新密度
梓と別れ、俺と日向が使用している部屋の前まで行くと、壁に寄りかかっている1人の少年を見つけた。
俺の存在に気づいたらしく、こちらに歩いてくる。
「お疲れ様です。山村先輩」
表面上はたまたま出会ったという様子だ。
だが俺はこの出会いが偶然だとは思わない。
何故なら彼がまるで待ち伏せしていたように、俺の部屋の前にいたからだ。
「今日はよく人と会うな」
「偶然ですよ。それより、俺の名前はわかりますか?」
あいつはたしか、桜と同じ班にいた奴だよな?
名前は‥‥‥すぎ‥‥‥‥! そうだ! 杉田だ。桜がそう呼んでた。
「杉田‥‥‥で合ってる?」
「はい、そうです。さすが山村先輩ですね! よく俺の名前を知ってましたね」
「まぁな」
答えられたのはたまたまだけど。
ここに来た当初、桜や日向から名前を聞いてなかったら、さすがにわからなかった。
「それで俺に何の用だ?」
「用事って程でもないんですけど‥‥‥ちょっと先輩に話したいことがありまして」
「それなら話は明日で構わないか? 今日はもう眠いんだ」
「ちょっと待ってください!! 今日先輩に話したいのはパーティー機能の話なんです!!」
「パーティー機能?」
そういえば、屋上で桜が話していたな。
確かお互いのステータスを確認できたり、スキルを共有できる機能だっけ?
「食料調達班に入ってるんですから、山村先輩もjobを取得してるんですよね?」
「そうだけど?」
「だったらパーティー機能のことは耳にしてないですか?」
「簡単な話なら聞いている」
その話題は先程桜と話していたことだ。だから簡単に内容だけは知っている。
「それなら話は早いです。山村先輩はもう誰かとパーティーを組んだんですか?」
「まだ誰とも組んでないけど?」
「えっ!?」
俺の回答がよっぽど意外だったのか、杉田は驚いた顔をしていた。
そしてその場で考え込むそぶりを見せる。
「木内と組んでいない‥‥‥それならまだ‥‥‥」
「どうしたんだ? ぶつぶつ独り言を言っているけど大丈夫なのか?」
「あっ!? すいません。その情報を知ってるなら、てっきり木内とパーティーを組んでいるのかと思いました」
「桜と?」
「そうです。山村先輩と木内は仲がいいので、そう思いました。
俺の回答がよっぽど意外だっただろう。
杉田は表情こそ笑ってはいたが、驚きを隠せていない。
「俺だって、できることなら桜と組みたがったけど‥‥‥」
「何か事情があるんですか?」
「別に。これは杉田に話すような内容じゃない」
ちっ、余計なことを口走った。
桜が言うには杉田はこのパーティー機能を見つけた第一人者だ。
余計なことを言って揚げ足を取られる可能性があるので、与える情報は最低限にとどめておきたい。
「俺でよければ、いつでも先輩の相談にのりますよ」
「そういうのは大丈夫だ」
「俺の予想ですけど、先輩の悩みってもしかしたら木内とパーティーを組めなかったことと関係していますか?」
こいつ、痛いことを聞いてきやがる。
俺の一瞬の反応を見て確信したのか、杉田は俺の方を見て微笑んでいる。
「図星ですね」
「俺にかまをかけたのか?」
「いえ、そんなことないです。たまたまですよ」
こいつは本当に食えない奴だな。その目はまるで俺のことを何でも見透かしているようだ。
「そんな先輩にいいことを教えてあげますよ」
「いいこと?」
「パーティーを組むには、親密度ってものが必要みたいです」
「親密度?」
何だよ、それ? 初耳だぞ。
いや、待てよ‥‥そういえばさっき屋上で桜もつぶやいていたな。
『う~~ん、もしかしてまだ親密度が‥‥‥』
あの桜の独り言。あれと関係があるのか。
「何だ? その親密度って?」
「その名の通りです。その人と親密な仲かどうかを計る、隠しパラメーターみたいなものみたいです」
隠しパラメーター? そんなものまであるのか。
「通常、お互いがお互いのことを信頼していれば、簡単にパーティーが組めるはずなんです。パーティーが組めないってことは、どちらかの信頼度が足りないってことになります」
だから桜は俺に抱きついていたのか。俺の親密度が足りないって思って。
「ちょっと待て。その話が本当なら、俺の欄には誰も名前が‥‥‥」
気づいた時にはもう遅い。うっかり杉田に余計なことをしゃべってしまった。
「誰も表示されていないって、本当ですか?」
「俺がここで嘘だと言っても信じてくれないだろ?」
「そうですね。木内とパーティーを組めていないってことも踏まえると、虚勢を張っているようにしか見えません」
やっぱりそう簡単には騙されてくれないか。
杉田は再び考え込むしぐさを見せた。
