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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.08 王都アヴィレンヌ編

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14 更なる悲劇


 敵の気配を感じる。これが炎竜王の能力によるものかはわからないが、湧き上がる破壊衝動が奴等を許すなと告げている。この体を突き動かしてくる力がある。


「がうっ!」


 左肩の上で、ラグが力強く吠えた。それに応えるように、内郭の盾壁へ続く斜面を駆け上がる。一気に踏み切ると、驚異的な跳躍力を発揮して盾壁を飛び越えた。


 うずくまるように中庭へ着地すると、厨房となる建物と井戸が目に付いた。ここにも大勢の遺体が横たわっている。伝書鳩を飼っている鳩小屋だけでなく、馬場までも無残に破壊され、下中庭と同じような惨状だ。


 視界の奥には防御城塔と、王がいるはずの主塔が見える。二頭の大蛇は、既に主塔前まで攻め込んでいる。そこで、騎士団と魔導師団による防衛戦が展開されていた。


 ある者は蛇の吐き出す吹雪に凍りつき、ある者は風の刃で切り刻まれて絶命している。


 魔獣の存在に吐き気をもよおすほどの嫌悪を感じる。だがそれと同等に、この程度の相手に苦戦している一団にも苛立ちが募った。


 空から襲い来る鳥型魔獣もいるとはいえ、いつまでもたついているつもりだ。敵はたかが二体。こんな奴等はさっさと消せばいい。


 地を蹴り、一気に加速する。Gとの戦いでも感じていたが、体中に力が漲っている。自分の体なのに自分の意思で制御しきれない。とても理不尽で暴力的な力だが、竜臨活性(ドラグーン・フォース)を遥かに凌ぐ爆発的な勢いがある。


 氷の大蛇を目掛けて跳躍。敵が振り向くと同時に、その顔へ横薙ぎの蹴りを見舞った。


 頭部が一瞬で弾け跳ぶ。横倒しになる大蛇の胴体を眺めながら着地。それと同時に落胆の溜め息が漏れていた。


 こいつも脆い。脆すぎる。この程度の敵を脅威に思った自分が恥ずかしい。そうして、強い(いきどお)りが胸を覆い尽くした。フェリクスさんの未来と希望が、こんな奴等のせいで損なわれてしまったことが残念でならない。


 俺の怒りを煽るように、風の大蛇が口を開く姿を視界に捉えた。


 大きく息を吸い込んだ蛇。その口から強風が吹き荒れた。真空の刃が混ぜられた風を受け、前方にいた何人かの兵士が切り裂かれた。体が散り散りになり、遺体の山が築かれる。


 その光景を目にしながら、蛇へ突進を続けていた。まるで防御結界が張り巡らされているように、風が俺を避けてゆく。


 軸足に力を込め、敵の懐へ飛び込んだ。肩から体当たりするようにぶつかりながら、右手で掌底を繰り出した。


 掌から炎が吹き出し、敵の腹部を貫通する。くの字に折れ曲がった大蛇の体が、覆い被さるように迫ってきた。


 同情やいたわりなどという慈悲は無用。憎み、嫌悪する存在でしかない。


 顎を狙って上段蹴りを繰り出すと、大蛇の頭は肉片を撒き散らして粉々になった。息を吐いて心を落ち着けると、周囲の兵士たちから向けられる奇異の視線があった。


「化け物のような強さだ……」


 兵士の言葉に苛立ちが募る。視線を向けてくるすべての存在を、今すぐ消してしまいたいという衝動に駆られる。


「がうっ!」


 そんな気持ちを戒めるようにラグが吠えた。そこでようやく本来の目的を思い出し、鳥型魔獣を無視して賢聖を探した。


天地崩壊(シエル・ド・ルモン)!」


灼熱暴風(フラム・トルナ)


