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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.07 オルノーブル編

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22 深い結び付き


 翌日、朝一番からドミニクと傭兵団の元副長三人を招集した。そのままカンタンとエミリアンを連れ、裁判所での契約手続き。それが終わった後は各自の役割を再確認して解散した。災害に見舞われた歓楽街も、傭兵たちが復興を手伝ってくれている。


 結局、またユーグを逃した。ドミニクも自分では足手まといだと、俺に一任されている。どこまでも追い詰め、必ず仕留めてみせる。


 決意も新たに屋敷へ戻ると、玄関前にシルヴィさんの姿があった。


「どう。上手く行った?」


「まぁ、今の所は。契約の事務手続きに一ヶ月。俺もわからないことだらけなので、結局、法律家を雇いましたけどね。王都でも有名なやり手らしいので、円滑に進むと思います」


「凄いじゃない。よかったわね」


「でも、エミリアンは独身でしたけど、カンタンは本妻以外にもあちこちに女がいて。後々、権利や相続の問題が出そうです。まぁ、店の権利書や書類一式は奪ったし、本人たちの牙も抜いた。経営の知識と人脈を頂いたら、お払い箱。徹底的に搾り取ってやりますよ」


「リュシーがどんどん危険な男になっていく。あぁん、あたしのことも滅茶苦茶にして」


 俺の体へしなだれ、腕を絡めてくる。


「食い付く所が違うでしょうが。シルヴィさんだって冒険を続けていれば、運命的な出会いがあるかもしれませんよ」


「あら。リュシーはそれでいいんだ?」


「当然ですよ。その人の人生ですから」


 それはそれで寂しい気もするが、シルヴィさんには本当の幸せを掴んで欲しいとも思う。


 すると、門扉の外に怪しげな人影を見つけた。みすぼらしい身なりの中年男性だ。


「何か用ですか?」


「リュシアン=バティストという方を探しているんです。この屋敷にいるはずだと聞いて」


「それ、俺ですけど」


 男は驚いた顔をしながらも、人から預かったという物を差し出してきた。


「これ、加護の腕輪じゃない」


 隣に立つシルヴィさんもいぶかしんでいる。腕輪のラインは銀色。ランクSの印だ。


「エドモンの腕輪か? これをどこで?」


「歓楽街の入口で、魔導師風の女に頼まれたんだ。どこにいるか把握できるように離さず持っていなさい、と伝えてくれってさ」


 そして男は逃げるように去っていった。


「そうなると、エドモンは捕まったままってことよね。可愛そうだけど自業自得か」


「相手からの接触を待つしかありませんね」


 もどかしいが、今はどうすることもできない。頭を切り替え、シルヴィさん、レオン、マリーと共に屋敷を後にした。次はその足で商店へ向かう。朝一番で補修を頼んだ鎖帷子(くさりかたびら)の受け取りと、痛んだ冒険服の買い替えだ。


「レオン様、昨晩はありがとうございました」


 道すがら、後ろでマリーの声が上がる。俺は、隣を歩くシルヴィさんと目を合わせた。


「何のこと」


「私の部屋を夜通し見張っていてくださったと、傭兵の方から伺ったので」


「そんなことか。わざわざ礼を言われることでもないから。むしろ、モントリニオ丘陵では守ってやれなくて済まなかった」


「レオン様が謝る必要はありません。悪いのはエドモンさんですから」


 レオンが謝るのを初めて聞いた。しかも部屋の見張りまでしてくれていたとは。以前にも同じことがあったが、過剰ともいえる警戒心は、幼い頃に街を襲撃された影響だろうか。


 そうして商店へ入ると、一般的な冒険服を探した。今は魔力障壁(プロテクト)に加えて鎖帷子(くさりかたびら)もある。なるべく身軽な方が動きやすい。


「リュシー。これなんてどう?」


「は?」


 シルヴィさんの声に振り向くと、なぜか紫の女性用下着を手にしている。レースがあしらわれた、お洒落で卑猥なデザインだ。


「今夜も激しく盛り上がらない?」


「遠慮しておきます」


「あら。むしろ、下着なんていらないって顔ね」


「どんな顔なんですか、それは!?」


「おふたりって、本当に仲がいいですよね」


 呆れ顔のマリーに、シルヴィさんが微笑む。


「仲がいいっていうより、すっごく深い所まで結び付いてる、大人の関係なの」


 腹部を撫で回している仕草が気になる。


「私にはこの人の良さがわからないので何とも。今回もカンタンさんとエミリアンさんへの仕打ちを見て、やっぱり野蛮な人なんだという印象を再確認しました」


「酷い言われようだな……」


「リュシーの魅力は、わかる人にだけわかればいいの。敵が増えても面倒なんだから」


 シルヴィさんは妖艶な笑みを浮かべた。


 結局、冒険服選びは今着ている物と似た服で落ち着いた。風景に溶け込むことを考えても、深緑色は外せなかった。


「ここは、あたしに払わせて」


 会計にシルヴィさんが割り込んできた。


「自分で払いますよ」


「いいじゃない。あたしが買ってあげたいの」


 せっかくなので、好意に甘えることにした。そうして早めの昼食を摂ろうと、大衆酒場、荒くれどもの喧騒亭へ向かう。


 開店前なので普段なら入店できないが、昨晩世話になった御礼をしなければならない。食事は予約済み。酒場の前で、アンナ、パメラ、ルネと待ち合わせの約束をしていた。


「皆さん心配したんですよ。私が寺院へ行っている間に、街には怪物、アンナさんは行方不明。ルネに聞いたら、ここで待つように言われたって。生きた心地がしませんでした」


「いろいろ悪かったな」


 ご機嫌斜めのパメラだったが、豪勢な食事でそれもどこ吹く風。エドモンもいれば大団円だったが、この街での心残りになってしまった。


 シルヴィさんとアンナは、エドモンを許して欲しいと言う。だが露骨に拒絶したのは、標的にされたマリーだ。レオンも彼女の味方に付き、意見は完全に二分。どのみち、エドモンも素直に戻ってくるとは思えない。フェリクスさんに泣きつくのは目に見えている。


