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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.02 ムスティア大森林編

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12 月下の決闘


「大体、魔導師のクセに露出が高過ぎるんだ。なんなんだ、そのけしからん法衣は?」


 言った瞬間、セリーヌの白い頬が一気に耳まで染まった。


「その……以前に立ち寄った街で……これが売れないと、今日食べる物にも困ってしまうと、商店の男性が泣いていらしたもので……」


「売り付けられたのか? だったら買うだけ買って、着なきゃよかっただろ」


「それが……(わたくし)の着ていた物を下取りさせて欲しいと仰られて……商店の奥で着替えをさせて頂き、差額分をお支払いしたのです」


「それってさ……」


 どこまで純粋なんだ。完全に騙されている可能性どころか、下手をすれば覗かれている。


「そんなことはどうでも良いのです!」


 純白のローブをかき寄せていた手を離し、拳をぶんぶんと振るセリーヌ。揺れる胸元へ視線が勝手に吸い寄せられる。


 落ち着け俺。


「こうなれば、今晩お時間をください」


「はい?」


「二十二時。街の南門を抜けた河原でお待ちしております。その装備でいらしてください」


「装備? なんでだよ」


 てっきり告白でもされるのかと思ったら、まさかの装備指定。予想の斜め上だ。


「詳細はその時にお話しします。ですが、その前にひとつだけ……」


「え?」


 不意に両頬を包まれた。

 焼けるような指の温度。黄金色の光を帯びた瞳が、まっすぐ俺の奥底を射抜く。


竜眼(りゅうがん)


 その言葉とともに、意識は闇に沈んだ。


※ ※ ※


 気付いた時には、冒険者ギルドのソファに横になっていた。介抱してくれていたシャルロットによれば、突然に俺が倒れたと、セリーヌが助けを求めてきたのだという。


 ルーヴ戦に続いて二度目。セリーヌとの夜の約束だけ覚えているのに、大森林でのアレニエとの戦いがはっきり思い出せない。


「どうなってんだ?」


「がう?」


 ラグが心配そうに首を傾げた。


※ ※ ※


 その夜。言われた通り河原へ行くと、月明かりの下、川面を眺めるセリーヌの後ろ姿があった。


 銀色の光が彼女の髪を縁取り、淡い霧のような風がふたりを包む。まるで世界がこの一瞬を隔離したかのようだ。


「話って何だ?」


 振り返ったセリーヌの瞳には、揺るぎない意思が宿っていた。


「先にお伝えしておくことがあります。(わたくし)は竜眼と呼ばれる力を行使することができます」


「竜眼?」


「はい。使用した相手の記憶を書き換える力です。二十四時間以内の記憶に限られるという制限付きではありますが」


「なんなんだよ、それ……」


 そんな話を簡単に信じられるはずがない。


「あなたには既に二度、この力を行使しています。正体を掴み損ねているものですから」


 その言葉が、胸の奥をざらりと撫でた。


「俺の、正体?」


神器(じんぎ)竜臨活性(ドラグーン・フォース)を操りながらも、突然にその力を手に入れたと仰いました。それはつまり、一族の者ではないということですよね?」


「は?」


 一方的に知らない情報が流れ込んでくる。


「すみません。神器も竜臨活性(ドラグーン・フォース)も、あなたの記憶から消し去っていたのですね。私が竜術と呼ばれる力を使えることさえも……その剣は神器と呼ばれる秘宝。正しき名は、神竜剣(しんりゅうけん)ディヴァイン。そして、銀の髪へ変わる身体強化の力が、竜臨活性(ドラグーン・フォース)と呼ぶものです」


