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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.08 王都アヴィレンヌ編

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04 炎の巨人


 西門へ詰め寄る魔獣たち。その姿を追いながら、右手に収まる魔法剣を強く握った。


 竜臨活性(ドラグーン・フォース)に加え、全身へとぐろを巻く青白い炎の力は続いている。ラグとセルジオン。二つの力が後押ししてくれている。


「やるぞ、炎竜王」


 疾走を続け、前方を埋め尽くす魔獣の群れへ横薙ぎの一閃を繰り出した。


炎纏(えんてん)竜爪閃(りゅうそうせん)!」


 剣の軌跡に沿って、青白く燃える五本の刃が飛んだ。竜のかぎ爪を再現したような魔力の刃が、眼前の魔獣たちを蹂躙(じゅうりん)。怒濤の勢いで襲いかかり、その体を斬り裂いてゆく。


 魔力の刃が消えることはない。まるで海が割れるように前方だけが切り開かれた。俺はその後を辿り、門を目指して走るだけだ。


「どけよ。ザコども」


 魔力の刃に気付いた魔獣たちが、次々と俺を振り返る。だが、俺が纏う圧倒的な竜の力に怯えているのだろう。その場で止まるか、背を向け逃げ出すものばかり。


 竜臨活性(ドラグーン・フォース)で強化された体で、更に疾走を続ける。そうして俺は(またた)く間に、炎の巨人の側へ辿り着いていた。


 巨人の拳を受け、門は大きくひしゃげていた。それどころか壁の一部まで打ち崩され、中型魔獣が街へ侵入してしまっている。


 城壁を挟んだ内外では、冒険者や騎士たちが必死の攻防を繰り広げていた。


「これ以上、好き勝手にさせるかよ」


 この際、ザコは無視するしかない。まずは炎の巨人を片付けるのが最優先だ。


炎纏(えんてん)竜爪閃(りゅうそうせん)!」


 俺に背を向けたままの巨人。その左足を目掛け、剣を横薙ぎに一閃。青白く燃える五本の刃が飛び、敵のふくらはぎを直撃した。


「どうだ!」


 いくら巨人といえども、この技を受ければただでは済まないはずだ。左足を落とし、転倒した所で一気に止めを刺す。


 だが、敵は多少よろめいた程度だった。とても致命傷とは呼べない。


「くそっ!」


 舌打ちが漏れる。炎の力を宿しているだけあって、相性が悪い。


 俺の強襲に気付き、巨人の顔がこちらを向いた。顔に蠢くいくつもの眼球。それらすべてに睨まれているような錯覚がした。


 次の瞬間、巨人が腰を落としたのがわかった。何かを仕掛けてくるつもりだ。

 そうして俺が身構えると同時に、巨人はその場で大きく跳躍した。


 頭上を覆う影。横へ走り、その範囲から慌てて飛び出した時、巨人の体が轟音を上げて着地した。


 大地が悲鳴を上げたように震える。何体かの魔獣が踏み潰され、激しい熱波が周囲へ拡散した。俺は左腕を上げ、咄嗟に顔を庇った。


 凄まじい攻撃力だ。竜の力と体を覆う炎がなければ、俺も甚大な被害を受けていた。その力をまざまざと見せつけるように、熱波に巻き込まれた人々や魔獣が周囲に倒れていた。皆一様に悶え、熱に苦しんでいる。


「調子に乗るなよ」


 剣を構え、しゃがみ込んだ巨人へ迫る。すると裏拳を当てるように、豪腕が振るわれた。


 息を吐き、素早く横へ飛び退く。竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力があれば、難なく避けられる攻撃だ。


