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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.09 オーヴェル湖編

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14 紫電を纏った死神


「リュシアンさん。今は人同士で争っている場合ではありません」


 横手から、焦りを帯びるセリーヌの声が聞こえてきた。確かに彼女の言うこともわかるが、吹っ掛けてきた相手を無視できない。


「あいつに思い知らせないと気が済まないんだ。俺たちは放っておいて構わねぇ。セリーヌは竜への加勢を頼む」


「そうですね。先程の攻撃と同時に、あの魔導師も姿を消しました。何か次の手に出てくるかもしれません」


 俺とセリーヌが言葉を交わしている間に、モルガンは腰の革袋から取り出した葉巻を咥えていた。煙を深く吸い込んだあいつは、快楽に浸るような恍惚とした顔を見せてきた。


「呑気に煙なんか吹かしやがって、とか思ってるよな? これは薬なんだ。恐怖や痛みなんてパッと消えちまう。興奮を煽って感覚をビンビンにさせる。グレゴワールだけが調合できる魔薬、至高到来(シュプリヴェ)って代物よ」


「魔薬? そんなもんに頼らなくちゃ戦えないような軟弱者かよ。どっちが雑魚だ」


「小僧。その言葉、そっくり返すぞ。竜臨活性(ドラグーン・フォース)とか言ったか? その力がなけりゃ、おまえも雑魚のひとりだ」


「なんだと、この野郎」


 もはや俺の我慢も限界を迎えた。腰を落として身構えた途端、隣へ近づいてきたセリーヌに上着を強く引かれた。


「リュシアンさん、どういうことですか? どうしてあの方が竜臨活性(ドラグーン・フォース)のことを……」


「あいつらのリーダーが、どういうわけか竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使えるんだよ」


 俺の言葉を待っていたように、林の木々を抜けて三つの人影が姿を現した。


 黒髪の短髪に鋭い目付き。相変わらず、薄暗くて凶悪な雰囲気を纏った男だ。全身を包む黒の軽量鎧(ライト・アーマー)禍々(まがまが)しさを助長している。


「先頭のあの男がリーダーだ。ラファエル=マグナ。二つ名は、漆黒の月牙」


 その後ろには、魔導杖を持ち、黒の法衣に身を包んだ痩せぎすの男、グレゴワールが続いている。そしてもうひとり、見覚えのない人物が付き従っていた。


 年は俺とさほど変わらない。肩まで伸びる黒髪と、中性的な整った顔立ちのせいで、性別はわからない。ドレスに似た黒の長衣を着ているが、道着を思わせるような造型の上に、スボンとブーツという装備。パーティ内での立ち位置も全く不明だ。


