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にぎやかな朝 晴れない心

 朝、いつものように顔を洗いに行く。顔を洗い鏡の前に立つ自分の顔を見て驚いてしまう。



「また酷い顔をしているな」



 思えば昨日はろくに寝ていないのだから、しょうがない。

 よくよく考えれば、ここに来てから寝ていることの方が少ないな。



「朝食をもらいに行くか」



 昇降口の方に行くが気が重い。理由が桜と会う事にある。

 昨日杉田にあんなこと言われた手前、どんな顔をして桜に合えばいいかわからなかった。



「おはようございます、せんぱ‥‥‥って、どうしたんですか!? その顔!?」


「ちょっと眠れなくてな」


「目が死んでいて、いつもより数倍怖い顔をしていますよ」


「余計なことを言うな」



 元々怖い顔をしているのは俺も知っている。洗面所で自分の顔を見て、同じことを思ったからな。



「それよりも早く朝食を取りに行こう」


「はい」



 桜と共にダイナテントに向かう。朝食を配っているダイナテント前には既に多くの人が並んでいた。



「昨日はよく眠れたのか?」


「はい、お父さんとお母さんとずっと話してました」


「そうか」



 相変わらず両親のことを話す桜は幸せそうな顔をしていた。



『結局山村先輩は仲間に対して壁を作ってるんです』


『もしかしたら、仲間からも信頼されていないかもしれないですね』



 その顔を見ると、昨日の杉田の言葉が頭をよぎる。

 俺が桜のことを信頼していないなんてこと、絶対にない。



「空先輩、どうしたんですか? そんな悩ましい顔をしていて」


「なんでもない」



 余計なことは考えなくていい。今は桜といるこの時間を楽しもう。


「悪いが、俺はこの後前野さんの所に行くからな」


「はい、わかりました」


「じゃあ、また後でな」


「はい! あっ、悠里先輩!」



 桜は列に並ぶ悠里の方へと向かう。

 これでとりあえず、懸念事項は去ったと思った方がいいだろう。



「さてと、俺も行くか」



 いつもの様に前野さんがいるテーブルに向い、前の席に座る。

 俺を見た前野さんは一瞬肩をビクリとさせた後眉をしかめ、俺のことを見ていた。



「また先輩か」


「またで悪かったな」


「今日は特段酷い顔をしているが、何かあったのか?」


「別になんでもない。ちょっと眠れなかっただけだ」



 昇降口前で桜にも同じ事を言われた。そりゃ昨日一睡も出来なかったんだから、そんな顔にもなるだろう。



「おはようございます、空先輩」


「梓か」


「隣座ってもいいですか?」


「別に好きにしろ」


「それならお言葉に甘えますね」



 席を引くと、俺の隣には現生徒会長の梓が腰を降ろした。

 その顔は昨日とは違い、やけにすっきりとしているように見えた。



「今日は一段と怖いお顔ですね?」


「お前、俺のことを馬鹿にしてるだろう?」


「馬鹿になんてしてませんよ。とっても凛々しいお顔に見えます。そう、まるでどこかの組の鉄砲玉みたいな」


「前言撤回だ。梓はこの状況を楽しんでるな?」



 なるほど、梓は悠里みたいに人のことをいじって楽しむタイプだな?

 先輩なのに、よく俺のことをいじってくるな。まぁ、それだけ俺に心を開いてくれているってことだと前向きに捉えよう。



「八橋とは一緒じゃないのか?」


「俊之はいつも自分の部屋で食べているので」



 つまりはいつもあの屋上のテントで1人で食事を取っているってことか。



「梓は一緒に食事は取らないのか?」


「基本は取りません。俊之は食事を1人で取るタイプですから」



 なるほど、だからこの周りにいなかったのか。八橋がこの場にいない理由がやっとわかった。



「先輩」


「どうしたんだ? 前野さん?」


「いつの間に梓と仲良くなってるんだ?」


「別に仲がいいって程でもないけど‥‥‥」


「そんな‥‥‥昨日のあの熱い夜を忘れたんですか?」


「おい、誤解を招くようなマネをするな」



 ケラケラと笑う梓。それとは対照的に、前野さんの冷たい視線が俺を襲う。



「‥‥‥‥‥先輩、もしかして浮気してるのか?」


「してない!!」


「でも、昨日の熱い夜って‥‥‥」


「梓とはただ廊下で話していただけだ!! 別にやましいことはしていない!!」


「えっ!?」


「そこで何で梓が驚くんだよ!!」



 だめだ。ツッコミが追いつかない。

 前野さんの冷ややかな視線が俺を貫く。



「先輩‥‥‥」


「信じてくれよ。俺は断じてそんな事はしていないんだ」



 何で俺は前野さんに許しを求めているんだ?

