不器用な誘い
「さっきは酷い目にあった」
夕食を食べ終え、屋上で桜を待つ。いつもの場所に座り、外の景色を眺めていた。
「それにしても、遅いな」
屋上に来てから既に2時間が経過している。まだ桜達の話し合いは続いているらしい。
「一体俺はあと何時間ここにいないといけないんだ」
長い時間1人でこうしているのもさすがに飽きた。
かといって別の場所に行こうにも、俺が屋上にいない間に桜が来たら、後で何を言われるかわかったものじゃない。
「唯一の話し相手になりそうな八橋もどこかにいっているみたいだしな」
テントを見ると、明かりが消えている。
時間も早いし寝ているというよりは、どこかに行っているということだろう。
だがいたとしても、八橋は俺に何も話しかけてくれそうにないけどな。
「お待たせしました」
屋上の開く音と同時に桜が入ってくる。入ってきてすぐ、桜は俺の隣に座った。
「遅いぞ」
「すいません。色々と話が盛り上がってしまって」
「盛り上がるのはいいけど、何を話していたんだ?」
「それは秘密です」
「秘密?」
「そうです。建設的ないい話し合いが出来たと思っています」
どうやら下級生3人組の中で、何か話がまとまったらしい。
何がどうまとまったかは、怖くて聞けないけど。
「そんなことよりも先輩、本当に由姫ちゃんと親しくなったんですね」
「そうか?」
あんな俺が楽しみにしていた夕食を邪魔しておいて、本当に親しくなったと言えるのか?
むしろ嫌われているって思われてもおかしくない。
「そうですよ。由姫ちゃんとっても楽しそうでしたよ」
「楽しそう?」
「あんな生き生きとしていた由姫ちゃん、中々見ることが出来ません」
梓は確かに楽しそうだったが、由姫はそんなに楽しんでいたのか。
確かに生き生きとはしていた。最初の頃とは大違いだ。
「あたし、あそこまで由姫ちゃんと仲良くなっているとは思いませんでした」
「そんなに仲が良かったのか?
「すっごく仲がいいと思います。あんな楽しそうに笑う由姫ちゃん。学校でも初めてみました」
「そうなのか」
桜がそういうのなら、そうなのかもしれない。
ご飯の量も山盛りだったし、あれが由姫本来の姿だと考えてもいいのかもしれない。
「本当に、やきもち焼いちゃいます」
「悪かったよ」
「別に先輩が悪いわけではないのでかまいません。あたしが勝手にやきもち焼いてるだけですから」
あからさまに不満そうな顔をするな桜。全く気持ちの整理がついてないように見えた。
「どうすれば納得してくれる?」
「それじゃあ、あたしのお願いを聞いてください」
「お願い?」
「これです」
「桜!?」
そう言って俺の肩に頭を預ける桜。表情をほころばせている桜は俺に対して甘えているようにも見えた。
「さっき由姫ちゃんばっかりかまってたから、少しはいいですよね?」
「別にかまわないけど」
「やった」
桜がこうやって俺に好意を見せてくれるのは純粋にうれしい。
だけど、こうしてもらう度に疑念が浮かぶ。
「桜はなんで俺みたいなやつと一緒にいてくれるんだ?」
こんな目つきの悪いヤンキー崩れの男なんかと一緒に。それが長年の疑問だった。
「そうですね。先輩は優しくて仲間思いで面倒見がいいからです」
「そんなことはないんじゃないか?」
「そんなことあります。あたしの我侭にここまで付き合ってくれる人って中々いませんよ」
確かに桜の我侭は中々のものだ。中学時代の日向もそうだったが、桜にも散々苦労させられた。
「先輩は1度仲間だと思った人を絶対に裏切らないじゃないですか。なんだかんだいって、最後まで信じて付き合ってくれる。そういう先輩だからこそ、あたしは‥‥‥」
そこから先は桜は押し黙ってしまう。何がいいたいかはわかったが、正直俺はまだその覚悟がない。
「桜、正直な思いを話すと、俺はお前に戦ってほしくない」
「なんでですか!?」
驚いた顔をする桜。驚きのあまり、俺の肩から頭を離していた。
「だって先輩はあの時、よく考えてjobを選べって言いましたよね?」
「そうだな」
桜に戦闘系の職種を選ばせたのは俺だ。あの時の状況を冷静に考えて、それが1番だと思った。
「状況的にはそれが1番都合がよかった。だけど、この学校に来てそれは間違いだったんじゃないかって思ったんだ」
学校に来てからいつもまわりに笑顔を振りまいていた桜。
幸せいっぱいのその姿を見て、外で戦うよりも良子さん達と一緒に学校内の支援をしていてくれた方がよかったんではないかと思った。
「先輩の考えは間違いだと思います」
「そうだな。俺は間違っていた」
「先輩は何か誤解していると思います」
「何がだ?」
「あたしがいいたいのは、先輩があたしに戦うなって言った今の言葉間違いだって言ったんです!!」
「間違ってない!!」
そんなことない。戦わずに学校にいた方が、桜にとっては幸せなはずだ。
「絶対そんなの間違ってます!!」
「何でだよ? 俺は桜を守りたい。ボロボロになっている桜を見たくないんだ」