 ラファエルは姿を現すなり、呆れたような視線をモルガンへ向けている。


「おい、この馬鹿。周囲に張られた拡声魔法に乗って、品性の欠片もない貴様の言葉が撒き散らされているぞ。発言には気をつけろといつも言っているよな?」


 モルガンの顔が、たちまち強張ったのがわかった。葉巻を捨て、即座に足で揉み消す。


「儂が悪かった。売り言葉に買い言葉でついカッとなって、余計なことまでベラベラと」


「貴様に学習能力がないのはわかっている。だから馬鹿なんだ。指示通り動いて、さっさと壁役に徹しろ。のろま」


「すまねぇ」


 牙を抜かれたように縮こまったモルガンは、いそいそと赤ゴリラへ狙いを変えた。その先では、レオンとギデオンが先を争うように魔獣と交戦を続けている。


「グレゴワール、貴様も魔獣退治に加勢しろ。ミシェルは俺と一緒に来い」


 ラファエルが促すと、グレゴワールは渋々といった様子で駆けて行った。長衣を着た新顔は、ミシェルという名前らしい。


「どういうことだ?」


 わけがわからない。咄嗟にラファエルへ言葉を投げると、あいつの視線は俺を飛び越え、後方にいるであろう水竜女王へ向けられた。


「あの魔導師が、竜を狙っているのはわかっている。奴が竜の力を手に入れることだけは絶対に阻止してやる」


「俺達と目的は同じと思っていいんだな?」


「馬鹿か? 一緒にするな。必要となれば、竜だろうとためらいなく殺す」


「そんなことは絶対にさせません」


 語気を荒げるセリーヌへ、ラファエルが興味深げな視線を向けたのがわかった。


「貴様も竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使うのか?」


 その視線からセリーヌを守るように、杖を手にしたマリーが咄嗟に間へ立った。


「あなたから、ただならぬ気配を感じるわ。女神様へ危害を及ぼすような動きを見せれば、私が容赦しない」


 呆れ顔で笑い飛ばすラファエル。その視線が、俺を真っ向から捉えてきた。


「やはり、モントリニオ丘陵で貴様を生かしておいて正解だった。(くれない)神眼(しんがん)もいれば少しは役に立ったが、無い物ねだりだな」


「少しは、だと? 何様のつもりだ」


 シルヴィさんとアンナを軽く見られていることに腹が立つ。こいつが連れている仲間より遥かに優秀だと断言してもいい。


 そんな俺の怒りから逃げるように、ラファエルは再び洞窟方面へ目を向けた。


「魔獣は奴等に任せておけばいい。俺達はあの魔導師を片付けるぞ」


「ラファエル、粋がるなよ。王都で俺に負けたことを忘れたとは言わせねぇぞ。おまえなんて、いつでも倒せるんだからな」


「駄犬は好きに吠えていろ。貴様には、近日中に思い知らせてやる」


 言うが早いか、ラファエルは漆黒の長剣を手に駆け出した。その体を取り巻くように幾筋もの紫電が(ほとばし)り、黒かった髪が黄金色へと変貌してゆく。竜臨活性(ドラグーン・フォース)の影響だ。


「セリーヌ、俺達も行くぞ」


「承知しました」


空駆創造(ラクレア・シエル)!」


 セリーヌと共に駆け出すと、足元を起点に緑色の魔力光が発生した。体が更に軽くなり、加速度が急激に上昇する。


「私が援護します」


 後方からマリーの声が聞こえてきた。どうやら移動速度を上げるため、風の魔法を付与してくれたようだ。


「では僕が、そのマリー君を護衛するとしよう。どうだい? 完璧な作戦だろう?」


 なぜかナルシスまで付いてきている。


「マリー、ナルシス。ふたりは危ないと思ったらすぐに逃げろ。おまえらを守りながら戦えるような相手じゃない」


 炎竜王の力があるとはいえ、前回は追い詰められたほどの相手だ。決して油断できない。

 そんなことを考えていた時だ。敵にこちらの動きを気取られたらしい。


 上空から水竜女王を襲っていた鳥型魔獣。その群れから十羽程度が離れ、こちらへ飛んで来るのがわかった。奴等の背には、弓を手にした黒装束まで乗っている。


「あの高さじゃ、魔法も届かねぇ」


 悔しさを込めて吐き捨てた途端、上空から次々と矢が放たれてきた。


零結創造(ラクレア・グラッセ)!」


 セリーヌの声が響き、俺達の頭上へ氷壁が瞬時に広がった。椀を伏せたような形状が、襲い来る矢を受け止め、跳ね除ける。


 そして、いち早く反応したのがミシェルだった。驚くほどの身軽さで氷壁を登り、風の魔法の力を借りて大きく跳躍したのだ。


斬駆創造(ラクレア・ヴァン)!」


 暴風が吹き荒れ、体勢を崩した大鷲型魔獣の背から三人の黒装束が落下。その下では、既にラファエルが待ち構えている。


雷影(らいえい)竜飛閃(りゅうひせん)!」


 紫電の帯を引き、死神が駆ける。息のあった連携に、黒装束たちは成す術なく絶命した。


「ミシェル、どんどん落とせ! 皆殺しだ!」


 ラファエルの高笑いだけが、不気味なほどに大きく響き渡る。

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