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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.06 モントリニオ丘陵編

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17 終末の担い手を追って


 レオン、エドモン、マリーのお陰で、どうにか魔獣に打ち勝つことができた。正直、助けがもう少しでも遅ければ、俺はこうして生きていなかったかもしれない。


 竜臨活性(ドラグーン・フォース)を解き、戦場となった場所を離れて地面へ座り込む。半ば抜け殻のようになった俺を残し、三人は賊たちを捜しに向かってくれた。ドミニクたちは程なく見付かり、レオンとエドモンの手によって、俺の側へ次々と運ばれてきた。


「私が順番に治療するわ」


 戦いは終わったものの、ひとり緊迫した空気を纏い続けているのはマリーだ。怪我人を前に、聖女としての使命感が働いたのだろう。


 中でも緊急を要するのはナタンだ。足を負傷して思うように動けなかった事もあり、深い傷をいくつも負っている。マリーは側に付き、真っ先に魔法での治療を始めた。


 エドモンはぶつぶつと文句を言いながら、ジョスへ向けて癒やしの魔法を顕現(けんげん)させる。


「オイラの魔法は高いっスよ。リュシアンの旦那に請求してもいいんスか?」


「おい。おまえらがアルバンたちに付いていった時、路銀を工面してやったのは誰だ」


 図々しいを通り越し、金の亡者に成り下がったエドモン。もう、溜め息しか出てこない。ケチでがめつい奴だと理解していたが、ここまで重傷だとは思わなかった。


 まぁ、彼の腕を見込んで仲間に引き入れようとしたフェリクスさんも、散々断られたと言っていた。最後は金の力で屈服させたくらいだ。エドモンは見た目と性格で多大な損をしているのは間違いない。


「エドモンさん。口はいいから手を動かしてください! 魔法の腕は確かなのに、すぐに手を抜いたり、楽をしようとするんだから」


 不意に飛んできたマリーの言葉に、エドモンの巨体が驚きに震えた。


「わかってるっスよ。今やる所っスから。そんなに大きな声を出さなくてもいいじゃないっスか……マリー(じょう)、街にいる時とは別人っスよね。普段はあんなにお淑やかなのに」


「これが本当の私なの。悪い? 聖女なんて言われてるけど、私だって普通の女の子なんだから。いつでもどこでも、良い子でいられるわけじゃないんだからね」


「申し訳ないっス……」


 ふたりのやり取りに苦笑すると、左肩の上ではラグも舌を出して笑っている。そんな矢先、側に立っていたレオンと目が合った。


 相変わらず、こいつには助けられっぱなしだ。口を開けば嫌味しか言わないような奴だが、どういうわけか、ここぞという時には必ず側にいてくれる頼もしい存在だ。まぁ、それを本人に言う機会はないだろうが。


 レオンは俺の視線を受けると、気分を害したのか途端に顔をしかめた。


「なに? あいにく、俺に期待するのはやめて欲しいんだけど。癒やしの魔法は苦手なんだ。相手を殺すための技術しか磨いてこなかったから」


「あぁ。確かに、人助けは苦手です、って顔してるよ……暇を持て余してるみてぇだから、この血を洗い流すために水の魔法をかけて欲しいと思っただけだ。ついでに炎の魔法で乾かして貰えると助かる」


「俺は便利屋じゃない。それに、どうしてこいつらと組んでるんだ? 殺すならともかく、助けようとするなんて。話の経緯が全く見えないんだけど」


「洗いながら話す」


 レオンは渋々ながら水の魔法を顕現してくれた。中空へ、球体状の水が現れる。


 俺は竜臨活性(ドラグーン・フォース)の影響で怠くなった体を引きずり、水の球体へ冒険服のまま入り込んだ。体を入念に洗った後は炎と風の魔法を顕現(けんげん)してもらい、急速乾燥をすることができた。