「待ってくれ! 理解が追い付かねぇ」


 こいつは、何をどこまで知っている。


「あなたの行動を観察していました。食堂で働く合間に人助けを兼ねた依頼遂行。『災厄(さいやく)の魔獣』を探す素振りは微塵もありません」


「災厄の……魔獣?」


「やはり、ご存じないのですね。我々の島を突如襲った、あの恐ろしい巨大魔獣を……」


 落胆をまとった声。胸がざわつく。


「ここへお呼び立てしたのは、その剣、神竜剣ディヴァインについてです……熟考しましたが、あなたに持たせておく訳にはいきません。その資格があるか勝負してください」


「勝負って……本気か?」


「本気でなければ、こんな時間にお呼び立てしません。私が勝ったら、その剣を渡して頂きます」


「俺に勝てると思うのか?」


「私が負ければ、知っていることをすべてお話し致します。その上で、身も心も、好きなようにして頂いて構いません」


 心臓が跳ねた。だが、今は流される時じゃない。


「俺だって、この剣を手放すわけにいかないんだ。他に納得する方法はねぇのかよ?」


「ありません。その剣を持つ資格があるか、ないか。知りたいのはそれだけです」


 即答だ。揺らぎはない。


竜臨活性(ドラグーン・フォース)は使いません。疲弊している今、あの力は制御しきれませんから」


「そりゃ大盤振る舞いだな」


 こちらも疲労困憊だ。竜の力は一日一度が限界だと決めている。


「きゅうぅん……」


 左肩の上で、ラグが困ったように鳴いた。


「では……始めましょう」


「どうあっても戦うしかねぇのか」


 杖を構えるセリーヌ。その姿に覚悟がにじむ。もう後戻りはできない。


「手加減は無用です。本気で来てください」


「怪我しても責任は取れねぇぞ」


「負けません。むしろ本気で来なければ、あなたが命を落としますよ」


 殺気を帯びた視線が突き刺さる。呼吸を整え、剣を握り直す。汗がにじんだ。


 肩から飛んだラグを合図に、突進する。


 狙うはセリーヌの杖だ。あれを奪えば魔法は使えない。彼女を無力化できる。


雷竜轟響(ヴォロンテ・トネール)!」


 眼前へ真一文字に広がる紫電(しでん)

 これが竜術という力か。僅かでも触れたら、間違いなく電撃の餌食だ。


 俺は黄色の魔法石を紫電へ投げ込み、一気に相殺した。


地竜裂破ヴォロンテ・ラ・テール!」


 俺の動きを読んだように、矢継ぎ早に繰り出される。いくらなんでも異常な顕現(けんげん)速度だ。しかも、無詠唱でこの威力だ。


 地面が爆ぜるように隆起し、土壁が俺を飲み込む勢いで迫った。


「くそっ!」


 大地に干渉する力だ。

 同じ魔法でも使用者の想像力次第で展開効果が変わる。攻撃を予想することは困難だ。


 横へ飛び、迫り来る土壁をやり過ごす。直後、立ち上がる前に炎の渦が迫っていた。


「ぐあぁぁぁっ!」


 全身を焼く熱。息すらできない。転げ回る身体。死の影が体温を奪っていく。


 腕輪の魔力障壁(プロテクト)は赤。煙が上がる俺を見下ろし、セリーヌが静かに歩み寄ってくる。


「いかがですか。無力さを思い知りましたか? 降参し、剣を渡すというのならば、命までは奪いません」


 不意に投げかけられた暴言の刃。それが絶対零度の冷たさを帯び、一切の情け容赦もなしに心へ深く突き刺さる。


 だが、その一言が俺の闘争心へ火を付けた。体内に燃料を注ぎ込まれた気分だ。


「無力だって? ふざけんな! 勝負はまだこれからだ」


 ふらつく足で立ち上がり、剣を再び構える。

 絶対に、こんな所で負けられない。


「吠え面をかかせてやるよ」


 セリーヌへ駆けながら、左手に握っていたものを投げつける。立ち上がる最中、腰の革袋から抜き出しておいた閃光玉だ。


「きゃあっ!」


 闇を裂く閃光。咄嗟に腕で顔を覆うセリーヌ。その足元に雷の魔法石を叩きつける。


「あぁぁぁっ!」


 痙攣する身体。胸元まで震えが走り、ローブの陰で豊かな膨らみが波打つ。女性相手に気が引けたものの、情けはかけられない。


 間近に迫り、両手で握られた魔導杖(まどうじょう)を掴み取った。

 しかし、杖はまるで彼女の身体の一部のように離れなかった。

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― 新着の感想 ―
うーむ。主人公って最強なの? 弱くね
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