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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.02 ムスティア大森林編

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08 黄金色の魔女


 敵の攻撃に気付いても、痺れた体が言うことをきかない。

 横凪に迫る刃のような前脚。腹を割られる未来だけが鮮明に脳裏をよぎる。


 選べた行動は、倒れ込むことだけだった。

 地面へ体を投げ出した直後、攻撃は頭上を掠めて抜けていく。


 助かったのはまぐれだ。伏したままの体では、次の一撃を避ける手段がない。


 頭上に響く雄の怒声。翻弄された苛立ちを剝き出しにし、殺意をぶつけてきている。


 このままじゃやられる。

 そう覚悟しかけた時だ。


「ふたりとも、目を逸らすんだ!」


 鋭い声と同時に、視界一面が白く弾けた。魔獣たちの悲鳴が頭上から散り落ちる。


「串刺しの刑!」


 甲高い声が森に響く。

 視界が戻るより先に、一本の細身剣が雄の腹を正確に貫いた。


涼風(すずかぜ)貴公子(きこうし)、参上!」


 ナルシスが剣を掲げ、高らかに名乗りを上げる。

 どう考えても狙っていたとしか思えない絶妙の登場だ。背負っているはずのボンゴ虫リュックもない。影に潜んで機をうかがっていた証拠だ。


「大丈夫かい?」


 雄が悶えている隙に、手を差し伸べてくる。

 思いがけず紳士的な対応だと思えば、すぐさま驚愕の表情に変わった。


「誰かと思えば、リュシアン・バティスト。これは大きな貸しだ! 姫。このナルシスが助けに参りましたぞ」


 銀髪化していたために、俺だと気付かなかったらしい。それにしても、よりにもよってこいつに助けられるとは屈辱だ。


 痺れの抜けつつある体に力を込め、慌てて立ち上がる。

 ナルシス劇場に付き合っている暇はない。


「その髪は何だ? それに、なぜ君がここに? 姫が最近付きまといに遭って困っていると言っていたが……君じゃないだろうね?」


「は? 人探しの途中で遭遇しただけだ。おまえと一緒にするな」


「ならば安心だ。僕は姫の援護に行く。こちらは任せたよ」


「誰に言ってんだ。さっさと失せろ!」


 言い終わる前に、ナルシスはセリーヌの元へ駆けていった。

 魔獣より厄介な男だ。


 気を取り直し、アレニエ・セドへ向き直る。閃光玉の効果も切れ、奴は完全にこちらを捕捉していた。


「そろそろ反撃だ」


 ナルシスが付けた腹の傷と目くらましへの怒りをぶつけ、魔獣が威嚇の声を上げる。

 口が開いた。粘着糸を再び吐くつもりだ。


「くらえ!」


 握り拳ほどの赤い魔法石を放り込む。ルノーさんが使った物と同じ炎の石だ。

 次の瞬間、魔獣の頭部は紅蓮の炎に包まれた。暴れる巨体が森を揺らす。


「串刺しの刑!」


 遠くでナルシスの声がした。

 まだあれを連呼しているらしい。激しく改名を勧めたいが、あいつには合っている。


「この剣で勝てるか……」


 手にあるのはナマクラの剣だ。炎が消えれば状況は厳しくなる。そう考えた矢先。


「きゃあぁぁ!」


「うひえぇぇ!」


 森の悲鳴。目を向けると、手のひら大の幼児アレニエが地面を埋め尽くしていた。

 ナルシスが下手を打ったらしい。


「あの馬鹿……卵を……」


 セリーヌは青ざめ、杖を握りしめる。


(けが)らわしい……あっちへ行ってください!」


 小型の方が苦手らしい。大きいと混乱、小さいと錯乱。本当に手がかかる。


火竜煌熱(ヴォロンテ・フラム)!」


 まさか、ここで来た。

