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由姫の本心

 山道を歩き始めて1時間、俺は由姫と2人でモンスターを追っていた。



「先輩、あっちにダイナウルフがいたぞ」


「任せろ」



 ハンドガンで由姫のいる方にダイナウルフを誘導して、由姫が止めを刺す。

 このやり方で数体のダイナウルフを倒すことに成功していた。



「今日もモンスターの出現率は高いな」


「そうだな」



 1時間で5体。かなりのハイペースでモンスターと遭遇している。

 1日に数体しか遭遇していなかったことを考えると異常なペースだ。



「やっぱりあの霧が原因か」



 山頂を包む霧。あの霧が原因でモンスター達が麓に集まっている気がする。



「あの霧の中には何があるんだろうな」



 正直霧の中を確認したいが、由姫もいるので危険なことはできない。

 ここはぐっと堪えて、行くのを我慢しよう。



「先輩はもしあの霧中に、大きな城が隠れていたらどうする?」


「それは夢がある話だな」



 それこそ本当にRPGで出てくる魔王城である。

 でも、由姫の予想が本当に当たっていそうで怖い。



「それよりも、今回のモンスターは肉を落としたな」



 俺は肉を取ると、背中に背負ったリュックに入れる。

 アイテムボックスは使用しない。それは春斗さんにも見せてないものだから。由姫にも見せるわけにはいかない。



「先輩はアイテムボックスのスキルは使わないの?」


「何でそのスキルのことを由姫が知っている?」



 俺のスキルについては身近にいる人以外、誰にも話していない。

 それを知っているってことは、誰かが話したってことになる。



「その話、誰から聞いたんだ?」


「桜からだ」



 やっぱりそうだ。こんなことを話す奴、桜しかいない。



「いつその話を聞いた?」


「昨日の夜だ。梓と桜との3人で話を終えた後、先輩と同じグループだからと話してくれた」



 桜め、余計なことをしてくれる。いくら由姫と友人だからって、俺のスキルを教えることはないだろう。



「今更そんなスキルありません。っていっても信じてもらえないよな?」


「あぁ」



 しょうがなくリュックから取り出した肉をアイテムボックスへとしまう。

 ついでにリュックサックも持ち運びが面倒なので一緒に収納した。



「先輩のそのスキル、本当に便利だな」


「だから特別スキルって言うんだろ?」



 由姫も目の前でリュックサックが消えた事に驚いていた。

 驚くのも無理がないだろう。目の前でものが突然消えるんだ。普通は驚くに決まっている。



「それより、由姫は何か俺に話したいことがあるんじゃないか?」


「何のことだ?」


「惚けるなよ。何か俺に話したいことがあって、俺とペアになったんだろ?」



 それ以外の理由で俺とペアを組むとは思えなかった。

 今朝桜からも話を聞くように言われていらからな。

 そうとしか考えられない。



「ははは、先輩は勘がするどいな」


「今朝桜からも言われたからな」


「そうか、桜が先輩に伝えてくれたのか」


「何を話すまでか聞いてないけど、由姫が何か話すならちゃんと話を聞いてあげるようにとは言われている」



 昨日もしかしたら、俺に言おうとして言わなかったことかもしれない。

 どんな話をするかはわからないが、覚悟だけは出来ている。

 


「なんでも言ってくれ。出来る限りは答えるから」


「わかった。実は、先輩にお願いしたいことがある」


「お願い?」


「そうだ。実は‥‥‥」



 そこで由姫が言いよどむ。その時一瞬、とてつもなく嫌な予感が頭をよぎった。



「由姫、一瞬待ってくれ」


「待つ? 何をだ?」


「いや、俺には好きな人がいるから‥‥‥その‥‥‥」



 告白されると困る。暗にそう言ったのだが、由姫はキョトンとしていた。



「先輩が桜のことを好きなのはわかっているぞ」


「何!?」


「今回私がお願いするのは別の話だ」



 何が別の話かわからないが、これではダメだ。頭の中で混乱していてまとまらない。



「一旦待ってくれ。いつ俺が桜のことが好きだってわかった?」


「そんなの最初から2人の様子を見ていればわかる。あんなに楽しそうにしている先輩は、中々みないから」



 確かに桜といる時は楽しかった。だが、周りまでそんな目で見てるとは思わなかった。



「ちなみに、このことは‥‥‥」


「わからないな。だが、先輩のことを知っている人であれば、みんなわかるだろう」



 俺はそんなにわかりやすかったのか。だから梓達もあんなに温かな目で俺や桜のことを見ていたのか。



「もっと言うなら、2人は既に付き合って‥‥‥」


「悪かった。もうその話は大丈夫だ」



 さすがにこれ以上指摘されるのは精神衛生上まずい。こうしている間にも、俺のメンタルがガリガリ削られていく。



「それで話の本題だが‥‥‥」



 さっき由姫が言おうとしていたことだ。一体何を話そうとしていたんだろう。



「私を‥‥‥私を先輩のパーティーに入れてくれないか?」


「パーティー?」



 パーティーって、あのパーティー機能のことか?