 そして何より驚かされたのは、ルネの食欲だ。パメラとマリーの間へ陣取り、大人顔負けの勢いで黙々と料理を平らげたのだ。


「みんなには話しておかないとな」


 俺は食事が終わる頃合いを見て切り出した。


「シルヴィさんは王都で護衛任務ですよね。俺はシャルロットを送り届けた後、マリーと一緒にアンターニュの街に向かう。レオンとアンナがどうするかは、それぞれに任せるよ」


「アンターニュに何があるんですか?」


 当のマリーが不思議そうな顔をしている。


「そういえば、まだ話してなかったな。セリーヌの故郷。その場所について知っている人がいるんだ。マリーと一緒にその人を尋ねることが、情報提供の条件なんだよ」


「女神様に会えるんですか!?」


 目を見開いたマリーは前のめりになり、驚くほどの食いつきを見せてきた。セリーヌに会いたいと言い続けているのは知っていたが、これほどまでだとは思いもしなかった。


「故郷の場所がわかるかもしれないって程度だ。会えると決まったわけじゃない」


「ぜひ、お供します。でも、あなたとふたりきりというのは不安しかありません」


「またそれか……」


「なんでマリーちゃんなの?」


 アンナの質問は最もだ。俺は想定していた質問に対して、嘘の答えを重ねてゆく。


「マリーが持つ治癒能力の高さは、みんなも知っての通りだな。情報提供者は重い病にかかっていて、それを治すのが条件なんだ」


「なるほどね。でも、アンナはやめておくよ。シル姉と一緒に、王都で食べ歩きするから」


 俺は黙って頷いた。その方が俺も安心だ。今はシルヴィさんをひとりにできない。


「だったら、俺が行くしかないか」


「レオン様が来てくだされば心強いです」


 渋々といった感じのレオンを見ながら、胸の前で両手を組んだマリーが喜んでいる。


「決まりだな。レオン、よろしく頼む」


「彼女のために行くだけ。あの夜に言ったこと、忘れてないよね?」


「あぁ、覚えてるとも」


 マリーを外すか、レオンが外れるか。俺は新たな選択を迫られている。


「あの。実は折り入ってお願いが……」


 口を開いたのはパメラだ。


「ルネは、サンケルクという街に住んでいたそうなんです。ご存じであれば送り届けて頂けないかと思っていたんですけど……」


 懐かしい地名に、つい反応してしまった。


「俺はフォールって街の出身だけど、サンケルクは馬で半日の距離だ。急用がなければ送ってやるんだけど、馬車で送らせようか?」


 するとルネが、マリーへ耳打ちした。


「私と一緒じゃなきゃ嫌だと言っています。連れて行ってあげましょう」


 ルネはマリーの法衣の裾を掴んで離さない。なんとも厄介なことになってしまった。


「わかった。アンターニュでの用事が終わったら、その後にサンケルクへ行くから」


 そうして歓談していると、魔導通話石に反応があった。この片割れは、シャルロットが持っているはずだ。


「どうした?」


『リュシアンさん、大変です。すぐに王都へ戻ってきてください』


「落ち着け。何があったんだ」


 切羽詰まった声に、妙な胸騒ぎがする。


『王都が魔獣に囲まれているんです。騎士団や冒険者が出陣して、乱戦の直前なんですよ』


「嘘だろ!?」


 想定外の報告に、頭が真っ白になった。

QUEST.07 オルノーブル編 <完>


<DATA>


< リュシアン=バティスト >

□年齢:24

□冒険者ランク:A

□称号:碧色の閃光

[装備]

恒星降注レセトール・エフィス

スリング・ショット

冒険者の服

光纏帷子ブレル・チューンヌ


挿絵(By みてみん)




< シルヴィ=メロー >

□年齢:25

□冒険者ランク:S

□称号:紅の戦姫

[装備]

斧槍・深血薔薇フォンデ・ロジエ

深紅のビキニアーマー


挿絵(By みてみん)




< レオン=アルカン >

□年齢:24

□冒険者ランク:A

□称号:二物の神者

[装備]

ソードブレイカー

軽量鎧


挿絵(By みてみん)




< アンナ=ルーベル >

□年齢:22

□冒険者ランク:A

□称号:神眼の狩人

[装備]

双剣・天双翼パラディル・エージュ

クロスボウ・夢幻翼レーヴ・エール

軽量鎧


挿絵(By みてみん)




< マリー=アルシェ >

□年齢:18

□冒険者ランク:C(仮)

□称号:アンターニュの聖女(仮)

[装備]

聖者の指輪

白の法衣

タリスマン


< ドミニク=ラポルト >

□年齢:40

□冒険者ランク:なし

□称号:なし

[装備]

毒刃短剣プワゾ・ニャール

革鎧


< エドモン=ジャカール >

□年齢:23

□冒険者ランク:S

□称号:真理の探求者

[装備]

魔導杖

朱の法衣


< フェリクス=ラグランジュ >

□年齢:38

□冒険者ランク:L

□称号:断罪の剣聖

[装備]

聖剣ミトロジー

軽量鎧



ラフスケッチ画:やぎめぐみ様

twitter:@hien_drawing

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