表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.09 オーヴェル湖編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

169/347

19 もうひとつの気配


「まさか、向こうを狙ってきたか」


 上空から急降下してくるブリュス=キュリテールの姿に怒りが込み上げた。レオンたちも疲弊している。このままでは危険だ。


 怒りを押し殺して歯噛みしていた矢先、魔獣の中心に位置する獅子の顔が、地上へ向けて魔力球を吐き出した。


 爆発音に混じって、苦悶の呻きが拡散された。あの声は、ギデオンという弓矢使いだ。


「どういうつもりだ?」


 ラファエルの呻くようにつぶやかれた声を聞き逃さなかった。奴は腕を持ち上げて顔への衝撃波を避け、地面を強く蹴っている。


 仲間を傷つけられた怒りはわかる。好きになれそうもない面々だが、今は手を取り合わなければこの難局を乗り切れない。


「ラファエル、すぐに加勢に行くぞ」


 俺は言い放つと同時に、力を温存するため、全身へ渦巻く炎の力を解いた。


「待て。貴様らはここに残って、あの魔導師を探せ。どんな手を使ってもいい。見つけ次第、確実に殺せ」


 唖然としていると、ラファエルは念を押すように俺を指差してきた。


「いいか、半端な情けは無用だ。絶対に殺せ。あの男に竜の力が渡れば終わりだ」


 そうして、黄金色の目を水竜女王へ向けた。


「ミシェル、貴様はここで竜を守れ。万が一の時はわかってるな?」


「大丈夫。任せて」


 彼の言葉に頷いたラファエルは、魔獣を目掛けて駆け出していった。

 万が一。それが俺たちの全滅を示しているのは明らかだが、そんなことにはさせない。


「マリーは竜に癒やしの魔法を。ナルシスとコームさんは彼女の護衛をしながら、ミシェルと臨機応変に。セリーヌは一緒に来てくれ」


「承知しました」


 セリーヌが緊張の面持ちで頷いた直後、ナルシスが歩み出してくるのが見えた。


「待ちたまえ、君たち。その前に説明して欲しい。君の銀の髪もだが、姫の変化はどういうことなんだい? それに、聞いたこともない魔法まで扱って、僕には何がなんだか」


 そういえば竜臨活性(ドラグーン・フォース)に関しても、ナルシスの記憶を操作していたことを思い出した。


「髪の色が変わってるのは、身体強化の魔法の影響だ。他の魔法のことは後で説明する」


 確かにナルシスの言う通り、今のセリーヌは竜術(りゅうじゅつ)を隠す素振りがない。後で竜眼(りゅうがん)の力を使うつもりだとしても、これだけの人数の記憶を容易に操作できるとは思えない。しかしそれ以上に、力を温存していては勝てないと思っているのかもしれない。


「セリーヌ、行こう」


 話を打ち切るように視線を逸らし、彼女へ足早に近付いた。


「ちょっと。女神様のこと、くれぐれも頼んだわよ。怪我なんてさせたら許さないから」


 背中へ、マリーの声が飛んできた。

 こんな時でも他人の心配をできるとは、どれだけ思いやりの強い女性なのか。そう思うと、勝手に笑みがこぼれてしまう。


「女神様、これはお返ししておきます。私ごときには過ぎた代物(しろもの)。女神様がお使いになられてこそ、真価を発揮する魔法具です」


 マリーは首から提げていたタリスマンを外すと、半ば強引にセリーヌへ握らせた。

 俺はそれを見届け、改めて声を掛けた。


「セリーヌのことは何があっても守る。俺が一緒にいる以上、勝手な手出しはさせねぇよ」


 彼女を伺うと、うつむき加減の横顔を隠すように黄金色の髪が肩を流れた。そこからわずかに覗いた耳が、朱を落としたように赤く染まっている。


「リュシアンさん……あの、その……相手の魔導師を探す手掛かりはあるのですか?」


「なんとなく、だけどな」


「それはどういう……」


 セリーヌの言葉を遮るように視線を前方へ移し、辺りの気配に意識を向けた。そうして、耳打ちをしようと顔を近づけた途端。


「はわわっ!」


 なぜか、驚いた顔で仰け反られた。


「どうしたんだよ?」


「リュシアンさんが急に近付かれるので」


 なぜか取り乱すセリーヌ。こんな時だというのに、その頬がますます赤みを増している。


「セリーヌ、俺の話を落ち着いて聞け」


 彼女の顔を覗き込み、その右手を掴んだ。

 こんな表情をされては俺まで照れてしまうが、ここでポンコツ性能を出されても困る。


「奴の複製魔法だが、有効範囲を考えても近くにいるはずだ。この辺りで身を潜めるなら林の中しかねぇ。しかもこの話すら、拡声魔法で拾われてる可能性がある」


(わたくし)もそう思います」


「それよりも、何かもうひとつの気配を感じるんだ。俺の中にいるセルジオンや、プロスクレに似てる……近付いたり遠ざかったり、ためらっているような雰囲気がするんだ」


 セリーヌと話しながらも、コームが驚いた顔でこちらを見ているのがわかった。


「セルジオン様が中にいる? 以前にも感じたが、お主のその力は何だというのだ?」


「すみません。それも後で話します」


「その件については、私もきちんと伺おうと思っておりましたので後ほど。リュシアンさんが仰る気配、私も感じていました」


「やっぱりな」


 セリーヌも感じているということは、竜に関わる力と見て間違いない。そう確信した直後、それは突然に現れた。


 俺たちをオルノーブルの街から王都へ運んだ謎の竜巻。それと同じものが発生したのだ。


 抵抗する隙も与えてもらえない。俺とセリーヌの体は竜巻に飲み込まれ、上空へ舞い上げられる感覚に襲われていた。


 気付けば風の球体に包まれている。ほんの一瞬で、湖を見渡せる高さまで上昇していた。


「どうなってるんだ?」


 頭の中は色々と混乱していた。


 上空にいることもそうだが、なぜかセリーヌに思い切りしがみつかれている。そういえばさっき、彼女の悲鳴を聞いた気がする。


「セリーヌ。もう大丈夫だ」


 腕の中にある彼女の温もりを感じていると、花にも似た甘い香りが鼻孔をくすぐった。


 肩に触れ、彼女の体を離そうとしたが、一層密着されてしまった。胸の前に出した両手で俺の冒険服を握り締め、胸元へ顔をうずめたまま動く気配がない。


「どうしたんだよ?」


「すみません、余りにも高い所は苦手で。足元も透けて、地上がさらけ出されているので」


「だったら、今なら何をしても許されるな」


「あなたはまた、そういうことを……」


 咄嗟に顔を上げたセリーヌだったが、その顔は血の気を失い、蒼白になっている。


「大丈夫か? セリーヌがそんな状態じゃ、俺も困るんだけど」


 どうしていいのか戸惑っていると、俺たちを包んだ風の球体は、林の中の一点を目掛けて緩やかに下降を始めた。


「この下に、あいつがいるんだな」


 蝶を模した仮面。それを身に着けたインチキ魔導師ユーグの姿が頭を過ぎった。

 ランクールから始まったあの男との戦い。それをここで、今度こそ終わらせてみせる。


 俺たちがようやく大地へ降り立つと同時に、球体は泡が弾けるように消え失せた。


「んふっ。ここを突き止めるとは想定外」


 目的の魔導師は大木へもたれ、不敵な笑みを浮かべて迎えてくれた。


「おいおい。てめぇがここで死ぬことは、しっかり想定しておいてくれよ」


 剣の切っ先を相手へ向けると、俺の隣では、セリーヌが慌てて杖を身構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