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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.08 王都アヴィレンヌ編

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03 炎竜王、覚醒


 俺にも竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力があるとはいえ、時間制限と大きな反動は避けられない。これから先の戦いでは、それに匹敵する何かが必要だ。


「貴様の命、頂くぞ」


 漆黒の長剣(ロング・ソード)を手に、駆け込んでくるラファエルの姿を捉えていた。黒の軽量鎧(ライト・アーマー)に身を包んだ姿は、まさしく死神だ。


 横薙ぎに繰り出された鋭い一閃。命を刈り取るような斬撃を、魔法剣で受け止めた。


 剣が纏う紫電が弾け、光の粒が宙を舞う。それがまるで、ぶつかりあった長剣たちから(ほとばし)る鮮血のように見えた。


 ラファエルは奥歯を噛み締め、忌々しそうな顔を見せた。剣を引き戻し、息もつかせぬ連撃が襲い来る。だが俺も、先日とは違う。


「その程度かよ」


 前回は不意を突かれたが、対等の力を持つとわかれば冷静でいられる。鋭く切れのある斬撃だが、ついていけないほどではない。


 それらを受け止める度、悲鳴のような金属音と共に光が散る。紫電を纏った漆黒の刃。その奥に見えるラファエルの姿を睨んだ。


 しかし防戦に追い込まれているのは相変わらずだ。打開策を講じなければ、早々に押し切られてしまう。


 すべての鍵を握るのは、やはり炎竜王だ。


 Gとの戦いでは炎竜王の力に飲まれてしまったが、それを呼び起こした切っ掛けは、間違いなく俺自身の作用によるものだ。


 昨日の戦いで、炎竜王の力の一端を借りることには成功した。あの時の感覚は火種となって、今でも俺の中にしっかりと残っている。後はその火種へ火力を注ぎ、自在に操ることができればいい。それさえ可能になれば、俺は更なる力を手にできる。


 要は、ラグの力を取り込む感覚と同じだ。炎竜王が潜む部屋の場所は捉えた。鍵は解かれ、扉も開け放たれている。その場所を訪ね、豪快な料理を振る舞ってやればいい。


 俺が火力をきちんと制御できるかどうか。問題は、そこに集約されているはずだ。


 ラファエルの猛攻を凌ぎながらも、仲間たちの顔が頭を過ぎってゆく。シルヴィさん、レオン、アンナ、マリー、そしてエドモン。彼らと一緒なら、どんな敵も怖くない。だが、そんな彼らを守り、繋がりをより強固なものとするために、俺は更なる高みを目指さなければならない。現状に満足できない。


