VSウォールベアー 一瞬の油断
「はぁ、はぁ、はぁ」
俺とウォールベアーのかくれんぼが始まって、1時間。
いまだにウォールベアーを撒くことが出来ていない。
「しつこいやつだな。一体いつまでついて来るんだ?」
俺は木の陰に隠れながらウォールベアーを見ていた。
ウォールベアーは今もキョロキョロと辺りを見ながら、俺のことを探している。
「何であいつには俺がいる場所がわかるんだ?」
気配探知のスキルはちゃんと機能しているはずだ。
そうでなければ、あんなに俺のことを探しまわる必要はない。
「俺の位置がわかる理由‥‥」
正直思いつかない。どうやって俺がここにいることをつきとめたんだろう?
「何をしてるんだよ。あんなに鼻をヒクヒクさせて?」
ウォールベアーは鼻をヒクヒクと動かし、何かを探しているように見えた。
「鼻をヒクヒクさせる行為‥‥‥‥そうか、わかった!」
もしかするとウォールベアーは俺のにおいを辿ってここまで来たのかもしれない。
だから大まかな場所しかわからず、ここで立ち往生をしていたんだな。
「この仮説が正しいなら、つじつまが合うな」
匂いのおかげで場所はわかるが、俺の気配はしない為どこにいるかはわからない。
ただ匂いがするのでこの近くにいることだけはわかる。
「厄介だな。つまりは、あいつを倒さないことには春斗さん達と合流が出来ないってことだろ?」
このまま俺が駐車場まで戻ったら、こいつも一緒についてきてしまう。
そうなる前に倒さないといけない。
「俺の手持ちの武器は、ハンドガンとスナイパーライフルか」
後は近接戦闘用の鋼の剣。火力不足は否めないが、やるしかない。
「スナイパーライフルであいつの頭を狙う?」
いや、やめておこう。スナイパーライフルは隙が多すぎる。
もし当たらなかったら、あいつに俺の場所がわかってしまい一瞬のうちに殺されてしまう。
「どうする?」
正直手詰まりだ。下手をすれば、夜になるまでこの鬼ごっこは続く。
「夜になるとアンデット系のモンスターも出てくるし、大変なことになる」
あのモンスター達の攻略方はいまだにわからない。
だから、そうなる前に早く決着をつけないと。
『ガサッ』
「(まずい)」
どうやらウォールベアーに見つかったらしい。
ウォールベアーは俺めがけて突進をしてきた。
「(気配遮断のスキルの効果は、相手から視認されていないことが前提か)」
見つかってしまえば気配遮断スキルが意味をなさない。
今のウォールベアーは俺のことを視認している。
「くそ!!」
迷わず持っていたスナイパーライフルのトリガーを引くが、ウォールベアーにはびくともしない。
むしろ銃弾が当たっても突進してくる。
「あいつ、痛覚がないのかよ!!」
ウォールベアーの突進を横っ飛びでかわした。
肩で息をしていると、ウォールベアーが木にぶつかる。ぶつかった木は真っ二つに折れて倒れてしまった。
「(もしあれにぶつかったら‥‥‥)」
あんな衝撃、ただの人間がまともに受けられるはずがない。
内臓破裂ですめばいい。下手すればミンチになるぞ。
「(どうする? あいつにスナイパーライフルが効かなかったぞ)」
弾は確実に当たっていた。だが、ウォールベアーを倒す威力がなかったのだ。
スナイパーライフルがダメとなると、ハンドガンでも仕留めるのは至難の技だろう。
「(どうする? どうすればあいつを倒せる?)」
単純にウォールベアーに力負けしてる。これでは倒すことは出来ない。
「(もっと銃の威力を上げないと)」
そうでないと、ウォールベアーを倒せない。ショットガンがあれば話は別だが、そんなもの手元にはない。
「(くそ、どうする?)」
銃の威力を上げるか? 威力を上げるといっても、威力を上げる方法が思いつかない。
「(このままじゃ、俺が死ぬまでこの鬼ごっこは続く)」
俺の位置がわからないのか、再びキョロキョロと辺りを見回すウォールベアー。
鼻をヒクヒクさせて、必死に俺の場所を探している。
「(チャンスだ)」
再びスナイパーライフルを構える。狙いはウォールベアーの頭部。
あそこにさえ当たれば、ウォールベアーもただでは済まないはずだ。
『カシャン』
「(何)」
スナイパーライフルのトリガーを引いた瞬間、カシャンという音がなった。
「(弾が入ってない!? なんだよ、これ!! リロードタイムまで、まだ時間があるはずだろ!?)」
その理由はすぐにわかった。
足下を見ると、銃弾の弾が転がっている。
「(誤って銃弾の弾を抜いてしまったのか!!)」
どうやって抜いたかはわからないが、間違って弾を落としてしまったんだ。
だからこうして弾が下に落ちてるのか。
「やばっ!?」
場所がばれた。そう思った時にはもう遅い。
ウォールベアーは音のなる方へ突進を始めていた。
「(危ない)」
慌てて銃弾を拾い、近くの茂みの所へ飛び込んだ。
直後、ウォールベアーは俺の真後ろの木に衝突する。
「(間一髪だったな)」
真後ろの木が根元から折れている。あれに当たったのが俺だったらと思うとぞっとする。
「(とにかく、銃弾を積めないと)」
まずは銃弾を積める事が先決だ。そうしないと、あいつを倒せない。
「(んっ!? 待てよ!?)」
もしかしたらこの銃弾を上手く利用すれば、ウォールベアーも倒せるんじゃないか?