 ここに桜がいるわけじゃないし、弁解等しなくても‥‥‥。



「あら? 奇遇ね、空」


「悠里‥‥‥」


「どうしたの? そんなにげっそりして!? もしかして昨日の夜、誰かに搾り取られたの?」


「誰にも搾り取られてない!! それより何でお前がここにいるんだよ?」


「悠里ちゃんだけじゃないよ」


「日向、それに桜も‥‥‥」



 そういうと、日向が前野さんの隣に腰掛けた。

 悠里は前野さんの右隣に座り、桜は何故か俺の隣に座る。



「空先輩」


「何だ、桜?」


「あたしも聞きたいんですけど? 梓ちゃんと過ごした熱い夜のことを」


「だからそれは誤解だ!! 昨日の夜桜を良子さん達の所へ送った後、廊下で世間話をしていただけだ!!」


「えっ!?」


「だから梓はそこで桜を煽るな!!」



 何で俺がこんな苦労をしなくちゃいけない。こういうのは日向が背負い込むものだろ?



「本当ですね?」


「本当だ」


「しょうがないですね。今回は信じることにします」


「ありがとう」



 これで桜はなんとかなりそうだ。

 それにしても、朝から何でこんな苦労を背負わないといけない。



「本当朝から騒がしいわね」


「それもこれも悠里のせいだけどな」


「あら? 別にいいじゃない。私達がどこで食べたって」


「確かにそうだけど‥‥‥」



 見てみろよ。前野さんが困ってる。日向と悠里の方を交互に見て、明らかに動揺してるよ。



「貴方が前野さん?」


「そうだが」


「私は三村悠里って言うの。空と日向君と同じ高校のクラスメイトなの。宜しくね」


「宜しく」



 悠里は前野さんに向かって微笑んだ。その姿だけを見れば女神様のようにも見えるが、あいにくそこは悠里。

 きっと腹のそこで何か黒いことをを考えてるのに違いない。



「先輩、また何か仕組んだのか?」


「悪いけど、今回俺は何もしていない」



 何か仕組んだとしたら桜だ。

 もしかするとさっき悠里と話した時に何かしたのだろう。



「前野さんは僕のこと覚えてる?」


「柴山先輩のことはよく覚えている。学校でも人気者だったからな」


「そう言ってもらえるとうれしいよ‥‥‥って痛い痛い!! 足の先からしびれるような痛みがぁぁぁ!!」



 なるほどな、きっと日向は悠里の奴に足を踏まれているのだろう。

 悠里の笑顔一つ崩さない姿勢を見て確信した。



「おはよう、木内、前野、黒川」


「あっ、杉田君」


「今日はこのテーブル、すごくにぎやかだな」



 桜の隣に座ったのは桜のクラスメイトだった杉田だ。後ろから宮園も現れ、杉田の隣に座る。

 昨日はあまり意識していなかったが、こいつ等中々のイケメンだな。

 日向に引けを取らない。



「せっかくだから俺達も一緒に食べていいか?」


「別にいいですよ。先輩達もいいですか?」


「別に構わないけど」



 それにしても桜と杉田の距離が近くないか? 肩と肩が今にもくっつきそうだぞ。



「それじゃあ私は失礼する」


「えっ!? 由姫ちゃん、もうちょっと一緒にお話しましょうよ」


「いや、これだけ人がいればいいだろう。私は準備があるから、これで戻る」



 そう言って前野さんは食器を片付けに行ってしまう。

 残されたのは俺達だけ。これでは俺の作戦が台無しだ。



「桜」


「違うんです。まさか由姫ちゃんがこんな早く帰るとは思いませんでした」



 そうだな。いつもなら、もう少し口数が多かったのに。

 今日は自分の分を食べたらそそくさと帰ってしまった。いや、帰ったというよりは逃げたといった方がいいか。

 もしかして、人が多いのって前野さんは苦手だったりするのかな?



「前野はシャイなだけだよ。木内とは違って?」


「私だってシャイな一面ぐらいもってます」



 いや、それは杉田の奴の言っていることは間違っていないと思うぞ。

 桜はシャイな性格っていったら、世の中の殆どがシャイな性格になる。



「う~~ん」


「どうした日向?」


「いや、前野さんが帰ったのって本当にそれだけなのかな?」


「日向?」


「なんか別の理由があるような気もするけど?」


「私もそう思うわ」


「悠里まで」


「だってそうでしょう。私達が来るまで普通に話していたのだから、何か他の原因があると思った方がいいわ」



 他の原因か。その原因がわからない以上、こればかりは本人に聞いてみるしかないな。

 あくまで前野さんが話してくれればだけど。



「杉田君こそ、デリカシーが欠如してるんじゃない?」


「そんなことないって。俺ぐらい乙女心をしってる奴はいないって」


「またまた~~」



 桜と杉田のやり取りは続く。この光景だけ見ていると、まるで付き合いたてのカップルみたいだ。

 なんだろう。何故かあの2人のやり取りを見ていると、胸が少しチクチクする。



「空?」


「悪い。俺も今日の準備があるから行くわ」


「それなら私も‥‥‥」


「あたしも戻ります」


「桜と梓はまだ食べ終わってないだろう? ここでゆっくり食べててくれ」



 それだけ言い残し、俺は席を立ち食器を下げに行く。

 桜と杉田が楽しそうに食べていた光景が頭の中に浮かんでいた。



「もしかしたら、桜は‥‥‥」



 俺なんかよりも杉田達と一緒にいた方が幸せになれるんじゃないか?

 そんな事を思いながら、校舎内に戻るのだった。

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