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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.09 オーヴェル湖編

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02 緊急依頼


 勇ましき牡鹿亭での祝賀会が終わった翌朝、俺達は再び馬車乗り場へ集まっていた。


 結局、ナルシスは祝賀会に姿を見せなかった。馴れ合いを嫌うレオンも顔も出さず、俺とマリーとルネの三人。だがそこに、ルノーさん、アランさん、ブリスさんの他、見知った人たちや店の常連が大勢集まってくれた。


「なにやら騒がしかったのでな。喧嘩でも起きているのかと見回りに来たところだ」


「まったく。兵長も素直じゃないんだから」


 途中から、シモンさんを含めた衛兵数人まで加わり、なんだかんだで大騒ぎとなった。


 昨晩はとことん飲みたい気分だったのだが、今日の動きもある。マリーからも止められ、宴はほどほどの飲み方で閉められた。


 だが、祝賀会の席で俺以上にもてはやされていたのは当のマリーだ。若くて顔立ちも良く、表では聖女と呼ばれるしとやかさ。常連のおじさまたちから可愛がられ、衛兵どもからは質問攻めにされていた。


「その荷物、何を背負ってるわけ?」


 それがどうだ。周りの目がなくなった途端、すぐにこれだ。愛くるしい笑みと上品な物腰はどこへやら。生意気そうな悪女に変わる。


「あぁ。ちょっとな……」


「誤魔化されると気になるわね」


 不思議そうな顔をするマリーの足元で、ルネまで首を傾げている。


 再び荷物が増えてしまったが、これがどこで必要になるかわからない。万が一を考えて、持っていくことに決めた。


「戦いに支障が出なければ好きにしたらいい。負けた時の言い訳にはしないことだね」


「言い訳になんてするわけねぇだろ」


 レオンへ言い返した途端、左肩の上でラグが慌ただしく動いた。


「がううっ!」


 見れば、びゅんびゅん丸を引いたナルシスが近付いて来る所だった。ぼんやりとした顔付きのまま、心ここにあらずといった様子だ。


「どうした?」


「いや……なんでもない……」


「なんでもないって顔じゃねぇだろ。調子が悪いなら残ってもいいんだぞ」


 すると、途端に顔付きが引き締まった。


「馬鹿を言わないでくれ。姫に会えるかもしれないんだろう? 一緒に行くとも!」


「だったらしっかりしてくれ。いざという時、おまえまで守れるかはわからないからな」


「僕も甘く見られたものだね。それもランクLとしての自信と余裕かい? 君に守られるほど落ちぶれた覚えはない」


「だったら頑張れ。一応、期待してやるよ」


「ぐぬぅ。今に見ていろ」


 ルネをびゅんびゅん丸に乗せ、馬車に乗った俺達はカルキエを目指した。旅は順調に進み、野営施設で一夜を明かした翌日の夕刻、中継地点であるシャンパージェへ到着した。


「この街に来るのも久しぶりだな」


 鉱業の街を見回しながら、セリーヌとふたり旅をした思い出が頭を過ぎっていた。しかし、前に来た時とは打って変わり、街は物々しい雰囲気に包まれている。


「なにか事件が起こっているようですね」


 聖女としての顔を見せたマリーが、周囲を伺って不安そうに声を上げた。俺はすぐさま、近くにいる鉱夫のひとりを捕まえた。


「なにがあったんですか?」


「なにって、魔獣だよ。魔獣!」


 泥で汚れた四十代と思しき中年男性は、強張った顔で答えてくれた。


「魔獣の群れが空を飛んで来てよ、鉱山の中に押しかけてきたんだ」


「どんな魔獣ですか?」


「ダチョウみたいな見てくれだったな。体は黒くて、俺よりも大きくてさ。紫色の煙を吐き掛けられて何人もやられたんだ。俺はどうにか逃げ出せたけど、作業中の仲間がまだ鉱山の中に取り残されてんだ」


