか。あいつも大鷲型魔獣を操ってたよな」


「そういうこと」


「だとしてもだ。どうしてこんな回りくどいやり方をするんだ。偶然じゃねぇのか」


「そう願いたいけどね」


 レオンは不意に立ち上がり、剣を掴んで喧騒のただ中へ向かってゆく。


 らしくない行動だとその背を眺めていると、向かう先にマリーの姿を認めた。隣には、水の民の継承者であるイヴォンがいるのだが、マリーは露骨に嫌悪感を見せている。


「なんだかんだ言いながら、()(びと)っていうのも外の世界に興味津々なんじゃねぇか」


 とはいえ、理由はそれだけではないだろう。イヴォンとマリーは一歳しか変わらないはずだ。絵に描いたような美男美女。セリーヌに振られたイヴォンが、マリーに興味を持つのはおかしくない。


「まぁ早々に乗り換えるのも、軽い奴だと思われるだろうけどな」


 しかもマリーにはレオンが付いている。あのふたりの関係性もはっきりしないが、護衛のように付き従うレオンをかわすのは大変だ。


「他人のことを心配してる場合じゃねぇな」


 セリーヌを求めて視線を彷徨わせると、大勢の島民に囲まれているのが見えた。皆に慕われ、愛されている様がよくわかる。彼女がこの島を治めることになれば、案外うまくいくんじゃないかとさえ思い始めている。


「あの……」


 不意に声を掛けられた。

 視線を向けると、魔力灯に照らされながら近付いてくる年配夫婦の姿を認めた。


 共に六十代半ばといった所だろうか。警戒されているというより緊張しているように見える。初めて会ったはずなのに、どこか懐かしさのようなものを感じるふたりだ。


「どうしました? 俺に用ですか」


 努めて柔らかな声を出し、笑みを心掛けた。相手に敵意がないのはわかるが、わざわざ声を掛けてきた理由はなんだろうか。


「ほら。笑った顔なんてそっくり……」


 女性は涙すら滲ませ、隣に立つ男性の腕を握りしめている。男性は彼女の想いすべてを受け止めるように、大きく頷いてみせた。


「どういうことですか?」


「あら、ごめんなさい。つい……」


 言葉に詰まる女性。それを気遣った男性が、困ったような笑みを向けてきた。


「すまないね。妻がどうしても、あなたを近くで見たいと聞かなくてね」


「それは構いませんけど……」


「申し遅れたね。私の名前はジャンだ。こっちは、妻のオデット」


「どうも。リュシアン・バティストです」


 状況が飲み込めない。今日の騒動で、何か問題でも起こったのだろうか。


「神竜ガルディアならともかく、俺を見たって何の御利益もありませんよ」


「そんなことはないさ。私たちにはとても価値のあることなんだよ」


「はぁ……」


 困って頭を掻いていると、涙を拭った女性がようやく口を開いてくれた。


「あの子は……サンドラは元気? 勝手に島を出て行って、何の便りも寄越さないで」


「え!? サンドラって……え!?」


 凄まじい衝撃に襲われた。後頭部をハンマーで思い切り殴られた気分だ。

 ふたりの正体に困惑していると、ジャンさんは顔をしわくちゃにして微笑んだ。


「孫とこんな風に会うことになるとは思わなかったよ。しかもこれほど立派な青年だ。自分でもすべてを信じられないよ。ガルディア様と一緒で、数十年ぶりに目覚めた気分だ」


「確かに仰る通りだと思います。母さんが島を出てから三十年くらい経つんじゃありませんか。こんなに大きな孫が急に現れたら、それは誰だって驚きますよ」


「そうよね。今度はあの子も連れてきてちょうだい。お説教をしなくちゃ」


 オデットさんには母の面影がある。どこか懐かしさを感じた理由はそれに違いない。


「そういえば……」


 フォールの街で別れた際、家族の姿を魔力映写に収めていたことを思い出した。


「この腕輪に母の姿を記録してあるんです。ガラスや魔力板があれば投影や焼き付けもできますから、おふたりに差し上げますよ」


 思いがけない出会いに驚かされつつも、これまでの時間を埋めるように団らんの時間を過ごした。こうして島での夜は更けてゆく。


※ ※ ※


 時を同じくして、アンドル大陸の端へ一羽の大鷲型魔獣が着地した。その背に乗っていた三つの人影が地上へ降り立つ。


「神竜ガルディア。目覚めたという噂は本当だったようですね。マルセルさん特製の毒鱗粉(どくりんぷん)があったお陰で、存在も確認できました。竜にしか効かないという特殊な配合も、あなただから成せる技ですね。恐れ入ります」


 黒装束に身を包んだセヴランは、海岸線を伺いながら満足したようにつぶやいた。


「若き竜にしか効かなかったのは誤算だけれど、結果を残せただけ良しとしてくれ……それにしても、長距離移動は老体にこたえる。あの馬鹿弟子が生きていれば、僕が出るまでもなかったのだがね」


