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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.11 マルティサン島編

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18 隠されてきた真実


「冗談、ってことはないんですよね?」


『汝が、我の分身を大事にしてくれていたことは百も承知だ。我がこの島へ放っていた、魔力の網に掛かってしまったのだ。別れの言葉を交わすことは叶わなかっただろうが、分身の記憶と経験は我へと引き継がれている。汝から受けたこれまでの恩は決して忘れん』


「だとしても、ですよ」


 こんな急展開に納得できるはずがない。


「他人からは見えないとはいえ、苦楽を共にしてきた家族のような存在だったんです」


 俺の言葉を理解して反応する知能は、下手な人間よりよほど有能に思えていたほどだ。


『汝が言いたいことはよくわかる。しかし、こうして一体化してしまった以上、再び分かれることは不可能だ』


「そうですよね……」


 心と体の一部をもぎ取られてしまったようにつらい。ガルディアの中に生きているとはいうが、ラグの命を奪われたも同然だ。


 伝説の存在に出会えた喜びより、ラグを失った悲しみが大きすぎて考えが追いつかない。遠くのガルディアより、近くのラグ。この場で俺だけが浮いているように思えた。


 気持ちのやり場を持て余していると、身じろぎするアレクシアの姿が目に付いた。


『人間よ。あまりガルディア様を困らせるでない。それでなくとも、永き眠りより目覚められたばかりだというのに』


 思念が飛んできたが、戸惑っているのは明らかだ。どうしていいのかわからずにいる。

 ディカさんとユリスは我関せずという顔で、傍観を決め込んでいるようだ。


「ラグ、というのは何なのですか?」


 沈黙に斬り込んできたのはセリーヌだ。

 俺の様子を見かねたのか、不安げな色を瞳にたたえている。彼女にこんな顔をさせてしまっている自分が情けない。


「ガルディア様の思念体のようなもの、って言えばわかりやすいか。他人からは見えない存在とずっと一緒にいたんだ。俺が竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使うための引き金にもなってたんだ……っていうことは、俺はもう竜臨活性(ドラグーン・フォース)を」


『それについては我にも考えがある。詳細は後に語るが、竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力は封印させてもらった。汝がこの力を持つに足る者か、今一度見極めさせてもらう』


「封印って……」


「見極める必要がございますかな?」


 ディカさんが話に割り込んできた。ガルディアの前ということで感情を抑えてはいるが、不満がありありと滲んでいる。


「外の者に、引き続きガルディア様の御力を貸し与えるというのですか。島の者から新たな契約者を選ぶべきです。幸い、ここにはユリスもおります。私から見ても適任です」


『ガルディア様の決定に異を唱えるのか』


 アレクシアの指摘を受け、ディカさんは顔の前で慌ただしく右手を振る。


「滅相もない。ですが、外の者に力を持たせるというのは不安なのです」


 すると青年の姿をしたテオファヌが、ゆったりとした足取りで歩み出てきた。


「ディカ。守り人たちが外の者を拒絶するのはわかる。でもね、彼らがこの島に立ち入っている時点で資格は充分に備えている。このリュシアンもそうだ。()(びと)の血を受け継ぎ、ガルディア様と僕が認めた。セルジオンまでもが力添えを惜しまない人物なんだよ」


「たとえそうだとしても、我々はすんなり受け入れることはできかねます」


『万人が納得する方法などありはしないのだろうな。今は我の話を黙って聞いているだけでいい。この思念は島中すべての者にも伝わっている。我々の会話が終わった後で、各々の考え方がどうなっているかが肝要なのだ』


 ガルディアは残された右目で、こちらをじっと見つめてきた。


『では次の話に移るとしよう。汝にはどこから話すべきか迷っていた。なにを知りたい』


「知りたいことは色々ありますけど……今はラグを失った事実がつらすぎて、なにも頭に入ってこなくて……後ではだめですか?」


『我には時間がない。改めるとなれば、知りたいことはわからぬままになると思え』


 相変わらず一方的なやり方だ。こんな強引な性格でも神竜と崇められているのだから、相当な統率力を持っているのだろう。


「ですが、ガルディア様……」


 助け船を出してくれたセリーヌを、片手で遮った時だった。


「ぬるいんだよ。碧色」


 レオンの落胆の息が神殿へ響いた。


「ここが戦場でもそんなことを言うつもり? 敵は待ってくれない」


「レオン様、今は戦時ではないんですから」


 マリーが珍しく俺の味方をしてくれたが、レオンは彼女にさえ鋭い視線を向ける。


「だから、それがぬるいって言ってるんだ。仲間の屍すら踏み越えるくらいの覚悟がないなら、冒険者を辞めるべきだ。あんたたちは戦うことの意味を軽く考えすぎなんだ」


 そこへ、テオファヌの失笑が漏れた。


「君たちは実に面白い集団だ。輪に染まりきらないレオンも嫌いではないよ」


「馴れ合うつもりはないって、常日頃から言ってるつもりだけど。俺は魔獣のいない世界を実現するために、利用できるものはすべて利用させてもらうだけだから」


 レオンの言うことはもっともだ。セリーヌでさえロランとオラースの死を乗り越え、気丈に戦い抜いたのだ。ここで俺が不甲斐ない姿を晒し続けるわけにはいかない。


「わかりましたよ。俺も大人だ。感傷に浸っている暇がないことくらい理解しています」


 大きく息を吐き、気持ちを落ち着ける。ラグはあるべき所へ帰った。そう思えば心の痛みも多少は和らいだ。


「知りたいことは色々あります。まずは、すべての発端です。なぜ竜たちは、人間の前から姿を消したのか。その理由を知りたい」


『うむ。まずはそこからか』


 これまで、知りたいと望みながらも近付くことができなかった核心。それがついに明かされる時が来た。


『今でこそ汝らの世界で当たり前のように扱われているが、魔法と呼ばれる力は元々、我々が人間に授けたものだ』


「その話は聞いたことがあります」


 蝶の仮面と不快な笑い声が脳裏をよぎる。


『竜の生き血を飲ませることで、魔力に目覚める者が現れた。力はまれに子孫へ受け継がれ、人間へ徐々に力が浸透していった』


「生き血が必要というのは初耳です」


 ガルディアは黙ってひとつ頷く。


『人間は我々を、神のようだと崇めた。竜信仰の始まりと言えよう。竜の平均寿命は五百年。人が反映してゆく様を数千年もの間、側で見守ってきた。炎の力で煮炊きが容易になり、水の力は恵みを生んだ。土の力は大地を耕し、(いかづち)の力は害獣を打ち払った。光の力は悪意を貫き、闇の力は不都合を覆い隠した』


 苦しげに唸ったガルディアは、不意に目を閉じた。


『しかし、行き過ぎた力は争いの火種となった。魔力を持つ者と持たざる者という、身分の差が生まれた。それだけならば可愛いものだったのかもしれぬ。人口が増え、領土問題が発生した。領地拡大と資源確保を目的に、人々は戦争を始めたのだ。そこからだ。魔法の力が争いに使われるようになったのは』


「そんな経緯があったんですね」


『そして人間たちの争いは、思わぬ形で飛び火してきた。更なる力を望み、竜の生き血を求める声が各地で上がったのだ。各国の王たちが竜狩りと称し、人間は竜へ牙を剥いた』


「竜狩り……なんて馬鹿なことを」


 隠されてきた真実はあまりに生々しい。人間たちの尽きることない欲望が原因となり、竜たちを追い込んでしまったのだ。

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