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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.11 マルティサン島編

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21 竜の力を掌握せよ


 ガルディアはゆっくりと神殿内を見回した。その右目が、俺、レオン、セリーヌ、マリーの姿を順に捉えてゆく。


『訓練の期間中、汝たちにはこのグランド・ヴァンディの山頂で生活してもらうことになる。島で暮らすとなれば、民たちの中にも良い顔をせぬ者もおろう。但し、()(びと)だけは別だ。島と山頂との行き来を認めよう』


「承知しました。ありがとうございます」


 セリーヌは深々と頭を下げる。それを見届けたガルディアは、こちらへ目を向けてきた。


『汝には現炎竜王、ヴィーラムを紹介してやろう。神殿の外で待っているはずだ。まずはセルジオンの力を完全に掌握してみせよ』


「セルジオンの力を?」


『それが第一段階だ。我が思い描く領域へ辿り着くには欠かせぬ行程だ。現炎竜王となれば相手に不足はあるまい。セルジオンも躍起になるであろう』


「それはそうかもしれませんけど……」


 暴れ馬のような、あの力を掌握する。そんな未来がまったく想像できない。


「レオン君は、僕に指導させてください」


 青年の姿をした風竜王が声を上げた。口元には笑みが浮かび、新しい玩具を手に入れたように興味深い目を向けている。


「望むところだ。強くなれるなら、誰が指導者でも構わない」


「ですが、竜王様が特定の者に入れ込むのは問題があるのではありませんか。竜臨活性(ドラグーン・フォース)の継承者もいらっしゃるのですから」


 テオファヌとレオンの会話に割り込んだセリーヌは気まずそうな顔を見せている。しかし当の本人は、涼しい顔でディカを一瞥する。


「それはこの島の中だけの規則だ。外の者に肩入れするのは何の問題もないさ」


「テオファヌ様。責任をなすり付けようとは酷いではありませんか」


 たまらずディカさんが声を上げるが、テオファヌは状況を楽しむように微笑んでいる。


「俺にはさっぱりわからねぇけど、竜王から指導を受けることの何が問題なんだ?」


「竜王様は自らの属性を信仰する民の中からひとりを選び、竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力を授ける習わしなのです。継承者は三年ごとに見直されます。その年に功績を挙げた者が候補者となり、現在の継承者を含めた中から検討が行われます。今年は私の婚姻の儀が持ち上がったことで、新たな候補者が選別されました」


「さっきの六人っていうことか」


 セリーヌに問い返すと、ひとつ頷いた。


「ということはセリーヌも、ジャメルっていう男と竜臨活性(ドラグーン・フォース)の継承権を争うのか?」


「そうなりますね。ですが、次の審議まで半年以上あります。更なる候補者が出てくる可能性もないとは言えません」


「随分と吞気な物言いだな。万が一、竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力を失えば、災厄の魔獣を倒すための手段まで失うことになるんだぞ」


「心配ご無用です。(わたくし)もこの力を譲るつもりはありません」


 セリーヌが力強く断言すると、ユリスの口から大きな溜め息が零れた。


「だから、戦う役目は俺が引き受けると言ってるじゃないか……頑固な性格の上に、光の民からは絶大な信頼を寄せられている。セリーヌから権利を放棄してもらわないと、いつまで経っても継承権が回ってこない」


「そんなに褒められても困ってしまいます」


「褒めてないから」


 照れ隠しに両手の指先を遊ばせているセリーヌを可愛らしく思ってしまう。ユリスは呆れ顔をしているが、抜けているのは島の中でも変わらないようだ。


『汝たちの心配は杞憂だ。訓練にはすべての候補者を参加させる。来るべき時に備え、戦力は多いに越したことはない』


「合同訓練っていうことですか?」


 ガルディアは黙って頷いた。


「あの……ちょっといいですか?」


 マリーが申し訳なさそうに声を上げた。


「一年の間、衣食住はどうなるんでしょうか。緑が豊富なので食料には困らなそうですが、この神殿は屋根があるだけで野ざらしです。生活するには向かない気がします。共同生活となれば尚更問題がありそうですけど」


「マリーさん、大丈夫ですよ。側の森の中には小川と洞窟がありますから。洞窟の中は整備され、小部屋のようにいくつも部屋が作られているのです。温泉が用意されている部屋もありますよ」


「温泉!? 洞窟温泉なんて素敵ですね」


 死んだ魚のような目をしていたマリー。その顔が途端に輝き始めた。


「女神様と毎日混浴だなんて、考えただけで鼻血が出てしまいそう」


「衣服も必要なものがあれば、私が街から調達してまいります」


「え!? 女神様自らなんてそんな……だったら私が我慢すればいいだけの話です」


「マリーさん、私たちは仲間なんですから。遠慮は無用というものです」


「あぁっ。女神様の優しさにとろけてしまいそう……私はもう、この身をすべて捧げます」


 マリーには、セリーヌの背後へ後光でも見えているのだろうか。まぶしさを遮るように手をかざし、圧に耐えようと腰を落として身構えている。


 どうしていつもこんな展開なのか。


「マリー、おふざけは終わりだ。で、俺とレオンの方向性は決まったけど、セリーヌとマリーはどうなるんだ」


『そこで私の出番というわけだ』


 光竜王であるアレクシアが鼻息を荒くする。


『ガルディア様がお目覚めになり、光の加護が強さを増した。竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力も安定することだろう。セリーヌを鍛え直し、その強さを更に引き出すことができる。外の者も潜在的な魔力は申し分ない。これもプロスクレ殿の恩恵によるものか……その力を更に引き上げてみせると約束しよう』


 アレクシアは、ガルディアに目を向けた。


『ガルディア様。プロスクレ殿といえば、次の水竜女王の選定が必要です。私の見立ててでは、ベルオーナが相応しいかと』


『任せる。この後、その者を連れてまいれ』


『承知しました』


 彼らの思念を聞きながら、側に立つセリーヌへ近付いた。


「水竜だけ、代々女王なのか?」


「はい。島を覆う霧の結界は繊細な魔力制御が必要なのです。雌の方が細やかな作業に適していると言われており、代々雌竜が王位を継ぐことが習わしになっているのです」


「知らなかったよ。竜にも性別による得手不得手があるんだな。これはもう、動物の本能みたいなものなのかな」


「そうかもしれません」


 セリーヌと微笑みあいながら、事が順調に運んでいることに安堵していた。水竜女王が継がれれば霧の結界も再生する。後はブリュス・キュリテールとの再戦に向け、やれるだけのことをやるだけだ。


 話がまとまった矢先、ディカさんとユリスがこちらへ近付いてくるのが見えた。


「儂らはおまえたちを認めたわけではない。この島の者たちは外の者たちを決して受け入れはせん。心しておけ」


 ディカさんの睨みを受けようと、俺の決心が揺らぐことはない。


「ガルディア様の言葉を忘れましたか? きちんと結果で示してみせますよ。災厄の魔獣は俺が必ず倒します。その時こそ本当に、セリーヌへ自由を与えてあげてください」


「言うだけなら誰でもできる」


 ディカさんは足早に去り、ユリスが無言で付き従ってゆく。神殿の外には、飛竜が降り立ってくる姿が見えた。

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