これが俺の気持ちだ。桜はそれを聞くと、何か考えるように黙り込む。
その時間はおおよそ1分ぐらいだろう。だが、俺には1時間を超える時間にも感じられた。
「あたしだって‥‥‥先輩と同じ気持ちですよ」
「同じ気持ち?」
「そうです。あたしだって、ボロボロの先輩を見るのが辛いです」
きゅっと俺の腕にしがみつく桜。そんな桜は真っ直ぐに俺のことを見ていた。
「あたしがゴブリンキングと戦っている時どれだけ心配したと思ってるんですか!! あんな爆発に巻き込まれて、体が動かなくなるほどボロボロになって、先輩が目をつぶった時なんて、本当に死んじゃったかと思ったんですよ!!」
「悪い」
「最初は悠里先輩のような生産職がうらやましいと思いました。でも、今は違います。あたしは好きな人に守られるだけじゃ嫌なんです!!」
桜の言葉には強い意思が宿っているように見えた。
それは今の俺に足りないものでもある。
「あたしは好きな人の隣に立って一緒に戦いたい。対等な立場でいたいです」
それが桜の意思。だから桜は槍持って戦うのか。
だからいつも俺の隣に立って桜は戦ってくれた。桜も桜なりに戦う理由があったんだな。
「だからこれから何を言われても、あたしは先輩の隣で戦い続けますから」
それは桜なりの宣言のようなもの。俺が戦うなら、死ぬまでついて行きますよっていう強い意思。
「全く桜にはかなわないな」
「そうです。こう見えてあたしは強いですから」
確かに桜は強い。どんなに追い込まれていても、いつも笑顔を絶やさず俺の側にいてくれた。
そんな桜がこれからも俺の隣にいてくれる。それだけでとても心強い。
「早くも気が重いな」
「そこは気じゃなくて、愛って言ってください」
「愛か」
愛って言われると余計に重く感じる。これならまだ気の方がよかった。
「んっ? 何だ!?」
「どうしたんですか、先輩?」
「今何かが輝いたような‥‥‥」
俺の気のせいか? でも、今確かに光り輝いたものが見えた。
「先輩の気のせいじゃないですか? あたしは何も見えませんでしたが?」
「いや、気のせいじゃない」
わからないけど、何かをしろと言われてる気がする。
おもむろにステータス欄を開く。そこにはパーティー欄の所が光輝いていた。
「まさか‥‥‥」
慌ててパーティー欄を開く。そして申請欄を見た俺は驚いた。
『木内 桜』
申請欄に1人の女の子の名前が書いてあった。日向や悠里の名前はないが、桜の名前だけが浮かび上がっていた。
思わず桜の顔を見てしまう。
「先輩、本当にどうしたんですか? そんなお化けをみるような表情をして」
「いや、なんでもない。それより桜」
「何ですか?」
「俺と一緒に、これからもずっと戦ってくれないか?」
迷わず俺は木内桜を選び、申請欄をタップ。
するとどうだろう。今度は桜が反応して、自分のステータス欄を見ているようだった。
「空先輩、これって」
「あぁ」
どうやら桜も気付いたみたいだ。俺がパーティー申請ができるようになったってことに。
「今申請欄を見たら、桜の名前があってな。もし桜さえよければ、俺とパーティーを組んでくれないか?」
桜は押し黙ったまま何も答えない。何も答えないが、何かを操作しているように見える。
操作を終えると同時に、俺の頭に機械音が流れた。
『木内桜さんに承認されました』
その一言で俺が桜とパーティーを組んだことがわかった。
「ありがとう」
「こんなうれしいお誘いされて、断る人はいませんよ」
「そうか」
「パーティーメンバーって、あたししか表示されてなかったんですよね?」
「そうだ。他には誰1人表示されてなかった」
本当に不思議だ。あれだけ人と関わることがあるのに、桜しかパーティメンバーに出来ないことが。
もしかすると俺にとって、桜が特別なのかもしれない。
「それならしょうがないですね。非常に不本意ですが、あたしがパーティメンバーになってあげます」
不本意といいつつ、その顔は嬉しそうだった。
何故桜の名前だけリストアップされたかわからない。だけど、こうして桜とパーティーになれたのはよかった。
「杉田達と一緒じゃなくて良かったのか?」
「杉田君達はもいっぱいメンバーがいますから大丈夫ですよ。ボッチの先輩はあたししかいないんですから、こうなるもの仕方がないです」
しょうがないといいつつも喜びを隠しきれていないようにみえた。
俺自身も桜とパーティーが組めてうれしかった。
「それじゃあ色々設定しましょう。杉田君達から色々聞いているので、あたしに任せてください」
桜の元気いっぱいな発言を聞く。さっきまでの不機嫌な様子が嘘のようだ。
「じゃあ、桜。頼むぞ」
「はい」
こうして俺と桜は2人でパーティー機能の設定を始めるのだった。
ブックマーク&評価をよろしくお願いします!
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】を押して頂ければ幸いです




