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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.09 オーヴェル湖編

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29 一族の使者として


「久しぶりに来たけど、マルトンの街も随分と雰囲気が変わったな」


 およそ一年ぶりになるだろう。依頼がらみで何度か訪れているが、中心部はすっかり様変わりしている。


 街へ入ってすぐに宿を押さえ、びゅんびゅん丸を(うまや)に預けた。宿の食事でも構わなかったのだが、マリーは初めて来たということで、観光も兼ねて夜の街へ繰り出すことにした。


『セリーヌ様のことは心配だが、私が一緒にいてはどうにも浮いてしまうだろう。先に部屋で休ませてもらう。くれぐれも頼むぞ』


 老剣士のコームさんは同行を拒んだ。確かに彼の言う通り、親子ほども年が離れている集団だ。気後れしてしまうのもわかる。ロランさんとオラースさんがいれば話は違っただろうが、それを言ってもどうにもならない。


 この展開を見越していたわけじゃないが、全員を個室にしたのは正解だった。全ての費用は、カンタンとエミリアンのふたりから巻き上げれば済むことだ。


 街の中央へ設けられた大通りを進みながら、変わりように目移りしてしまう。すると、ナルシスはからかうような笑みを向けてきた。


「南側は特産品ともいえる毛皮を押し出して、服を販売する店が増えてね。北側は家畜たちの肉を中心に提供する料理店ばかり。住宅地や放牧場はもっと奥さ。この辺りは完全に、商業地区として再整備されたんだ」


「がう、がう、がうっ!」


 ラグは肉の匂いに触発されたのか、狂ったように吠え立てる。いつものことだが、食べられないくせに食事に敏感なのが腹立たしい。


 そしてナルシスの話を聞いたマリーは、左右の街並みを代わる代わる眺めて首を傾げた。


「衣服にお肉の匂いが付いてしまう心配はないんでしょうか?」


「マリーさん。ひょっとしたら、お肉の香りがするお洋服という、新しい発想を売りにしているのかもしれません」


 真剣な顔で語るセリーヌが痛々しい。


「そんな服、誰が買うんだよ?」


「エドモンさんは喜ぶと思いますが」


「いくらあいつでもそんな趣味はねぇだろ。その問題は店先を良く見てみろ。一番手近な店は、干し肉や加工肉とか匂いの少ないものを扱ってるだろ。上手く共存してるんだよ」


「なるほど。そういうことなのですね」


 興味深げに頷いたセリーヌは、何かを思い出したようにこちらへ目を向けてきた。


「エドモンさんといえば、ここにいらっしゃらない方々はどうされたのですか?」


「今更かよ!?」


 あの激戦の後だ。仕方がないとはいえ、馬車の移動を含めて気付く機会はあったはずだ。


「食事をしながらゆっくり話すよ。とりあえず腹が減った……で、ナルシスお勧めの店っていうのはどこなんだ?」


「食事の前に、寄りたい所がある」


 最後尾から、レオンの声が聞こえてきた。


「珍しいな。新しい鎧でも見に行くつもりか? でも、この時間じゃ厳しくないか?」


 今日の戦いで、レオンも深い傷を負った。マリーのお陰で外傷は治ったものの、冒険服は破れ、鎧も大きく破損している。


「装備なんて後回しだよ。冒険者ギルドで討伐申請したい。報奨金を受け取れば、宿も食事も全て賄える」


「なるほど。そういうことか」


 提案に従い、早速ギルドの建物を探した。


 竜の姿に、剣と盾を組み合わせて構成されたギルドの紋章。その旗が提げられた建物の側までやってきた時、マリーが声を上げた。


「これを女神様へお返しする時が来ましたね」


 マリーが加護の腕輪へ触れた時だ。


「お待ちください。(わたくし)がそれを受け取るわけにはまいりません」


 セリーヌは語気を強めて拒絶した。


「今の私にそれを持つ資格はありません。私は冒険者ではなく、一族の使者としてここにいるのです」


 俺が言葉を投げるより早く、苦笑いを浮かべたマリーがひとつ頷いた。


「承知しました。では、その時が来たらいつでも仰ってください。それまでは、私が責任を持ってお預かり致します」


「すみません。わがままを聞き入れて頂き、ありがとうございます」


 だが、そこに割り入ったのはナルシスだ。


「待ちたまえ。ということは、姫は僕たちと一緒に来るつもりはないということかい?」


「はい。私には私の使命があります」


 セリーヌに即答されたナルシスは、弱りきった顔をこちらに向けてきた。


 ナルシスは俺が聞きたくても聞けなかったことを代弁してくれたわけだが、こうして改めて聞かされるとやはり辛い。


「水竜女王に教えを請うって言ってたよな? でも彼女は……どうするつもりなんだ?」


 訪ねた途端、不意にズボンを引っ張られた。視線を向けると、こちらを見るルネの姿。


「それについては僕に考えがあります。食事の時に話そうと思っていました。自由気ままに流れる風のように、のんびり構えましょう」


「はぁ。そうですか……」


 風竜王の考えはわからないが、少女は真っ先にギルドへ駆け込んでいった。


 レオンが代表として討伐申請。事前に聞いていた通り、あのゴフェロスという赤ゴリラには五千万ブランの賞金が掛けられていた。


「奴ら、もう手続きを済ませてる。こういうところはしっかりしてるね」


 レオンが呆れたようにつぶやいた。


 ラファエルが言っていた通り、半分の二千五百万ブランをきっちり持ち去っている。だが、それ以上に気になることがあった。


「ラファエルは、早くもランクAか……」


 掲示板にあるランク上昇者の中で大きく取り上げられているが、最年少記録を更新したということだ。


「碧色、これを見てみなよ」


 レオンはいつの間にか、ラファエルのパーティ申請一覧を取り寄せていた。その羊皮紙には、モルガン、ギデオン、グレゴワール、ミシェルの名前が並んでいる。


「これ、本当なのか?」


 ラファエル以外の四人はランクSと記載されている。とても信じられない。


「二つ名持ちはいないのか。これだけの逸材が埋もれてたっていうのも不思議な話だな」


「漆黒の月牙、って言ったか……彼が思い立って、他のメンバーを集めたんだろうね。ひっそりと活動していた面々なのかも」


「何にしても謎が多いパーティだよな」


 あいつらをこれ以上詮索しても意味がない。俺たちの興味は報酬の振り分けに向いた。


「俺は千五百万ブランあればランクSだから。残りは涼風とマリーで分けて構わない」


 レオンの提案で、残りの五百万ずつをふたりへ振り分けた。これでついに、レオンもランクSへ到達した。


(わたくし)もいつの間にかランクBになっていたのですね。なんだか恐れ多いです」


 狼狽えるセリーヌに笑っていると、ギルドの受付職員に呼ばれていることに気付いた。


「恐れ入りますが、リュシアン=バティスト様ですか?」


「そうですけど、どうして?」


「レオン=アルカン様のお名前を拝見したもので、ひょっとしたらと。冒険者ギルドで、おふたり宛の言伝をお預かりしております」


「言伝? 誰からですか?」


 ギルドがそういった務めを提供していることは知っている。通話石を使い、大陸全土に張り巡らせた情報網があればこそ成せる技だ。


「エドモン=ジャカール様からです」


 突然のことに呆気にとられた。同時に、モニクとドゥニールの姿が頭を過ぎる。

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