「おそらくカゾワールのことだろう」


 レオンが横から口を挟んできた。


「カゾワール?」


 首をかしげるマリーへ、レオンが顔を向けた。その眼差しには、普段見たことがないような穏やかさが滲み出ている。


「鳥型の中でも最も獰猛と言われている魔獣だ。全長二メートル以上で、体重は百キロを超える。全力疾走は馬と同等の速度だし、蹴りを受ければ重傷。おまけに毒の息を吐き、相手の体を痺れさせる効果を持つ」


「そんな危険な魔獣が群れで?」


「マリー君、心配は無用だとも。ランクBの難敵だけれど、ここには救世主がいるからね。彼の活躍に期待しようじゃないか」


 金髪を撫でて爽やかに微笑むナルシス。俺はそんな男に恨みがましい目を向けた。


「他人事か? 当然、おまえも行くんだよ」


「待ってくれ。鉱山だよ? 暗くて薄汚れた場所に僕を向かわせるつもりかい? そういう汚れ役は、君ひとりで十分じゃないか」


「冒険者さん、随分な言い方だな?」


 鉱夫から不快感をあらわにした睨みを受け、ナルシスは引きつった笑みを浮かべた。


「すまない。そういうつもりではないんだ。僕は、彼に向けて言っただけであって……」


「この馬鹿。少しは周りに配慮しろ」


 ナルシスの後ろ首を掴み、頭を下げさせた。


「そういえば、シャルロットさんが言っていました。王都の騒ぎから逃げ出した魔獣が、ムスティア大森林を中心にして各地へ散らばってしまったんだとか。そのカゾワールという魔獣も影響を受けたのかもしれません」


 マリーの説明を聞きながら、俺は上空へ視線を巡らせた。


「なんにしろ、この街の防御壁(ぼうぎょへき)も破壊されてる。討伐ランクBといえども群れたら危険だ。油断するなよ」


「助けてくれるのか? それなら助かるんだけど、本当に大丈夫なのかい?」


 鉱夫は値踏みするような目を向けてきた。


「ここの鉱山は良質な魔鉱石が採れることでも有名なんだ。そのせいか魔獣が頻繁に寄ってきてさ。それを目当てにしてる冒険者も多いんだけど、大抵は口ばっかりで……さっきも何人かやられたばっかりだよ」


「そういうことなら安心してください。口だけじゃないってことを証明しますから」


 焚きつけるように、レオンとナルシスへ目を向けた。レオンは相変わらず涼しい顔だが、ナルシスは露骨に嫌そうな顔をしている。


「だったらすぐに案内するよ。来てくれ」


 誘導してくれる鉱夫を尻目に、レオンはマリーへ目を向けた。


「ルネと馬を連れて、宿で待っているといい。鉱山は俺達だけで十分だから」


「本当に大丈夫ですか?」


「何も心配いらない。ぬるい仕事だ」


 なんだかふたりが俺の知らない人に見える。いつの間にか、穏やかな別人と入れ替わったんじゃないだろうか。人間不信になりそうだ。


 そんなことを思っていると、鉱夫はマリーへ目を向けた。


「もしかして、癒やしの力が使えるの? 鉱山の入口に怪我人がいるんだ。ぜひ、診てやってくれないか?」


「わかりました。もちろん協力します」


 力強く頷くマリーを眺め、俺は背負っていた荷物をびゅんびゅん丸に乗せた。革袋を覗き、魔力灯の石の数を確認する。向かう先は鉱山だ。十分な明かりがあるかはわからない。


「マリー。とりあえず、ルネとびゅんびゅん丸だけでも宿で休ませてやれ」


「いえ。時間が惜しいのでこのまま行きます。ルネも大丈夫よね?」


 びゅんびゅん丸の上で、黙って頷くルネ。


「魔獣が出たら守りきれるのか?」


 俺の説得に応じる様子はない。仕方なく、そのまま鉱山を目指した。

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