「もしかして木内の方も同じ事になっていたんですか?」
「いや、桜の方は正常に表示されていた」
下手に隠すよりは全て話してしまった方がいいだろう。
ここで嘘をついても俺の特になるようなことはない。
「木内の方が正常に表示されていて、山村先輩の方が何も表示されていないのか」
「原因はわからないのか?」
「わかりますよ! 簡単なことです」
一瞬杉田の口角が上がったような気がした。
そして彼は告げる。俺が目を背けていた事実を。
「欄に誰の名前も表示されないってことは、山村先輩が誰も信用していないってことじゃないですか?」
言われたくないことが事実として突きつけられる。
薄々は感じていた。だが、こうしてはっきりと告げられることがこんなに辛いとは思わなかった。
「俺が、誰のことも信用していない?」
「そうです。もしかしたら、木内のことだけじゃなくて、柴山先輩や三村先輩のことも毛嫌いしてるんじゃないですか?」
「そんなことはない!!」
日向達とはここに車で苦楽を共にした仲間だ。邪険に扱うなんて、そんな事するはずがない。
「本当にそう言えますか?」
「何がだ?」
「今まで柴山先輩のことを疎ましく思ったことはないですか? あんなキラキラしていてまぶしい人のことを邪魔だと思ったことが」
「そんなこと、あるわけ‥‥‥」
本当にないのか? 今まで散々光り輝く日向の隣にいて、そういう思いを抱いたことは?
ないとは言い切れない。そんなことあるわけないと、断言できない。
「木内のことだってそうです」
「桜のことか?」
「はい。あんなに明るくて可愛い子、山村先輩にはもったいないと思います」
「どういう意味だ?」
「言葉の通りです。先輩もそのことを自覚していたから、木内のことを遠ざけたんだと思ったんですけど」
俺は桜を邪険に扱っていない。むしろ桜につりあう男になるために必死に頑張ってきたつもりだ。
だが、まるで杉田は俺の内心を読み取ったかのような言葉をぶつけてくる。
俺が言われたくない事を、一言一言丁寧に言葉にする。
「結局山村先輩は仲間に対して壁を作ってるんです」
「そんなことはない!!」
「もしかしたら、仲間からも信頼されていないかもしれないですね」
「黙れ!!」
俺達はここまで、数々の戦いで背中を預けて戦ってきた。
日向や三村のことは信頼してるし、桜の事だって‥‥‥。
「失礼しました。だけど、これだけは聞かせてください」
「何がだ?」
「木内や柴山先輩のことを信頼しているって、本当にそう言えますか?」
「‥‥‥」
「さっきの言葉、本当に胸を張って断言することは出来ますか?」
「俺は‥‥‥」
言えない。俺は仲間の為に行動してきたつもりだが、相手がどう思ってるかなんてわかるわけが無い。
わからない以上、杉田の言葉を全部否定できない。
「何も言えないってことは、やっぱり信頼してないんじゃですか?」
「そんなことは‥‥‥」
「表面上はそう思っていても、深層心理ではそう思ってないのかもしれないですね」
そう言われると何も否定できない。
知らず知らずの内に、桜達のことを毛嫌いしている。光のようにまぶしく輝いている桜や日向達のことを疎ましく思っている。
そう考えれば考えるほど、杉田の言っていることが当たってるように思えた。
「何より結果として、ステータス画面が全てを表しています」
「何?」
「だってそうでしょ? ステータスは自分のことを映す鏡のようなものです。その画面で誰にも申請できないってことは、山村先輩が心の奥底で誰のことも信用していないってことじゃないですか?」
杉田の言っていることが当たっているような気がする。
口では何度でも言える。だが、実際は桜だけじゃなく日向や悠里のことも誰も信用していないのかもしれない。
「大丈夫ですよ。きっと先輩にもお似合いな人は見つかるはずですから」
「それは‥‥‥」
「あっ!? 俺もこの後用事があるんでした。それでは山村先輩! また明日会いましょう」
杉田はそのままどこかへと行ってしまう。
あいつに言われた言葉の一言一言が、俺の胸に重しのようにのしかかっていた
「俺は‥‥‥」
桜達のことを疎ましく思っているのか。それすらわからない。
言われて見れば思い当たるふしもある。完璧に否定することは出来ない。
何よりパーティー機能に誰の名前も表示されていないのが、全てをものがたっている。
「どうすればいいんだ、俺は?」
この日俺は部屋に戻り横になるが全く寝ることが出来ず、そのまま朝を迎えてしまうのだった。
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