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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.10 フォール編

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14 神竜剣をめぐる謎


「ねぇ、リュシアン。もうひとつだけ聞かせてちょうだい」


「なに?」


 暗闇の中へ母の声が投げ込まれた。いつもと違う声音に気付き、ただならぬ雰囲気を察してしまった。


「ジェラルドは、なにか厄介なことに巻き込まれていたんじゃないかしら」


「どうしてそんな風に思うの」


「ほら。あなたが出て行ってしばらくの後、ジェラルドを探してるっていう人がうちに来たのよ。それも一度や二度じゃないの」


「兄貴を探しに? どんな奴だった」


 暗闇の中、セリーヌと見つめ合いながら母の言葉の真相を探った。ラグは俺の左肩の上でしきりに首を傾げている。


 モニクの可能性もあるが、彼女でないとすれば神竜剣を狙う何者かということになる。だが、存在を知る者は限られるはずだ。


「冒険者なのかしらね。みんな武装してたからきっとそうね。顔ぶれは同じだけど、ふたりの時もあれば三人や四人の時もあって。それこそ数ヶ月おきに、帰ってきたか、連絡はあったか、って……なんだか気味が悪くて」


「武装した集団か……なんなんだろうな」


「でもね、一年くらい前からぱったり見なくなったのよ。不思議に思ってたけど、その人たちに捕まったなんてことはないわよね?」


 心臓を叩かれたように胸が苦しくなった。まさかとは思いつつ、その考えを打ち消す。


「兄貴だって剣の腕は人並み以上だ。それに、一緒に行動する仲間もいたらしいから簡単に捕まるとは思えない。大丈夫だよ」


「あなたがそう言うならそうなのかもね」


 半信半疑の様相を見せているが、不安を煽っても仕方ない。


「俺たちはこのまま街の様子を見てくるから。母さんは先に帰ってて」


「わかったわ。気をつけてね」


 母の後ろ姿を見送り、改めてセリーヌへ視線を移した。

 俺の気配に怯えたのか、胸の前で杖を握りしめたまま、身を固くしたのがわかった。


「俺も聞きたいことがあったんだ。どうして神器であるはずの神竜剣(しんりゅうけん)が、この大陸にあったんだ。誰かが持ち込んだのか?」


「ガルディア様と戦った災厄の魔獣も深い傷を負い、島から逃走したのです。それを追って、島から幾人もの戦士が旅立ちました。神竜剣はその際、島で一番腕利きの戦士が持ち出したと聞いています」


「杖だけが残されたのか?」


「はい。長老は神器の持ち出しを禁じたそうですが、半ば奪われるように剣だけを持ってゆかれたということです」


「兄貴はそんなものをどうやって手に入れたんだ……ますます意味がわからねぇ」


「島へ戻った方はおりません。その戦士の亡き骸から拾い上げた可能性も考えられます」


「いや、ちょっと待て」


 また別の可能性が頭を過ぎった。


「兄貴の手帳……あの中には、竜撃(りゅうげき)竜術(りゅうじゅつ)についても書かれていたんだ。ひょっとしたら兄貴は、その戦士たちと接触したのかも」


「ですが、島の者たちが簡単に情報を渡すとは思えません」


「無理矢理に口を割らせた、か……まぁ、考えていても憶測の域を出ないな。とりあえず、俺は街の様子を見てくる。セリーヌはしばらく時間を潰してから家に戻ってくれ」


(わたくし)も行かなくてよろしいのですか?」


「むしろ家のほうが心配なんだよ。モニクは両親を狙っているんじゃないかと思うんだ。セリーヌが付いていてくれたら安心だ」


「承知しました」


「色々と面倒をかけて悪いな。俺がマルティサン島へ行った際には、セリーヌのことを全力で支援するから」


「お気になさらないでください。リュシアンさんには温かいお言葉をたくさん頂いております。少しでもご恩返しになればと」


「ありがとう」


 そうしてセリーヌと別れ、街の中心にある衛兵たちの詰め所へ向かった。


「なんだ?」


 勾配を下っていると、街の西側に建てられた巨大なテントが目に付いた。昼間には気付かなかったが魔物除けの篝火がいくつも灯され、闇夜へ浮かび上がるほどの存在感だ。


 海水浴の帰り、親子がサーカスの話をしていたが、あのテントのことかもしれない。


 後で確認すればいいと気を取り直し、詰め所を覗いた。二名の衛兵が在中しており、そのひとりをすぐさま呼び止めた。


「レミー、ちょっといいか」


「来たか。待ちくたびれたぞ」


 悪友は退屈を噛み殺すように顔をしかめている。外に出てきて大きく伸びをしたレミーと共に、建物の陰へ身を潜めた。


 通りの人影を伺った後、安全を確認したレミーは興味深そうな顔を向けてきた。


「昼間に会った時はゆっくり話もできなかったからな。あの美女はどうした?」


 慌てたように手櫛で髪を撫で付けている。


「念のため、俺の家を見張ってもらってる」


「んだよ。おまえだけかよ……こんな夜に男と密会なんて、面白くも何ともないだろ」


「おい。密会だなんて、軽々しく口にするんじゃねぇ。てめぇの首が飛ぶぞ」


「へいへい。すみません」


 思わず睨んでしまったが、悪びれた様子も見せないこいつが腹立たしい。


「ったく、てめぇみてぇな不真面目な奴が衛兵だなんて、未だに信じられねぇよ」


「俺だって好きでやってるわけじゃないんだ。店で雇われるのはもちろん、漁師なんて柄でもないしな。そこそこの収入もあるし、まだましな仕事だなって思ってるだけだ」


「そのましな仕事、成果はどうだった?」


「へへっ。その前に……」


 レミーはすかさず手を出してきた。そこへ、約束していた額の紙幣を握らせた。これだけで、こいつの一ヶ月分の給金に相当する。


「まいど。冒険者ってのも良いもんだな。俺も転職しよっかなぁ」


「御託はいいから報告を寄越せ」


「へいへい。言われた通りに宿の台帳を調べました。残念ながら、それらしい三人組はなし。四方の出入口で門番をしている奴らもあたったけど、誰も見てないってよ」


「ってことは、まだこの街に到着していないってことかもな」


「逆恨みって言ったっけ? おまえも面倒な奴らに目を付けられたもんだな。同情するよ」


 レミーは思い出したように声を上げた。


「三人組はいないけど、昨日、今日と、人の出入りは多かったってよ。新しい水路を引くとかで、測量士たちが何人も来てたらしい」


「この街にしては珍しいな。とりあえず、引き続き警戒してくれ。相手は腕の立つ魔導師だ。何を仕掛けてくるかわからねぇ」


「久しぶりに会ったかと思えば、厄介事まで持って来やがって。たまんねぇな……」


 苦い顔をしたレミーは、当てつけるように地面を強く蹴りつけた。砂地が抉れ、陥没した惨めな姿が寂しげに映った。


 直後、ひとつの予測が頭に浮かんだ。驚きと焦りが入り混じり、左肩に乗っていたラグが、落ち着けと言わんばかりの様子で唸る。


「リュシアン、どうした?」


「レミー、測量士たちが調べていた場所をすぐに探してくれ。何かを埋められたかも」


「埋めるって、何を?」


「俺にも断言はできない。可能性の話だ。それで、測量士を手配したのは誰なんだ」


「そんなの、街長くらいのもんだろ」


 街長の顔を思い浮かべて舌打ちした。敵の攻撃は既に始まっているのかもしれない

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