表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.10 フォール編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/347

12 帰るべき場所


「リュシアン。あなたがそんなことに巻き込まれていたなんて……気が付いてあげられなくてごめんね」


「別に母さんのせいじゃないだろ。それどころか、兄貴がどこでどうやって竜と接点を持ったのか。本人にそれを確認したいんだ」


 女魔導師モニクの話が本当なら、兄貴は数名とパーティと組んでいたことになる。


『どうしてって、当然よ。あれは元々、私たちが手に入れたものなんだから。あの剣が持つ影響力に惹かれて、ジェラルドが持ち逃げしたのよ。私は彼を探していたの』


『残念だけど事実よ。彼は仲間だった私たちを裏切った。私は本当に怒っているの。この手で八つ裂きにしても足りないくらいにね』


 生真面目な兄のことだ。きっと神竜剣(しんりゅうけん)の力を恐れ、遠ざけようとしたに違いない。持ち逃げなんて話は絶対に信じない。


 物思いから現実へ返ると、セリーヌから興味深げな視線を向けられていた。


「ですがリュシアンさん。竜の力を授けてくださった相手がガルディア様だと、どのようにしてご判断されたのですか?」


「夢か幻かわからないけど、いぶし銀の鱗に覆われた巨大な竜が現れたんだよ。意識が途切れる前にって一方的に力を与えられた後、邪悪な三つ首の魔獣を討てって言われてさ。きっと、災厄の魔獣のことだと思う。その後にこんなことも言われたんだ。幻の島マルティサンへ(おもむ)き、我を訪ねよって」


「がう、がうっ」


 テーブルの隅で伏せるラグは、相槌を打つように小さく吠えた。


「ガルディア様に違いありません。現在は長き眠りにつかれておりますが、意識を失う直前にリュシアンさんと接触されたのでしょう」


「その、災厄の魔獣っていうのは何なの?」


 母が口を挟んできたが、それを知らないことの方が驚きだ。


「炎の神官が知らないってどういうことだよ」


「無理もありません」


 それに答えたのはセリーヌだ。


「災厄の魔獣が現れたのは三年ほど前のこと。お母様は存在すらご存じないと思います。詳細はマルティサン島でなければお話できませんが、多くの竜や島民が命を落とすほどの戦いがあったのです。ガルディア様も深い傷を負われ、今も眠りについたままなのです」


「ガルディア様が……」


 驚きに目を見開く母を伺いながら、ナルシスが遠慮がちに俺へ視線を向けてきた。


「すまない。改めて、ここまでの話を整理させてくれないだろうか。初めて聞くことが多すぎて、理解が追いつかないんだ」


「まぁ、そうなるよな。親父なんてとっくに諦めて、飯を食うことに専念してるけどな。理解しようとするだけ偉いと思うぞ」


「まずは君だ、リュシアン=バティスト。君が持つ特異な力は、神竜ガルディアから与えられた。その上、炎竜王の力まで扱えるようになった。それは君が、炎の神官の息子であることに起因していると」


「そういうことだろうな、っていう憶測だ」


「それで結局のところ、ガルディアという竜はどういった位置付けなんだい?」


「ガルディア様は竜の頂点に立つ御方です。各属性の竜たちをまとめるのが竜王であり、ガルディア様は光の属性を束ねる存在でもあります。その上で全竜王をまとめあげ、神竜と呼ばれる立場にあらせられるのです」


 セリーヌの言う通り、炎竜王のセルジオンや水竜女王のプロスクレも神竜と呼んでいた。


「竜の頂点か、なるほど。そして姫は、そんな竜たちが暮らすマルティサン島から、任を与えられてここに来ていると。災厄の魔獣、ブリュス=キュリテール。あの魔獣を倒すことが、そのひとつということなんだね?」


「はい。仰る通りです」


「だが、これ以上の詳細は島へ行かないと教えられないということか。そして島へ行けるのは、リュシアン=バティストの他に、レオン君とマリー君だけということだね」


「はい。申し訳ございません」


「いや、姫が謝ることではないさ。資格がないのは悔しいけれど、リュシアン=バティストの土産話を楽しみにすることにしよう。それにしても、ここまでのことがわかっただけでも僕には大きな収穫だったよ。のけ者にされているようで寂しかったんだ」


 ナルシスは冗談めかして微笑んでいるが、恐らく心からの言葉だろう。


「悪いな。内容が内容だけに、軽々しく話せるようなことでもなかったんだ」


「それにしたって水臭いじゃないか。共に死線をくぐり抜ける仲なんだ。隠し事は極力ひかえてほしいものだ」


「まぁ、それはセリーヌも一緒だな。マルティサン島へ行ったら、知りたかったことを包み隠さず教えてもらうからな」


「はわわわ……それはいけません」


 赤面したセリーヌはなぜか、法衣姿で剥き出しにされている胸の谷間を両手で覆った。


「包み隠さずって、そこじゃねぇから……」


 両親の前だというのに、いつものポンコツ性能を出すのは勘弁して欲しい。


「ひとつだけいいか」


 黙って食事をしていた父から突然に切り出され、俺たちは動きを止めた。


「おまえたちがいかに大変な思いをしてきたか、これまでの話で想像がついた。俺は、とんでもねぇ誤解をしてたんだな。悪かった……ジェラルドもリュシアンも自慢の息子たちだ。でもな、冒険になんて出させるんじゃなかったって、今でも毎日後悔してんだ。ジェラルドが見つからなくても仕方ねぇ。あいつはどこかで元気に頑張ってるに決まってる」


 挑みかかってくるような父の目に射抜かれた。俺の心へ訴えかけようと、確固たる想いが込められているのがわかる。


「話を聞いた以上、冒険者を辞めろなんて二度と言わねぇ。責任を持って、やるべきことを全うしろ。ただ、その後だ。全てが片付いてからでいい。きちんとここへ帰って来て、俺たちに元気な姿を見せろ。なんなら、セリーヌさんを連れてきてもいい。誰と結婚しようが、本人たちが幸せなら文句も反対もねぇ」


(わたくし)ですか!?」


 突然に名前を持ち出され、セリーヌは困惑してしまっている。


「ジェラルドにリュシアン。いつか、家族四人で店を切り盛りするのが俺の夢なんだ。申し訳ないが、鍛冶の腕はジェラルドの方が上だ。おまえは愛想がいいから、サンドラと一緒に商品を売るといい。そこにセリーヌさんが加わったら賑やかになるだろうな。この家こそが、おまえの帰るべき場所なんだ」


「親父、酔ってるだろ」


「あら、本当だわ。こんなところにお酒を隠して。こっそり飲んでたのね」


 母は呆れ顔をしながらも笑っている。


「珍しく語るなぁと思ったらこれだ。俺たちは我慢してるっていうのに……だけどこの海鮮鍋、確かに酒が欲しくなるよな」


 すると隣に座るセリーヌは、鍋が盛られた椀を口元へ運んで微笑んだ。


「素敵なご両親ですね。リュシアンさんのことを羨ましく思います。私もこの輪の中へ加わることができたらと、心から思います」


「え? それってさ……」


「いえ、あの、その、思ったことがつい……」


 再び真っ赤になってうろたえるセリーヌ。手にしたフォークから魚の切り身が零れ落ち、椀の中でだし汁が跳ねた。


「リュシアン。食べ終わったら、ちょっといい? 渡したいものがあるの」


「渡したいもの?」


 母の突然の言葉に戸惑ってしまう。久々の帰郷は、俺を休ませてくれないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