 セリーヌを迎え入れ、災厄の魔獣を倒す。それだけの力を手に入れてみせる。


「力を貸せよ……」


 ここまでくれば炎竜王も道連れだ。どの道、俺が命を落とすようなことになれば、ラグもろとも行き場を失ってしまうのは確実だ。否応なく、俺に力を貸さざるを得ない。


 だからといって、無理矢理に力を行使させるのは間違っている。誠意と敬意を持って向き合い、協力したいという流れを作らなければ、竜の全力を引き出すことなどできない。


 今はまだ、それだけの関係を築けていない。俺の力が足りないこともわかっている。だからこそ、今の俺に可能な範囲で、やれることを必死にこなしていくだけだ。


「なんなんだ、貴様は!?」


 俺に決定打を与えることができず、焦りを抱えたラファエルは慌てて距離を取った。


 脇へ流した剣先へ更に強力な紫電が(ほとばし)り、魔力が収束してゆくのがわかった。奴の技に対抗するには、俺も全力で迎え撃つしかない。


 両手で握った剣を正眼に構え、向かい来る力へ抗うように腰を落とした。そうして腹筋へ力を込めると、へそを中心にして体中へ熱が漲ってゆくのを感じた。


 体中の血液が激しく沸騰しているようだ。だが、決して苦しいわけじゃない。むしろ心地よい開放感が全身を包み込んでいる。炎竜王の力が覚醒してゆく様を全身で感じる。


炎爆(フランブル)!」


 掛け声と共に、青白い炎が弾けた。右手を包む碧色の輝きすら飲み込むように、とぐろを巻いた炎が全身を包んだ。


 驚愕の表情を見せるラファエルだが、攻撃の手を止めることはない。


雷鋭(らいえい)竜飛閃(りゅうひせん)!」


 漆黒の刃が空を薙ぐ。その軌跡を追い、三日月のような形をとった紫電の刃が生まれた。


 すべてを喰らい尽くさんとする凶悪さを秘めた、必殺の一撃。豪雷を凝縮したようなそれが、光と唸りを伴って飛来した。


 しかし、それを迎え撃つ俺の心は驚くほど冷静だった。体を包む炎が、俺の持つ負の感情を焼き尽くしてしまったかのようだ。


 刃へ炎が燃え移る。それを頭上へ掲げ、迫りくる紫電に振り下ろした。


炎纏(えんてん)竜翻衝(りゅうはんしょう)!」


 刃の先端から炎が広がる。俺の体を中心として、炎が輪となり伸び上がった。目線の高さまで膨れ上がった炎の壁は、水の波紋が広がるように全方位へと拡散する。


 甲高い音を立て、紫電と炎が激突。互いは弾け、炎の波紋は一部を掻き消されてしまった。それでも紫電の衝突を避けた部分は拡散を続け、付近にいた魔獣たちを焼き払う。


「その力はなんだ!?」


 動揺する相手を見据えた。


「ラファエル。おまえには感謝してるんだ」


 すべてを飲み込む勢いで地を蹴り、奴の眼前へ迫った。左手が熱い。掌へ急速に力が流れ込んでゆくのを感じる。


「俺が成長するための、糧になってくれた」


 振り下ろされた刃を魔法剣で受け止めた。そのままの勢いで、がら空きになった相手の腹部を目掛け、左手で掌底を打ち込む。


炎纏(えんてん)竜牙撃(りゅうがげき)


 そして、一筋の炎が敵の腹部を貫いた。


 ラファエルは背中を丸め、目を見開いたまま数歩後ずさった。その腕からは、ガラスの割れたような破砕音が漏れる。相手はランクBだ。その程度の魔力障壁(プロテクト)で、竜の力を防ぎきれるはずがない。


「俺にとって、ここはまだ通過点に過ぎない」


 敵の姿を眺め、剣をゆっくりと下ろした。


「前回に見逃してもらった礼だ。今回はここまでにしてやる。仲間も近くにいるんだろ。さっさと治療してもらうんだな」


 レオンがいれば、甘いと指摘をしてくるはずだ。しかし自分でも言った通り、こいつには貸しがある。先日のあの場面、俺の命を奪うことは容易だったはずだ。何がこいつを思い止まらせたのかはわからない。だがそのお陰で、こうして雪辱を果たすことができた。


 勝負は決した。いつまでもラファエルに構っていられない。今は王都が最優先だ。


 西門へ目を向ける。近くにいる魔獣は先程の炎で焼死しているが、それもほんの一部だ。前方にはまだまだおびただしい数が残り、城壁を目指して進み続けている。


「うらあぁぁぁっ!」


 突然の咆哮に目を向けると、尚も身構えたラファエルが斬り掛かってくる所だった。

 舌打ちと共に身を(ひるがえ)し、相手の全身全霊となる一撃を避けた。


「しつこいんだよ」


 ラファエルの喉を掴み、頭を潰さんばかりの勢いで地面へ叩きつける。鈍い音と共に、完全に気を失ってしまった。


 竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使っているとはいえ、ここまで攻めてくるとは大した執念だ。


「悔しかったら追ってこい。俺はその更に上を行ってやる。全てを守るために」


 強い決意を胸に、西門の前で暴れ続ける炎の巨人を睨んだ。新たに得たこの力で、必ずみんなを救ってみせる。


「行こう、セルジオン。竜の底力ってやつを思い知らせてやろう」


 剣を握り、魔獣の群れへと飛び込んでゆく。

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