「悪いが、それは無理だ」


「何故だ!?」


「俺のパーティー機能には、誰の名前も載ってないからな」



 正確には桜しか名前が載らなかった。日向も悠里も載ってないものに、由姫の名前が載るはずない。



「違う。私はパーティー機能の話はしていない」


「えっ!?」


「言い方が悪かった。私も先輩達の旅の仲間に入れてほしいんだ」



 由姫にしては意外な申し出だ。ここなら梓やクラスメイト達もいるのに、ここを出たいってよっぽどのことがあったのだろう。



「そう言われてもな。 俺達の仲間になったからって、何もいいことはないぞ」


「別にそれでもかまわない。荷物持ちに使ってくれてもいい」



 必死に由姫はそう訴える。だが、俺には何か裏があるんではないかと思ってしまう。



「理由を聞いてもいい?」


「えっ!?」


「そこまで固い決心なんだ。きっと何かあったんだろう?」



 その瞬間、由姫の肩がびくっと震えた。

 もしかしたら、由姫はその理由を話したくないのかもしれない。



「悪い、余計なことを聞いた」


「別に構わない。むしろ、先輩には理由を聞いてほしい」



 どういった話か聞かなくてもわかる。それはきっと、昨日由姫がいいよどんだ話だ。

 いつか話してくれるといった話。まさかこんな早く聞くとは思わなかった。



「私は襲われたことがあるんだ」


「襲われた!? それはモンスターに?」


「モンスターじゃない。人間にだ」



 人間に襲われる。それだけで由姫が言いたいことが大体わかってしまった。



「それは、学校内での話でいいんだよな?」


「そうだ」



 学校内でもそういった人間がいる。その話を聞いた瞬間、何も持っていない左手を握り締めてしまう。



「一体いつ?」


「それは本当に最初の頃だ。学校内に入ってきたモンスターを退治して、三葉校長が結界を張って皆を守ってくれた後の話になる」



 ということは、この現象が起きて始めの頃の話だな。それこそ俺達が桜の救出やデパートにいた頃の話になるだろう。



「私はその人に告白されたんだ」


「告白?」


「そう、『ずっと前から好きだったから、付き合ってほしい』と言われた」


「それで、由姫はどう答えたんだ?」


「もちろん告白してきてくれた人の気持ちはありがたかった。だが正直今はこんな状況で、そんなことを考えている余裕がないと断ったのだがな」



 由姫の言っていることもわかる。この変化した世界で生き残る為に精一杯で、そんなことを考えることもなかっただろう。

 俺も正直学校に来るまで、必死に戦っていてそんな余裕はなかった。



「でも、それだけで襲われるってことはないだろう」


「私もそう思っていたんだ。だがその後、当時の私のグループでミーティングをすると体育館に呼び出されたんだ」



 由姫はその時のことを思い出したのか、手が震えている。

 俺も拳の握る手が強くなる。



「中にはマットがしかれていた。不思議に思って振り向くと私は突き飛ばされてしまって、そのマットに倒れこんでしまった。そこで告白してきた人が私の上にのしかかってきて‥‥‥」


