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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.10 フォール編

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01 誠意を見せろ


 冒険者ギルドを通じて知らせを出した後、王城への伝書鳩を手配してもらった。


 ブリュス=キュリテール発見と、討伐に失敗した旨を手紙へ記した。行商人を通じて、魔導通話石の片割れを大臣のアロイス=バルテ殿へ届けさせる旨もしたためてある。


 大臣を頼ったのは、ブリュス=キュリテール討伐に設けられた十億ブランの報酬目当てだ。これを二十億に引き上げてもらい、討伐者への報酬に回すつもりだ。


 復興半ばの王都へ金を無心するのは気が引けるが、このまま放置すれば大陸中が危機に晒される。二十億で国を守れるのなら安い投資だと説得するつもりだ。


「さてと」


 ギルドを後にした俺は、人目を避けるように路地裏へ身を潜めた。もうひとつ、大事な仕事が残っている。


 腰に提げた革袋をまさぐり、通話石のひとつを取り出した。左肩に乗ったラグが、物珍しそうに顔を出して覗き込んでくる。


『碧色様かい。数日ぶりだねぇ』


 通話石を起動させると、しばしの間を置いてのんびりとした声が返ってきた。


「ドミニク。てめぇの気の抜けた対応、もう少しどうにかならねぇのか。仕事ぶりは評価してやるが、緊張感に欠けて仕方ねぇ」


『申し訳ないね。こういう性分なもんで、直せと言われても難しいよねぇ』


「まさか俺を甘く見てるわけじゃねぇよな。本気で怒らせればわかってるな?」


『今更逆らおうなんて、これっぽっちも思っちゃいないよ。信じてくれって』


「ほぅ。だったら、いつもの機敏な対応で誠意を見せてもらおうじゃねぇか。おまえへの指示はひとつだ。傭兵団の闇夜の銀狼から、命令に忠実な手練を数名見繕ってくれ。足りなければ他から雇って構わない。費用は、カンタンとエミリアンからむしり取れ」


 カンタンとエミリアンについては、親兄弟から家族、親戚に至るまで調査済みだ。

 エミリアンは独身だが、カンタンには妻と三人の娘がいる。娼館経営という仕事柄、それを隠して田舎住まいさせているが、家族を盾にすれば大人しく従うはずだ。


 それに加えて、娼館へ出入りする顧客名簿も押さえた。訳ありの富裕層を炙り出し、新たな資金を調達することも可能だ。


『傭兵をどうするんだい?』


「オーヴェル湖に氷山が出来上がってる。そこへ誰も近付かないよう見張らせろ。期限は一年。食料調達の他に、見張り用の砦くらいなら建設しても構わない。定期連絡の他に、相談事が発生したら随時連絡してこい」


 通信を終えようと思ったが、仕事に徹したやり取りだけでは相手の心を掴めない。


「王都の貧民街にいた仲間のことは俺も残念に思ってる。安否不明とはいえ、生存は難しいだろう。とはいえ、インチキ魔導師は仕留めた。せめてもの手向けになってくれたら幸いだ。おまえの裁量で、有能な仲間を呼び寄せて構わない。カンタンの屋敷を拠点にして、傭兵どもと折り合いをつけろ。苦情が出たら言ってくれ。元副長たちも交えて話をつける」