 マルセルと呼ばれた老人は、手にした魔導杖(まどうじょう)へ寄りかかるように体重を預けた。

 漆黒の法衣に身を包んでいるが、骨と皮だけのような体だ。着こなすというより、引きずっていると言った方が近いだろう。真っ白な頭髪は大半が抜け落ちて地肌が見え隠れしているが、目付きだけは異常に鋭い。年老いて尚、強い信念を秘めている様が窺えた。


「ユーグさんのことは残念でした。碧色の閃光。()(もの)も早めに叩くべきですね」


「とはいえ、馬鹿弟子が王都に仕掛けた功績だけは認めてやらなくてはならないがね」


 ふたりのやりとりを耳にして、毛皮の上着を羽織った男が忌々しく舌打ちを漏らした。

 逆立つような黒の短髪と、筋肉質の体付きが印象的だ。素肌を晒した上半身に毛皮を羽織り、ピアス、ネックレス、ブレスレットに至るまで装飾品すべてが銀製。強いこだわりを感じさせる人物だ。


「だから碧色だけでも仕留めるべきだったんだ。あんなどうでもいいもんを持ち帰って来いなんて、俺のやることじゃねぇだろうが」


「デニスさん、そう言わないでください。あれはあれで必要なことだったのですから」


「あぁ……今すぐ暴れてぇ。じっとしてるなんて性に合わなくてな。神竜だって弱ったままなんだろ。ぶっ殺してやりてぇよ」


「うひひひひ。殺してしまっては意味がない。弱ったまま生き長らえてもらわなければ、我々に益がなくなってしまう」


 老魔導師マルセルの言葉を受けながらも、デニスと呼ばれた男は不満を隠さない。それをなだめようと、セヴランが視線を向けた。


「デニスさん、もうしばらくの辛抱ですから。我々の計画も最終段階に入ります。このアンドル大陸が血に染まるのも時間の問題です」


 彼らが立つ岸壁に、波が押し寄せては砕け散る。それは待ち受ける未来か。はたまた人々が流す血を暗に示すのか。


 暗くて深い海のように、その先を見通すことなど誰にもできはしない。

QUEST.11 マルティサン島編 <完>


<DATA>


< リュシアン・バティスト >

□年齢:24

□冒険者ランク:L

□称号:碧色の閃光

[装備]

恒星降注レセトール・エフィス

スリング・ショット

冒険者の服

光纏帷子ブレル・チューンヌ

炎竜の首飾り


挿絵(By みてみん)



< セリーヌ・オービニエ >

□年齢:23

□冒険者ランク:なし

□称号:使命遂行の戦士(仮)

[装備]

悠久彷徨エトゥーラ・クネルト

蒼の法衣

神竜衣プロテヴェリ

タリスマン


挿絵(By みてみん)



< シルヴィ・メロー >

□年齢:25

□冒険者ランク:S

□称号:紅の戦姫

[装備]

斧槍・深血薔薇フォンデ・ロジエ

深紅のビキニアーマー


挿絵(By みてみん)



< アンナ・ルーベル >

□年齢:22

□冒険者ランク:A

□称号:神眼の狩人

[装備]

双剣・天双翼パラディル・エージュ

クロスボウ・夢幻翼レーヴ・エール

冒険服

胸当て


挿絵(By みてみん)



< レオン・アルカン >

□年齢:24

□冒険者ランク:S

□称号:二物の神者

[装備]

深愛永劫エテル・シェルネ

軽量鎧


挿絵(By みてみん)



< マリー・アルシェ >

□年齢:18

□冒険者ランク:B(仮)

□称号:アンターニュの聖女(仮)

[装備]

聖者の指輪

白の法衣



< コーム・バシュレ >

□年齢:55

□冒険者ランク:なし

□称号:熟練の剣士(仮)

[装備]

長剣

軽量鎧



< ヘクター・アルベール >

□年齢:15

□冒険者ランク:なし

□称号:炎の候補者

[装備]

炎竜の鞭

短剣



< イヴォン・デカルト >

□年齢:18

□冒険者ランク:なし

□称号:水の継承者

[装備]

水竜の槍



< バルテルミー・ドリーブ >

□年齢:60

□冒険者ランク:なし

□称号:雷の継承者

[装備]

雷竜の魔導杖



< ウード・アゼマ >

□年齢:57

□冒険者ランク:なし

□称号:風の継承者

[装備]

風の長弓



< クロヴィス・マルケ >

□年齢:53

□冒険者ランク:なし

□称号:地の候補者

[装備]

地竜の戦斧



< ジャメル・バルゲリー >

□年齢:58

□冒険者ランク:なし

□称号:光の候補者

[装備]

光竜の剣

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