表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.10 フォール編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

205/357

23 最悪に備えた切り札


「あそこだ!」


 びゅんびゅん丸を走らせていたナルシスは、家屋の側で倒れるふたつの人影に目を留めた。


 高台にあるとはいえ、モニクの攻撃は街全体に及んでいた。あちこちに火の手が回り、リュシアンの自宅が焼けるのも時間の問題だ。


 白馬から飛び降りたナルシスは、セリーヌとガエルの下へ駆け寄った。


「なにがあったんだ」


 腹部へふたつの刺し傷を負ったガエルは、仰向けになって意識を失っている。そんな彼へ寄り添うように、腰から血を流したセリーヌがうつ伏せに倒れていた。


「ここにも敵が来たのか」


 側に倒れるマノンの斬首遺体を目にして、ナルシスは苦い顔を見せた。


 その間にもシルヴィは馬を手近な大木へ留めていた。背後から抱いていたリュシアンの体を地面へそっと横たえる。


「もうちょっとだけ我慢してね」


 愛おしむように彼の頬を撫でると、別れを惜しんでナルシスへ近付いた。


「え! ちょっと、これって……」


 複雑な表情をしたシルヴィは、セリーヌの手元へ転がっていた小瓶を拾い上げる。


「秘薬って言われてる、プロムナじゃない」


「あぁ、それか……」


 驚くシルヴィの反応を楽しむように、ナルシスが得意げな顔で声を上げた。


「ここへ来る前に、マルトンの街へ立ち寄ってね。そこで、マリー君が旧知の仲だという行商人に会ったんだよ。サミュエルと言ったかな。彼はプロムナの改良品を手掛けているらしく、試しに使って欲しいとね」


「試しにって、随分と気前がいいのね。一瓶でも二万ブランはくだらない希少品よ」


「原料となる、プロム・スプリエルを売買するほどの仲だったようだからね。特別な間柄であるのは間違いない。とは言っても、プロムナの実物は僕も初めて見たけれどね」


「あの()、回復魔法の腕も一流だけど、秘薬の原材料にまで精通してるわけ? 十八歳でしょ。見た目も綺麗だし、どこの悪党に狙われたっておかしくない存在よね」


「シルヴィ君。これ以上、不安の種を増やさないでくれたまえ。気の休まる暇がない」


「エドモンが焦った気持ちも少しはわかるわ。彼のやったことは許されることじゃないけど、マリーの存在感は圧倒的なものがあるもの」


 心痛を押し隠したシルヴィは、それを誤魔化すようにガエルを見た。


「プロムナが効いてるみたいね。知ってる? この薬は粘度の高い液体で、血液と結びつくとあっという間に固まるのよ。癒やしの魔法と同等の効果を発揮して、傷口だって数十分もあれば塞いじゃうんだから」


「もちろん効能くらいは僕もね。姫は最悪に備えた切り札だと言っていたけれど、この薬を分け合ったようだね。おまけに杖がない。リュシアン=バティストの母上も見当たらないし、連れて行かれたのかもしれないな」