 剥き出しになった巨人の胸元。そこへ攻撃の焦点を絞った。握りしめた魔法剣へ、力を収束させる様を想像する。


 程なく、刃の先端へ馬車を丸呑みにするほどの巨大な球体が顕現(けんげん)。碧色の輝きを放つそれは、絶大な威力を内包した魔力の塊だ。


 俺は巨人の足元へ滑り込み、上空目掛けて力を解き放った。


竜牙天穿(りゅうがてんせん)!」


 突き出した剣先から魔力球が飛んだ。竜の再臨とも言うべき圧倒的な力が巨人の心臓部を捉え、敵の体へ大きな風穴を開けた。


「まずは一体!」


 確かな手応えに左拳を握りしめた。だが、巨人はまだ三体もいる。安心はできない。


 巨人の背後に飛び出し、攻撃を受けた王都を改めて見上げた。すると、街を守る壁の向こうに物見台が見えた。そこにいた兵士から、悲鳴のような声が上がる。


「おい、後ろだ!」


 嫌な予感に振り向いた直後、巨人の拳が眼前に迫っていた。


「がっ!」


 全身を強烈な衝撃が襲った。昨晩に肉人形から受けた一撃よりも更に重い。その力によって、軽々と宙を舞っていた。


 上も下もわからない浮遊感。直後、地面にぶつかる衝撃に襲われ、激しく転がった。


 目が回る。視界が揺らぎ、視点が定まらない。だが、動きを止めてしまえば格好の的だ。


 地面に腕を付き、どうにか身を起こした。慌ててその場を飛び退いた直後、先程まで俺がいた場所を一筋の火柱が通り抜けていった。攻撃に巻き込まれた魔獣たちの悲鳴が上がる。


「危ねぇ……」


 間一髪だった。あのまま倒れていれば、今頃は火だるまだ。


 頭を振るい、無理矢理に意識を覚醒させた。加護の腕輪を確認すると、ラインの色は黄色。まだ、魔力障壁(プロテクト)の力は残っている。


「野郎……」


 巨人の口内には炎が燻っている。他の巨人も同様に、それぞれの属性を扱えるのだろう。それにしても、心臓部へ大穴を開けたというのに止まる気配がない。不死身ではないだろうが、弱点はどこにあるのか。


 やはり頭を狙うべきだった。今更後悔しても遅いが、判断を誤ったと見るしかない。


 その時だ。巨人を睨んでいると、視界の奥にある西門が僅かに開くのがわかった。あれでは魔獣の侵入を更に許してしまう。


「こんな時に何をやってんだ!?」


 剣を構え、慌てて駆けた。再び振るわれてきた巨人の拳を避けると同時に、その腕へ飛び乗った。このまま一気に肩まで駆け上がり、相手の頭部へ致命傷を見舞う。


 だが、そう簡単には運ばない。走り出した途端、巨人の左手が迫った。体へまとわり付く虫を払うように、敵は激しく暴れた。


 振り落とされ、地面に膝を付いて着地した。するとその時、視界へ信じられないものが飛び込んできた。


 巨人の足元に、誰かが立っている。


粛清斬(クリフィ・カシオン)!」


 その手に握られているのは大剣だ。淡い白色に包まれた刃が振るわれた直後、巨人は体勢を崩してこちらに倒れてきた。


 ふくらはぎで切断された左足。それが寂しげに残り、傷口から血を溢れさせている。


「行け、リュシアン。とどめを刺せ」


 その声に導かれるように、倒れてくる巨人を睨んだ。敵の喉元を見据えて腰を落とすと、体中へ漲る大きな力を感じた。


 目の前の巨人など比にならない。それを凌駕し、容易く飲み込んでしまうほどの圧倒的で暴力的な力。俺はその力に流されるまま、外へと解放してやるだけでいい。


炎纏(えんてん)竜薙斬りゅうていざん!」


 体に纏う青白い炎が吹き荒れた。豪快な唸りを上げて描かれた剣筋が敵の喉元を確実に捉え、その首が静かに地面へ転がった。


「見事だな。また腕を上げたじゃないか」


 飄々(ひょうひょう)とした涼しい顔をされては、泣き言のひとつも言えない。


「フェリクスさん……」


「情けない声を出すな。まだまだ敵は残ってるんだ。さっさと片付けるぞ」


 最強の味方が登場だ。喜びと共に、全身へ活力が漲ってくる。

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