懸念事項は色々とある。だけどここまで追い込まれてしまってはやるしかない。
「(どうせこのまま構えていても、埒があかないんだ)」
俺とウォールベアー。やるかやられるか、それだけの話。
俺はウォールベアーから隠れるようにして、秘密兵器の準備を始めるのだった。
「(鋼の剣を使って銃弾を加工して‥‥‥できた)」
完成した銃弾をスナイパーライフルに入れ、ウォールベアーに向かって銃口を向ける。
「(頼むぞ)」
これで失敗したら、現状俺がウォールベアーに勝つ方法がない。
一か八か。この1発は運を天に任せたものになる。
「(当たれ)」
俺は静かにスナイパーライフルのトリガーを引く。そしてその弾はウォールベアーに向かって飛んでいった。
「グォォォォォォ」
ウォールベアーに弾が当たった瞬間、さっきまでうめき声1つ上げなかった敵が唸った。
よっぽど傷が深いのか、唸り声を上げたまま地面に倒れ、体を左右に振っている。
「どうやら効果があったようだな」
俺が作った銃弾は、銃の先に十字架の切れ込みを入れるホローポイント弾、通称ダムダム弾というものだ。
銃弾がウォールベアーに貫通しないなら内部から破壊すればいい。
「それ、もう一丁」
もう隠れる必要がない。あいつは痛みで動けない。
再びスナイパーライフルを発砲すると、ウォールベアーの右腕が吹き飛んだ。
「はずした!!」
ウォールベアーが左右に動いていたので、胴体を貫通せず右腕に当たってしまう。
「でも、相手はハンデを背負ってる」
片腕がなくなり満身創痍。この時点で勝利を確信した。
「これで、最後だ!!」
狙いやすいようにウォールベアーに接近した。だが、それは俺の油断だと気づく。
「こいつ、まだあきらめていない」
勢いよく立ち上がったウォールベアーは二足歩行で俺に向かって突撃してきた。
「(まずい、反応が間に合わない)」
横なぎに拳を振るうウォールベアー。
直後体が壊れるんじゃないかと思うほどの衝撃が俺を襲い、そのまま木に叩きつけられてしまう。
「(爪じゃなくてよかった)」
幸い爪ではなく手のひらにぶつかった為即死は免れた。これも運よくウォールベアーの近くにいたからだろう。
だが、体へのダメージは甚大だ。正直体が動く気がしない。
「万事窮すか」
散々ゴブリンと戦った時に油断してはいけないと自分を戒めていたんだけどな。
いざ自分がその立場になった時、同じ事をしてしまった。
「俺もゴブリンのことを笑えないな」
動かない体を何とか動かそうとするが、ピクリとも動かない。
どうやら俺の悪運もここまでのようだ。
「悪いな‥‥‥桜」
かまってやれなくて。お前の思いに答えてやれなくて。
ゆっくり目を瞑ると、ウォールベアーの咆哮と風切り音が俺の耳に響くのだった。
「(終わった)」
だが、いつになっても痛みが襲ってこない。それとも痛みを感じないほどの即死だったのか。
恐る恐る目を開けると、ウォールベアーが誰かと戦っている姿が見えた。
「誰だ!?」
ウォールベアーは残った左手で必死に剣を押さえつけている。
見た目は女性。長い黒髪を揺らしながら、必死に戦っている。
「あの剣は刀か」
反りがある刀身は間違いなく日本刀。
女性で髪が長く、日本刀を使っている人のことを俺は1人しかしらない。
「前野さん!!」
漆黒の長い髪をゆらし、凜とした表情のまま歯を食いしばる前野さんがいた。
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