 ナルシスの言葉に、シルヴィは苦い顔を見せた。そこには焦りすら滲んでいる。


「リュシーは血を失い過ぎてる。すぐに手当てが必要よ。この()の治癒魔法が頼りなのに」


 馬の側へ寝かせているリュシアンへ視線を向け、シルヴィは溜め息を漏らした。


「うかうかしてると、ここも炎に飲まれるわ。それに、さっきの街人たちが大人しくしているとも思えない。すぐに逃げないと」


「このふたりをびゅんびゅん丸に乗せよう。僕が馬を引いて歩くから、どこか安全な所へ」


「待って。リュシーは下手に動かせない。この娘が目を覚ます可能性に賭けるわ。後は、杖さえなんとかなれば……」


 シルヴィの視線は林の奥へ向けられた。


* * *


「もう少しゆっくり歩けない? 捕縛対象が付いてこれないんだけど」


 短剣使いの女性はサンドラの腰へ繋いだ縄を引きながら、恨みがましい目を向ける。


「さっさと歩かせろ。それがおまえの役目だ」


 合流地点はそう遠くない。早く責務を終えたいと、剣士の男性は速度を上げた。


 その脚を狙い、一筋の光が闇を裂く。


 攻撃に気付いた剣士が素早く飛び退いた。半歩先の位置へ、一本の矢が突き刺さる。


「なんなの!?」


 短剣使いの女性が慌てふためき、腰から抜いた獲物を構えた。

 剣士の男性は魔導杖(まどうじょう)と麻袋を足元へ投げ捨て、既に剣を構えている。そこへ、林から躍り出た人影が迫る。


「さすが、ライさん。危険を察する嗅覚は相変わらずだね」


「どうしておまえが」


 飛び出したのはアンナだ。魔導弓(まどうきゅう)は背中に収められ、愛用の双剣を逆手に構えている。


 そんな彼女を、剣士の男性は困惑の顔で迎えた。繰り出されるアンナの連撃をどうにか受け流し、苦しげに呻く。


 剣士の反撃となる一閃を避け、アンナは数歩ぶんの距離を取った。呼吸を乱さぬばかりか、その顔にはまだ余裕が伺える。


「それはこっちのセリフ。銀の翼を抜けたって聞いたけど、なんの不思議もなかったよ。でもさ、付いた先が悪かったね」


「俺を追ってきたのか?」


「アンナたちが狙う獲物に、ライさんが混ざってただけ。凄い偶然だけどね」


「ライアンという名は、もう捨てた」


 アンナと話しながら、ライアンは短剣使いの女性を追い払う仕草を見せた。それに納得したように、女性とサンドラが離れてゆく。


「どうか助けてください!」


 不意に声を上げたサンドラを見て、短剣使いは怒りに顔を歪めた。舌打ちと共に、サンドラの腹部へ強烈な膝蹴りを叩き込む。


「黙って歩け! 無駄口を叩いたら、その舌を切り落としてやるからね」


 遠ざかるふたりの姿に、アンナは苦々しい顔を見せた。


「どこも同じような人しかいないね」


「今回は多額の報酬が絡む依頼だ。こんな賊まがいのこと、いつもしているわけじゃない」


「でもさ、街が丸ごとなくなろうとしてるんだよ。やり過ぎだと思わないの」


「それが依頼主の希望だ」


 淡々とした男の返しに、アンナは寂しさを滲ませた表情で応えた。


「変わったね。初めて会った時は襲われそうだったアンナを助けてくれて、傭兵生活の指導や剣の手ほどきまでしてくれてさ。こんなに良い人が、なんで傭兵なんてやってるんだろうって思ってたのに……」


 十五歳の時、無計画のまま生家を飛び出したアンナ。世間知らずだったことも災いし、路銀はあっという間に枯渇。すぐに生活が立ち行かなくなってしまった。


 自由奔放に生きることを望む彼女は、持ち前の運動神経を悪用し、スリを行うようになった。噂が立てば次の街へ。点々と移動を繰り返す放浪生活が一年ほど続いた時、傭兵団、銀の翼に拾われた。


 団長はアンナの身体能力に目をつけたが、仲間からは女性というだけで好奇の目を向けられた。数人の仲間から夜の寝込みを襲われた時、窮地を救ってくれたのがライアンだった。


「昔話をするために来たのか?」


「そんなわけないでしょ。邪魔をするなら斬るよ。ついでに、ライさんがアジトの廃城から持ち出したっていう日誌を渡して」


「やはり気付かれていたか」


「団長は死ぬ間際まで恨んでたよ。あの日誌があれば大金持ちになれたはずだ、ってさ」


 驚きに目を見開くライアンに向かい、アンナはいたずらめいた笑みを見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