「じゃあ、次はあの魔導師を追って、オルノーブルの街まで戻るのか」


 レオンは気怠そうな顔で肩をすくめるが、事の重大さを分かっていない。それに呆れていると、木の上にいたラグが左肩へと戻った。


「あいつは何としても仕留める。Gの背後にいたのもあいつだ。大型魔獣を生みだす技術を考えても、かつてない脅威になる相手だ」


「その前に、傷を癒やすのが先でしょ」


 ナタンの治療が終わったのか、マリーが足早に歩み寄ってきた。


「じゃあ、オイラはこっちの賊を」


 エドモンも、ドミニクの手当てに取りかかろうとしている。


「あいつらは大丈夫なのか?」


「ええ、容態は安定してる。このまま街へ連れ帰って、休ませた方がいいわ」


 マリーの両手が青白い光に包まれる。その手が胸へ置かれたと同時に、体中が温かくなるのを感じた。癒やしの力が注ぎ込まれ、全身へ巡ってゆく様がはっきりわかる。


 治療に集中するマリーの顔を見た途端、彼等と別行動になった要因を改めて思い出した。


「そういえば、リーズの母親はどうした」


「無事に回復したわ」


 表情ひとつ変えず、マリーが答えた。


「そうか。良かった……」


「誰が同行したと思ってるの。私の前では絶対に死なせたりしない」


 強い意志を秘めた目は、俺ではなく、遙か先を見通しているように思えた。


「でも、その後が大変だったんスよ」


「ちょっと、エドモン!」


 不意に割り込んできた声を掻き消そうと、マリーが大きな声を上げた。俺はその気配にただならぬものを感じ、ふたりを交互に見た。


「何があった?」


「何でもないわ」


「話せ。俺にも知る権利はあるだろ」


 マリーが振り向くと同時に、エドモンの顔が引きつったのがわかった。恐らく、睨みを効かせた無言の圧力をかけたのだろう。


「母親の完治を確認した翌日、リーズさんが姿を消してしまったの……」


「なんでだよ!?」


 ようやく目的を果たしたというのに、彼女がいなくなった理由がわからない。


「彼女は、Gたちから散々、(はずかし)めを受けたのよ。けがれてしまったと思い詰めた彼女が、消えたいと願っても不思議じゃなかった。それに気付かなかった私たちも愚かだったわ」


「それで、どうなった?」


「アルバンさんとモーリスさんにも手伝ってもらって、辺りを必死に探したわ。あちこち探してようやく、街外れの森の中で自害しようとしていた彼女を見付けたの」


 マリーの発する一言一言が本当に重い。リーズがそこまでの闇を抱えていたことに気付いてやれなかったのが本当に悔しい。


「リーズは無事なのか?」


 マリーは無言のまま、ひとつ頷いた。


「結局、思いとどまったみたい。シルヴィさんのお陰だって。廃墟に一晩泊まったでしょう。あの夜にシルヴィさんから掛けられた言葉が、リーズさんに救いを与えたそうなの」


「シルヴィさんが? リーズに何を言ったって言うんだよ」


「わからない。教えてくれなかったわ」


 自害を考えるほど追い込まれたリーズ。そんな彼女を救った言葉とは何だったのか。気になるけれど、深入りは許されないようにも思える。


 考えることをやめ、大きく息を吐いた。とにかくリーズは無事だった。それでいい。


「シルヴィさんで思い出した。そういえば、アンナはどうしたんだ?」


 以前から姉妹のように仲のいいふたりだ。つい一括りで考えてしまうのは俺の悪い癖だ。


「そうか。まだ、言っていなかったか」


 呑気な声を上げたのはレオンだ。そうして腰に提げた革袋から、一握りほどの白い石を取り出した。既に見慣れた魔導通話石だ。


「シルヴィさんに片割れを渡していたはずだけど、俺たちが馬で王都へ向かっている途中、シャルロットから通話が入ったんだ」


「は? なんでシャルロットが!?」


 彼女はドミニクの部下に狙われているはずだ。俺が同行した時点で、見張りが解かれたということだろうか。


 肝心のドミニクは気を失ったままだ。確認する手立てがない。


「で、何の連絡だったんだ?」


「通話石を残して、シルヴィさんが宿から消えたって。腕輪の反応を調べてくれたみたいだけど、来た道を引き返してるってさ。シャルロットが言うには、オルノーブルの街へ向かっているんじゃないか、って」


「オルノーブルに?」


 そういえば、酒場で耳にした女性の失踪事件に反応していた。まさか、それを解決するために戻ったのだろうか。


 頭の中で情報が錯綜する中、レオンは更に言葉を続けてきた。


「それを聞いたアンナが、シルヴィさんを追うって言うから途中で別れたんだ。俺たちはシャルロットに頼まれて、あんたの位置情報を追ってきた」


「そんな事になってたのか……」


 奇しくも、終末の担い手が向かったのもオルノーブルの街だ。人質ごと連れて行ったあいつの真意がわからない。そこに何があるのか知らないが、こうなればとことん追うだけだ。


「マリーの癒やしが終わり次第、すぐに追う」


 眼前の彼女へそう告げた時だ。不意に、林の奥の木々が不自然に揺らめくのが見えた。俺たち四人の視線が、自然とそちらへ集まる。


「様子を見てくる」


 険しい顔で、剣を引き抜くレオン。


「オイラも行くっス」


 ドミニクの癒やしを中断したエドモンが、付き従うように後へ続いてゆく。

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