 人垣の向こうで、聞き覚えのある声が聞こえた。


 光を帯びた拳で、魔獣へ正拳突きを見舞うマルクさん。そして、業火の渦を繰り出して魔獣を焼くレリアさんが見えた。

 ふたりは俺の存在に気付くと、笑みを浮かべて駆け寄ってきた。


「こいつは驚いた。さすがの活躍だな」


「本当に凄いわ」


 探す手間が省けて助かった。俺は即座にレリアさんの腕を掴んだ。


「なに? どうしたの?」


 呆気に取られる彼女を無視して、周囲へ意識を巡らせた。


 どうせ近くで見ているんだろう。

 そんな確信めいた予感があるものの、誰に対しての言葉なのかがわからない。


 自然と左手が持ち上がり、指を打ち鳴らす。すると、ひとつのつむじ風が出現した。それは滑らかに近付いてくると、レリアさんを飲み込んだ。


「え? ちょっと、なにこれ!?」


「おい、レリア!」


 上空へ持ち上げられた彼女を助けようと、マルクさんが慌てて手を伸ばした。だが俺は、その手を即座に掴み取った。


 つむじ風に乗ったレリアさんは、瞬時に風の球体に包まれた。球体はそのまま、彼女を下中庭へ向けて運んでゆく。


「あいつに何をしたんだ!?」


 マルクさんから険しい剣幕で睨まれている。左手を上げてその視線を遮ると、別の気配を感じて走り出していた。


 目の前にそびえる主塔は四階建だ。その内部で蠢く不穏な気配がある。これもまた炎竜王の力だろう。俺では到底気付けなかった。


 以前にフェリクスさんから聞いた話では、主塔の一階は金や貴重品を収める保管庫として使われているはずだった。外と繋がる直接の出入り口はないという話を思い出し、二階へ続く階段を駆け上がった。


 扉を開けた先は近衛騎士の待機部屋だ。簡易的に区切られた室内には、ベッドやテーブルといった家財道具が置かれている。最奥には螺旋階段が設けられ、王とその家族が生活する居間や私室のある上階へ続いている。


 だが、俺の体はこの場で動きを止めた。不穏な気配はここから出ていたということか。それを確かなものとするように、階段の側には騎士や魔導師など幾人かが倒れている。


「リュシアン君、急にどうした……」


 追いついてきたマルクさんに肩を掴まれたが、彼は途端に驚愕の表情へ変わった。


「エクトル!」


 悲鳴のような叫びを上げたマルクさんは、俺を押しのけて室内へ駆け込んだ。倒れた兵士たちのもとで膝を付き、魔導師姿の男性を抱き起こす。


 エクトル。その名に間違いがなければ、彼こそ聡慧(そうけい)の賢聖だ。白髪の混じり始めた短髪と痩せ気味の体付き。身につけた黒い法衣には、王家の紋章が刺繍されている。


「刃物による切り傷……誰の仕業だ」


 マルクさんがエクトルさんの首筋を撫でた。喉が切り裂かれ、絶命しているのは明らかだ。しかしマルクさんの言う通りだとすれば、殺されたのは魔獣の仕業ではない。


 途端、体が勝手に動いていた。部屋の片隅へ飛びつき、右手を伸ばす。指先が、暗闇に潜む何者かを捉えた。


「ぐうっ!」


 呻き声と共に、黒装束に身を包んだ男が背中を丸めた。男を片腕で持ち上げ、勢いよく振り下ろして床へ叩き付けていた。


 相手は素早く腕を動かし、頭巾から口元を露出させた。口に何かを入れたと思った矢先、男の頭は弾け飛んでいた。


「野郎。自害しやがった!」


 マルクさんの声が漏れた直後、表で指笛が吹き鳴らされた。慌てて外へ出ると、混戦が続く中庭に数人の黒装束を認めた。


 彼らの下へ数羽の鳥型魔獣が飛来する。男たちはそれらに掴まり、即座に飛び去っていった。


 何が起こっているのか。不思議に思っていると、背後でマルクさんの気配がした。


「まさか、王が!?」


 言うが早いか、彼は上階へ続く螺旋階段へ向かって走っていった。それと合わせたように、俺の体を包んでいた炎竜王の気配が途端に消え失せた。


 急激な疲労と目眩に襲われる。立っていることすらできなくなり、壁にもたれて座り込んだ。光が弾けるように視界が明滅し、意識が遠のいてゆく。

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