 荒れ狂う炎の渦が幼児アレニエを焼き尽くし、雌とナルシスをも盛大に巻き込んだ。


「ぐわあぁぁ! 姫えぇぇ!!」


 面白い。もっとやれ。


 警告音が聞こえた。ナルシスの腕輪の魔力障壁(プロテクト)が砕け散る。

 ランクCが一撃で消える威力とは。


 などとと感心していると、背中が熱い。

 振り返れば白煙。


「うおっ!?」


 リュックに引火していた。投げ捨てた拍子に、結び口が開く。

 信号弾が空中へ舞った。


「ちょっと待て!」


 燃え上がった筒が次々発射。一発が雄に直撃。残りは夕暮れが近付いている大空へ。

 煌々とした光が空を染めてゆく。


「まずい……」


 来る。

 魔獣より恐ろしい連中が。


 森の色が血の赤へ沈むのは時間の問題だ。


「セリーヌ、落ち着け。小さいのは全滅した。すぐに鎮火しろ」


 しかし彼女は次の詠唱を始めていた。


 恵みの(あかし)、母なる大地……


 生命の証、静寂の水……


 躍動の証、猛るは炎……


 自由の証、蒼駆(そらか)ける風……


 錯乱した勢いで、森ひとつを更地に変えるつもりなのか。

 詠唱は止まらない。


 力の証、(そら)を裂き、


 轟く(いかづち)、我、照らす


 彼女の体から黄金色の魔力が噴き上がる。髪までも染まり、黄金色の魔女が降臨した。


「リュー(にい)!」


 枝を渡り、アンナが現れる。右手には、俺の長剣(ロングソード)が握られている。


「巣穴から取り返して来たよ」


「でかした!」


 頭上から落とされた剣を掴み、アレニエ・セドを見据えた。

 今なら間に合う。森が灰になる前に、俺が二体を片付ける。


「銀髪のリュー兄。久しぶりだね」


 アンナも横に並び、クロスボウを構えた。

 同時に、魔獣が斬りかかってきた。


「遅せぇ!」


 横凪の脚を迎撃し、碧色の刃が軌跡を描く。蜘蛛の脚先が宙を舞った。

 切れ味は雲泥の差だ。この剣がある限り、奴はただの獲物だ。


 悲鳴。続けざまに垂直の一撃。


「失せろ」


 頭上へ放った一閃が右脚を吹き飛ばす。

 魔獣は仰け反り、逃げ出した。


 本気の俺から逃げ切れると思うなよ。


「えへへ。逃がさないよ!」


 それはアンナも同じだ。黄金色の矢が俺を追い抜き、後ろ脚を射抜いた。


「アンナ、さすがだ」


 強化された脚力で巨体に並び、斬りつける。

 左半分の脚を失った魔獣は地を転がり、もがき続けた。


「とどめだ」


 剣先に魔力を集中させる。

 碧色の球体が生まれ、狙いを外さず放つ。


竜牙天穿(りゅうがてんせん)!」


 濃密な魔力の塊が頭部を粉砕。体液が雨のように降り注ぎ、周囲を赤く染める。

 残るは雌。しかし、裁きの鉄槌は下された。


光竜滅却(リミテ・リュミエール)!」


 閃光が弾け、咄嗟に腕で目元を覆った。続け様に凄まじい爆発が巻き起こる。


 吹き付ける土砂と枝葉。爆風に体を持って行かれながらもアンナを抱き寄せると、大木に背中から打ち付けられた。


「うひえぇぇっ!!」


 痛みに顔をしかめていると、ナルシスの情けない悲鳴が聞こえてきた。


 閃光の跡に残ったのは巨大な陥没と、砕け散ったアレニエ・エンセの残骸。そして、返り血まみれのナルシスだけ。


 完璧な結末だ。


「そいつは放っておいても大丈夫だろ」


「そうはまいりません。私としたことが……」


 我に返ったセリーヌは黄金の光を解き、ナルシスの介抱を始めた。

 胸が軋む嫉妬を覚えつつ、俺も竜の力を解いた。


 そうしてアンナと共に、魔力映写で討伐記録を収めていった。

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