『碧色様、何から何まで悪いねぇ』


「いいんだ。あんたがそれに見合う働きをしてくれているってだけの話だ。俺のために動いてくれている限りは、悪いようにしない」


『そうそう。生誕祭はしめやかに終わったよ。冒険者も例年より早く警護を解放されてね。(くれない)戦姫(せんき)もそっちへ向かってるはずだよ』


 シルヴィさんの顔が浮かんだものの、それ以上に気になることもある。


「さすがの情報網だな。子分を使って連絡を取り合ってるのか? で、フェリクスさんはどうした? まだ王城で療養中か?」


『それがねぇ……驚きの知らせさ。止水(しすい)剣聖(けんせい)、ヴァレリーっているだろう? 彼女の屋敷へ厄介になるって話さ』


「そうか……それを聞いて安心した」


『なんだ。知ってたのかい?』


 落胆したドミニクの声に笑ってしまった。


「俺も屋敷へ行くように促したひとりだ」


『なるほどねぇ。合点がいった』


 そうして通話を終えた俺は、仲間たちを残してきた宿へと急ぎ、合流を果たした。


 防具を新調したレオンが、愛想のない顔付きで入口の側に立っている。その隣に立つマリーはセリーヌと腕を組み、見知らぬ中年男性と別れの挨拶を交わしている。そして、マリーへ寄り添うようにルネが並んでいた。


 気になるのは、びゅんびゅん丸を引いたナルシスだ。なぜかコームと話し込んでいる。

 ナルシスとコーム。初めて見る組み合わせだが、そこまでの接点はないはずだ。


「悪い。色々、手間取った」


 すると、レオンの睨むような視線を受けた。


「早く出発した方がいいと思うけど。テオファヌの協力がないと、こっちも身動きが取れないから。移動だけなら馬車で十分だけど、ムスティア大森林では力が必要になる」


「そうだよな。俺たちをフォールへ運んだ後、すぐに戻ってくるわけだからな」


 ルネへ視線を向けた途端、見た目相応の可愛らしい笑みを見せてきた。少女の中身は風竜王(ふうりゅうおう)だと言っても誰も信じないだろう。


「リュシアン、準備はできましたか? マリーもセリーヌを開放してあげてください。今生の別れというわけではないんですから」


「でも……せっかく女神様と再会できたのに、一晩でお別れだなんて耐えられません。また一緒にお風呂を頂きましょうね」


 不満と未練を(あらわ)にしたマリーが、媚びるような目でセリーヌを見ている。


「承知しました。約束致します」


 直後、マリーが勝ち誇った顔を向けてきた。


「どう。聞いたでしょ。私たちはお風呂で洗いっこするほどの仲なの。あなたが入る隙間なんて、これっぽっちもないんだから」


 右手の親指と人差し指を出し、髪の毛すら通らないような隙間を見せつけてきた。


「一糸まとわぬ女神様の御姿。それはそれは神々しいものよ。それこそ、いやらしいあなたなんて目が潰れてしまうでしょうね」


「マリーさん、往来の場ですから……」


「恥ずかしがることはありません。まさに究極の美。有り難さに平伏したいほどでした」


 熱弁に、見ているこちらが引いてしまう。セリーヌの美貌と容姿は同性も狂わせるのか。


「聖女の面影がないぞ。霊峰の寺院、その看板を背負ってるんだろうが。しっかりしろ」


 俺の一言で正気を取り戻したらしい。マリーは慌てて腕を解き、恥ずかしさを誤魔化すように自らの髪を撫で付けている。


「ところで、さっきの男は誰なんだ?」


「昔から両親共々お世話になっていた、行商人のサミュエルさん。薬草を高く買い取ってくださって、当時は随分助けられたの。宿の前で偶然会ってね。かれこれ数年ぶりよ」


「行商人か。なかなかのやり手に見えたな」


 納得した俺は、次いでナルシスを呼んだ。


「コームさんと何を話してたんだ?」


「色々さ。本当なら今すぐに話したいけれど、コーム殿と男同士の誓いを交わしてね。フォールでの事が済んだ後で伝えさせてもらうよ」


「なんだよ。もったいぶるなよ」


「楽しみは後に取っておいた方がいい。もっとも、君にとって良い知らせかどうかはわからないけれどね」


 含みのある言葉に不快感が募ってしまう。


「コームさんにも話はあるんだけどな」


 ブリュス=キュリテールに敗れたという言葉が気になっていた。この街へ来る前、馬車の中で声を掛けると、マルティサン島に着くまでは話すつもりはないと告げられた。


「それでは人気のない所へ移動しましょう」


 ルネに促され、セリーヌ、ナルシス、びゅんびゅん丸と共に移動を開始した。

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