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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.10 フォール編

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27 最高の舞台


「相手は二十分以内にと言っていましたが、どのようにして居所を探るおつもりですか?」


 不安を滲ませるセリーヌを安心させようと、その言葉を一笑に付した。


「任せろ。炎竜王がタリスマンの魔力を捉えてる。モニクの居所は東門を出た先だ」


「がう、がうっ」


 ラグが得意げになって肩の上で吠えた。


「そんなことまでわかるのかい」


「リュー(にい)、凄い。どうしちゃったの!?」


「最高。今すぐ抱いて」


 ナルシスとアンナの称賛はわかるが、シルヴィさんの言葉だけは何かが違う。

 ひとまず一同の言葉を無視して、セリーヌへ目を向けた。


「短剣を魔導触媒(まどうしょくばい)にして、風の移動魔法を全員に頼めるか。一気に方を付けてやる」


「それは構いませんが、杖を一刻も早く取り戻したいというのが本音です。おそらく、この短剣では(わたくし)の力に耐えきれません」


「まぁ、そうなるよな」


 今更だが、再会した時に使っていた杖を取っておくべきだった。新しいものがあるのだからと、マルトンの街で売ってしまったのだ。


空駆創造(ラクレア・シエル)!」


 セリーヌの言葉と共に、俺たちの膝下を緑色の魔力光が包み込んだ。体が格段に軽く感じる。風の移動魔法が上手く発動したようだ。


「セリーヌから離れすぎるなよ。効果範囲を外れると魔法が消えるからな。親父もすまないけど、この白馬と街の人のことを頼む」


 びゅんびゅん丸は残していくことにした。怪我をしている父にこの場を任せるのも不安だが、今はこれしか方法がない。


 鎮火した街並みを駆けてゆくと、改めて今回の惨状を思い知らされる。変わり果てた光景が胸に痛い。無事に逃げおおせた人はどれだけいるのだろう。


 モニクが何を思ってこんなことをしたのかはわからないが、徹底的にやり返さなければ俺の気がすまない。


 そしてまだ、肝心なことをみんなに伝えていない。当然、後ろへついてきていることを前提に、視線を動かさぬまま口を開いた。


「親父がいたから話せなかったけど、みんなには先に伝えておく。黒い全身鎧のドゥニール……あいつの中身は兄貴だったんだ」


 みんなの緊張が背中へ伝わってきた。


「モニクに洗脳魔法をかけられてるらしい。呼び掛けても反応がなかった。完全に操り人形だ。兄貴とモニクのことは俺が何とかする。みんなは取り巻きを抑えて欲しい」


「取り巻きの中には、アンナの知り合いもいるの。傭兵団、銀の翼から抜け出した人なんだけど、闇ギルドと繋がってるって言ってた。たぶん、他の仲間も同じだと思う」


「闇ギルドか……あいつらの頭は、オレールっていう金髪の剣士だ。闇ギルドでも下っ端ならいいんだが、幹部のような存在だと、後で面倒なことになりそうだな」


「目的のためには手段も問わない、なんて話も聞くわね。それこそ、リュシーが現在の拠点にしてるヴァルネットの街が、ここの二の舞にならないとも限らない」


 シルヴィさんの言葉に悪寒が走った。俺はとんでもない相手に手を出そうとしているのかもしれない。


「それだけは何としても避けないと」


「オレールだっけ? その男を捕まえて、徹底的に思い知らせるしかないんじゃない?」


 シルヴィさんの言葉で、眼光を鋭くしたフェリクスさんの顔が浮かんできた。

 あの人も普段は飄々としていたが、ここぞという時は徹底的にやる人だった。それを見習って、行動に移す時が来たのだろう。


「いつかフェリクスさんにも言われたな。抵抗する意思をへし折るくらい痛めつけろって……よし。あいつだけは生け捕りにしろ」


 決意と共に言い放ち、目的の場所へ急ぐ。


* * *


 リュシアンたちが先を急いでいる頃、モニクたちも合流を果たしていた。

 拡声魔法の範囲を絞り、息を潜めるようにしてリュシアンたちの到着を待ち侘びている。


「ジェラルド? どうしてあなたが……」


 驚愕におののくサンドラの顔を目にして、モニクはたまらず吹き出した。


 この瞬間のために生きている。見る者にそう思わせるほど恍惚とした表情をたたえるモニク。そんな彼女を目にしたオレールは、徹底的に乱れさせたいという支配欲に駆られた。


「モニク。報酬の件、忘れるなよ」


 寄り添うように隣へ立ったオレールは、モニクへそっと耳打ちを漏らした。


「焦る乞食は貰いが少ないって言うでしょ」


 臀部(でんぶ)を撫でてくるオレールの手を払ったモニクは、改めてサンドラを見た。捕らえられた彼女は今、体を大木へ縛り付けられている。


「はじめまして。私はモニクと言います。ジェラルドとは一緒にパーティを組んで冒険していた間柄なんですよ」


「そのあなたが何の用ですか……」


「酷い言いぐさ。私はあなたの息子さんから、人生を滅茶苦茶にされたんですよ」


「ジェラルドが何をしたって言うんですか」


 サンドラの強い口調を受け、モニクの瞳へ憎悪の炎が揺らめいた。


「彼はパーティ共有の秘宝を持ち逃げしようとしたんです。ふたりの仲間は彼に殺され、ひとりは私の恋人だった。結婚だって考えていたし、彼のためなら命も惜しくないと思っていた。それほどまでに深く愛した人を」


 モニクは怒りに形相を歪め、人形のように立つジェラルドを指差した。


「あの男は全てを奪った! 私の幸福を。私の未来を。私の世界を。なにもかも!」


「何かの間違いです。ジェラルドは本当にいい子なの。この街では聖人と慕われるほどの自慢の息子なんですよ。絶対に間違いです」


「黙れ、ババア!」


 モニクはサンドラの襟を掴み上げた。


「当事者であるこの私が、嘘をついているとでも言うの? あんたの息子は秘宝を狙う集団に捕まったのよ。私は彼に復讐を果たしたい一心で、その集団からわざわざ助け出した」


 サンドラから手を離したモニクは、舞台女優のような仕草で天を仰いだ。


「そして、今日という最高の舞台を迎えたの。ジェラルドの手でこの街を壊滅させる。洗脳の魔法を解いた時、彼がどんな顔を見せるのか。それだけを楽しみに生きてきた」


「寂しい人ですね」


「あぁ?」


 唇を歪めたモニクは、眼力だけで射殺さんと、憎悪に満ちた目をサンドラへ向けた。


「復讐のためだけに生きるのは寂しくないんですか、と言っているんです」


「何とでも言ったら。私は空っぽなの。私の世界は終わった。何もかもどうでもいいんだから。実際に、あんたはこうして捕まった。私の気持ちひとつで、あの世へ直行」


 モニクは仲間たちを見回した。


「とは言うものの、こっちの被害も大きいけどね。あんたの旦那は捕まえそびれたし、消し飛ばすはずの街もまだ残ってる。サーカスに行かなかった住民の大半は教会に避難しているようだし……ここが片付いたら、みんなも連れて行ってあげるから安心しなさい」


 モニクは歌うように告げながら、首飾りを指先で弄んだ。


「それは、セリーヌさんの」


「あ? 誰だって? これさえあれば、天才と謳われた私の本領が発揮できるのよ。彼らと私の魔法があれば、ジェラルドだろうが、リュシアンだろうが赤子同然よ」


 モニクは意気揚々とした顔で、周囲に集う傭兵たちを眺めた。瞳には復讐の炎を宿し、ついに訪れた機会に口元を歪める。

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