「もういい、やめろ」



 それ以上は言わなくていい。これ以上聞くと、俺の理性も歯止めが効かなくなる。



「先輩?」


「そんな胸糞悪い話、思い出さなくていい。辛い話なんてするものでもない」



 由姫の受けた心の傷は大きい筈だ。なんで今まで気づいてやらなかったのだろう。

 今思えば兆候はあった。俺や春斗さんと一言も話さなかったこと。俺が近づくとすぐ側から離れて行ったこと。

 あれは由姫なりの男への拒否反応だったに違いない。



「先輩は優しいのだな」


「そうでもないぞ」


「でも心配はいらない。のしかかられた瞬間、そいつの腹を思い切り蹴飛ばしたからな。それで急いでその場から逃げて難を逃れることに成功した」


「なら、よかった」



 最悪の事態を招いていなかったならいい。さすがにそんなことがあればトラウマものだろう。

 男の顔さえ見たくない筈だ。



「それから私は人を信じるのが怖くなった。特に男は信用ならない」


「だから最初あんな露骨に俺のことを避けていたのか」



 そんなことがあれば学校の、特に男に不信感を持つのもわかる。



「それからは少しずつ、クラスから距離を取るようになって1人で過ごすことが多くなったというわけだ」


「なるほどな」



 由姫は言わないが、犯人はクラスの誰かってことか。

 じゃないとクラスから離れて1人でいるようになったことの説明がつかない。

 俺達が見かけたときも、1人で食事をしていたのはこういった理由があったみたいだ。



「最初先輩も私目当てで近寄って来たと思ったのだが、先輩は違ったのだな」


「当たり前だ」



 由姫のことは素直に自分のグループの仲間だとしか見ていない。

 例え俺が由姫に恋愛感情を持っていたとしても、襲ってきた奴と同じ事はしないだろう。



「やっぱり先輩は優しいのだな」


「俺は優しくない」



 いつも自分の利益になることしか考えていない。結局どうすれば自分にとってプラスになるか、それだけを判断材料にしてに動いている。



「そんなことはない。昨日私がやられそうなとき、先輩が囮になってくれたから無事だったんだ」


「それは過大評価だ」



 むしろ昨日は由姫が俺のことを助けてくれたに過ぎない。

 由姫が来てくれなければ、今頃俺はあの世に行っていただろう。



「そんなことはない‼︎ 昨日の先輩を見ていて思ったんだ。私はこの人と一緒に戦いたいって」


「そう言ってもらうのはありがたいが、あいにく俺には他の仲間もいるんだ」



 由姫の熱い思いは充分伝わったが、これは俺1人の一存では決められない。

 仲間にするにあたって日向や悠里、それに桜にも確認しないといけない。



「別に私は桜から先輩を取ろうってわけじゃないんだ」


「桜?」



 何でここで桜が出て来るんだ? 由姫は何を勘違いしている?



「私は2番目でいい。先輩と桜の剣となって、先輩達のことを守りたいんだ」


「剣?」


「だから、先輩と一緒に戦わせてほしい。先輩の側にいさせてくれ」



 いつの間にか立てひざを突き、俺の左手を取る由姫。

 その立ち振る舞いは、歴史で見る騎士の立ち振る舞いのようだった。



「由姫の気持ちはうれしい」


「それではさっきの話はいいのか?」


「もちろんダメなわけじゃないけど‥‥‥」



 この話、桜が聞いたら怒るんじゃないか?

 桜のことだ。絶対に後で不機嫌になるに決まってる。



「ちなみにだけど、桜はこの話を知ってるの?」


「昨日の夜話した」



 あぁ、だから昨日の夜屋上に来るのがあんなに遅れたのか。



「なんて言ってた?」


「私が仲間になることも先輩の剣になることも別にいいって話していた」


「あの桜が!?」



 桜がここまで譲歩するのは珍しい。下手をすると由姫とのキャットファイトになっていても、おかしくないはずなのに。



「もちろん条件付きだが」


「条件?」


「先輩との仲を取り持つこととと、何かあった時にちゃんと先輩を守ること、それに先輩に何かあった時必ず桜に報告すること、それから‥‥‥」


「もういい、大丈夫だ」



 どうやら桜から色々な条件を付けられたみたいだ。こうなってしまっては、由姫は桜から送られたスパイと言っても過言ではない。

 由姫に言ったことは全部桜に伝わってしまう。油断も隙もないな。



「そういえば、由姫に告白した奴は誰なんだ?」


「宮園だ。いつも杉田と一緒にいる」


「あいつか」



 この前朝食の時にいた金髪の奴か。だから由姫はこの前杉田達が来た時、露骨に席を立ったのか。



「そんなことよりも桜が心配だ」


「桜?」


「知らないのか? 杉田の奴が、桜のことが好きなことを?」



 それは知らない。俺も初耳の情報だ。



「いつも杉田といる宮園が強硬手段に出たんだ。もしかすると桜も‥‥‥」



 そんなことはない。桜に限ってそんなことあるはずがない。

 頭ではそう思っていても、血の気が引いてしまう。桜に何かあったかと思うと、胸が張り裂けそうだ。



「キャーーーーー」


「何の声だ!?」



 女性の声。この声はどこかで聞いたことがある。



「五月」


「えっ!?」


「五月の声がする」



 五月って、桜の友人の1人か。確か最初に出会った時、桜の近くにいた女の子の名前だったな。



「確か五月は杉田の班だから‥‥‥」


「桜もいる」



 その時点で血の気が引きそうになる。もしかしたら桜が何者かに襲われている可能性だってある。



「声がする方はあっちだな」


「先輩、行こう」


「わかった」



 俺達は慌てて森の奥の方に行く。桜達がいるその場所へと向かうのだった。


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